成人した子どもへの影響⑥子どもは、部屋の中の象に気づいている
子どもは、何も知らないわけではない。
大人が隠していることを、子どもは言葉ではなく、空気で感じ取っている。
隠すことで子供を守っていると思っていたが、逆に子供にさまざまな影響を与えてしまった。
私は、それをずいぶん遅れて知った。
心理学や仕組みを学ぶ講座
私はDVについて学ぶために講座を受講した。
NPO法人レジリエンスのプログラムをもとにした、地元の講座だった。
そこで初めて、自分の子どもへの向き合い方が誤っていたことを知った。
「まだ未成年だから」
「まだ若いから」
「これは大人になってから話そう」
「夫婦の問題だから子どもには言わないでおこう」
相談相手のいなかった私は、母に相談して、母がやってきたことを正解だと思い、そのまま見習って行動していた。
でも、それは間違いだった。
部屋の中の象
講座の中で、ひとつの言葉を知った。
“The elephant in the room”
部屋の中に象がいるのに、誰もそのことを話さない。
誰もがその存在に気づいているのに、あえて触れたがらない、または無視し、非常に明白で重大な問題やタブーな話題を指す英語の比喩的表現。
このことは、家庭内では子供に大きな心理的作用を及ぼし、さまざまなトラウマになってしまう。
その言葉を聞いたとき、私は理解した。
私の家にも、象はいたのだと。
息子への影響
幼いころ、息子は
「僕のバカ、バカ」と言いながら、両手で自分の頭を叩くことがあった。
私は凍りついた。
私は夫から、繰り返し人格を否定されていたからだ。
私はADHDの特性で時間の使い方がうまくいかないことを責められていた。
「仕事も家事も中途半端だ」
「お前は一体、何がちゃんとできるんだ?」
住宅ローンの金利切り替えのため、数十年前の金利データを調べ、どの期間が有利かを必死に検討していた。
気づけば夕飯の時間。
夫が帰宅し、激怒した。
小学校入学の際に仕事を辞めて専業主婦になったら、何度も怒鳴られ、人格を否定されるようになった。
私は息子への影響を感じ、精神科にも行った。
でも原因をうまく説明できなかった。
「夫婦喧嘩でしょう」と言われ、終わった。
息子は詳細を知らない。
でも、空気は知っていた。
大人の否定は、子どもの自己否定になる。
私はその恐ろしさを、あとになって知った。
もう一つの象があった。
妊娠初期、風邪で点滴を受けていた私は、温泉旅行をキャンセルしてほしいと頼んだ。
でも受け入れてもらえなかった。
姑を優先され、私は強制的に連れて行かれた。
旅館で破水したかもしれない状態でも、病院には連れて行ってもらえなかった。
「姑には言わないで」と言われた。
往復6時間、気持ち悪さを我慢した。
帰宅後、出血しても
「病院は?」と聞いても
「必要ない」と言われた。
そして流産した。
私はその出来事を伏せた。
家族を守るためだと思って。
でも、子どもは感じ取っていた。
この夫婦には、とても大きな何かがある、と。
私が象を打ち明けたとき、
息子もまた、打ち明けてくれた。
息子が生きる価値を無くす
中学・高校のころ、息子はよく言っていた。
「なんで俺を生んだんだ」
「生きていたくない」
私は夫婦喧嘩のせいだと思っていた。
でも、それだけではなかった。
見えない象のせいだった。
大学受験のときのことだ。
【この大学受験の記事は、妻子の別居も含めて、別の記事にまとめなおしました。】
息子は自分の気持ちを何も言わなかった。
大きな象があるのを隠していたために、問題が発生してしまった。
信頼関係がない家族。
家庭環境の悪さで、子供は安心して暮らせていなかった。
夫は私の居ない時に、
息子に私を信じないように、私が悪い人間だと吹き込んでいたのを、私は気付かなかった。
精神的虐待を小学生から受けていたのだろう。
母親の味方にならないように、自分の味方にするために、2人きりのときに吹き込んでいたのだろう。
流産後、夫の立ち直れないほどの否定の言葉で傷つけられ、
勝手に家を買われ、
そこが被災地で、
住んでからも被災して、
夫婦喧嘩が絶えなかった。
夫の機嫌の悪さは、
毎年年度末に向かうとピークになった。
受験生を優先しない父親がいる家庭。
妻子は、ストレス発散のためにある。
子供の心はボロボロになっていた。
幼い頃から夫の言葉を聞かされて、
夫のことも私のことも信用できなくなっていた。
私の愛情も、息子には届かなかった。
祖母しか信頼できる身内がいなく、非常に繊細な子供になっていった。
最近当時の気持ちを話してくれた。
自分は家庭環境が悪くても、めげずに中学から勉強してきた。
しかし、親の言うとおりに大学を決めると、頑張った意味が無くなる。
(自分に生きる価値が無くなる)
全てを諦めるのは嫌だった。
と、当時の本心を話ししてくれた。
息子は意を決して、本心を伝えると、
夫は息子の人格そのものを全否定した。
受験生を潰す言葉。
今までの頑張りも何一つ、理解を示さなさなかった。
一生忘れられない出来事だった。
息子はさらに心を閉ざした。
大学に進学したあとも、『あの出来事は、きっと忘れない。』と、息子は言っていた。
受験のこの時期は、1番嫌な季節だと言っていた。
父親の理不尽な要求と、支配と夫婦喧嘩の中、
日々受験勉強して、
帰りたくない家に帰り、
踏ん張っていたのに…
父親に全否定された出来事を、
いつか記憶から消え、
傷が癒えてくれれば、
と思う。
夫は自分の心を守りたい強い思いから、
息子を全否定したのだと。
息子に隠していたことがあった。
和解してから少しずつ伝えていたが、まだ伝えてないことがあった。
夫は息子が中学生の頃にすでに高校進学しなくて良いと、教育費を払わない方向に逃げていたことを。
全否定したのは、人格でも大学の進路の話でもない。
ただ、家族を養う責任から逃れたかっただけなのだ。
だから、
お父さんは、あなたの頑張りを認めるつもりはなかった。
本当は応援するつもりもなかった。
お父さんはただ
自分の収入で大学進学させること自体が
消極的だっただけなのだと。
あの出来事は、突然起きたものではなかった。
部屋の中に置いたままにしていた“象”が、静かに影を落としていたのかもしれない。
ブラック企業へ入社した息子
その後、新卒で入った会社はブラック企業だった。
新卒で月の残業時間が40時間以上のため、本当の残業申請はできない。
次月で調整するように言われても残業が少ない月が無い。
新卒一年目で60時間残業し、2年目は転職を考えて簿記の勉強もしたが、ほとんど勉強できない。
辞めたいと何度も聞いていた。
新卒でそんなに仕事させる業界を見た事がない。
最近、息子から聞いた。
「運転しながら、このまま事故って死んでもいいかなと思っていた」と。
それは限界のサインだった。
私は言った。
「今度そう思ったら、もう限界を越えていると思って。引き返してね。」
別居の話も、私は伝えていなかった。
別居先を探していることを仕事で行き詰まっている息子には言わなかった。
子供に心配をかけたくなかったから。
でもそれもまた、隠すという選択だった。
息子が実家に戻ると決まったとき、私は言った。
「あなたが戻ってきたら、お母さんは出ていくね」
息子は当時を振り返りこう言った。
「俺は、お母さんが守ってくれると思って戻ってきた」
実家に戻れば、食事があると思っていた。
消耗品も用意されていると思っていた。
言わなかったことで、また子どもを困窮させてしまった。
そして息子は言った。
「今お父さんに色々言われてつらいから、半年後に家を出る」
「お母さんがいない家にはいられない」
私はだいぶ遠回りしたが、ようやく言った。
「これからは全部言うね。
もう隠し事はしない」
最近、象の存在を話すようになり、息子は当時の大学受験時の話をしてくれた。
私は、心を殺して生活する価値観と、選択肢の失敗の気付いたことを伝えた。
その後、同様に悩んでる同僚に、私の例を伝えたら、結果、進路変更した子供さんの話など。
息子に話をし、息子の本心をやっと聞ける事ができた。
約6年後になったが、和解できた気がした。
象を象と呼ぶと決めた。
もし早く離婚していたら。
養育費は少なかったかもしれない。
塾に行けなかったかもしれない。
大学は奨学金だったかもしれない。
でも、精神の安定はあったかもしれない。
今さらだけれど。
気づくのが遅くなってごめんね。
でも、今はもう隠さない。
講座で学んだ。
象を象と呼ぶことは、家庭を壊すことではない。
子どもを孤独から守ることだと。
すべてを説明しなくていい。
でも、
問題は隠さない。
あれはつらかったこと。
あなたのせいではなかったこと。
大人の問題だったこと。
それは伝えていい。
だから息子に言った。
自立できたら、
お父さんと縁を切っていい。
自分で決めていい。
あなたには、その選択権がある。
そして最後に。
あなたは、ちゃんと感じ取っていたね。
それは間違いじゃなかったよ。
ずっと苦しい空気の中で育ててしまってごめんね。
でも、これからは違う。
お母さんは離婚したらお金はないかもしれない。
でも、話は聞ける。
もう、ひとりで抱えなくていい。
そう伝えた。
子どものためにと、問題を隠すこと。
それが本当に子どものためになるとは限りません。
どんなに隠しても、子どもは感じ取ります。
言葉にしなくても、空気で気づいてしまいます。
子どもを守るとは、
問題を「なかったこと」にしないこと。
そして、
「あなたのせいではない」と伝えること。
そして、自分自身が人生を楽しんでいるのを子供に見せることが大切だと言うこと。
私はそう学びました。
ああならないようにしようね
父親を悪く言ってはいけない。
ずっとそう思ってきた。
子どもの前で、
どんなに理不尽でも、
どんなに傷ついても、
飲み込んできた。
それが大人だと思っていた。
でも違った。
部屋の中には、ずっと象がいた。
八つ当たり。
機嫌で人を支配すること。
理不尽を正当化すること。
見えているのに、
「見ないふり」をしてきた。
子どもは、ちゃんと気づいていた。
ある日、息子が言った。
「俺が出て行ったら、誰に八つ当たりするんだろうな」
その言葉で、
私はもう隠さなくていいと思った。
悪口を言いたいわけじゃない。
ただ、事実を事実として共有した。
そして最後に言った。
「あの人にはなりたくないね。ああならないようにしようね」
それは父親を否定する言葉じゃない。
私たちが、
同じやり方を選ばないという約束。
怒鳴らないこと。
機嫌で人を支配しないこと。
理不尽を正義にしないこと。
私たちは、
違うやり方を選べる。
それだけでいい。
この経験が、どなたかの気づきにつながりますように。
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