【英国文豪、令和を歩く】第15回:The Lord of the Rings—where legends rise and courage springs.
京都、寺町通の片隅にある、琥珀色のランプが灯る古風な喫茶店。使い込まれたビロードの椅子に、二人の人物が向かい合っている

(カップを置き、少し真剣な面持ちで)
ウィル、最近またあの電子書籍で、圧倒されるような長大な物語を読み終えたよ。『ロード・オブ・ザ・リング』……指輪を巡る、中つ国の叙事詩だ。

(楽しげに目を輝かせ)
あら、指輪? ヴェニスの商人が愛の証に捧げたような指輪かしら。それとも、はめる者を透明にする魔法の力でもあるの?

まさに後者だ。だが、その力は持ち主の魂を蝕む。……驚いたよ、ウィル。この物語の緻密さは、まるで一つの歴史書だ。独自の言語、家系図、そして広大な地図。著者のトールキン教授は、論理的な整合性を保ちながら、これほどまでに巨大な空想の世界を構築した。私のホームズが、断崖絶壁のライヘンバッハで宿敵モリアーティと対峙した時の緊迫感……それが、全編にわたって続いているようなものだ。

(ふふっと笑って)
「論理的」なんて、相変わらずね、ドイル。でも、その物語には「王」がいるのでしょう? 宿命を背負い、放浪の果てに自らの座を取り戻す男。あるいは、小さき者たちが巨大な悪に立ち向かう勇気。……それは、私が最も愛する「人間劇」の極致じゃない。

その通りだ。特に、フロドという小さなホビットと、その忠実な友サムの絆には胸を打たれた。ワトソンが私を信じ、暗闇の中でもついてきてくれたように、彼らもまた、絶望の淵で互いを支え合う。……もっとも、君の劇なら、あの「ゴラム」という哀れな生き物に、もっと長く、業の深さを語る独白(モノローグ)を与えただろうがね。

(扇子をあごに当てて)
ええ、そうね。「いとしいしと(My Precious)」……。その一言に凝縮された執着と孤独。彼は、権力という名の毒に冒されたマクベスであり、同時に愛を失ったリア王のようでもあるわ。……ねえ、ドイル。その物語の最後はどうなるの? 悪は滅び、秩序は戻るのかしら。

ああ。だが、ただのハッピーエンドではない。勝利の代償として、去りゆく者たちがいる。古い魔法の時代が終わり、人間の時代が始まる……その寂寥感こそが、この物語を真の名作にしているんだ。私がかつて、ホームズをあの滝に沈めた時に感じた、一種の「必然性」にも似た哀しみがある。

……滅びゆくものへの挽歌(エレジー)ね。美しいわ。この京都の街も、古い寺社と新しいビルが混ざり合いながら、少しずつ姿を変えていく。魔法が消えても、語り継がれる言葉がある限り、その世界は死なない。

全くだ。……おっと、話し込んでいたら珈琲が冷めてしまった。ウィル、君もこの「指輪」の物語を読んでみるといい。君の詩的な感性なら、エルフの歌の中に、新しいソネットの着想を得るかもしれない。

ええ、いただくわ。でもドイル、私がそれを舞台にするなら、きっと三時間じゃ収まらないわよ? 観客を三日間、劇場に閉じ込めることになるけれど……覚悟はいいかしら?

(笑いながら)
それこそ、ホームズに解決を依頼したくなるような大事件になりそうだ。だが、君の言葉なら、喜んでその虜になろう。
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