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【小説】ここに、おったけん――猫は何も言わんけど、佐世保は知っとるまち景色(第48話「積もったイライラと、静かな毛玉」/「鉄骨の影、静かな昼寝」)




サイドB:「積もったイライラと、静かな毛玉」
——職人たちの視点より


 ガンガン、コンコン。
 ハンマーの音が工事現場に響く。

 佐世保ん港近く、建設中のビル。
 鉄骨は空に向かって伸びとるばってん、その下はゴチャゴチャや。

 「またずれとるぞ! 誰がこいば測ったとや!」

 ヘルメットから白髪の覗く、
 厳しい表情の現場監督の声が飛んだ。

 「すんません!」

 若い作業員がバタバタ走り、測り直す。

 「おい、鉄筋の位置ずれとる! こっちも修正せんば!」

 「資材が足りん? なんでや!」

 朝から細かいトラブルが続いとる。
 鉄骨が予定通り入らん。寸法が微妙に違う。
 溶接んあとがきれいにいかん。

 「はあ…またやり直しか…」

 みんなの顔には疲れが滲んどる。

 昼前になって、ようやく休憩。

 「ふう…」

 作業員たちは地べたに座り、弁当ば開く。

 「なんか今日は、朝からついとらんね」

 「毎日こんなんじゃ、体がもたんばい」

 無言でタバコばくわえ、火ばつけるやつもおる。

 みんなの顔は、どこかどんよりしとった。

 「…おい、あれ」

 一人が指差した。

 「ん? なんね?」

 見た先には、建設現場の片隅。
 鉄骨ん影に、白と茶のぶち模様の猫が丸くなっとる。

 「なんや…猫か?」

 「おいおい、現場に猫なんか迷い込んどるばい」

 最初は驚いたばってん、猫はただ静かに眠っとる。

 小さく胸が上下し、丸くなった体はまるで毛玉。

 「…すげえ、全然動かんばい」

 「お前らみたいに焦らんでも、昼寝できるとやろうね」

 「ああ…そらそうやろう。こっちは朝からピリピリしとるのに…」

 ふっと、誰かが笑った。

 「おい、猫に見習わんばいかんばい。落ち着けってことやろ?」

 「そらよかね…お前も猫みたいに昼寝しとけよ」

 「おいおい、俺が寝たら現場が回らんばい!」

 少しずつ笑いが戻りよった。

 「しかし…あがんとこで寝れるとはすごかね」

 「俺もあの猫みたいに気楽に行きたいわ」

 「おーい、猫さんよ。お前ん寝床、俺にも貸してくれ!」

 冗談が飛び交い、疲れた顔に少しずつ笑みが戻る。

 「さて…もう一回、やり直すか」

 現場監督が立ち上がり、みんなも手を動かし始めた。

 猫は変わらず、鉄骨の影で丸まっとる。

 その静かさが、なんかみんなに「よかよ」と言うとるように思えた。


【了】



サイドA:「鉄骨の影、静かな昼寝」
——ぶんちゃんの視点より


 佐世保ん港近く、工事現場ん音が響いとる。
 ガンガン、コンコン。鉄と鉄のぶつかる音。

 おれは、その音の中ば静かに歩きよった。

 現場の入口はバタバタしとる。
 ヘルメットかぶった人が慌ただしく行き交い、トラックが砂ば運び込む。

 ばってん、隅んほうは少し静かやった。

 鉄骨が積まれとる山の下に、古びた足場板が並んどる。
 おれはその板の上ばひょいと飛び乗り、木の枠をぴょんぴょんと登った。

 そしたら見えたとね。

 その上に、鉄骨が斜めに渡されとる。
 風が吹くたび、かすかに揺れよる。

 ばってん、細かか足場の隙間が、おれにはちょうどよか。

 おれは鉄骨の端っこにぴょんと飛び乗り、そっと足ばかけた。

 目の前は、空が広がっとる。
 少し風が強かばってん、かすかに潮の匂いが混じる。

 下ば見たら、土の上で人がうろうろしとる。
 みんな、少しずつ顔が険しか。

 ——なんか、重たか“音”がしよるね。

 みんな忙しそうで、声もきつか。
 ひとつトラブルが起きては、誰かが叫んどる。

 おれはその鉄骨の上ばしばらく歩き、影になっとるとこで静かに丸くなった。

 ひんやりした鉄の感触が、ちょうど心地よか。

 風がひゅうっと吹き、足元でみんなの声が混じる。

 「…またずれとるぞ!」
 「なんでこがんなるとか!」

 声が飛び交うばってん、おれには関係なか。

 おれはゆっくり目ば閉じた。

 ガンガンと響く音も、どこか子守歌みたいやね。

 ——静かに、おるけん。

 昼前になって、ふと下が静かになった。

 「…おい、あれ」

 誰かがこっちば指差しとる。

 「…猫か?」

 おれは目ば薄く開けた。
 下の人たちが、おれば見とる。

 「…すげえ、全然動かんばい」
 「猫はよかね、こがんとこで昼寝できて」

 なんか、少し笑い声が混じり始めた。

 「お前も猫みたいに落ち着けってことやろ」
 「おいおい、俺が昼寝したら現場止まるばい!」

 ばらばらやった音が、少しずつ優しか音に変わりよる。

 ——みんな、少しだけ軽うなったかね?

 おれはまた目ば閉じた。
 風がしゅるりと吹き抜け、鉄骨ん影は心地よか。

 ——そっと、おったけん。


【了】



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シリーズタイトル一覧:(順次、掲載予定です)


あとがき

この本を手に取ってくださり、ありがとうございます。
そして、ぶんちゃんと佐世保の町を、ここまで一緒に歩いてくださったことに、心からの感謝を申し上げます。

私は佐世保で生まれ育ちました。
けれど、大学進学で町を離れ、そのまま県外で就職しました。
けれど人生の節目がいくつか重なり、今はまた、この町に暮らしています。
この短編集は、そんな「ふたたびこの町で暮らす」ようになった私の目に映る、どこか懐かしく、でも確かに変わってきた佐世保の風景と、そこに生きる人たちの姿を、“猫の目線”という静かなレンズを通して描いてみたいと思ったことから始まりました。
 主人公のぶんちゃんは、白と茶のぶち模様の猫。
人の言葉は話しませんが、ただそばにいることで、人の心の奥にある小さな揺らぎや、誰にも見せていない表情を、そっと受け止めてくれます。
 町の片隅にいる猫。
それだけでありながら、たしかに「ここに、おった」と記憶される存在。
この短編集のタイトルは、そんなぶんちゃんの在り方、そして、この町で過ごしてきた人々の“想いが残る場所”としての佐世保を象徴する言葉として名づけました。
なお、本書の創作には、OpenAIのChatGPTを創作パートナーとして活用しています。
最初は「猫と町を舞台に、どんな物語が生まれるだろう」と軽い気持ちでプロットを相談しはじめましたが、気がつけば、物語の呼吸や言葉の余韻を、AIとの対話によって丁寧に探りあてていく日々になっていました。
「語らない猫」「語りたがらない人」「語られずに消えていく町の記憶」——
そんなテーマを、ChatGPTとの共同作業で、時に詩のように、時に物語として形にしていけたことは、まさにこの作品にとって欠かせないプロセスだったと感じています。
佐世保は、坂と港の町です。
変わってしまった景色も、変わらずそこにある空気も、すべてが人と町の記憶を育て続けています。
ぶんちゃんの物語が、そんな記憶のひとつとして、あなたの心に、そっと寄り添えたなら嬉しく思います。
2025年 春
佐世保の町より
筆者


プロフィール|Kazuomi Matsunaga

🧭思考の案内人|Thinking Navigator

略歴:九州大学工学部卒業(材料工学)⇒中京地区の金属素材メーカーエンジニア(生産技術)⇒地元長崎県のフリーペーパー広告営業⇒学校法人職員(←いま、ココ)。長崎県在住の50代。こどもは二人とも大学生となって巣立ち、妻と二人暮らし中。
“問い”と“好奇心”の交差点で、日々思考を遊ばせている書き手です。最近は、連載コラム「思好の科楽(しこうのかがく)」シリーズを中心に、教育・物語・心理・AI・デザインなどをテーマとした独自視点の思索を綴っています。既存の枠を超えた“自由な知のデザイン”を模索中。モットーは「想像力が世界をひらく」。
本業では大学・教育関連の仕事に携わりつつ、「人が何かを“好き”になる瞬間」や「問いが芽吹く場面」を丁寧に見つめることを大切にしています。
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Kazuomi Matsunaga🍀 「クリエイティブの世界へようこそ!」 創造・表現することが好きで、日々新しいものを生み出しています。応援が次の創作の力になります!