【英国文豪、令和を歩く】第12回:Harry Potter’s wand flashed brighter and hotter.
京都、寺町通の片隅にある、琥珀色のランプが灯る古風な喫茶店。使い込まれたビロードの椅子に、二人の人物が向かい合っている

(艶やかな黒髪をかき上げ、デミタスカップを口に運んで)
……ふう。この街の空気は、ストラトフォードの川辺よりも少しばかり湿り気が多いけれど、言葉を育むには悪くないわね。ねえ、ドイル。さっきから熱心にその風変わりな「眼鏡」を覗き込んで、一体何を読んでいるの?

(タブレット端末から顔を上げ、穏やかに笑って)
ああ、すまないウィル。この現代の書板――電子書籍というやつは、実に見事なものだよ。かつての『ストランド・マガジン』を何千冊も持ち歩いているようなものだ。……今読んでいたのは、この時代で最も愛されているという、ある若き魔法使いの物語だよ。

(目を細めて)
魔法使い? おお、プロスペローのような隠者かしら、それとも三人の魔女のように、煮えたぎる釜を囲んで不吉な予言を口にする老婆?

(苦笑して)
いや、もっと若々しい。ハリー・ポッターという名の少年だ。寄宿学校に通い、杖を振り、空飛ぶ箒に跨る。……だがね、ウィル。この物語の構成には、どこか私のホームズに通じる「謎解き」の趣があるんだ。伏線が緻密に張り巡らされ、最後には霧が晴れるように真実が姿を現す。

(興味深そうに身を乗り出して)
ほう、それは面白そうね。物語に「謎」は欠かせないわ。王冠を盗んだのは誰か、愛の手紙をすり替えたのは誰か……。でも、その少年は愛を知っているの? 悲劇の香りはする?

(頷いて)
大いにあるよ。彼は幼くして両親を亡くし、額には消えない傷跡がある。その傷こそが、宿敵との因縁の印なのだ。……ただ、私が感心したのは、彼を取り巻く友情の描き方だ。ワトソンのような忠実な友、そして機知に富んだ少女。彼らが力を合わせて、理不尽な悪に立ち向かう。

(ふふっと含み笑いをして)
あら、ドイル。あなたはいつも「論理」と「正義」を重んじるわね。でも、私がその物語を書くなら、その宿敵……名前を言ってはいけないあの男だったかしら? 彼にもっと、胸を掻き毟るような独白(モノローグ)を与えてあげるのに。悪徳の中にある一筋の人間性、あるいは絶望ゆえの狂気。それこそが観客……いえ、読者の心を震わせるのよ。

(珈琲を一口飲み、考え込むように)
確かに、君の手にかかれば、ヴォルデモートもリチャード三世のような魅力的な悪漢になったかもしれないな。……だが、この物語の真髄は「死」への向き合い方にある。死を克服しようとする悪と、死を受け入れ、愛する者のために命を賭ける善。この対比は、実にイギリス的であり、そして普遍的だ。

(窓の外、暮れなずむ京都の通りを眺めて)
「死」……。それは私たちの時代から変わらない、唯一の真実ね。このカフェの喧騒も、いつかは歴史の塵に埋もれる。けれど、ドイル。あなたが言うその少年の物語が、こうして時を超えて語り継がれているのなら、それは彼が「言葉」という魔法を手に入れた証拠よ。

(微笑んで)
その通りだ、ウィル。……ところで、この物語には「屋敷しもべ妖精」という、君の『真夏の夜の夢』に出てくるパックのような連中も出てくるんだ。

(目を輝かせて)
あら! それは楽しそう。ねえ、ドイル。その魔法の板を貸して。今夜は、その「生き残った男の子」とやらの運命を、私も辿ってみることにするわ。……もちろん、あなたの書いた事件簿の続きを読み終えてから、ね?

ははは、光栄だよ。じゃあ、もう一杯珈琲を頼もうか。夜はまだ長いし、この街には語るべき物語が溢れている。
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