【英国文豪、令和を歩く】第19回:The Iran war spreads like cracks in glass, each line a scar.
京都、寺町通の片隅にある、琥珀色のランプが灯る古風な喫茶店。使い込まれたビロードの椅子に、二人の人物が向かい合っている

(新聞の片隅に躍る、中東の不穏な情勢を伝える見出しを指先でなぞりながら)
……ウィル、この「イラン」を巡る情勢を見てごらん。またしても、砂塵の舞う地平に火の手が上がろうとしている。かつて私が記録した『グロリア・スコット号』の悲劇も、発端はほんの些細な諍いだった。だが、一度「自由」や「生存」の名の下に血が流れ始めれば、それは制御不能な爆発へと繋がってしまう。

(扇子を固く握りしめ、沈痛な面持ちで)
ええ、ドイル。耳を澄ませば、遠い異国の空から、愛する者を奪われたジュリエットたちの悲鳴が聞こえてくるようだわ。「追放」という言葉一つが、一万人を殺す力を持つ。ましてや、今の世の「戦争」という言葉が持つ呪いは、どれほど多くの命を奈落へ突き落とすことかしら。

論理的に見れば、これは資源や外交の均衡が崩れた結果だと言えるだろう。リヴァプール駅で臨時急行を仕立てるように、国家もまた、自らの目的のために「緊急事態」という名のレールを敷こうとする。だが、そのレールが向かう先が「巨大な顎を開けた竪坑」であってはならないんだ。あのカラタール氏やゴメズが、制御不能になった列車の中で神に祈り、咆え続けたように、一度走り出した戦争という怪物は、運転士さえもその背から振り落としてしまう。

(窓の外の静かな夕暮れを見つめて)
「仕事は仕事だ」と割り切って、証人を消すために銃殺を繰り返したあのプレンダーガストのような冷酷さが、現代の指導者たちの胸にも宿っているのかしら。私は、そんな血醒い行為に「あきあき」してしまうわ。ドイル、あなたが書いたように、船を去るボートの上から、自らが乗っていた船が黒煙を上げて沈みゆくのを見る……そんな絶望を、今の世の人々に味合わせてはならないのに。

全くだ。南アフリカから獲物を追ってきた悪漢たちが、結局は自らの悪業によって破滅したように、暴力による解決は、常にそれを上回る報いをもたらす。現代の兵器は、かつての『グロリア・スコット号』を粉砕した爆発よりも遥かに強大だ。天まで届く怪異な木のような煙……それが世界を覆い尽くしてしまえば、そこには勝者も敗者も、物語を語り継ぐ者さえ残らなくなる。

……「言葉では言い尽くされぬ不幸」ね。でもね、ドイル。どんなに暗い時代でも、私たちは語り続けなければならないわ。悲劇が繰り返されないように、その「怖ろしい罪悪」を罪人が忘れぬように。せめてこの小さな喫茶店のテーブルからでも、平和という名の「甘い休息」が、あの大地にも届くよう祈るばかりだわ。

(静かに頷き、冷めた紅茶を見つめて)
ああ。論理や戦略の裏側にある、生身の人間たちの溜息を忘れてはならない。……さあ、ウィル。せめて私たちは、この平穏な時間がどれほど貴重なものかを噛み締めながら、次の一杯をいただくことにしよう。歴史の荒波に揉まれるボートの上ではなく、この静かな場所で語り合える幸せをね。
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