【明治文豪、令和を歩く】第59回:ミステリアスレアアース
現代の東京、とある落ち着いた喫茶店のテラス席にて。路地裏の静けさを好む二人の文豪が、カップを前に向かい合っている。

やあ、荷風君。相変わらずその蝙蝠傘を離しませんな。どうです、この現代という街は。文明の利器が溢れかえって、我々のいた頃の東京とは、まるで別の惑星のようだ

先生。全く、表を歩けば誰もが手元の小さな硝子板を覗き込んで……。あれは『スマートフォン』と申すのでしたか。隅田川の濁った流れを惜しむ者など、もう一人も居らぬようです。しかし、あの板きれを作るには『れああーす』なる稀少な土が必要なのだとか

左様、レアアースだ。なんでも地中深くから掘りだされる、魔法の粉のようなものらしい。それがないと、この目も眩むような電光石火の文明は一日たりとも維持できんというのだから、恐ろしい。我々の時代の石炭や鉄とは、また趣が違いますな

稀少、という響きには惹かれますが、それが掘り出される様は、さぞや無風流なものでしょう。かつて私が愛した江戸の残り香などは、そうした土の下に深く埋め殺されてしまった。新しき時代の破壊は、ついに土の底まで及びましたか

ははあ、相変わらず手厳しい。だがね、荷風君。あの小さな機械一つで、古今東西の書物が瞬時に読める。あなたの『すみだ川(※)』も、指先一つで若者の目に触れる。これはこれで、ある種の怪異というか、文明の極致ではありませんか。もっとも、その代償として、現代人の心は常に何かに追い立てられているようだが

左様でございますな。あの機械に使われる土が『レア(稀) 』であるというのに、それを使う人間の方は、どうも画一的で、個々の風情に欠ける。西洋の真似事をして浮足立っていた明治の世が、さらに加速して、もはや引き返せぬ処まで来た感がございます。先生は、この稀なる土に依存する世の中を、どう御覧になりますか

私かね? 私はただ、この便利すぎる世の中で、人間の自己が摩滅してしまわぬか、それだけが些か気がかりでね。土を掘り返して黄金を得るのも結構だが、肝心の『人間』という器が空っぽになっては、元も子もあるまい。まあ、あまり考えすぎると、また胃が疼きだす。せめて今は、このカフェの珈琲でも啜って、現代の浮世を眺めるとしましょう

左様ですな。稀少な土よりも、一刻の静寂の方が、私にはよほど価値がある。先生、あちらの隅の席へ参りましょう。あそこなら、あの騒々しい機械を弄ぶ群衆から、少しは隠れられそうだ
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