【英国文豪、令和を歩く】第68回:VTuber live, laugh and hype, glowing bright all through the night!
夜の帳が下りた鴨川。街灯の光が水面に揺れる中、ウィルはスマホの画面で「VTuber」のライブ配信を見せながら、楽しそうに声を弾ませた

ねえドイル、これこそ現代の『仮面舞踏会』だわ! 見て、この愛らしい少女の姿。でも、その正体は誰も知らないの。声と動きだけが、魔法の糸のように操られて、このデジタルの体(アバター)に魂を吹き込んでいるのよ。まるで、私の劇の配役が、肉体という牢獄から解き放たれて、永遠の若さを手に入れたみたいじゃない?

ふむ……VTuberか。実体を持たない『影』が、鏡の向こう側で生きているようなものだね。ウィル、君が言うと優雅に聞こえるが、私にはどうしても、ベーカー街の窓に映したあの『蝋人形の影』を思い出さずにはいられないよ。あの時、空き家の暗闇から狙っていた空軍大佐モランは、窓越しの影を本物の私だと思い込んで引き金を引いた。このVTuberというのも、ある種の『精巧な欺瞞』ではないのかい?

あら、ドイルったら、またそんな物騒な事件に例えて! でもね、これは人を欺くための罠じゃないの。むしろ、本当の自分をさらけ出すための『美しい偽装』なのよ。ジュリエットがバルコニーで『名前が何だというの?』と問いかけたように、この世界では、生まれや姿形なんて関係ないわ。ただその魂が放つ言葉や歌だけが、人々の心を震わせる……。これこそ、純粋な『存在の詩』だと思わない?

魂の言葉、か。確かに、私がかつて関わった『自転車嬢』の事件でも、悪漢どもは変装や偽の結婚式で一人の女性を陥れようとした。だが、あの時ボッブ・カラザースが黒いつけ髭をかなぐり捨てて真実の顔を現したように、人はいつか『素顔』に戻らねばならない時が来る。このVTuberとやらも、画面の向こう側の『演者』が抱える孤独や、現実との乖離に苦しむことはないのだろうか?

それは、舞台に立つすべての役者が背負う宿命よ。でも、見て。この『舞踏人』のような奇妙な動きや、独特の暗号(ハッシュタグ)を使って、彼女たちはファンと心を通わせているわ。あなたが解き明かした『踊る人形』の暗号は、恐ろしい犯罪の予兆だったけれど、このデジタルな踊り子たちが描く記号は、見知らぬ誰かへの『愛のメッセージ』なのよ。

暗号、か……。確かに、ヒルトン・キューピット氏の家の扉に描かれたあの不気味な人形たちに比べれば、この画面の中の色彩ははるかに賑やかで、楽しげだ。ホームズなら『観察と推理の対象としては実に興味深い』と、パイプをくゆらせながら言うだろうね。演者の癖、声の揺らぎ、背景に映り込むわずかな違和感から、中の人物の正体を突き止めようとするかもしれない。

ふふ、ホームズさんには野暮な真似はしないでって伝えておいて。これは、現代の人間が作り出した『真夏の夜の夢』なの。現実の世界では結ばれない恋も、叶わない夢も、このアバターを纏えば自由自在。ドイル、あなただって、その気になれば銀髪の美少女になって、世界中のファンに『謎解き』を披露することだってできるのよ?

私が……美少女に? ははは! それはライヘンバッハの滝に飛び込むよりも勇気が要ることだ。私はやはり、このツイードのジャケットと、現実のワトソン君が淹れてくれる少し濃すぎた紅茶の方が落ち着くよ。だが、ウィル……君が言うように、この仮想の姿が誰かの救いになっているのなら、それもまた一つの『真実』なのかもしれないな。

ええ、そうよ。名前も、姿も、過去も捨てて、ただ『今』を演じ続ける。それは、私たちが物語の中で繰り返してきたことそのもの。さあ、ドイル、この小さな画面の中の妖精に、私たちも『いいね』という名の拍手を送りましょう? 彼女たちの舞台は、まだ始まったばかりなんですもの!」
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