【英国文豪、令和を歩く】第65回:VR technology drives innovation,Creating immersive communication.
カフェのテラス席。ウィルは自分のスマホに小さなVRゴーグルを装着し、興味深そうに覗き込んでいる。ドイルはその様子を、まるで未知の標本を観察する学者のような目で見守っている

ねえドイル、これを見て! この小さなレンズの向こう側には、もう一つの『ヴェローナ』が広がっているのよ。指先一つ触れずに、柘榴の木に止まるナイチンゲールの羽ばたきまで見えるわ。まるで、夜の闇を突き抜けて、一番美しい二箇の星が私の瞳に飛び込んできたみたい!」

ほう、それが噂のVR(バーチャル・リアリティ)か。君がそれを覗いている姿は、まるでロレンス法師が不思議な薬草を検分している時のように熱心だね。だがウィル、その箱が見せているのは、網膜が捉えた電気信号の悪戯に過ぎない。ホームズなら『眼は信じても、脳は疑え』と言うだろうな。

あら、そんな無粋なことを。これは『光り輝く宴席』なのよ。現実の京都は今、夕暮れに包まれて暗くなり始めているけれど、このゴーグルの中では、太陽が私のために炬火持ちの役を務めてくれているわ。朝を告げる雲雀の声さえ、ここでは私の都合で黙らせることができる……これこそ、人間が手に入れた『魔法の杖』だと思わない?

魔法、か。確かに、視覚を完全にジャックして、別の世界へ精神を飛ばすというのは、ある種の催眠術に近い。だが、私が懸念するのはその『没入感』だよ。パリスが墓場でロミオを追い詰めた時、彼は現実の憎しみに囚われていた。もし彼らがVRの中で戦っていたなら、あんな悲劇は起きなかったかもしれないが……同時に、ジュリエットの温かい肌の温もりも、流れる血の熱さも、そのゴーグルは再現できないだろう?

……鋭いわね、ドイル。確かに、この中には『温いままの体温』はないわ。でも、考えてみて。もしロミオが追放されたマンチュアの地で、このゴーグルを持っていたら? 彼は毎日ジュリエットに会えたはずよ。一時が百日に感じられるような孤独な時間も、この光の窓があれば、一分が百日の喜びに変わったかもしれない。

それは救いか、それとも残酷な幻想か。現実の彼女は冷たい墓所に横たわっているのに、ゴーグルの中では微笑み続けている……。それは、死者を無理に呼び戻す降霊術のようなものだ。私はかつて、科学で説明できない心霊現象にも興味を持ったが、この技術は、生者と死者の境界、あるいは真実と虚偽の境界を、あまりにも曖昧にしてしまう気がするよ。

境界が曖昧だからこそ、物語は生まれるのよ。窓が日光を内に入れ、命を外へ出すように、このゴーグルは私たちの魂を肉体という鞘から解き放ってくれる。名が何であれ、薔薇が香るように、この仮想の世界で見せる涙も、本物の愛から出たものなら、それは真実と言えるんじゃないかしら?

ふむ。君の詭弁にはいつも感服するよ。だがウィル、あまり長くその『空中の島』に留まらないことだ。現実のコーヒーが冷めてしまうし、何より、私の目の前にいる君の瞳が、デジタルの星影に奪われてしまうのは寂しいからね。さあ、その魔法の箱を外して、現実の鴨川の風を感じようじゃないか。雲雀は鳴いていないが、川のせせらぎは本物だよ。

ふふ、そうね。おさらば、おさらば、私の仮想の恋人!……はい、ドイル。現実の舞台に戻ってきたわ。でも、いつかあなたのベーカー街も、このゴーグルの中に作ってあげる。その時は、私がワトソン役になって、あなたの影を追いかけてあげるから!
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