【英国文豪、令和を歩く】第62回:Hantavirus, rare yet serious, demands caution, calm and curious.
鴨川のゆるやかな流れを横目に、新緑の柳が揺れる五条大橋のあたりを二人はゆっくりと歩いている。ウィルは華やかなワンピースに身を包み、ドイルはツイードのジャケットを小綺麗に着こなしている

ねえドイル、見て。今日の鴨川はまるで鏡のよう。でも、この穏やかな水面の下に何が潜んでいるか、誰にも分かりはしない……まるであの豪華客船の話みたいじゃない?

ああ、ウィル。君の詩的な感性は相変わらず鋭いな。だが、あのクルーズ船で起きた『ハンタウイルス』の騒動は、詩というよりは、いささか不気味な推理小説の序章のようだよ。密閉された豪華な檻の中で、目に見えない死神が乗客の背後に忍び寄る……。かつて私が診てきた患者たちも、目に見えぬ病に怯えていたが、これほど現代的な恐怖もなかろう。

ふふ、ドイルはすぐ医学的な、あるいは探偵のような目線になるのね。でも考えてみて? 世界を巡る夢の城が、一夜にして溜息と疑惑の監獄に変わる。恋人たちはシャンパングラスを置き、互いの熱を測り合う……。これこそ現代の悲劇、あるいは皮肉な喜劇だわ。ネズミが運ぶ死の影だなんて、まるで中世の熱病が現代の贅を尽くした船に密航したみたい。

全くだ。私の友人のホームズなら、船内の通気口や食料庫の隅々まで調べ上げ、どのネズミが『最初の容疑者』か特定しただろうね。しかし、皮肉なものだよ。人間はどれほど科学を発達させ、鋼鉄の巨船を海に浮かべても、結局は小さな生き物がもたらす微細な毒に屈してしまう。私がかつて診たブレシントン氏のように、外敵を恐れて部屋に閉じこもっても、恐怖は内側から忍び寄るものだ。

恐怖は常に、最も安全だと思っている場所に巣食うものよ。ねえ、ドイル。もし私たちがその船に乗り合わせていたら、あなたはどうしたかしら? 聴診器を手に病室に飛び込む? それとも、私と一緒にデッキでこの世の無常を嘆きながら、最後の一杯を楽しむ?

やれやれ、ウィル。君といると、どんな深刻な事態も演劇の一場面になってしまうな。私なら……そうだな、まずはパニックを抑えるために冷静な論理を説くだろう。だが結局は、君の書く物語の登場人物のように、運命という荒波に翻弄されることになるのかもしれない。……おっと、足元に気をつけて。現代の京都の道は、ロンドンの石畳よりはずっと歩きやすいが、君の空想は時々足元を疎かにさせるからね。

あら、優しいのね。でも大丈夫。私は今のこの『転生』という舞台を存分に楽しんでいるの。ウイルスも、謎めいた病も、すべては人生という大きな戯曲のスパイス。さあ、ドイル。あの先にあるカフェで、その『ハンタウイルス』とやらがどうやって人々の心を揺さぶるのか、もっと詳しい分析を聞かせて? あなたの医学的な講釈は、最高の退屈しのぎになるわ!

退屈しのぎとはひどいな! まあいい、君の好奇心を満たすためなら、喜んでワトソン役を務めるとしよう。行き給え、ウィル。現代の英知をもってしても解けない謎は、案外、君のような直感の中に答えがあるのかもしれんからね。
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