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「好き」に囚われる人生は良いものか?

以前『ブルーピリオド』という映画を観て(原作マンガは未読)、「『好き』に囚われるのは良いことなのか?」みたいなことを考えさせられた。

何となく世の中的には、「夢中になれることがあった方がいい」みたいに思っている人が多い気がする。特に最近は「ワーク・ライフ・バランス」の感覚が当たり前になって、「仕事もやるけど、趣味も頑張る」みたいなマインドが以前にも増して強くなっているはずだ。「好きなことのために全力を尽くす」とか「推しのために働く」みたいなのは割と当たり前な感じがするし、僕自身も、「そういう風に生きれたらいいなぁ」と思うこともある。

でも一方で、「それって怖くないか?」とも感じられてしまう。理由は色々あるのだが、まずは「『好き』の対象が無くなっちゃった時のことを考えると恐怖」という感覚が挙げられるだろう。例えばアイドルを推している場合、特に女性アイドルの場合は「卒業」という仕組みがある。卒業後も芸能の世界に残るならまだ推せるだろうが、業界から完全にいなくなってしまうみたいなことだってあるわけだ。それって、結構辛くないか? と思う。

また、「『好きなこと』をずっと続けていると、『やらなきゃいけないこと』になってきそう」というのも嫌なポイントだ。例えば僕はよくこんなことを考える。好きなことを続けていると、そういう繋がりから色んな人に出会うだろうし、そこから友だちや恋愛に発展したりもするだろう。でもそうやって「好き」を起点に他者との関わりが増えれば増えるほど、「ずっと好きで居続けなければならない」みたいな圧力にも変わりそうだなと感じられてしまうのだ。そしてそれは、メチャクチャ嫌だなと思う。

例えば僕は、昔は散々本を読んでいた。ざっくり4000冊ぐらいである。書店で働いていたこともあって、「本を読む人との繋がり」はそれなりにあったと言っていいだろう。でもその当時僕は、「『本が好き』という理由で誰かと繋がると、ずっと本を読んでないといけないよなぁ」と思ってもいた。本を読むことは好きだったが、自分がそれをずっと続けるかは分からない。だからあまり「『本が好き』から始まる関係」に重きを置かないようにしていたのだ。そして、実際に僕は今全然本を読んでいなくて、映画ばかり観ている。書店員でなくなったこともあり、本絡みで関わった人たちとは今ほぼ関わりがない状態なのだ。「好きで繋がる関係を重視してなくて良かった」と割と真剣に感じているところである。

あまりにも人生が退屈なので、もちろん「熱中できるもの」はあった方がいいなと思う。でも、「『好き』の対象がいつかなくなっちゃうかも」とか「自分がそれを好きじゃなくなるかも」とか思うと、なかなかそこに軸足を置けないのだ。

最近、タイトルは忘れたが、映画館でよく目にする予告の中に「好きだったものを好きじゃなくなったらどうしたらいいんだろう?」みたいなセリフが出てくる。あるいは、書店員だった頃に「これは良いフレーズだな」と感じたのが、田辺聖子の小説の帯に書かれていた「『もう好きじゃない』を伝えるのは難しい」みたいな文章だ(正確には思い出せないけど)。確かにその通り。「何かに熱中する」というのは、「未来の自分もずっとそれに熱中している」みたいなに信じることにもちょっと繋がりそうだなと思っている。そして僕は「未来の自分」を信じていないので、「熱中」も難しく感じられてしまうというわけだ。

そしてこの点に関しては、現代的な問題も指摘できるだろう。インターネットやSNSが登場したことで、「自分の過去の発言・価値観」が時を経ても可視化されるのが当たり前みたいな世の中になっている。そしてそのせいで、「お前、昔と言ってることが違うじゃん」みたいな指摘を受けやすくなっている気もするのだ。別に昔と言ってることが違ってても何の問題もないはずのだが、それが悪いことのように扱われるような風潮が出てきている感じがあって、それもなんか嫌だよなぁと思ったりする。

また別の問題としては、「好き=詳しい」みたいな圧力も挙げられるかもしれない。昔からそうだったのか最近そうなったのかよく分からないが、「『好き』ってことは、それについて『詳しい』ってことだよな」みたいな感覚がどうも強く存在するように思えている。「詳しくないけど好き」みたいなことは全然あっていいと思うんだけど、なんかマウントを取りたいのかなぁ、「詳しくないなら好きとは言えないよね」みたいな理屈を振りかざす人っているよねって思う。「そのせいで『好き』って表明しにくい」みたいな感覚を持っている人もいるんじゃないだろうか(僕にはあまりそういう感覚はないが)。

そんなわけで僕は、「『何かを好きな自分』をいつでも手放せる」という意識を割と常に持つようにしている。だから、なかなか「熱中」という状態にはなりにくい。まあでも、それぐらいでいいか、とは思っている。熱中している人を「羨ましいな」と感じつつではあるが。


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