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クレイヴン・ザ・ハンター 考察|ラストの意味と、日本と海外で評価が真っ二つに割れた理由

Netflixで配信が始まって、レビューを読みにいって、手が止まりました。

※この記事にはアフィリエイトリンク(楽天)を含みます。

日本の点数と、海外の点数が、まったく別の映画のものなんです。

日本のFilmarksは3.5。映画.comも3.5で、★4以上をつけた人が67%

一方、海外のLetterboxdは2.0。★2以下が56%です。

同じ映画です。同じ127分です。

……と書いておいて、先に自分でツッコんでおきます。

この2つ、そのまま並べていい数字ではありません。

Letterboxdは英語圏の映画好きが集まる場所で、大作アクションはもともと辛い点が出ます。実際、同じ海外でもRotten Tomatoesの観客スコアは72%、IMDbは5.5。「海外で全否定された」わけではないんです。

それでも、割れているものは割れている。

そして面白いのは、その理由を、観客自身が書いていたことでした。

批評家の記事ではなく、Filmarksのレビュー欄に、答えみたいな一文が落ちていたんです。

この記事は、そこから始めます。

先に断っておきます。この記事は結末まで話します

途中に「ここから先はネタバレです」の線を引くので、まだ観ていない方はそこで止めてもらえれば大丈夫です。


🦁 まず、これがどういう映画なのか(ここはネタバレなしです)

『クレイヴン・ザ・ハンター』は、2024年12月13日に日米同時公開されたアクション映画です。

上映時間127分。日本のレーティングはR15+。配給はソニー・ピクチャーズ。

監督はJ・C・チャンダー。『マージン・コール』でアカデミー脚本賞にノミネートされた人で、アメコミ映画はこれが初めてでした。

主演はアーロン・テイラー=ジョンソン。父親役にラッセル・クロウ

クレイヴンというのは、マーベルのコミックに出てくるスパイダーマンの宿敵です。本名はセルゲイ・クラヴィノフ。ロシア人のハンターで、銃や弓を嫌い、大型の獣を素手で仕留めることを誇りにしている男。

……なのですが、この映画にスパイダーマンは一度も出てきません

予告編を貼っておきます。

📈 いま、日本でこの映画が観られています

2026年7月19日、この映画がNetflix日本で配信開始になりました。劇場公開から約1年7か月後です。

そして、配信が始まった週の週間ランキングがこれです。

  • Netflix公式の週間TOP10データ(2026年7月20日〜26日/日本・映画)で、3位に初登場

数字はNetflixが公開している週次データ(top10.netflix.com)のものです。同じ週の1位は『夜勤事件』、2位は『ペリリュー』でした。

日本のニュースでもこう報じられています。

 3位は、マーベル史上最もバイオレンスなヴィランを描いた『クレイヴン・ザ・ハンター』(2024年)がランクイン。

(ORICON NEWS・2026年8月2日)

面白いのは、日本でTOP10に入ったのはこの1週だけだということです。通算週数のカウントが「1」のまま。つまり配信初週にいきなり跳ねたわけです。

そして、レビュー欄の様子も変わっています。Filmarksを新着順に見ていくと、上に並ぶレビューの投稿日が2026年7月21日以降にごっそり寄っている。劇場公開は2024年12月13日ですから、1年半以上たってから、感想がもう一度湧いていることになります。

映画.comにも、こういう声が並びます。

劇場公開時は気にしつつ観にいけず、配信で初めて視聴。全然面白い…!!スクリーンで見なかったことを後悔(こんなんばっかり)

(映画.com・えふいーねこさん/4.0点・共感14)

劇場行けばよかった、当事者意識だいじ。迷ったら行くべきですね。

(同じレビューの末尾)

⚖️ 数字を、ちゃんと並べてみます

さっきの話を、きちんと表にします。

  • Filmarks(日本) スコア 3.5 / 5.0/母数 14,484件

  • 映画.com(日本) スコア 3.5 / 5.0/母数 全219件

  • Letterboxd(海外) スコア 2.0 / 5.0/母数 約26万件

  • IMDb(海外) スコア 5.5 / 10/母数 85,018票

  • Rotten Tomatoes 批評家 スコア 15%/母数 161レビュー

  • Rotten Tomatoes 観客 スコア 72%/母数 2,500件超(認証済み)

  • Metacritic スコア 35 / 100/母数 41批評

(いずれも2026年8月4日時点の実測値です)

分布まで見ると、こうなります。

  • 映画.com(219件):★5が15%、★4が52% = ★4以上で67%

  • Filmarks(14,484件):平均3.5で、2.0以下は3%しかいない

  • Letterboxd(約26万件):★2以下が 56%、★4以上はわずか 7%

批評家の総評はこうです。

Claiming no trophies with its rote story and shoddy special effects, Kraven the Hunter turns out to be a paper tiger.

(型どおりの物語と粗末な特殊効果ではトロフィーは取れない。『クレイヴン・ザ・ハンター』は張り子の虎だった)(Rotten Tomatoes 批評家総評)

北米の初日観客調査CinemaScoreはC。全世界興行収入は約6,208万ドルで、Deadlineは7,100万ドルの損失と算定しました。

数字だけ見れば、これは失敗作です。

なのに日本では、低い点をつけた人がほとんどいない。

もうひとつ、この表には出てこない大事な違いがあります。時期です。

Letterboxdの2.0は、2024年12月の劇場公開の直後にほとんどが積み上がった点数です。

一方、いま日本のレビュー欄で動いているのは、2026年7月の配信で初めて観た人の書き込みです(日本の平均点には、劇場で観た人の分も混ざっています)。

つまりこれは、「日本 対 海外」であると同時に、「配信で観た人 対 公開時に観た人」でもある。

この2本の線が、最後にきれいに1本にまとまります。少しお付き合いください。

🔑 その理由を、観客自身が書いていました

Filmarksを読んでいて、いちばん膝を打ったのがこれです。

スパイダーマンという世界の『文脈』

それを『知らない』から楽しめた、だからこそ『もったいない』と感じる

同じ人が、同じレビューの中でこう書いています。

めちゃくちゃ評判が悪いといわれている本作。

スパイダーマンの原作を読んだりゲームをするとわかるのですが、『The ヴィラン』の立ち位置なのがクレイブンなことが原因のようで。狩猟家の家系と裏社会を行き来する世界に生まれた主人公が、それに『反抗している』ところから始まるのが文脈から外れているため評価が駄々下がりといった感じだと理解しました。(Filmarks・サクチューンさん/5.0点・いいね18)

この人は、自分が高く評価している理由を、自分で解剖しています。

同じ趣旨の声が、日本側にはずらっと並んでいます。

良作。

MARVELないしはヒーロー映画として観ない方が良い。(Filmarks・Reiさん/5.0点)

グレイブンを全くしらなかった

全く前提知識なくこの手の映画を見れたからかかなり面白い(Filmarks・たけちすさん/4.0点)

スパイダーマンのいないクレイヴンはヴィランじゃなくアンチヒーロー。前知識もいらない。単独で楽しめた。

(X・きのけんさん/2026年8月2日)

マーベルだが、なんちゃらユニバースではなく、この映画単体で楽しめたのは有難かった。

(映画.com・ファランドルさん/3.5点・共感25)

つまり、この映画は「知らないほど面白い」

逆に言うと、知っている人ほど怒る

🎙 ただ、もうひとつ「日本にしかない要素」があります

原作を知らないから、で全部を説明してしまう前に。

吹替です。

ソニー・ピクチャーズの日本公式サイトに載っている吹替キャストが、これです。

  • クレイヴン/セルゲイ = 津田健次郎

  • ニコライ(父) = 山路和弘

  • ライノ/アレクセイ = 堀内賢雄

  • ディミトリ(弟) = 入野自由

  • カリプソ = 田村睦心

  • フォーリナー = 三上哲

……これ、並べただけで強いんですよ。

実際、レビューにもこう書かれています。

日本語吹替版の声優陣(津田健次郎さん他、好きな声だらけ)。

(映画.com・Don-chanさん/3.5点・共感28)

Netflixは吹替がそのまま再生されることも多くて、「配信で初めて観た」層ほど吹替で観ている可能性が高い。この映画がいちばん見せたかった「肉体」の部分に、日本版はもう1枚、声の層が乗っています。

数字で証明はできません。日本のスコアのうち何%が吹替のおかげか、なんてデータはどこにもない。

ただ、日本のスコアだけが高い理由を「日本人は原作を知らないから」の一本で説明しきるのは、たぶん雑です。知らないから楽しめた、というのは半分で、もう半分は普通に、日本版が良かったのかもしれない。

そのうえで、「知っている人が何を知っているのか」の話に進みます。

🕸 原作のクレイヴンは、スパイダーマンがいないと成立しません

原作のクレイヴンが初めて出てくるのは、『The Amazing Spider-Man』第15号、1964年8月です。

作ったのはスタン・リーとスティーヴ・ディッコ。

このキャラクターがずっと言い続けていることは、ひとつです。

スパイダーマンこそが、自分にとって「最も危険な獲物」だ。

ここ、言葉遊びではありません。「最も危険な獲物(The Most Dangerous Game)」は、1924年のリチャード・コネルの短編小説のタイトルです。人間を狩る話。クレイヴンというキャラクターは、そもそもこの小説を下敷きにして作られています。

つまり原作のクレイヴンは、「狩る相手」が決まっていて初めて意味を持つキャラクターなんです。

ここで、ちょっとゾッとする事実をひとつ。

映画の冒頭、クレイヴンはシベリアの刑務所に潜入します。そのときのIDの囚人番号が0864なんです。

08=8月、64=1964年。原作初登場号の年月です。

(この符合はVarietyとScreenRantが指摘しています)

この映画は、自分が「スパイダーマンの宿敵」であることを、番号に畳んで持ち込んでいる

でも、相手はいない。

獲物のいないハンターの映画として、127分が進みます。

🚫 「ディズニーが出させなかった」——という話ではないらしいんです

ここ、けっこう誤解されているところです。

「MCUの権利がややこしいから出せなかったんでしょ」と思われがちなんですが、Varietyの取材にソニー側の関係者が語った説明は、それとは違っていました。

  • ディズニー側が、トム・ホランド/ピーター・パーカーの使用を禁じたことはなかった(=ソニー側の説明)

  • 使わなかったのはソニー自身の判断だった、というのがその説明の要点

  • 理由=『ノー・ウェイ・ホーム』や『ロキ』『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』でMCUの境界がはっきりしたあとに、ホランド版スパイダーマンが非MCU作品へ突然出てきても、観客が受け入れないと考えた

ここはソニー側の言い分です。ディズニー側の証言と突き合わせたものではないので、当事者の片方の説明として読んでください。

ただ、仮にこれが本当だとすると、話がだいぶ皮肉になります。

『ノー・ウェイ・ホーム』が世界を整理しすぎたせいで、クレイヴンは相手役を失った。

『ノー・ウェイ・ホーム』の考察は別に書いています。あの映画がヴィランに対して何を選んだかを読むと、この映画の立ち位置がよく見えます。

ちなみにソニーは、過去にもクレイヴンを外に出す機会を見送ったと報じられています。ライアン・クーグラーが『ブラックパンサー』(2018)にクレイヴンを出したいとマーベル経由で打診したものの、実現しなかった、と。

自分のところに置いておいて、6年後に一人で立たせた、ということになります。

🐯 監督は、まったく別のものを作ろうとしていました

ここが、この映画をただの失敗作として片づけたくない理由です。

チャンダー監督は、Colliderのインタビューでこう言っています。

As crazy as it seemed, and there were a lot of challenges, there was the opportunity to structure it as a classic origin story, but not a hero's story, or a classic superhero story. It's essentially this building of a villain.

(どれだけ無茶に見えても、そして課題は山ほどあったが、これを古典的なオリジンストーリーとして——ただしヒーローの物語でも、古典的なスーパーヒーロー物語でもない形で——構成できる機会があった。本質的にはこれは、ひとりのヴィランを作り上げる話なんだ)

ヒーローの誕生譚ではなく、ヴィランの誕生譚を作る。

そのために監督がやったことが、めちゃくちゃ面白いんです。

全スタッフに「重力チャート」を配りました。

I try not to comment on other people's films — it's really hard to make a movie — but I've found that in movies like this, gravity no longer exists. There was no longer a law of gravity. People were bouncing off shit. I know my children and their friends who were watching these movies were starting to laugh in the wrong places.

(他人の映画についてコメントしないようにしている——映画を作るのは本当に大変だから——だが、この手の映画では重力がもう存在しないと気づいた。重力の法則がなくなっていた。人がそこら中で跳ね回っていた。この手の映画を観ていた自分の子どもとその友達が、間違った箇所で笑い始めているのが分かった)

自分の子どもが、アメコミ映画の間違ったところで笑い始めた

それが出発点なんです。

Like, imagine an Olympic long jumper, and then you or me jumping, that arc is not very impressive. A long jumper's arc is really cool.

(たとえばオリンピックの走り幅跳び選手を想像してほしい。次にあなたや私が跳ぶ。その弧はたいして印象的じゃない。幅跳び選手の弧は本当にかっこいい)

オリンピックの走幅跳選手、サーカスの空中ブランコ乗り、BMXのジャンパー、いろいろな動物。

それぞれに重力がどう働くかの図表を作って、全員に配った。

そのうえで、こう制限をかけたそうです。「彼はXはできるが、Yはできない。それはこの映画に収まらないから」。

そして監督は、こう締めています。

I think what you're reacting to is that gravity wins at the end of every stunt in this movie.

(あなたが反応しているのは、この映画のすべてのスタントの最後で重力が勝つ、ということだと思う)

すべてのスタントの最後で、重力が勝つ。

わたしは、この一文がすごく好きです。アメコミ映画をやるのに、最初に決めたのが「落ちること」なんですよ。

💪 主演は2年間、酒を一滴も飲まなかった

アーロン・テイラー=ジョンソンのほうも、やっていることが極端でした。

筋肉を約18kg(40ポンド)増やしています。

本人の言い方が、この映画のすべてを言い当てているように思えます。

"The costume is my stomach and my arms."

(衣装というのは、俺の腹と腕のことだ)(Men's Health UK)

"I didn't drink a drop of alcohol for two years. I stayed off of rubbish and crap food, stuff like that. I was in the best shape possible."

(2年間、酒は一滴も飲まなかった。ジャンクなもの、くだらない食い物も避けた。可能な限り最高の状態だった)(SiriusXM『Stars』2024年12月11日回)

さらに、こんな準備もしていたそうです。

"I was doing a lot of parkour movements and quadruped movements—meaning I run on my hands and feet."

(パルクールの動きと四足歩行の動きをたくさんやっていた。つまり、手と足で走るということだ)(Men's Health US)

そして、これ。

"We got through an entire shoot with a ton of action with not one injury. I thought that was amazing."

(アクション満載の撮影を、怪我ひとつなく全部やり切った。あれはすごいと思ったよ)(Men's Health US)

アクション満載の撮影を、怪我ゼロで完走している。

ここは、点数をつけた人のほとんどが認めているところです。

だけど、なんといってもアーロン・テイラー=ジョンソンの肉体美とアクションは見応えあった💪🏻

(Filmarks・LONDONさん/3.3点・いいね33)

男でも見惚れるムキムキ筋肉すごかった

(Filmarks・たけわさびさん/5.0点)

低い点をつけた人でも、ここだけは残しています。

見所はクレイヴンの肉体美とラッセルクロウの渋い声だけですな笑

(映画.com・DJ XYZさん/2.5点・共感3)

この映画で意見が割れにくいのは、2つだけです。アーロンの肉体と、ラッセル・クロウの存在感。

低評価のレビューを読んでいっても、この2つを積極的に否定している人は、ほとんど見つかりませんでした。

🩸 R指定にしたのに、死ぬ人は1人も増えていません

この映画は、スパイダーマン関連の作品として史上初のR指定です。

宣言したのは主演でした。2023年のCinemaCon、ソニーのプレゼンで流れたビデオメッセージ。

"Will it be rated R? F*ck yes, it's going to be rated R."

(R指定になるのかって? 当たり前だ、R指定になるに決まってる)(Deadline・2023年4月/伏字はDeadlineの表記のまま)

……で、ここが今回いちばん意外だった事実なんですが。

R指定にしても、画面上で死ぬ人の数は1人も増えていません。

Polygonの取材で、監督がそう言っています。最初に渡された脚本と完成版とで、画面上の死者の数は同じ。R指定が変えたのは「見せ方」だけだった、と。

"It's hyper-stylized in certain instances, but, you know, there's blood."

(特定の場面では超様式化されているが、まあ、血は出る)

そして監督は、こうも言っています。

"I have got a 14-year-old son, and I knew that was an audience member [that] I wanted to be able to go see the film. And I joked that I wanted my mom to be able to see the film, still."

(14歳の息子がいる。彼はこの映画を観に行けるようにしたい観客だと分かっていた。そして「それでも母にも観られるようにしたい」と冗談を言っていた)

R指定を宣言した映画の監督が、14歳の息子と自分の母親のことを考えている。

この中途半端さは、観客にもバレていました。Redditで繰り返しネタにされているのがここです。

Related to the R rating - I thought it was funny that Kraven says "Gosh, you're heavy" when the Rhino is on top of him as opposed to "Shit, you're heavy" or "Fuck, you're heavy"

(R指定がらみで面白かったのが、ライノに上から乗られたときクレイヴンが「Shit, you're heavy」でも「Fuck, you're heavy」でもなく「Gosh, you're heavy(うわ、重いなあ)」と言うところ)(Reddit・431票)

R指定を取りにいった映画の主人公が、「Gosh」と言う。

🧨 でも、観客がいちばん怒っているのは、そこじゃありませんでした

Redditの公式ディスカッションスレッドで、いちばん票を集めたコメントがこれです。2,966票

I would only like to share that I saw the trailer on TV with my dad yesterday and he asked me "So he's like Tarzan, but he's mean?" and it is now living rent-free in my head.

Henceforth, I will now refer to Kraven as "Mean Tarzan"(昨日テレビで父と予告編を見ていたら、父に「じゃあターザンみたいなやつ? でも意地悪な?」と聞かれた。それがいま頭から離れない。/これ以降、私はクレイヴンを「意地悪ターザン」と呼ぶことにする)

で、これに付いた返信が、1,234票を集めています。

He's not even mean. Sony always forgets to make these anti-heroes bad in any way.

(そもそも彼、意地悪ですらない。ソニーはこの手のアンチヒーローを、どんな意味でも「悪い奴」にすることを毎回忘れる)

「意地悪ですらない」。

そして、原作ファンがこう言っています。

I still don't get the point of these movies. I'm glad this saga is over. This rendition of Kraven would definitely team up with Spider-Man to take down the Sinister Six.

None of these villains would have a clear motivation to fight Spidey, I feel like they'd all admire him tbh, which is what's fundamentally wrong with this bogus ass universe.(いまだにこれらの映画の意義がわからない。このサーガが終わってよかった。この解釈のクレイヴンなら、間違いなくスパイダーマンと組んでシニスター・シックスを倒す側だ。/このユニバースのヴィランは誰ひとりスパイディと戦う明確な動機を持たない。むしろ全員が彼を尊敬しそうだ。それがこのインチキなユニバースの根本的におかしいところ)(Reddit・137票)

ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。

ソニーがこの6年で出したのは、ヴェノム、ヴェノム2、モービウス、マダム・ウェブ、ヴェノム3、そしてクレイヴンの6本。当たったのはヴェノムの3本だけでした。

しかも、そのヴェノムですら「スパイダーマンと戦う話」ではありません。相手役はカーネイジであり、ライオットであり、要するに別のシンビオートでした。

ソニーが6年かけて証明してしまったのは、たぶんこれです。

主役にした瞬間、悪役は悪役でいられなくなる。

観客に嫌われる主人公を2時間見せるわけにはいかないから、動機に理由をつけて、境遇に同情できるようにして、「悪くない人」にしていく。悪役を主役にするというのは、そういうことだったんです。

『ファー・フロム・ホーム』の考察で、アイアンマンの敵はほとんど全部アイアンマンの副産物だ、という話を書きました。クレイヴンは、その裏側にいます。 生みの親であるヒーローが、画面にいないので。

⚠️ ここから先はネタバレです

ここから結末に触れます。まだ観ていない方は、ここで止めてください。

Netflixで配信中です(2026年8月現在)。

戻ってきてもらえたら嬉しいです。

🎭 ラストの意味=「兄が父の服を着て、弟が兄の顔を着る」

この映画のラストは、2つの「着る」でできています。

ひとつめは、兄です。

原作のクレイヴンを一目で識別させるのは、ライオンのたてがみで作られたベストです。象徴中の象徴。

その衣装が、この映画では最後の最後まで出てきません。全編を通して伏線として置かれて、終盤でようやく身につける。しかも亡き父が遺した衣装として受け取る、という形になっています(Variety)。

父の家系に反抗していた息子が、父の遺した服を着て、自分の狩りを完成させる。

「そっちには行かない」と決めた人が、いちばん父に似た形で仕上がってしまう。この皮肉は、ちゃんと効いています。

ふたつめは、弟です。

弟のディミトリは、劇中ずっと物真似の上手い子として描かれます。父の声を真似し、クラブでハリー・スタイルズやトニー・ベネットやブラック・サバスの歌声を真似る。

その弟が、ラストで真っ白でのっぺりした無表情の仮面を手に入れます。原作準拠のカメレオンのマスクです。

そして最後の瞬間に——クレイヴン自身の顔になる。

ここで、原作の事実を2つ置かせてください。

ひとつ。カメレオンの初登場は『The Amazing Spider-Man』第1号、1963年3月です。

つまりスパイダーマンが人生で最初に戦ったスーパー犯罪者が、この弟なんです。クレイヴン(1964年8月)より、1年以上先輩。

ふたつ。原作では、この2人は異母兄弟です。しかも後年に足された設定では、クレイヴンは弟に対して虐待的だったとされています

映画版はそこを、公式のあらすじで「病弱な最愛の弟」と紹介される関係に描き換えました。

……この2つを重ねると、ラストの意味が変わってきます。

映画は、兄が弟を愛していたことにした。そのうえで、その弟に兄の顔を着せて終わる

原作では「兄に痛めつけられた弟」だったものが、映画では「兄に守られた弟が、兄になる」になっている。優しくした結果、いちばん近くから顔を奪われる。 狩る側になった男の物語の締めくくりとしては、これ以上ないくらい皮肉な形です。

整理すると、こうなります。

  • この映画は、スパイダーマンの宿敵を主役にした

  • そのラストで、スパイダーマンの最初の敵を「次の敵」として立てた

  • なのにスパイダーマンは、最後まで一度も出てこなかった

次の敵まで用意して、相手役だけがいない。

そして、ポストクレジットシーンはありません。他のアメコミ映画なら必ず入る「次はこれです」の一枚が、この映画にはない。

観客はそこも見ていました。

1つだけ褒められるところがあったとすれば、新たな敵(ディマ)の可能性を出しつつ、エンドロールで続編を匂わせなかっただけでしょう笑

(映画.com・DJ XYZさん/2.5点)

匂わせなかったんじゃなくて、匂わせられなかったんだと思います。

⏳ この映画は、途中で終わっています

監督は、終着点をちゃんと決めていました。

The final piece in that, for Aaron and for me, was in Kraven's Last Hunt, which, if this thing works and is a success, that's where we'd have this story end.

(アーロンと私にとって最後のピースは『クレイヴン最後の狩り』にあった。これがうまくいって成功すれば、そこでこの物語を終わらせるつもりだった)

『クレイヴンズ・ラスト・ハント』(1987)は、スパイダーマン史上最高の物語のひとつと言われている作品です。J・M・デマティス脚本、マイク・ゼック&ボブ・マクロード作画。

内容はこうです。

クレイヴンがスパイダーマンを撃って生き埋めにし、彼になりすまし、自分のほうが優れていると証明しようとしたあげく、自殺する。

そして監督は、自分にルールを課していたと言っています。

The rule I set for myself is by the final frame of our movie, you had to believe that character could live in a world where Kraven's Last Hunt is a real thing.

(自分に課したルールは、この映画の最後の1コマの時点で、『クレイヴン最後の狩り』が現実に起こりうる世界にこのキャラクターが生きていると観客が信じられること、だった)

ここで、さっきの事実がもう一度効いてきます。

『クレイヴン最後の狩り』は、スパイダーマンがいないと1ページも成立しません。

つまりこの映画は、

  • 出発点(1964年8月の初登場)も

  • 終着点(『最後の狩り』)も

両方とも、画面に出せない人物に預けたまま作られていた。

そして続編は来ませんでした。

この映画は、永遠に途中です。

わたしはここが、批評家の点数より、興行成績より、いちばんこの映画を悲しくしている部分だと思っています。

🗓 ……と書いた翌日に、ソニー自身が答えを出しました

この記事を書いている前日、2026年8月3日の話です。

ソニー・ピクチャーズ会長兼CEOのトム・ロスマンが、Varietyのインタビューで、『クレイヴン・ザ・ハンター』や『マダム・ウェブ』の不振について聞かれて、こう答えました。

Ultimately, the audience wasn't satisfied enough with them. Whether that's a fair assessment of those movies, who knows. That's howling into the wind. The audience is the boss, and they didn't respond. It's as simple as that.

(結局のところ、観客はそれらに十分満足しなかった。それがあの映画たちへの公正な評価かどうかは、わからない。それは風に向かって吠えるようなものだ。観客がボスであり、彼らは応えなかった。それだけのことだ)

続けて、今後もソニーのマーベル・キャラクターのユニバースを開発していく予定はあるか、と聞かれて。

Right now, we don't know. We never looked at it as the "Sony-Marvel Universe." We looked at if there were worthwhile movies to make with other characters. At the moment, there are none in active development.

(いまはわからない。我々はそれを「ソニー・マーベル・ユニバース」として見たことは一度もない。他のキャラクターで作る価値のある映画があるかどうかを見ていただけだ。現時点で、活発に開発中のものはひとつもない

「開発中のものはひとつもない」。

そして、ここが本当にきついところなんですが。

この発言が出たのと同じインタビューの主題は、『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』の記録的な大ヒットでした。

北米オープニング3億6,000万ドル=史上最大。全世界9億3,200万ドル=史上2位。

同じ会社の、同じ人の、同じインタビューの中で、

片方は史上最大で、

もう片方は開発ゼロです。

『ブランド・ニュー・デイ』の考察も書いています。あちらは「譲る話」で、こちらは「継がない話」でした。

📊 6本の数字を並べてみます

ソニーのスパイダーマン・ユニバース(SSU)の全世界興行収入です。

  • ヴェノム 公開 2018/全世界興収 約8億5,608万ドル/RT批評家 31%

  • ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ 公開 2021/全世界興収 約5億0,681万ドル/RT批評家 58%

  • モービウス 公開 2022/全世界興収 約1億6,746万ドル/RT批評家 15%

  • マダム・ウェブ 公開 2024/全世界興収 約1億0,049万ドル/RT批評家 10%

  • ヴェノム:ザ・ラストダンス 公開 2024/全世界興収 約4億7,893万ドル/RT批評家 40%

  • クレイヴン・ザ・ハンター 公開 2024/全世界興収 約6,208万ドル/RT批評家 15%

(Box Office Mojo/Rotten Tomatoes・2026年8月4日取得)

クレイヴンは6作中で最下位です。2番目に低いマダム・ウェブの、さらに6割しかありません。

製作費は1億1,000万ドル超と見られています(Varietyの推定)。全世界の興行収入が、その半分ちょっと、ということです。

しかも興行収入は、まるごとスタジオに入るわけではありません。劇場と分け合うので、実際に戻ってくるのはさらに少ない。Deadlineが「7,100万ドルの損失」と算定したのは、そういう計算です。

観客のこの一言が、たぶんいちばん正確です。

Someday, people will study how an A-List studio with an A-List comic book property and a cast of A-List actors managed to produce a perfect streak of duds.

Truly A-List incompetence.(いつか人々は研究するだろう。一流スタジオが、一流のコミック原作と一流の俳優陣を揃えて、どうやって完璧な連続不発を達成できたのかを。/まさに一流の無能)(Reddit・245票)

ヴェノムが当たっているので「完璧な連続不発」は言いすぎです。でも、ヴェノム以外の3本が、出すたびに数字を下げていったのは、表のとおりでした。モービウス、マダム・ウェブ、クレイヴンの順です。

🌏 それでも、日本で3位に入りました

さて、最初の問いに戻ります。

なぜ日本のスコアだけ高いのか。

ここまで書いてきた「文脈」——原作の初登場号、スパイダーマンとの関係、SSUという企画、権利の話、続編の不在、開発ゼロ——この全部を知らなければ、この映画は普通に面白いアクション映画なんです。

127分。登場人物は少ない。全編ロケ撮影で、スタントは監督いわく「ほとんどが実際の演者」。重力が働くアクション。18kgの筋肉。ラッセル・クロウ。そして津田健次郎。

日本の観客の言葉が、それをそのまま言っています。

話のテンポ感が良く、主要な登場人物も限られており、一本の映画としてとても観やすく作られている。

(Filmarks・Reiさん/5.0点)

しかも、日本には別の追い風がありました。

たぶん、シリーズ化されるのだと思いますが、お願いだからマルチバースなんて持ち込まないでください!

(映画.com・グレシャムの法則さん/4.5点・共感23)

マルチバース疲れ。

「予習しないと分からない映画」に疲れた人にとって、予習が要らないこと自体が長所になる。皮肉なことに、この映画がいちばん責められている点——世界とつながっていないこと——が、そのまま入口になっているんです。

そして、これがすごいんですが。

2024年12月、公開直後のRedditに、こういう書き込みがありました。202票

The internet will cheer when they show up again in ten years. There will be some revisionist thing going on "I've always liked him/her in that role", "The movie wasnt THAT bad", "We want a Morbius revival sequel with Leto"

(10年後に再登場したらネットは歓声を上げる。そして修正主義が始まる。「あの役の彼/彼女、昔から好きだった」「言うほど悪い映画じゃなかった」「レト主演でモービウス復活続編を」)(Reddit・202票・2024年12月)

10年後だと思われていたことが、1年7か月で起きています。

ここで、最初に置いた2本の線がつながります。

「日本 対 海外」の線と、「配信で観た人 対 公開時に観た人」の線は、たぶん同じものです。

配信という装置は、映画から「公開時の文脈」を剥がします。順位も、批評も、興行成績も、赤字も、シリーズの死も、Netflixのサムネイルには書いていない。

そして日本は、配信解禁が世界的にかなり遅かった。香港は2025年3月、ドイツは2025年7月、日本は2026年7月です。文脈が剥がれ切ったいちばん最後に、日本の番が来た。

文脈を剥がされたとき、この映画は生き返る。

文脈の中にいるかぎり、この映画は失敗作のままです。

同じ映画で両方が起きている、というのが、点数が割れている正体だと思います。

『アクロス・ザ・スパイダーバース』の考察で、台本のほうは変えず配役表のほうを書き換える、という話を書きました。クレイヴンは、配役表のほうを書き換えられなかった人です。

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🤔 わたしがこの映画から受け取ったもの

物語の中で、セルゲイは父の家系に反抗して、自分の狩りを始めました。そっちには行かない、と決めた側です。

『ホームカミング』の考察で、昇進を断ることは負けじゃない、という話を書きました。あの映画は、上に入れてもらえなかった大人と、上に入れると言われて断った少年の話でした。

クレイヴンは、その並びの3人目です。上を継ぐことを、断った息子。

でも、断った男が最後に着たのは、父の遺した服でした。

……で、ここからが、わたしがいちばん引っかかっているところです。

この映画を作った会社のほうは、断らなかった。

6年かけて、6本作った。当たったのはヴェノムの3本だけで、残りの3本は出すたびに数字を下げていった。それでも誰も途中で止めなかった。そして最後の1本は、7,100万ドルの損失と算定されました。

「そっちには行かない」と決めた男の話を、やめられなかった会社が作っている。

これがこの映画のいちばん奇妙な二重構造だと思っています。

ロスマンさんの言葉に、もう一度戻ります。

The audience is the boss, and they didn't respond.

(観客がボスであり、彼らは応えなかった)

正しいと思います。ただ、この言い方だと、応えなかったのは観客のほうに読めるんですよね。

でも実際に起きていたのは、たぶん逆です。

呼びかけていた相手が、最初から画面にいなかった。

クレイヴンは、獲物に向かって吠えていたんじゃない。誰もいない場所に向かって吠えていた。ロスマンさんの言葉を借りるなら、風に向かって吠えていた(howling into the wind)のは、この映画のほうだったと思います。

🎬 で、いま観る価値はあるのか

あると思います。ただし条件つきで。

おすすめする人

  • 予習が要る映画に疲れている人(この映画には予習が1ミリも要りません)

  • 生身の肉体でやるアクションが好きな人(監督いわく、スタントはほとんどが実際の演者です)

  • ラッセル・クロウが好きな人

  • 吹替で観るのが好きな人(津田健次郎・山路和弘・堀内賢雄・入野自由です)

  • 「途中で終わってしまった作品」そのものに興味がある人

おすすめしない人

  • 原作やゲームでクレイヴンを知っていて、あの獰猛さを期待している人(いちばん怒るのはこの層です

  • スパイダーマンとの絡みを期待している人(一度も出ません)

  • きれいに完結する映画が好きな人(完結していません)

観るなら、何も調べずに観てください。

この記事、ぜんぶ読んでから観ると、たぶんつまらなくなります。そういう種類の映画です。

……という但し書きを、考察記事の側が書くことになるのが、この映画のいちばん誠実な紹介の仕方かなと思っています。

🕷 スパイダーマン考察シリーズ

あとよみでは、スパイダーマンの映画を1本ずつ読み解いています。

=上に切り捨てられた大人と、上に入れと言われて断った少年の話。この記事の「継がない」は、あちらの「昇進を断る」の続きです。

=悪役はヒーローの副産物だ、と書いた記事。クレイヴンは、その裏側にいます。

=ヴィランを「倒す」ではなく「治して返す」を選んだ話。狩りの、ちょうど真逆にある選択です。

=マスクを譲る話。顔を隠さない狩人と、顔をもらい直した男。

=決められた運命から降りる話。「宿敵という配役」の話でもあります。

📚 あとよみの他の考察

動画版も準備しています。できあがったら、ここに置きます。

💬 あなたはどう観ましたか?

いちばん聞いてみたいのは、これです。

あなたは、この映画を「知って」観ましたか。「知らずに」観ましたか。

たぶん、そこで感想がまるごと変わります。この記事を書いていて、そこが本当に面白かったところでした。

もし「知らずに観て面白かった」側の方がいたら、それはこの映画がいちばん望んでいた観られ方だと思います。

コメントで教えてもらえたら嬉しいです。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

同じ週に、Netflix日本の映画ランキングにもう1本いました。日本製のホラー『夜勤事件』です。こちらは「押しつけた側の話」として読みました。

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