CHAGEE(霸王茶姬)はなぜ中国発ティーブランドの本命なのか—「プレミアム中国茶」急拡大の構造を解く
前回の記事ではマカオと香港で実際にCHAGEEへ行ってみた体験を書いた。
飲んでみると、甘いミルクティーというより香りを味わう現代的な茶体験に近かった。
ではなぜCHAGEEはここまで拡大しているのか。
今回は戦略の側から見ていく。
中国のカフェチェーン市場では、LuckinとCottiによる1杯9.9元(約200円台)前後の低価格競争がここ数年の象徴的な動きになっている。
安く、速く、日常的に飲ませる。中国のコーヒーチェーンはアプリとクーポンを武器に習慣化の競争を続けてきた。
その一方で、まったく別の軸で急拡大したティーブランドがある。
それがCHAGEE(霸王茶姬/チャジー)だ。
CHAGEEが売っているのは単なるミルクティーではない。中国茶を現代的に楽しむ体験だ。
茶葉の本物感、中国美学を現代化したビジュアル、甘すぎない味、そして小程序を通じた会員導線。
安さではなく、文化価値とブランド体験、そしてデジタル化された会員基盤で広がっている。
ではなぜこのモデルは中国国内だけでなく、海外にも広がり始めているのか。この記事ではCHAGEEの急拡大の構造を見ていく。
この記事で見ること
なぜ9.9元戦争に参加せずプレミアム価格を守りながら拡大できたのか
急拡大を支える6つの構造(国潮・原材料差別化・ビジュアル・海外展開の逆算・スタバ対抗軸・デジタル会員基盤)
ブランドが直面するリスクと日本市場への進出可能性
1. CHAGEEとは何か

まず基本情報を整理する。
CHAGEEは2017年に創業者・張俊傑が雲南省で始めたティーブランド。
ブランド名「霸王茶姬」は、京劇でも知られる古典的な物語「覇王別姫」を想起させる名前であり、ロゴには京劇の若い女性役「花旦」のイメージが使われている。
中国古典の世界観を、現代のティーブランドに翻訳しているのが特徴だ。
コンセプトは、伝統的な中国茶を現代的なライフスタイル体験として再編集すること。
主力商品は、ジャスミン茶、烏龍茶、紅茶などの茶葉をベースにしたミルクティー / ティーラテ系。
タピオカや強い甘さで押すのではなく、茶葉の香りとミルクのバランスを前面に出している。
価格帯は中国国内では主力商品は18〜25元前後のプレミアム現製茶飲*の価格帯に位置する。海外では一部市場ではスターバックスに近い、あるいはそれ以上の価格帯に入る。
*現製茶飲:茶葉をベースにした淹れ立て・作り立てのティードリンクを提供する販売業態
2025年4月にはNASDAQに上場(ティッカー「CHA」、公開価格は1ADSあたり28ドル、調達額は約4.11億ドル)、報道では中国発の現製茶飲ブランドとして初めて米国市場に上場した事例とされている。
2026年3月末時点で店舗網は7,531店まで拡大している。
足元では単純な出店数の拡大だけでなく、店舗品質や運営効率を高めるフェーズにも入りつつある。
競合をあえて比喩で比較するなら、MIXUEが「低価格の水分補給インフラ」、Luckin/Cottiが「アプリで習慣化するコーヒー」、HEYTEAが「高感度な若者向け新茶飲*・フルーツティー/チーズティー」であるのに対し、CHAGEEは「中国茶の文化体験」というポジションに近い。
*新茶飲:アジア圏を中心にブームとなっている「新スタイルのティードリンク」を指す。伝統的なお茶に対し、お茶をベースにフルーツやミルク、チーズフォームなどを掛け合わせた斬新なメニューが特徴。
つまりCHAGEEは飲料そのものよりも「中国茶を現代的に楽しむ体験」を前面に出している。
2. なぜ「プレミアム中国茶」が刺さるのか—6つの構造

① 国潮という時代の追い風
「国潮(グオチャオ)」とは、中国国産ブランドを積極的に選ぶ消費トレンドを指す。
2010年代後半から目立ち始め、コロナ禍を経てさらに存在感を増した。
スポーツ(Li-Ning)、コスメ(花西子)、飲料(元気森林)など各分野で「中国ブランドがプレミアムになれる」という認識が広がったタイミングにCHAGEEは乗った。
「なぜコーヒーだけが現代的な飲料体験の主役なのか。中国には長い茶文化がある」という問いと、CHAGEEのブランドは相性がいいという消費者心理が、CHAGEEのブランドを自然に後押しする。
外部から植え付けたポジションではなく、時代が用意したポジションに乗った形だ。
② 「本物の茶」という原材料差別化
HEYTEAやNayukiがフルーツティーやチーズティーなど多様な新茶飲体験を広げてきたのに対し、CHAGEEはより強く「中国茶そのもの」をフィーチャーする。
茶葉の産地や種類を見せ、「パウダーではなく本物の茶葉を使っている」という印象を前面に出す。
それが健康意識の高い若年層に刺さりやすい訴求軸として機能している。
③ 圧倒的なビジュアル・アイデンティティ
CHAGEEの店舗・パッケージ・ユニフォームを見るとデザインの一貫性に気づく。
京劇の花旦を想起させるロゴ、深緑や金を基調にしたカラーパレット、浮き彫り風のカップデザイン——全てが「中国美学の現代解釈」という方向で統一されている。
これは単なるデザインの話ではない。
「どこで撮っても映える、共有したくなる」という体験の設計だ。
小红书(RED)やInstagramに投稿したくなる設計であり、SNS上での拡散を後押ししやすい。
マカオで実際にカップを手にして思ったのは、「飲み終わったカップを捨てるのがもったいない」という感覚だった。
チェーンのテイクアウトカップでそう感じたのは初めてで、煌びやかなカップや手提げバッグにどれだけコストをかけているのだろうと思った。
ただ、それが効果的に働いているのだろう。
④ 海外展開の「ターゲット逆算」戦略
CHAGEEの海外展開を見ると、初期にマレーシアやシンガポールへ入っている点が興味深い。
これらの市場は華人系住民の比率が高く中国茶文化への心理的距離が比較的近い。
CHAGEEが明示的に「華人系コミュニティ戦略」と語っているわけではないが、「中国茶を知っている人が多い場所から始める」という逆算には一定の合理性があると考える。
MIXUEの低価格・大量出店モデルとも、スターバックスのグローバルなカフェ体験モデルとも異なり、コアファンを育ててから市場を広げるという順序の設計なのではないか。
⑤ 「スターバックスの対抗軸」として機能している
CHAGEEは一部海外市場ではスターバックスのラテと同等かやや上の水準の価格帯で、「少し気分を上げたい時の一杯」という領域に入ろうとしている。
これはスターバックスが長年作ってきたポジションに、アジア発の茶ブランドが別角度から入り込む試みとも言える。
⑥デジタル化された会員基盤
CHAGEEのもうひとつの強みは、小程序(ミニプログラム)*を通じた巨大なデジタル化された会員基盤だ。
WeChatやAlipayなどから注文でき、店頭体験とデジタルの顧客接点がつながっている。
2026年3月末時点でCHAGEEの登録会員は2.48億人に達し、Q1のアクティブ会員は約5,000万人だった。
さらにアクティブ会員のリピート率は42.3%、2回以上購入した会員による注文が全注文の76%超とされる。単に会員数が大きいだけでなく、再来店導線をデジタル上に作れている点がCHAGEEの強みだ。
茶文化を前面に出しながら、注文・決済・会員・クーポン・再来店導線をデジタル上につないでいる点も、中国新茶飲ブランドらしい強さだ。
*小程序(ミニプログラム):中国版LINE「WeChat(微信)」や決済アプリ「Alipay(支付宝)」などのプラットフォーム内で動作する「ミニアプリ」のこと。アプリをダウンロードしなくても元のアプリの会員情報を利用して注文や決済等ができる。
3. 競合との位置づけ比較


CHAGEEの際立った特徴は、自社の中核価格を9.9元の低価格帯に寄せていない点だ。
それができるのは、原材料品質・ビジュアル・文化的ストーリーという代替困難なポジションを持っているからだ。
4. ブランド戦略の核心—「中国茶を現代の体験として世界へ出す」という物語

CHAGEEのブランドコミュニケーションからはひとつのナラティブが見える。
茶は中国の文化資産であり、それを現代のライフスタイル体験として世界に出していく、という物語だ。
これはビジネス戦略の説明でありながら、文化的使命の物語でもある。
スターバックスが「サードプレイス」という概念でコーヒー文化を世界に広めたように、CHAGEEは「東方茶の現代体験」という概念で中国茶を再定義しようとしている。
このナラティブは3つの層に届きうる。
中国国内の消費者:国潮の文脈で「誇れる中国ブランド」として受け取られやすい
海外の華人系コミュニティ:文化的アイデンティティと接続しやすい
中国文化に関心を持つ非中国系消費者:「中国茶を現代的に楽しむ体験」という新鮮さ
スターバックスはコーヒーそのものだけでなく、サードプレイスとしての体験を世界に広げたブランドだ。
CHAGEEは「茶を売る」のではなく「中国茶文化への入口を売る」ことで世界展開を狙っている。
5. 課題とリスク
急拡大するCHAGEEにも、当然リスクはある。

品質の均質化:
店舗が増えるほど「本物の茶葉を使ったプレミアム体験」を担保し続けることが難しくなる。
CHAGEEは一部店舗の直営化を進めているものの9割がフランチャイズ店。
フランチャイズ店でのばらつきがブランドを傷つけるリスクは、フランチャイズモデルで急拡大する飲食チェーン全般に共通するリスクだ。
文化的文脈の移転限界:
華人系コミュニティが少ない市場では「中国茶文化の文脈」が伝わりにくく、「ただのアジア系ドリンクチェーン」になる危険がある。
華人系コミュニティを起点にしていると思われる戦略の裏返しとして、その外側への展開は別の打ち手が必要になる。
模倣との戦い:
CHAGEEのような「中国茶×モダンデザイン」の成功は、類似コンセプトの店を生みやすい。
「中国茶×モダンデザイン」のコピーが中国国内で乱立しており、差別化の維持には継続的な投資が必要だ。
進出前の日本でも既にCHAGEEの模倣と噂されるお店が複数出始めている。
6. 日本市場への問い——「茶の国」に中国茶チェーンは入れるか

現時点で日本が優先市場になっていないのには、いくつか理由がありそうだ。
CHAGEEの海外戦略を「華人系コミュニティとの親和性が高い市場から始める」と見るなら、日本の優先度は自然と低くなる。
日本にも中国籍の在留者は約93万人いる。
ただしマレーシアやシンガポールのように華人系住民が社会の大きな一部を占める市場とは文化的な受け皿の厚みが違う。
さらに日本市場では消費者感情や日中関係の影響も無視できない可能性がある。
一方、2026年4月30日に韓国に初進出し、江南・龍山・新村の3店舗を同時オープンしたことは興味深い。
韓国は華人系コミュニティ市場というより、カフェ文化が成熟し、ミルクティーへの受容があり、SNSで話題化しやすい市場として見た方がよい。
同時期、IVEのウォニョンが中国滞在中のライブ配信でCHAGEEを飲む姿がSNSで拡散され、出店前から認知が広がっていた。
3店舗同時出店には相応の準備期間が必要なため、出店計画そのものは先行していたと見るのが自然だ。そのうえでこのSNSでの拡散は追い風として機能した可能性が高い。
いずれにせよ、韓国への展開は華人系コミュニティ先行以外のロジックが動き始めたことを示している。
文化的な波及を活用した展開モデルが韓国で機能するなら、日本への進出可能性もゼロではない。ただしその場合でも、日中関係や消費者感情、日本独自の競争環境をどう乗り越えるかは課題になる。
7. さいごに

CHAGEEは安さで勝つブランドではない。
中国茶を現代的な体験に翻訳し、それを店舗・パッケージ・デジタル会員基盤・フランチャイズ網・海外展開まで一体で設計しているブランドだ。
だからこそ9.9元競争とは別の軸で伸びた。
ただしそのモデルがどこまで持続可能なのかは、決算を見ると別の問いが出てくる。
急拡大の先にある問いはすでに最新の決算にも表れ始めている。
海外進出が“将来の成長エンジン”として存在感を増し始めつつも、全体の店舗数は増えているが既存店販売額はまだ前年割れで、直営店数を高めつつ出店速度よりも運営品質、商品開発、会員基盤、朝夜の利用シーン拡張に力点を移しつつある。
次回以降の記事では、CHAGEEの最新決算資料から、その強さと同時に見えてきた課題も見ていきたい。
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