見出し画像

【英国文豪、令和を歩く】第16回:Uber the mover lifts moods—Uber Eats brings comfort treats.

京都、寺町通の片隅にある、琥珀色のランプが灯る古風な喫茶店。使い込まれたビロードの椅子に、二人の人物が向かい合っている

                                                                                                                                 コナンドイル

(窓の外、自転車に跨った若者が大きな四角い鞄を背負って疾走していくのを眺めながら)
……ウィル、あの若者を見てごらん。あの背中の鞄には、誰かの夕食が詰まっているらしい。この現代では「ウーバーイーツ」という、実に効率的な配膳の仕組みがあるんだよ。

ウィリアムシェイクスピア                                                                                                                    

(扇子を軽く動かしながら)
ああ、あの黄色や黒の鞄を背負った「使いの者」たちね。乳母がロミオのもとへ走った時のように、彼らもまた、誰かの切実な……いえ、空腹という名の「渇望」を抱えて走っているわけね。

(論理的に分析するように)
興味深いのは、その仕組みだよ。かつてリヴァプール駅で臨時急行列車を仕立てるには、四十五分もの時間と多額の費用が必要だった。だが今は、魔法の板(スマートフォン)を叩くだけで、見知らぬ「運び屋」が迷うことなく目的地へ滑り込んでくる。まるで、あの行方不明になった列車が、実は引込線へ吸い込まれるように正確に、ね。

(くすくすと笑って)
ドイル、あなたはすぐに「正確さ」を重んじるけれど、私はあの若者たちの「足取り」に物語を感じるわ。ジュリエットに会いにいくロミオの足取りは、夏の風に戯れる糸遊(いとゆう)よりも軽やかだった。でも、この現代の運び屋たちはどうかしら? 階段を駆け上がり、石道を磨り減らし、冷めないうちに「幸福」を届けようと必死だわ。

確かに、彼らの背負っているのは単なる食事ではない。ある種の「信頼」だ。もし、私が現代で事件を解決するなら、あの鞄の中身がすり替えられていないか、あるいは配達の経路に不自然な「空白の五分」がないか……そんなことを調べてしまうだろう。マックファースンが列車ごと消えたように、配達員が忽然と消える謎……なんて、実に魅力的じゃないか。

あら、物騒な想像ね。私はもっと情緒的な方が好きだわ。例えば、届けられた料理の中に、名もなき料理人が忍ばせた一通の恋文が入っていたら? あるいは、間違えて届いた食事が、孤独な二人の魂を結びつけるきっかけになったら? 「速きに過ぐるは猶遅きに過ぐるが如し」……あまりに急いで届けるよりも、少しの寄り道が運命を変えることもあるのよ。

(苦笑して)
君にかかれば、ピザの配達も壮大なロマンスか悲劇になってしまうな。だが、このシステムは実に合理的だ。位置情報という「目に見えない糸」で、客と運び手が結ばれている。かつて私が考えた「秘密結社」のような奇怪な能力がなくとも、今の世の中は十分に不思議に満ちているよ。

ええ。でもドイル、どんなに便利な世になっても、届ける側と受け取る側の「心」までは運べないわ。乳母が息を切らしてジュリエットに報告した時の、あの熱量。ああいう「生きた言葉」こそが、最高のスパイスなのに。

……確かに。効率を突き詰めれば、会話は消えてしまうからね。ではウィル、せっかくだから我々も、あの「魔法」を使ってみようか。このカフェの珈琲もいいが、たまには異国の料理をこの古風な席まで運ばせてみるのも、一つの「実験」として面白いかもしれない。

あら、賛成だわ! でもドイル、注文するのは「毒」が入っていないものにしてちょうだいね? 私、悲劇のヒロインを演じるのは、舞台の上だけで十分なんですもの。

前へ12131415|16 ▶次へ



いいなと思ったら応援しよう!

ぶるうす恩田 よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!