【英国文豪、令和を歩く】第58回:Lemonade, ice and shade, sip it slow and feel the fade!
京都、三条通の界隈。明治時代から続くような、重厚な木造りのカッフェー。琥珀色の照明の下、二人の奇妙な連れが向かい合っている。一人は、華やかなスカーフを首に巻き、知的な光を瞳に宿した女性、ウィル。もう一人は、ツイードのジャケットを無造作に着こなし、パイプ代わりに手にしたペンを弄んでいる男、ドイルである

「ねえドイル、この『カッフェー』の冷たい飲み物も良いけれど、ふと故郷の霧の街が恋しくなることはない? 例えば、あの黄金色に輝く、少し酸っぱくて、それでいて喉を焼くような……そう、本物のレモネードのことよ」
ウィルはグラスの中の氷を揺らしながら、遠い空を見るような目で微笑んだ。

「ああ、ウィル。レモネードか。実に懐かしい響きだ。英国の夏、庭園で供されるあの冷たい一杯……。だが、私が思い出すのはもう少し実利的な場面だ。診察室で神経を尖らせている時や、あるいは事件の調査で喉を枯らした後に飲むレモネード。あれは単なる飲料ではなく、乱れた思考を整える『清涼剤』のようなものだったね」
ドイルは、かつて自分がブルック街の医者や、様々な依頼人たちと交わした会話を思い出すかのように、ゆっくりと頷いた。

「あら、あなたらしいわね。私にとっては、レモネードはもっと劇的なものよ。真夏の夜の夢の合間に、役者たちが渇いた喉を潤すための魔法の雫。甘みと酸味の絶妙な配合……それはまるで、喜劇の中に一匙の皮肉を混ぜるようなものだわ。でも、あちらのレモネードは、こちらのものよりずっと『本気』だった気がしない?」

「確かに。あちらではレモンを惜しみなく使い、炭酸の刺激も喉に刺さるほど強烈だった。まさに『人生が君にレモンを与えるなら、それでレモネードを作れ』という格言を地で行くような、力強さがあった。それに比べて、この現代の日本のレモネードは、どこか洗練されていて、まるでおしろいを塗った役者のように慎み深いね」

「ふふ、上手いことを言うわね。でも、この国にも『ラムネ』という、私たちのレモネードの遠い親戚のような飲み物があるじゃない? あのガラス玉を押し込む時の音……まるで、隠された真実(トリック)が暴かれる瞬間の衝撃に似ていないかしら?」

「おっと、ウィル。それは私の専門分野だ。あのガラス玉の仕掛けは、実に巧妙な物理学の結晶だよ。密閉された空間に閉じ込められた透明な球。それを正しい角度で押し下げなければ、中身を味わうことはできない。……まるで、固く口を閉ざした証人から証言を引き出すようなものだ。そういえば、南アフリカから来たあの男たちも、カルタの賭けに勝つことより、あの瓶を開けることの方が難しかったかもしれないな」

「まあ、そんな物騒な話とレモネードを結びつけるのはあなたくらいよ、ドイル。でも、そんな風に何にでも意味を見出してしまうからこそ、私たちはこうして新しい時代でも退屈せずに済むのね。……ねえ、店主さん。もしできるなら、このレモンをもう一つ、私のハイボールに絞ってくださる? 英国の思い出を、もう少しだけ酸っぱくしたいの」

「ははは! いいね。では、私はその酸っぱさに敬意を表して、この『現代のレモネード』とやらをもう一杯。昔のようなパイプの煙はなくても、この爽やかな香りが、私の脳の灰色の細胞を少しは刺激してくれるだろう」
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