【英国文豪、令和を歩く】第70回:World Cup lights the field so bright, nations chasing dreams tonight.
京都の古風な喫茶店。窓の外には鴨川の流れが見える。テーブルの上には、先ほどのオリーブオイルを垂らしたパンの皿が片付けられ、今は深煎りの珈琲が二人の前に置かれている

ねえドイル、さっきから街のあちこちで若者たちが熱狂しているあの『ワールドカップ』というお祭り。あれは一体、どんな筋書きの演劇なのかしら? ひとつの球を追いかけて、国と国が剣も持たずにぶつかり合うなんて、まるでモンタギューとキャピューレットが広場で競い合うような騒ぎじゃない

(珈琲の香りを楽しみながら、落ち着いた口調で)
ああ、あれかい。現代の騎士道物語だよ、ウィル。かつての戦場が、今は緑の芝生の上に移し替えられたというわけだ。十一人の選ばれし戦士たちが、一滴の血も流さずに、知略と体力の限りを尽くして勝利という栄光を奪い合う。実に論理的で、かつ情熱的なスポーツだよ

十一人の戦士……。それは壮観ね。でも、あんなに広い場所で、ただ一つの球をゴールという名の『運命の門』へ放り込むのがそれほど難しいことなの? 観衆の溜息や歓声が、ここ三条の通りまで聞こえてきそうだったわ。まるで悲劇のクライマックスを待つ観客のように、みんな息を呑んで

そこが面白いところなんだ。どれほど完璧な戦術を組み立て、犯人を追い詰める探偵のように緻密にパスを回しても、最後の一蹴りで全てが覆ることがある。不確定要素……いわば『偶然』という名の悪戯が、名門チームを奈落に突き落とし、無名の若者を一夜にして英雄に変える。南アフリカの荒野で金鉱を掘り当てるような、そんな一攫千金のドラマがそこにはあるのさ

ふふ、素敵ね。理屈では説明できない『情熱の暴走』が勝敗を決めるというわけ? それはまさに、私の得意とする舞台だわ。どんなに冷静な名探偵でも、あの熱狂の渦に巻き込まれたら、論理の糸が縺れてしまうんじゃないかしら

認めざるを得ないな。あのスタジアムの熱気は、時に観察者の眼を曇らせる。だが、だからこそ人々は酔いしれるんだろう。国旗を背負い、名誉のために走る姿には、人間の本質的な美しさが宿っている。かつて私が見た、運命に翻弄される依頼人たちのような切実さが、あの九十分間には凝縮されているんだ

九十分間の幕間なしの演劇、というわけね。勝ち進む者は天国へ、敗れ去る者は煉獄へ……。でもドイル、負けた者たちも、その涙さえもが美しい物語の一部になるのなら、それは決して無駄な戦いではないわ。ねえ、今夜の試合、私たちもどこかで観てみない? この京都の夜に、黄金のオイルよりも熱い、新しい伝説が生まれる瞬間を

いいだろう、ウィル。君が隣で詩的な解説をしてくれるなら、退屈なデータ分析など放り出して、私も一人のファンとして声を枯らすことにしよう。……ただし、賭けはやめておこう。君の直感には、私の推理も敵いそうにないからね
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