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「幸福」は客観的にリスト化できるか?-幸福の本質6

「幸福」=快楽説,「幸福」=欲求達成説または欲求説についてこれまで述べましたが、いずれも長所と共に問題点があります。
「幸福」=客観的リスト説(Objective List Theory)は「快楽説」「欲求達成説または欲求説」に共通する長所と同時に問題点でもある主観性を排除する意図から提起されました。
本記事は客観的リスト説(Objective List Theory)の特徴、長所と問題点について述べます。


幸福は何か?三つの幸福学説

「幸福」の本質は何か?について複数の記事に分けて述べています。最終的に私の見解を述べますが、各々の学説について順番に記事にしています。
「幸福」の本質は下の三つに大別される(哲学者、パーフィットの分類)ことを『幸福とは何か?-主要三学説まとめ-幸福の本質1』で述べました。
1.快楽説(Hedonism Theory)*関連記事↓あり
「快楽」を感じることが幸福であるという考え方。
2.欲求達成説または欲求説(Desire-Fulfilment TheoryまたはDesire Theory)*関連記事↓あり
「欲求」の達成、成就が幸福であるという考え方。
3.客観的リスト説(Objective List Theory)
人間にとって望ましい価値を持つ要素を複数挙げ、これらが良好な状態にあることが、幸福とする考え方。
今回の記事は3.客観的リスト説(Objective List Theory)の内容です。

幸福の主観性を補う「客観的リスト説」

「快楽説」および「欲求達成説」は、
いずれも幸福は主観的であるという
前提から出発しています。

私は幸福は主観的という前提を支持しますが、
主観であるが故の限界も持っています。

「客観的リスト説」は人の主観に依存しない、
幸福に寄与する複数の客観的要素を定める説です。

「客観的リスト説」は、
普遍性ある客観的幸福の価値体系を構築しよう
とするものです。

「快楽説」は幸福を快不快の心理状態に
一元化することで、
幸福のパフォーマンスを測定するのには
役立ちますが、
幸福度を高める政策立案の指針は
何も提供してくれません。

「欲求達成説」は従業員のマネジメントや育成
には役立ちますが、
国民や組織を対象とした
共通の政策や福利厚生制度の立案には、
あまり役立たないという限界があります。

「客観的リスト説」の優れた点は、
まさにこういう限界を補完してくれる
ことにあります。

政策・制度立案、政策評価に最適

幸福が主観的であるか、
客観的であるかは別として、

客観的指標による幸福の価値体系を作ることは、
公共政策の立案や従業員幸福度を高める政策・制度への活用
という面で、客観的かつ普遍的な指針を提供
してくれます。

その意味では、客観的リスト説は国・自治体等の
行政組織や、組織の従業員幸福度を高める
政策の立案、福利厚生制度の設計の基礎資料
と極めて親和性が高いと言えるでしょう。

客観的リストという幸福の価値体系から言って、
評価指標としては
「幸福感」(Happiness)よりは
「福利」(Well-being)
と親和性が高いと考えられます。

「客観的リスト説」の問題

しかし、問題も存在します。

「幸福」が本人の意思によらず外部的基準で決定

客観的リストは幸福度を向上させるための方便
としては極めて有効ですが、

幸福を本人の主観から離れて、
客観的にリスト化するというのは、
やはり本質的な矛盾があります。

幸福かどうかはあくまで本人の実感であり、
いかに客観的というメリットがあるとはいえ、
本人以外の外部的基準で幸せが決まるという
結論は受け入れ難いものです。

たとえば国民幸福度認定機関なるものがあって
「あなたは幸福客観リストが定めた基準により、
幸福度65点と認定します。」などと言われたら

「私の幸せは私のもの、
勝手に決められてたまるか。
おせっかいも甚だしい。」と、
多くの人は頭にくると思います。

「客観的リスト説」とはいっても、
幸福の実感が最終的に人間の主観である限り
外部からの評価で自己の幸福が左右されることに
大きな抵抗があるでしょう。

「客観的リスト」はしょせん疑似客観

また客観的と称していますが、
実は純粋に客観的なものではあり得ず、
特定の権威を持った人間または組織の定める
主観が基準であるに過ぎません。

客観的リストなるものが
主観性、恣意的選択から逃れられない
のです。

ここから生ずる問題として、
客観的なるリストの項目とそのウェイトづけが、
普遍妥当性を有するかという問題があります。

「客観的リスト」は「エリート主義」

「客観的リスト説」によくある批判として
「エリート主義である」との指摘があります。

「客観的リスト説」は幸福の理想像を設定し、
それに近いほど幸福であるという考え方です。

人間は生まれた環境、遺伝的に受け継いだ特性、
資質、能力、偶然の出来事への遭遇などによって、
幸福の客観的リストの評価に基づけば、
必然的に格差が生じます。

しかし幸福の客観リストの整備で、
かえって多くの不幸な人々を
生んでしまう矛盾が生じます。

「幸福追求権」(日本国憲法十三条)
は基本的人権として尊重すべきですが、
人々の幸福の大前提として、
平等と多様性の尊重がなければなりません。

金子みすゞの有名な詩、
『私と小鳥と鈴と』の一節に

「みんなちがってみんないい」

という言葉がありますが、
客観的理想は示しつつも、
多様性も大切にしたいものです。

作業仮説としての「客観的リスト説」

そういう問題はありますが、
幸福の本質究明は別として、
大いに実用価値があると考えます。

国民や従業員が理不尽な環境を強いられ
不遇な生活が放置される問題の解消につながる点で、
メリットが大きいと考えます。

したがって、私の主催する
「従業員幸福度・EH調査®」においても、
従業員幸福度に影響する組織の諸要素
という形で「客観的リスト」を取り入れています。

このように
「客観的リスト説」の優位性と問題を見ていくと、
幸福の本質をどう定義するかよりも、
実際に幸福度を向上させるための仮説
として有効であると考えます。

いわゆる作業仮説としての実用的優位性が、
客観的リスト説の存在価値だと考えます。

幸福は、あくまでその人次第と言っても、
人間として、望ましい(Well-beingな)状態には、
おのずから普遍的とも呼べる要素が存在します。

たとえば
「仕事における自己実現」「家族との絆」や
「健康」などがそうです。

私の「従業員幸福度・EH調査®」では、
従業員幸福度に影響する構成要素が、
この客観的リストに当たると考えます。

複数回にわたる全国調査、個別の組織の調査でも、
これらの要素の幸福度に対する影響力の
統計解析数値には共通性が高く、
ロバストネス(堅牢性、頑健性)を備えている
ことが確認できています。

しかも、そのリストは客観的基準に基づくので、
測定指標としてもロバスト(堅牢)であり、
安定的な測定指標の体系を構築できるのです。

一般的に指標として用いるためには
ロバストネスということが条件になるのですが、
客観的リスト説は指標を注意深く選択すれば、
ロバストな幸福の価値体系を
構築することができるでしょう。

その証左として、
OECDをはじめとする国際的機関、国・自治体等
行政組織の「幸福度調査」は、
ほとんど客観的リスト説に基づき
設計されています。

例)経済協力開発機構(OECD)の幸福度指標"Better Life Index(より良い生活指数)"

経済協力開発機構(OECD)の幸福度指標は、
Better Life Index(より良い生活指数)
として知られています。

この指数は、
国民の生活の質や幸福度を測定するために、
複数の要素を総合的に評価するものです。

【OECDの幸福度指標の主な構成要素】

  1. 住居(Housing)

    • 住居の質や手頃さ

  2. 収入(Income)

    • 世帯の可処分所得や経済的安定性。

  3. 雇用(Jobs)

    • 雇用の有無、雇用の質、失業率、労働条件など。

  4. コミュニティ(Community)

    • 社会的つながりやサポートネットワークの強さ。

  5. 教育(Education)

    • 教育へのアクセスや教育水準(例:学歴、スキル)。

  6. 環境(Environment)

    • 環境の質(例:大気汚染、水質、自然へのアクセス)。

  7. 市民参加(Civic Engagement)

    • 政治や社会への参加度(例:投票率、ガバナンスへの信頼)。

  8. 健康(Health)

    • 健康状態や医療へのアクセス、平均寿命など。

  9. 生活満足度(Life Satisfaction)

    • 個人の主観的な幸福感や生活への満足度。

  10. 安全(Safety)

    • 犯罪率や安全感(例:夜間の安全、暴力犯罪のリスク)。

  11. ワークライフバランス(Work-Life Balance)

    • 仕事とプライベートの調和(例:労働時間、余暇時間)。

利用方法OECDのBetter Life Indexは、公式ウェブサイト(http://www.oecdbetterlifeindex.org/)で公開されており、インタラクティブなツールを使って各国を比較したり、自分の価値観に基づいた幸福度を評価したりできます。

社会変革の理論としての客観的リスト説」

客観的リストなるものが、疑似客観に過ぎず
しょせん外部の主観という限界はあるにしても、
その限界を認識した上で、
きめ細かい修正を加えて行くことによって、
運用的価値はますます高まっていくと考えます。

「客観的リスト説」は「幸福は何か」と考えるより
「人びとの幸福につながる福利(Well-being)の要素を
どのようにリストすると、
実際の人々の幸福につながるか」
と、とらえる視点が、
客観的リスト説の真骨頂だと筆者は考えます。

その意味では「客観的リスト説」は「幸福は何か」
という問いへの厳密な真理探求の思考よりは、
社会変革のための理論だと考えます。

マルクスは
「哲学者たちは、世界をさまざまに
解釈してきただけである。
肝心なのは、それを変革することである。」
と述べましたが、

幸福に関する「客観的リスト説」も、
まさに人々の幸福度向上、
幸せな社会への変革に貢献するものだと思います。

まとめ

「客観的リスト説」は「幸福」の主観性という限界を補うために考案された。「客観的リスト説」は政策・制度立案、政策評価と親和性が高く最適である。「客観的リスト説」の問題は、
「幸福」が本人の意思によらず外部的基準で決定されること。
「客観的リスト」はしょせん疑似客観であること。
「客観的リスト」は「エリート主義」であること。
「客観的リスト説」は作業仮説として利用価値が大きい。

最後まで記事をご覧いただき、
誠にありがとうございました。
今後も幸福に関連する記事を
投稿してまいりますので、
好き・コメント・フォローなど
いただけますとありがたいです。

イーハピネス株式会社 代表取締役 松島紀三男プロフィール

本記事は下記記事の続編です。関連記事↓


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