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1杯1,500円と1杯300円 ─ 上海で飲んだ体験のコーヒーと習慣のコーヒー【上海カフェ視察 #1】

2026年6月、上海へカフェ視察に行ってきた。
梅雨の時期ですっきりとしない天気で蒸し暑い中での視察だった。

今回見たかったのは、世界一カフェが多い都市・上海、「カフェが多すぎる街」で店は何を武器に選ばれているのかを見たかった。
それが自分が将来カフェを作る時の価値づくりのヒントになると思うからだ。

実際に歩いてみると、上海のカフェはひとことで「多い」と片づけられるものではなかった。
日常型チェーン、特調系個店(コーヒーを素材としたカクテルのようなコーヒーを出す店)、新茶飲(フルーツや中国茶等を取り入れたコーヒー以外のドリンク)、街歩きスタンド、外資の体験型店舗など、一口にカフェといってもいくつもの業態が重なっていた。

上海は体感で言うと1つのブロックに3つ、1つの小型ショッピングモールに10ぐらいのカフェやティードリンク店がある印象だった。

象徴的だったのは、あるモールのティースタンドで注文しているドリンクを待っている時に、周囲を見渡すとその場所から5店ものカフェやティースタンドが見えたことだ。
そしてそのどれもが混んでいる。

日本に帰ってきてまず思ったのが、歩いててもなかなかカフェが見つからない、だった。
上海はそれぐらいカフェだらけの街だった。

今回私が訪れた約30店(注文せず観察だけした店も含む)のカフェをいくつかのカテゴリに分けて概観してみたい。
今回の記事では、特調コーヒーを扱う個店と日常型コーヒーチェーンをとりあげる。


この記事で見ること

  • 1杯1,500円前後の特調コーヒーはなぜ“わざわざ飲みに行く体験”になっていたのかを見る

  • 1杯300円前後の日常型チェーンはなぜ“何度も飲みたくなる習慣”になっていたのかを見る

  • その対比からカフェが多すぎる街・上海で店が選ばれる理由を考える



特調珈琲を扱う個店

特調珈琲を扱う個店としては、O.P.S. CAFE、3½(三又二分之一)、SHIMMERを見た。

特調はコーヒーをベースに、果物、茶、酒、発酵食品、スパイス、炭酸水、さらにはお酒などを掛け合わせた創作コーヒーで、上海のカフェトレンドの代表的な一つだ。

O.P.S. CAFE

上海のカフェの歴史解説記事でもとりあげた、特調を代表するお店であるO.P.S.では「Coco」を飲んだ。
コーヒー(Ethiopia Guji Hambella Super natural)、フレッシュココナッツ、ルイボスティー、イチジクの葉、フレッシュクリームを掛け合わせた特調だ。価格は55元(約1,300円)

店自体は狭く、ドリンクを作るスペースとスタンディングで飲むスペースとに分かれる。
店の外でドリンクができるのを並んで待つ。
テイクアウトしていく人も多かった。

外で並ぶ客を呼んでから最後の仕上げをする。
商品を作る工程そのものが体験になっていた。
撮影も可能で、仕上げ工程、特調珈琲の見た目などSNSを意識した設計になっていると感じた。


3½(三又二分之一)

O.P.S.の系列である3½で飲んだのは「发酵与焦化」。
日本語に翻訳すると「発酵とキャラメル化」、または「発酵とメイラード反応(香ばしい風味成分を生み出す化学反応)」。
不思議な名前のコーヒーだ。
もはやコーヒーも分子調理法(分子ガストロノミー)の世界のようだ。

素材はコーヒー、イチゴ、チェリー、パイナップル、ライム、柚子、烏龍茶。

価格は65元(約1,550円)と安くはない(というか高い)が納得感や満足感があった。
複雑な味、器の高級感、写真を撮りたくなるビジュアル、ドリンクの説明、ミニマルで静謐な空間。
飲み物単体ではなく、体験として成立していた。
ある種の茶道的な体験を受けている印象もあった。

アルコール入りのメニューも同じぐらいの数存在していた。
もはやバーとの違いはあるのだろうか。
創作コーヒーを極めていくと結局はカクテルと重なっていくのかもしれない。
ベースとなる軸がコーヒーにあるかリキュールにあるかの違いだろう。


SHIMMER

SHIMMERで飲んだのはSunny Rain(天気雨?)。

ライム、プルーン、パイナップルの皮、アガベシロップ(アガベは中南米の多肉植物)、パセリ、ハラペーニョ。

加えて、カードに記載はないがおそらく、クリスタルボバ(ピンク)、飾りとしてオレンジの皮、コーヒー。

これも柑橘系をベースにしたかなり複雑な味で、一口飲むだけでその味わいを深く楽しむ余韻がある。
見た目はよくあるカフェやバーのような装いで派手な演出はないが繊細な味がよかった。
アルコール特調メニューもあった。

特調を扱う個店3店は商品性の魅力が強烈だった。
創作コーヒーとしての商品性を極めることで、新作の味やビジュアルを求めて人が集まり、再訪する、すべてのドリンクに挑戦したくなる。
加えて、説明やカード、器、仕上げ、所作、香り、名前、提供の瞬間まで体験化できれば、唯一無二の体験として記憶に残る。
創作が極まったコーヒーはオリジナルカクテルの世界にも到達する。

日本ではあまりない、多様な素材を使った複雑な創作コーヒーの世界はその店に行くべき理由として圧倒的なセールスポイントであると感じた。


日常型コーヒーチェーン

日常型のコーヒーチェーンはLuckin、Mannerを中心に見た。
Cottiも遭遇したら見たかったが見かけなかった。

Luckin Coffee(瑞幸咖啡)

Luckin vs Cotti 9.9元戦争の記事でもとりあげたLuckinは本当にそこらじゅうにあった。
1ブロックに1店はある体感だった。
多くの店はスタンド型で、一部イートイン型もあった。

店のあるビルの壁に看板とQR
9.9元の文字
ハローキティとコラボした店舗

ホテル近くのLuckin中港汇静安店で飲んだ人気No.1のココナッツラテは11.9元(約280円)。

11.9元だが友だちを招待すると9.9元になるようだ

安いだけではない。
サイズが最低450mlでペットボトル飲料並の大きさだ。

なおかつうまい。
今回いろいろ飲んだ中で、もう一回飲みたいと思った一杯で、蒸し暑い気候の影響もあると思うがホテルに着く5分間で飲み干してしまった。
コーヒー感よりはココナッツミルク感の方が強めだった。

もちろんコーヒーの濃度や豆、甘さなどはカスタマイズもできる。

安くてデカくてうまい、そしてそこらじゅうにある。
喉が渇いたらすぐ飲もうと思えるのはかなり強く感じた。

Manner Coffee

Mannerも同様にそこらじゅうにある。
私が見た複数の店舗はスタンド型が多く、Luckinよりも小さなスペースで運営しているように見えるお店もあった。


Mannerは現在2,000店近くの規模の低価格スペシャルティコーヒーチェーンだ。
スペシャルティコーヒーを扱っているにも関わらず、低価格かつスタンド型が主流で、さらにそこらじゅうにあるというのは日本だとあまり考えられない。
(そもそも日本で2,000店規模というのはスタバぐらいしかないわけだが…)

どのお店も観察していると客やデリバリー業者の出入りがあり、人気がありそうだったが、その理由は今回の視察だけでは判然としなかった。
味への信頼、価格、近さ、習慣、ブランド認知で選ばれているのかもしれない。ここは調査・分析記事で深掘りしてみたい。

1号店である205号窗口店も見に行った。
人通りの少ないさびれた裏道で、並んだバイクや自転車で歩行も大変で、誰もコーヒーを買いにこなそうな場所の狭小スペースだった。
ここから現在の隆盛があると考えると、なかなかのサクセスストーリーだと思う。

205号窗口店

一方で、新しめの観光スポットである北外灘の絶景ポイントにある店舗は、SNSでも上海のカフェを代表してよくとりあげられる景観のカフェで、こういう大型の形態もある。
多くの人で賑わっていた。

カフェから見える北外灘の景色

Cottiは今回ほとんど見かけなかった。
事前にはLuckin・Manner・Cottiを比較するつもりだったが、実際に歩くとコヒーチェーンではLuckinとMannerばかりが視界に入った。
上海には少ないのか、お店が奥まった場所にあるのかはわからない。

日常型コーヒーチェーンを振り返ってみると、まず安さ、次に店舗の数による接点の量。
日本のコンビニ(コーヒー)を思い起こさせた。

さらにLuckinのココナッツラテのように、安く・大きく・飲みやすく・何度も飲みたいと思わせる味という日常商品の強さは、非日常を味わいに行く特調系とは異なる質のものだ。
日常型コーヒーチェーンからは、記憶に残るシグネチャードリンクだけでなく、日常的に飲める基幹商品の重要性を感じさせられた。

さいごに

1杯1,500円前後の特調コーヒーと、1杯300円前後の日常型チェーンのコーヒーは、一見するとまったく別の飲み物である。

前者はわざわざその店に行く理由を作る。
素材の組み合わせ、名前、器、説明、仕上げの所作まで含めて、飲む前から期待を立ち上げる。
飲んだ後には人に説明したくなる記憶が残る。

後者は日常の中で何度も選ばれる理由を作る。
安く、大きく、飲みやすく、そこらじゅうにある。
特別な体験ではないが、暑い日に歩き疲れた身体にはLuckinのココナッツラテのような一杯が強烈に刺さる。
そして一日に何杯も飲める。

記憶に残るシグネチャードリンクと、毎日でも飲みたくなる基幹商品。
この2つは対立するものではなく別々の役割を持っている。

行く前から期待が立ち上がり、飲んだ後に説明できる一杯。
そして、毎日や一日に何杯も飲みたくなる一杯。
上海のコーヒーはその両極を同時に見せてくれた。

将来GAFUCAFEを作るにあたっては、両立するかはわからないが、でも今はまだ選択肢を狭めず、その両方をあわせ持つ店を考えていきたい。

上海視察の記事はまだまだ続きます。

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次に読む一本

上海視察シリーズの第2弾です。
上海カフェ視察で見た、街歩きの街で、店の外で人を惹きつけるブランディングの仕掛けをカフェの紹介とともに考察しました。


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