見出し画像

【英国文豪、令和を歩く】第10回:Golden ale glows pale like sunset on the trail.

京都、三条大橋を臨むレトロな喫茶店。使い込まれた琥珀色のテーブルを挟んで、現代の装いに身を包んだ二人の女性が向かい合っている。一人は華やかなスカーフを巻いたウィル、もう一人はツイードのジャケットを羽織り、パイプの代わりに精巧な電子タバコを弄んでいるドイルである

ウィリアムシェイクスピア                                                                                                                    

ドイル、見て。この琥珀色の液体……まるで午後の陽光を閉じ込めたみたいじゃない? 京都の古い喫茶店でエールを啜るなんて、なんだか不思議な気分だわ
(ウィルは、少しはにかんだような笑みを浮かべ、手に持ったパイントグラスを軽く掲げた。彼女の瞳には、かつてのロンドンの喧騒と、今の静かな古都の風景が混じり合っている。)

                                                                                                                      コナンドイル

ああ、ウィル。君の言う通りだ。我々が知る『エール』は、まさに英国の魂そのものだからね。現代の日本で主流の冷たくて喉越しのいい『ビール』――いわゆるラガーとは、根本からして別物だよ。あちらは喉を冷やすためのものだが、エールは心と体を温め、対話を楽しむためのものだ

(ドイルは、手元の厚いグラスを見つめながら、懐かしむように言葉を継いだ。)

最大の違いは、やはりその『造り』にある。ラガーは低い温度でじっくりと底の方で発酵させるが、エールは暖かい場所で、酵母が表面に浮き上がってくるほど元気に発酵させるんだ。だからこそ、フルーツやスパイスのような、あの芳醇で複雑な香りが生まれる。……君の戯曲のように、幾重にも重なる味わいがあるとは思わないかい?

(ウィルはクスクスと笑い、一口エールを含んだ。)
お上手ね、ドイル。でも本当、この常温に近い温度でいただくのがいいのよね。キンキンに冷えたラガーもこの街の夏にはいいけれど、こうして落ち着いて話すなら、エールの持つ豊かなコクが恋しくなるわ。ホップの苦味だけじゃない、大麦の甘みがしっかりと感じられる……。昔、テムズ川のほとりで飲んだあの味を思い出すわ

そう、エールは生きているんだ。炭酸が強すぎないのもいい。お腹に溜まらず、ゆっくりと時間をかけて、それこそ一晩中、事件の推理や物語の構想を練るには最高の相棒だった

(ドイルは少し真面目な顔をして、グラスを置いた。)

現代の人は、ビールといえばどれも同じだと思いがちだが、エールの多様性は驚くべきものだ。ペールエール、スタウト、ポーター……。それぞれが独自の物語を持っている。この京都のクラフトビールも、なかなか英国の伝統をよく解釈しているじゃないか

ええ。この『エール』を飲みながら、あなたの書く新しい冒険譚を聞かせてもらいたいものだわ。ねえ、ドイル。次はどのエールを試してみる?
(ウィルは悪戯っぽく微笑み、メニューに目を落とした。窓の外では、京都の街角を夕刻の風が通り抜けていった。)

前へ|10 ▶次へ



いいなと思ったら応援しよう!

ぶるうす恩田 よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!