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中国カフェ・ティードリンクチェーン20ブランド解説 2026年版

以前、アジアのカフェ・ティードリンクチェーン20社をまとめた。

その記事でピックアップした中国のカフェ・ティードリンクチェーンは9つ。

だが実際に上海や深圳を歩いてみると、あの記事に一社も登場しなかったチェーンが街のいたるところにあった。

上海視察を終えた今、いま一度、視察中に見かけたチェーンはどういうチェーンなのか興味を持って調べたくなった。
そこで今回は中国のチェーンに絞って代表的な20ブランドをピックアップして調査した。
単なるチェーンブランド紹介にとどまらず、そのブランドたらしめる特徴や事業モデルまで解説している。

まだ見ぬ新しいカフェスタイルのヒントもあるだろうし、次の視察のための予習にもなるだろう。
その多くは日本語での情報はまだ少なく、また現地で見た店舗体験と事業構造をつなげた記録は多くない。
だからこそGAFUCAFEがビジネスの目線で記録する価値があると思う。


この記事は中国国内のカフェ・ティードリンクチェーンを20ブランドを選び、最新の店舗数や特徴、ビジネスモデル等を整理した保存版マップとして書いている。

ピックアップした基準は、店舗数だけでなく、事業モデルの違い、近年の伸び、カフェ・ティードリンク市場を理解する上での代表性を基準に選んだ。

 GAFUCAFEのXでは5回に分けて連載記事にしたぐらいの長さ(約2.2万字)なので、通読用というよりは、目次から興味のある章や気になるブランドから読むのをオススメする。
LuckinやMannerなどのコーヒーチェーンを知りたい人はA〜B章、MIXUEやCHAGEEなどのティードリンクチェーンを知りたい人はC〜E章から読むと入りやすい。
中国チェーン市場全体の構造を先に掴みたい人は、後半の「クロス観察」から読むのがいい。

店舗数は各社の発表時期にばらつきがあるため、あくまで2025年末〜2026年前半の断面として読んでほしい。
また店舗数は公式発表、決算資料、報道、第三者データが混在しており、開業店・契約店・海外店舗・店舗併設店を含むかどうかで定義が異なる。
この記事では厳密な順位表ではなく、各ブランドの規模感と事業モデルを掴むための目安として扱う。

記事中の日本円換算は2026年7月1日時点の1元23.92円で計算している。



A. 量販・低価格コーヒー4強

中国の量販コーヒー市場を象徴しているのはこの4社の「万店競争」だ
安く、速く、そこらじゅうにある。だが4社の中身はまったく違う。
同じ「低価格コーヒー」でも勝ち方の設計図がそれぞれ別物である。

1. 瑞幸咖啡 / Luckin Coffee

  • QR注文と高密度店舗網でコーヒーを都市の日常導線に組み込んだ中国最大級のコーヒーチェーン

駅の中にあるLuckin Coffee

2017年創業。
2026年Q1末時点で3.3万店を突破した。
中国発のコーヒーチェーンとしてもはや桁が違う存在である。

Luckinの本質はコーヒー会社であると同時に、データ駆動の飲料チェーンであることだ。
注文・決済・クーポン・会員導線をアプリやミニプログラム(日本でいうミニアプリ)に集約し、どの商品が、どの時間帯に、どの店舗で売れるかを高速で把握する。

Luckinのミニプログラム

そのデータが商品開発と販促の回転数を上げ、21億杯売れたという生椰拿铁(ココナッツラテ)のような国民的ヒットにつながっていった。

生椰拿铁(ココナッツラテ)

Luckinの強さは価格だけではない。
直営比率が高く、店舗オペレーションとデジタル導線を本部が握れることにある。
9.9元前後の価格戦争に応じながらも、規模を利益に変換してきた数少ないプレイヤーだ。

中国のコーヒー市場を理解するならLuckinは避けて通れない。
スターバックスが中国にカフェ空間を持ち込んだブランドだとすれば、Luckinはコーヒーをスマホ注文と高密度店舗網に乗せ、都市の日常導線へ組み込んだブランドである。

2. 库迪咖啡 / Cotti Coffee

  • 加盟店主体の急拡大と9.9元競争でLuckinに挑んだ低価格コーヒーチェーン

2022年創業。
Luckin創業者・陸正耀が再起をかけて立ち上げたブランドで、Luckinとは因縁のある存在だ。
店舗数は1.8万店まで急拡大した。

Cottiの戦略はLuckinの鏡像に見える。
安いコーヒー、アプリ/ミニプログラム注文、高速出店。
だが決定的に違うのは加盟店主体で拡大してきた点だ。
加盟店を巻き込み、1杯単位の販売補助で支える構造で短期間で1万店規模まで到達したが、9.9元級の価格では加盟店側の採算が重くなる。
本部補助と加盟店採算のバランスが常に問われるモデルだった。

コーヒー豆の歴史的高騰も重なり、2026年2月にはCottiが9.9元無制限キャンペーンを変更、主力商品を3-6割値上げしたと報じられている。
価格戦争が終わったわけではないが、無制限の消耗戦から調整局面へ入り始めた象徴的な出来事だった。

Cottiは規模そのものが価値になる中国市場の迫力を示す一方で、加盟店主体で急拡大するモデルの危うさも示している。
Luckinと似ているようで、店舗管理、加盟店採算の構造はかなり違う。

LuckinとCottiの詳細記事

3. 幸运咖 / Lucky Cup

  • MIXUEのノウハウをコーヒーに転用した地方に強い超低価格コーヒーブランド

幸运咖は、MIXUE(蜜雪冰城)グループのコーヒーブランドだ。
2025年11月に1万店を突破し、中国のコーヒーチェーンではLuckin、Cottiに続く1万店クラブ入りを果たしたと報じられている。

特徴は徹底した低価格と下沉市場への強さである。
下沉市場とは地方都市や小さな町を中心とする市場を指す。

幸运咖はこうした市場で強く、1杯5〜10元前後(120〜240円ぐらい)の価格帯で、Luckinよりさらに安いコーヒーを地方の生活圏へ広げてきた。

母体であるMIXUEの強みも大きい。
原材料、加盟店運営、物流、低価格ブランドの作り方をすでに持っている。MIXUEが新茶飲(お茶の現代的アレンジドリンクのトレンド)で築いた供給網と加盟店ノウハウを、コーヒーに転用したのが幸运咖だ。

ただし2026年に入って構図は少し変わり始めている。
MIXUE本体が10億元(約240億円)規模の補助で全国店舗のコーヒー設備をアップグレードし、従来の挽いてある粉を使ったスタイルから、幸运咖と同じ店頭での挽きたてコーヒーへ切り替える動きを進めているからだ。
主ブランドの5万店超の店舗網に挽きたてコーヒーが本格的に載れば、低価格コーヒー市場で幸运咖と蜜雪冰城本体の役割は近づいていく。

一方で幸运咖も黙っているわけではない。
2026年には5億元(約120億円)を投じ、ブランドマーケティング、ミニプログラム/アプリ、空間体験、パッケージ、店舗設備などをアップグレードする計画が報じられている。
低価格コーヒーの専門ブランドとしてMIXUE本体とは違う価値をどう作るかが問われている。

幸运咖はMIXUEの供給網を使って1万店まで伸びた成功例であると同時に、親ブランドが同じ市場へ本格的に入ってきたとき、子ブランドはどう差別化するのかという問いを抱えたブランドでもある。

4. 挪瓦咖啡 / NOWWA

  • コンビニ等に入り込む店内併設型モデルでカフェの箱を軽くしたコーヒーチェーン。

2019年に上海で創業。
2025年末に1万店を突破し、中国で4番目の1万店コーヒーチェーンになった。
ただし万店を突破したといっても、LuckinやCottiのような路面店数とは店舗の意味合いが違うことには注意する必要がある。

NOWWAの特徴は店そのものを軽くしたことにある。
コンビニ、ホテル、ネットカフェなどの既存の小売・生活インフラに入る店内併設型モデルで広げてきた。
独立した店舗を構えるのではなく、別業態の店舗内に小さな売場やカウンターとして出店する形だ。

自前で大きな箱を作らず、家賃や人件費の一部を既存店舗と共有する。
都市の中にすでにある人の集まるインフラへ乗る。

受け入れるコンビニなどの既存店舗にとってもNOWWAは追加の集客や客単価を作る売場になる。
NOWWA側は大きな箱を持たず、提携店舗側はコーヒー商品を短期間で導入できる。

NOWWAはカフェを独立した空間として捉えず、既存の小売インフラに乗って増殖するモデルで万店化した最も軽い部類の万店モデルだ。


B. 精品(スペシャルティ)コーヒーの世代交代

低価格コーヒーが中国の「量」を作った一方で、精品コーヒーの領域でも世代交代が起きている。

精品コーヒーとはいわゆるスペシャルティ寄りの高品質コーヒーを指す。
中国ではSeesawがその文化を切り開き、Mannerが日常価格へ落とし込み、M Standが空間価値へ広げてきた。
そこに近年、単一産地豆と抽出設計で一杯の品質をチェーンとして揃えようとするGrid Coffeeや、精品コーヒー店そのものを加盟・パートナー型で広げようとする代数学家咖啡が加わっている。

中国の精品コーヒーは理想の味を語る段階から、事業としてどう持続させるかを問う段階に入っている。

5. Seesaw Coffee

  • 中国スペシャルティコーヒー文化を切り開いた先駆者であり過密市場の淘汰も示すブランド

2012年に上海で創業。
中国の精品コーヒーを語るうえで外せない先駆的ブランドである。

浦東空港にあるSeesaw Coffee

当時の中国で高価格帯のカフェといえばまだスターバックスの存在感が圧倒的だった。
コーヒーは「カフェで過ごすための飲み物」ではあっても、豆の産地、焙煎、抽出、風味を楽しむスペシャルティコーヒーの文化は今ほど一般的ではなかった。
Seesawはそこにシングルオリジン、手淹れ、浅煎り寄りの豆、バリスタによる接客を持ち込んだ。

Seesawの重要性はコーヒーを産地や風味を選ぶ飲み物として中国の消費者に見せたことにある。
豆の産地を示し、味の違いを説明し、バリスタが抽出する姿を見せる。
いまでは珍しくない要素だが、2010年代前半の中国ではそれ自体が新しい体験だった。

雲南産コーヒーへの取り組みも象徴的だ。
Seesawは早くから雲南のコーヒー豆に注目し、農家や産地と関わりながら中国産コーヒーを精品コーヒーとして見せようとした。
海外産の高品質豆だけをありがたがるのではなく、中国にも良い豆があるという認識を広げた点で、Seesawは中国コーヒー文化の土台作りに関わったブランドでもある。

もう一つ大きいのは人材育成だ。
Seesawは店舗でコーヒーを売るだけでなく、バリスタ教育やコーヒー知識の普及にも力を入れてきた。
中国の精品コーヒー黎明期にSeesawで働き、学び、そこから別の店やブランドへ移っていった人も少なくない。
Seesawは一つのチェーンであると同時に中国スペシャルティコーヒーの人材を育てる場でもあった。

だが現在のSeesawは先駆者であるがゆえの苦しさを背負っている。
2026年には運営会社に対する破産清算の申立てが報じられ、店舗数はピーク時の135店から34店まで縮小、118件の訴訟(うち2025年だけで64件新規)や、未払い問題を抱えるとされる。
かつて中国精品コーヒーの象徴だったブランドは厳しい局面に入っている。

高品質であること、早く始めたこと、文化を作ったこと。
それだけでは低価格チェーンと空間派チェーン、個人店、特調(創作コーヒー)文化が同時に進化する市場で生き残り続ける保証にはならない。
Seesawの苦境は中国のカフェ市場がただ華やかに伸びているだけではないことを示している。

Seesawの破産清算申請についての関連記事

6. Manner Coffee

  • 小型店と高回転でスペシャルティ寄りのコーヒーをオフィス街の日常価格に落とし込んだ上海発チェーン

2015年に上海で創業。
静安区・南陽路のわずか2平米ほどの小さな店から始まったブランドだ。2025年11月時点では、全国2,234店と報じられている。

裏路地にある第一号店のコーヒースタンド

Mannerが解いたのは「良い豆を使ったコーヒーは高くなる」「スペシャルティ寄りのコーヒーは目的地型のカフェで飲むもの」という前提だった。

大きなイートイン空間を持たず、都市の小さな区画で持ち帰りやデリバリー、短時間利用を前提にし、店舗を軽くし回転率を上げることで、豆にこだわったコーヒーを日常価格に近づけた。

都市で働く人が、出勤前、昼休み、移動中に買える場所へ小型店を高密度に置く。
スターバックスのように長く過ごす場所ではなく、毎日使うコーヒーの受け取り場所を作った。
精品コーヒーを「特別な一杯」に閉じ込めず、オフィス街の生活動線に置いたことがMannerの発明だった。

上海カフェ視察中もっとも多く見かけたのは実はMannerだった。
こんなところにもと驚くほど狭い狭小スペースに入り込んでいる。
やたら目に入るのは店舗数の多さのためだけではなく、狭いスペースでも出店して日常の導線上に配置する設計をしているからだろう。

昔の日本のタバコ屋ぐらいのスペースに入り込む

Mannerの視察記事

7. M Stand

  • 一店ごとに異なる空間デザインと創作コーヒーでコーヒーチェーンを“撮られ、滞在されるライフスタイルブランド”にした上海発チェーン

2017年に上海で創業し、2026年5月時点で642店舗の規模まで拡大した。

Mannerが小型店と高回転で都市の日常に入り込んだブランドだとすれば、M Standはコーヒーを空間体験に寄せたブランドである。

M Standの特徴は「一店一設計」だ。
同じ看板、同じ内装を大量に複製するのではなく、店舗ごとに異なるデザインを作る。
モノトーンの空間、石や金属を使ったインダストリアルな店、植物を取り入れた店、歴史建築を活かした店。
チェーンでありながら個店を巡るような楽しさを残している。

商品もその世界観に近い。
M Standはクラシックなコーヒーだけでなく、創作ラテやデザート性のあるドリンクも得意にしている。
コーヒー豆そのものを突き詰めるというより、味、見た目、カップを持ったときの気分まで含めて商品にしている。
コーヒーを「飲むもの」から「持ち歩き、撮影し、誰かに見せるもの」へ広げている。

さらにM Standはコーヒーの外側にも広がっている。
カップ、バッグ、生活雑貨などの周辺商品を出し、近年は軽食やバーガーを扱う店舗も増やしている。
コーヒーを入口にしながら若い消費者の生活の中にブランドを持ち込もうとしている。

2024年以降は出店ペースを落とし、一部地域や効率の低い立地では店舗調整も進めている。
それでも全体としては拡大を続けており、より見え方のよい立地へ店舗を寄せている段階にある。

低価格・高回転のコーヒーチェーンとは違い、空間、デザイン、創作ドリンク、都市の高感度な立地を組み合わせ、コーヒーをライフスタイルブランドへ近づけたチェーンである。

8. Grid Coffee

  • 単一産地豆と再現性のある商品設計でチェーンコーヒーの品質基準を引き上げようとする北京発精品コーヒーチェーン

2022年に北京で創業。
教育大手・猿辅导(Yuanfudao)系の新規事業として注目され、2025年には100店を突破したと報じられている。

Grid Coffeeの特徴は単一産地豆を前面に出していることにある。
一般的なチェーンコーヒーでは味の安定性やコストを考えてブレンド豆を使うことが多いが、Grid Coffeeは産地ごとの風味が見える豆を使う。
花、果実、チョコレート、ナッツのような風味をチェーンのコーヒーでも感じられるものとして打ち出している。

もう一つの特徴は味を足しすぎないことだ。
中国のコーヒー市場ではコーヒーがミルクティー化、デザートドリンク化している。
飲みやすさや話題性を作るために、甘さ、ミルク、フルーツ、シロップ、クリームを重ねる商品も多い。
その中でGrid Coffeeは、コーヒーには独立した専門性があり、ミルクティーや他の飲料とは明確な境界を持つべきだという考え方を打ち出している。

この思想は商品設計にも出ている。
Grid Coffeeはコーヒー豆、水、牛乳の組み合わせを基本にし、シロップや強いフレーバーで飲みやすくする方向には寄せていない。
牛乳を使った商品でも、ミルクティー的な甘いコーヒーにするのではなく、豆の風味と牛乳の組み合わせで成立させようとしている。

商品開発も奇抜な特調(創作コーヒー)に振り切るのではなく、クラシックなコーヒーの範囲で小さく遊ぶ。
レモンを使ったエスプレッソ系ドリンクを炭酸で軽くした「ローマンアメリカーノ」や、冷たい抽出コーヒーにクリームを重ねる「コールドブリュー・ウィーン」など、コーヒーの文法を崩しすぎずに少しだけ現代的にしている。

この控えめなアレンジはGrid Coffeeの立ち位置をよく表している。
主役はあくまでコーヒー豆の産地や風味であり、創作ドリンクも甘さや強いフレーバーで豆の個性を覆い隠す方向には振れていない。

さらに特徴的なのは、精品コーヒーの品質を「一部の専門店でだけ成立する体験」ではなく、チェーン店の一杯として再現しようとしている点だ。
単一産地豆を使い豆の風味を重視しながらも、抽出や商品設計は店舗で再現しやすい形に整える。
職人の感覚だけに頼るのではなく、直営チェーンとして一定の品質を保とうとしている。

Grid Coffeeは豆の産地、風味、抽出の安定性をチェーンとして扱いながら、日常コーヒーの品質基準をもう一段引き上げようとしている。

9. 代数学家咖啡 / Algebraist Coffee

  • 地域発の精品コーヒー店をパートナー型加盟で持続可能な店舗フォーマットにしようとする蘇州発ブランド

2015年創業。
蘇州発で、上海とその周辺にある江蘇省・浙江省の都市を中心に展開してきた精品コーヒーチェーン。
前身はMatrixCoffee / 矩阵咖啡で、2019年前後にAlgebraist / 代数学家へブランドを刷新している。

蘇州発である点もこのブランドを見るうえで意味がある。
蘇州は上海に近い巨大な産業都市で、周囲には消費力のある都市が連なる。
北京・上海・深圳のような最上位都市の中心部だけでなく、上海周辺の消費力ある都市にも精品コーヒーの受け皿があることを示している。
代数学家はその流れを見せるブランドでもある。

代数学家の特徴は精品コーヒーを「店舗フォーマット」として広げようとしている点にある。
Grid Coffeeが単一産地豆や抽出の安定性によって一杯の品質をチェーンで再現しようとしているなら、代数学家は精品コーヒー店そのものを、加盟店も含めて運営できる事業モデルに落とし込もうとしている。

ここでいう店舗フォーマット化とは、豆、レシピ、商品構成、価格帯、店舗デザイン、教育、販促までを本部側で整え、加盟店でも同じ世界観を再現しやすくすることだ。
精品コーヒーは店主やバリスタの感性に寄りやすい。
代数学家はそれを個人店的な理想だけで終わらせず、運営できる小さな事業単位へ変換しようとしている。

「代数学家」という数学モチーフも単なる名前の面白さではない。
豆、抽出、商品設計、空間、オペレーションを感覚だけでなく、方程式のように組み合わせるブランドとして見せている。
実際に高度な数理計算でコーヒーを作っているというより、感覚的になりやすい精品コーヒーを理性的に組み立てるためのブランド言語として機能している。

事業面では2024年から事業パートナー型の加盟モデルを本格化し、2025年時点で150店超まで拡大した。
現在は月8〜10店ほどのペースで出店しているとされる。
急拡大を競わず、商品、価格、コスト、供給網、店舗運営を整えながら、精品コーヒーを加盟店でも扱える店舗事業にしていく段階に入っている。

Seesawが中国スペシャルティ文化を切り開き、Mannerが精品を日常価格へ落とし込み、M Standが空間価値へ広げ、Grid Coffeeが一杯の品質を直営チェーン全体で再現しようとしている。
その流れのなかで、代数学家は精品コーヒー店そのものを持続可能な店舗フォーマットにしようとしている。
規模ではまだ万店ブランドに遠いが、中国の精品コーヒーが文化から事業モデルへ移る流れを見るうえで、押さえておきたいブランドである。


C. 規模で広がる新茶飲

コーヒーと並び中国の街を埋めているのが新茶飲勢だ。
新茶飲とは、伝統的なお茶をベースに、ミルク、フルーツ、チーズフォーム、タピオカ、穀物、クリームなどを組み合わせた現代的なティードリンク業態だ。
上海や深圳を歩いた体感ではコーヒー以上に新茶飲の存在感が大きいエリアも多い。

中国の新茶飲は大きく2つの方向に分かれている。
ひとつは店舗網、加盟店、価格、供給網で日常に入り込む方向。
もうひとつは香り、空間、ブランド体験で選ばれる方向だ。
前者はMIXUEや古茗に代表され、後者はCHAGEEや茉莉奶白に代表される。

Cの章では前者を、次にDの章で後者をとりあげる。

10. 蜜雪冰城 / Mixue

  • 低価格のレモン水・アイスクリーム・ミルクティーを巨大な自社供給網で世界規模に広げたブランド

MIXUEは中国新茶飲の中でも別格だ。
1997年創業。
2025年末には世界59,823店まで拡大したとされ、中国のドリンクチェーンの中でも世界最大級規模の圧倒的な存在になっている。

消費者から見るとMIXUEは安いアイスクリーム、レモン水、ミルクティーの店だ。
だが事業として見ると本質はサプライチェーン企業に近い。
本部の収益は店頭で一杯ずつドリンクを売ることよりも、加盟店へ原材料、包材、設備などを供給する構造にある。

低価格でも成立する理由はこの供給網にある。
MIXUEは原材料の調達、商品開発、生産、物流、加盟店運営までを一体で組み立てている。
河南、海南、広西、重慶、安徽に生産拠点を持ち、シロップ、乳製品、茶、コーヒー、果物、穀物などを含む幅広い原料を扱う。
物流面でも中国国内に28の倉庫を持ち、300都市超をカバーしている。

巨大な店舗網があるから大量に仕入れられ、大量に作れる。
大量に作れるから原価を下げられ、安く売れる。
安く売れるからさらに加盟店と消費者が集まる。
この循環がMIXUEの強さである。

コーヒーブランドの幸运咖がありつつも、直近ではMIXUE本体もコーヒーに投資を行い本格的に強化し始めている。
2025年上半期にはMIXUE本体の全国店舗でコーヒー販売杯数が2億杯を超えたとも報じられている。
MIXUEにとって新茶飲とコーヒーはまったく別の市場ではない。
すでに持っている店舗網、原材料供給、加盟店運営、低価格ブランドの作り方を使えば、コーヒーも同じ生活圏に載せられる。

MIXUEは低価格新茶飲の王者であるだけではない。
アイスクリーム、レモン水、ミルクティー、コーヒーまで飲み込んでいくドリンク・インフラ企業である。
中国のカフェ・新茶飲市場で茶かコーヒーかという境界を薄くしている最重要ブランドの一つだ。

11. 古茗 / GoodMe(Guming)

  • 地方都市で地域密度と冷蔵物流を作り、中価格帯のフルーツティーを日常飲料にした大型新茶飲チェーン

2010年に浙江で創業。
2025年末時点で13,554店。2024年末の9,914店から36.7%増えている。

古茗の強さは地域ごとに店舗密度を作ることにある。
大都市の高感度層だけを狙うのではなく、地方都市や小さな街で店舗網を固める。
特定地域で面を取り、倉庫、物流、加盟店運営を整えながら隣接地域へ広げていく。
MIXUEほど安くなく、CHAGEEほど高くもない。
日常的に買いやすい中価格帯のティードリンクとして地方都市の生活圏に深く入り込んでいる。

このモデルを支えているのが冷蔵物流だ。
古茗の商品はフルーツティー、ミルクティー、コーヒー飲料などで、短い賞味期限の果物、茶葉、牛乳を多く使う。
フルーツティーを1万店超の規模で安定供給するには単に店を増やすだけでは足りない。
新鮮な原材料を冷蔵で保管し、短いサイクルで店舗へ届ける仕組みが必要になる。

古茗は24の倉庫を運営し、倉庫面積は約25.8万平方メートル、冷蔵スペースは7万立方メートル超に達している。
さらに約75%の店舗が倉庫から150キロ以内にあり、必要に応じて約98%の店舗に2日に1回の冷蔵配送ができる体制を持つ。
倉庫から店舗への配送コストは2025年の販売額比で1%未満だった。
この地域密度と冷蔵物流があるから古茗はフルーツティーを地方都市の日常飲料にできる。

さらに古茗はコーヒーにも踏み込んでいる。
2025年末時点で12,000店以上にコーヒーマシンを設置し、年内に27種類のコーヒー飲料を投入した。
既存の店舗網と冷蔵物流の上にコーヒーまで載せ始めている。

古茗は派手なブランドではないが、地方都市の生活圏に店舗密度を作り、冷蔵物流でフルーツティーを安定供給し、その上にコーヒーまで重ねていく。
MIXUEのような低価格サプライチェーンだけではなく、古茗のように地域密度と冷蔵物流で中価格帯の日常茶飲を押さえるブランドも巨大新茶飲市場のもう一つの主役である。

12. 沪上阿姨 / Auntea Jenny

  • 赤もち米や穀物を使った満足感のあるミルクティーから始まり、フルーツティーへ広げながら地方都市で万店化した上海発ブランド

2013年に上海で創業。
2025年末時点で11,449店となり万店ブランドの仲間入りを果たした。

特徴は、ちまきなどに使われる赤もち米(中国語では血糯米)、五穀、穀物系トッピングなど、食べ応えのある商品設計にある。
最初に有名になった商品は赤もち米を使ったミルクティーだった。
赤もち米や穀物をミルクティーに組み合わせることで、当時の一般的なタピオカミルクティーとは違う噛む満足感を作り、「穀物ミルクティー」という独自の入口を作った。

2019年以降はフレッシュフルーツティーへ転換し、ブドウ、イチゴ、梨などを使ったフルーツティーにも商品軸を広げていく。
穀物系の「食べ応え」とフルーツティーの「軽さ」を行き来しながら、満足感や健康感のある大衆向けティードリンクとして広がってきた。

もう一つ重要なのは、上海発でありながら成長の主戦場が上海だけではなかったことだ。
沪上阿姨は山東など中国北方や地方都市にも早くから広がった。
MIXUEほど低価格に振り切らずCHAGEEほどプレミアムでもなく、具材感と満足感で生活圏に入り込んだ
日常的に飲まれる“食べ応えのある一杯”を作ったところに、このブランドの強さがある。

13. 茶百道 / ChaPanda

  • 定番商品と物流網で広がり、既存店舗にコーヒーを載せ始めた大型フランチャイズ新茶飲チェーン

2008年に成都で創業。
2025年末時点で中国国内8,621店。
フルーツティー、ミルクティー、チーズフォーム系などを幅広く展開している。

強さの土台にあるのは定番商品の強さである。
2023年には5つのクラシック商品だけで販売額の約4割を占め、合計3.5億杯を販売したとされる。
中でもジャスミンミルクグリーンティーの「茉莉奶緑」は年1.1億杯、マンゴーとブンタンを使ったデザート系ドリンク「楊枝甘露」は年小売額約18億元に達したと報じられている。

もう一つの特徴は商品更新の速さだ。
定番で安定売上を作りながら、旬のフルーツや地域特産を使った新商品で話題を作る設計だ。
2025年には117種の新商品を投入し、登録会員数は1.8億人に達している。

その多品種展開を支えているのがサプライチェーンである。
フルーツティーをチェーンとして安定供給するには、果物、乳製品、茶葉、包材を全国の加盟店へ高頻度で届ける仕組みが必要になる。
ChaPandaは全国に26の物流拠点を持ち、約95%の店舗が週2回以上の配送を受けられる体制を作っている。

直近の動きとして注目すべきなのがコーヒーへの越境だ。
2025年にはコーヒー事業を一部店舗で開始し、17種のコーヒー新商品を投入した。
2026年6月時点ではコーヒー取扱店舗が2,700店超まで増えている。

ChaPandaは大型フランチャイズの新茶飲チェーンとして定番商品とサプライチェーンで広がり、その既存店舗網の上にコーヒーを載せ始めている。
MIXUEと同様、「茶かコーヒーか」という境界をますます薄くする動きだ。


D. 体験で選ばれる新茶飲

価格の安さではなく、茶葉の香り、ブランド体験、空間、カップ、飲み方で選ばせる、中国茶を現代の都市生活の中に再編集するブランド群である。

14. 霸王茶姫 / CHAGEE

  • 茶葉の香りと中国美学を軸に中国茶をプレミアムな都市型ドリンク体験へ変えたブランド

2017年に雲南で創業したプレミアム中国茶ブランド。
2025年末時点で7,453店。2025年4月にはNASDAQに上場した。
登録会員は2.38億人超に達している。

茶葉から抽出した茶に牛乳を合わせ、甘さや具材ではなく茶葉の香りを前面に出した。
看板商品の「伯牙絶弦」はジャスミン茶の香りをミルクと合わせた一杯で、甘いミルクティーというより、香りを味わう茶ラテに近い。

左が伯牙絶弦

CHAGEEの強さは商品だけではない。
緑と金を基調にした店舗、京劇風のロゴ、カップのデザイン、会員基盤、海外展開。
中国茶を「古いもの」としてではなく、現代的でプレミアムな体験として再編集している。

MIXUEが低価格インフラなら、CHAGEEは文化価値を売るティーブランドだ。
中国発のティードリンクがスターバックス的なブランド体験に近づいている例として最も重要な一社である。

CHAGEEについては関連記事で深く掘り下げているので興味がある場合はぜひ読んでほしい。

CHAGEEの詳細記事

15. 喜茶 / HEYTEA

  • チーズティーとフルーツティーで新茶飲を「並んで買う高感度ドリンク」へ押し上げた先駆者

2012年に広東省で創業した新茶飲ブームの象徴的ブランド。
「皇茶」という小さな店から始まり、2016年にHEYTEAへ改称した。

HEYTEAを象徴したのがチーズティーだった。
淹れた茶の上に塩気とコクのあるチーズフォームを重ねる。
従来のミルクティーやタピオカとは違い、茶そのものを残しながら若い消費者が飲みやすい新しい味へ変えた。

この一杯はSNSで語りやすい商品になった。
さらにフルーツティーや季節商品も重なり、新茶飲を若者がわざわざ買いに行く高感度なドリンクへ押し上げた。

2017年の上海出店時には7時間待ちとも報じられる行列が生まれ、20〜30元のドリンクが転売で70〜80元になるほど話題化した。
飲み物を買う行為がSNSで語られるイベントになったのだ。
コーヒーでいえば2018年に% Arabicaが見せた「目的地化」に近いことを、HEYTEAは新茶飲で先に起こしていた。

その後、HEYTEAは急拡大した。
ただし近年は、単純な店舗数競争から距離を置く姿勢も見せている。

2025年には店舗数が4,610店から3,930店へ減少したと報じられている。
同じ時期にHEYTEAは新規フランチャイズ申請の受付を停止し、低価格競争や店舗数競争から距離を置き、ユーザー体験とブランドに戻る姿勢を打ち出した。
この決定は「数字ゲームと規模の消耗線には参加しない、ユーザーとブランドへ回帰する」と題された社内メールを通じて発表された。

2026年2月に開業した上海・豊盛里の heytea lab 2.0 は、HEYTEAの実験型店舗の全国初となる2.0版で、同じ空間に tea lab、cake lab、gelato lab、bake lab の4つの実験室的な売場を集めている。
単にドリンクを売る店舗ではなく、茶を起点に、ケーキ、ジェラート、ベーカリーまで広げたブランド体験のショールームに近い。

heytea lab 2.0

ドリンク、スイーツ、空間、限定商品を組み合わせて、「HEYTEAに行く理由」をもう一度作り直そうとしている。
中国新茶飲の先駆者だったHEYTEAは、店舗数規模の競争から一歩引き、ブランドを再び体験として磨く段階に入っている。

16. 奈雪的茶 / Nayuki

  • 茶飲とベーカリーを組み合わせて新茶飲のカフェ化を早くから示した高価格帯ブランド

2015年に深圳で創業した高価格帯の新茶飲ブランド。
茶飲とベーカリーを組み合わせた大型直営店モデルで成長し、2021年には「新茶飲初」として香港上場した。
2025年末時点で1,646店。直営店の減少と加盟店の小幅増加が並行している。

Nayukiは、新茶飲をテイクアウト中心のドリンクスタンドから、茶飲とベーカリーを組み合わせた滞在型カフェ業態へ広げたブランドだった。
広めの店舗に客席を設け、ドリンクだけでなくパンや軽食も合わせて提供することで、ミルクティーを「買って歩くもの」から「店内で過ごす体験」に近づけた。

ただ、このモデルは軽くない。
大型店、直営中心、ベーカリー併設には、家賃、人件費、厨房設備、在庫管理が伴う。
2025年には直営店売上のうち店頭注文は9.3%にとどまり、ピックアップ注文が38.1%、デリバリー注文が52.6%と圧倒的に店頭以外での注文が大きくなっており、滞在型の空間投資と実際の消費行動とのズレも見え始めている。

Nayuki自身も店舗モデルの軽量化やフランチャイズ展開を進めている。
新茶飲をカフェ化した先駆者である一方、いまは「良い空間を作ること」と「事業として回る店舗モデルを作ること」を両立させる局面に入っている。

17. 茉莉奶白 / Molly Tea

  • ジャスミンの香りと白を基調にしたデザインで花の香りを“軽い高級感”として広げた深圳発ブランド

2021年に深圳で創業。
2026年2月時点で世界2,300店超。
2025年だけで1,000店以上を増やした近年の新茶飲の中でもかなり勢いのあるブランドである。

勢いの理由は「花の香り」という分かりやすい差別化軸とブランディング、出店モデルの軽量化が重なったことにある。

このブランドの核はジャスミンの香りだ。
従来のミルクティーがミルクの濃さや甘さで記憶され、フルーツティーが果実感で選ばれるのに対し、茉莉奶白は花の香りを前面に出した。
主力のジャスミン系商品に加え、クチナシ、キンモクセイ、ギンコウボク(白蘭花)などを使い、軽く、清潔感のある高級感を作っている。

デザインの完成度も高い。
白を基調にした店舗、柔らかいパッケージ、花の香りを想起させるビジュアル、香り系の周辺商品まで含めて、ブランド全体が「香りをまとう体験」として設計されている。
実際に深圳や上海で見たときにも洗練されたデザインはかなり女性客を意識したブランドに感じた。

さらに2024年には小型店モデルを導入し従来より出店しやすい形を作った。2025年5月には全国68都市で100店舗を一斉オープンイベントを行い、翌2026年にも同様の施策を実施している。
出店を単なる店舗拡大ではなくブランドの話題化イベントとして設計している点もブランディングやマーケティングの巧みさを感じる。

CHAGEEが中国茶を大きなブランド物語にしたとすれば、茉莉奶白は花の香りをもっと軽く日常に近い形でブランド化している。
香り、余韻、カップを持ったときの気分、店の白さ、名前の響き。
茉莉奶白はそれらをまとめて「香りのブランド」にしている。


E. 地域性と生活圏に根づく新茶飲

中国の新茶飲はMIXUEやCHAGEEのような巨大ブランドだけではない。
長沙の街と結びついた茶顔悦色、学生街や若年層の日常に入り込んだ益禾堂、武漢・湖北の素材を若者向けの一杯にした爺爺不泡茶のように、地域性や生活シーンから伸びたブランドもある。
この層を見ると新茶飲がどれだけ多様に分化しているかがわかる。

18. 茶顔悦色 / Modern China Tea Shop(旧Sexy Tea)

  • 長沙発の希少性と中国古典風デザインを組み合わせ、ミルクティーを“長沙で体験するブランド”にした新茶飲

2013年に湖南省長沙市で創業。
2026年4月時点で734店を展開している。

茶顔悦色の面白さはまず地域性だ。
2013年から2020年までの7年間、長沙の地を出ることはなく留まった。
長く長沙を中心に展開したことで、「その土地に行ったら飲みたいブランド」として全国的に知られるようになった。
急拡大ではなく地域性と希少性をブランド価値に変えた。

2026年に深圳に常設店をオープンした際には、転売業者が1杯10元前後のドリンクを88元もの高値で転売したり一時5時間以上もの行列ができたりした。

さらにブランドの見え方も特徴だ。
茶顔悦色は商品名、ロゴ、カップ、ポスター、店頭デザインに中国古典風の美意識を取り入れている。
扇を持つ古装女性のロゴ、古典風の商品名、絵巻や古典絵画を思わせるカップデザインによって、普通のミルクティーを“古典風の茶飲体験”として見せている。

また、ドリンク以外にも文化性のある雑貨や周辺商品を数多く展開し、湖南博物院や書店、地域の工芸・文化資源とのコラボも行っている。
茶顔悦色の文化系グッズは200種類を超えるという。
つまり茶顔悦色はミルクティーだけでなく、長沙で買う土産、写真に撮る体験、持ち帰る記念品まで含めてブランドを作っている。

全国どこにでもあるから強いのではなく長沙発であること、長く地域に根ざしてきたこと、そして古典風の世界観を一体で作り込んだことが価値になっている。
茶顔悦色は新茶飲を単なる飲み物ではなく、都市の記憶や観光体験と結びついたブランドにした代表例である。

ブランドについての余談(?)ではあるが、英語名がかなり癖の強い名前「Sexy Tea」から、かなりニュートラルな名前の「Modern China Tea Shop」に変わったのが両極端に感じたので調べたところ、2022年に古装女性のイラストロゴに「Sexy Tea」と併記されている看板に対して性的なイメージを感じて下品だという声がSNSで論争となり、「Sexy Tea」の名称を撤去した。

「Modern China Tea Shop」という英語名になった経緯は判明しなかったが、おそらく自社の世界観(古典・中国的美意識)に忠実な名前に着地したのではないだろうか。

19. 益禾堂 / YH.TANG

  • 大学生の日常から焦がしミルクティーを大衆的な定番商品にした中価格帯ブランド

2012年に武漢で創業。
2025年10月末時点で全国8,000店超、300都市超に展開している。

このブランドの出発点は大学キャンパス周辺の日常消費にある。
キャンパス市場を継続的に開拓し、学生が学校帰りや授業の合間に買いやすい価格と味で広がった。
iiMedia Researchより「大学生利用率」と「キャンパス普及率」に基づく新茶飲市場No.1ブランドの認定をそれぞれ受けたこともある。
8〜12元前後の手頃な価格帯は若い層の財布に合いやすく、地方都市や小都市にも入り込みやすかった。

益禾堂を代表する商品が焙煎された茶葉を使った焦がしミルクティー系の「益禾烤奶」だ。
キャラメルのような香ばしさとミルクティーの飲みやすさを組み合わせた商品で、益禾堂の定番として長く売れてきた。
近年はミントミルクグリーンティーなどのミントシリーズもヒット商品になっている。
ミントの清涼感は好き嫌いが分かれやすいが、「歯磨き粉っぽい」といじられたことを逆手に取って歯磨き粉ブランドやガムブランドとのコラボまで展開した。

学生街、若者、地方都市、手頃な価格、定番ヒット商品。そして少しふざけたマーケティング。
益禾堂は新茶飲を若い消費者の「いつもの一杯」にしたブランドである。

20. 爺爺不泡茶 / NO YEYE NO TEA

  • 武漢・湖北の茶や発酵素材を若者向けの“軽い中国茶体験”に変えた新世代茶飲ブランド

2018年に武漢で創業。
全国2,500店突破を掲げている。

武漢の商業施設地下に小さな店として始まり、当初は「爺爺泡的茶」という名前だった。
2022年に現在の「爺爺不泡茶」へ改名。
昔の武漢で親しまれた香り茶を着想源に、香りを軸にした中国茶飲ブランドへと作り替えていった。

このブランドの面白さは地域素材の使い方にある。
中国中部の茶産地・湖北の茶葉、孝感の米由来の発酵素材、武漢の花の香りなどを組み合わせ、「武漢の味」「湖北の味」を若い消費者が飲みやすい一杯にしている。
伝統茶をそのまま出すのではなく、ミルク、果物、発酵素材、花の香りと合わせて、現代のティードリンクにしているところが特徴だ。

代表商品が「ライチ氷醸」だ。
ライチ、烏龍茶、湖北・孝感の米由来の発酵素材を組み合わせた商品で、2024年には米発酵系ミルクティーの販売上位商品として紹介されている。
累計販売5,800万杯超とも報じられており、爺爺不泡茶が全国へ広がるうえでの強いヒット商品になっている。

ブランド名も面白い。
「爺爺不泡茶」は直訳すると「おじいちゃんはお茶を淹れない」。
伝統茶の重さを少し外し、どこか軽くて覚えやすい名前にしている。
古い茶文化をそのまま守るのではなく、若い人が入りやすい言葉と商品に変えている。

2024年の北京出店時には大きな行列を作った。
北京進出後も、武漢ジャスミンや咸寧のキンモクセイなど、地域性のある商品が注目されている。
爺爺不泡茶は武漢ローカルの素材を全国の若者が飲めるティードリンクにしたブランドである。


番外:海外発ブランド

今回の20社は中国発ブランドに絞った。
ただし中国カフェ市場を語るうえで外資・海外発ブランドを完全に外すことはできない。

スターバックスは中国に「カフェで時間を過ごす」という体験を持ち込んだ。
約8,000店を展開。
2025年には中国事業の最大60%を博裕資本が持つ合弁へ移すことで合意し、2026年に取引を完了した。Starbucksは40%を保持しながらブランドとIPをライセンスする形になった。
スターバックスほどのブランドでも、ローカル資本との共同運営を選ぶ段階に入った象徴的な出来事だった。

% Arabicaは中国で数十店規模だが、上海・武康路でカフェを「撮りに行く目的地」にした代表格だ。

カナダ発のTims Chinaは2025年末で1,047店。
2025年の純増は25店にとどまり純損失は4.36億元だった。
コーヒーとホットスナックの組み合わせで中国市場に挑んでいるが、成長ペースと収益性の両面で苦戦している。

アメリカ発のPeet’sは全国約40都市・約300店規模。
価格戦争に正面から入るのではなく、品質とブランド価値を前面に出す高価格帯ブランドとして一定の存在感を持つ。

Blue Bottleは都市型スペシャルティコーヒーの象徴として中国市場に入ったが、2026年には中国事業をめぐりLuckin Coffeeの大株主でもあるCenturium Capitalへの売却合意が報じられた。
Blue Bottleは海外発ブランドでありながら、中国コーヒー市場の主役交代を象徴するブランドにもなった。

スターバックスや%Arabicaのような海外発ブランドは、中国のカフェ文化を形づくるうえで大きな役割を果たしてきた。
現在も市場に残る存在感はある。

しかし、店舗数、価格競争、ミニプログラム運用、商品開発、都市への浸透力、加えてスタバの合弁やBlue Bottleの買収の動きを見れば、市場を動かす主役は中国発ブランドへ移ってきていると言える。

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クロス観察:20ブランドから見えた中国カフェ・ティードリンク市場の構造

20ブランドと番外の海外発ブランドまで並べると、中国のカフェ・ティードリンク市場は単に「店舗数が多い」「価格競争が激しい」というだけでは捉えきれないことが見えてくる。

同じ一杯の飲み物でも裏側にある勝ち方はまったく違う。
モバイルオーダーでデータを集めるブランド、巨大な供給網で安さを作るブランド、香りや空間で選ばれるブランド、地域性を観光体験に変えるブランド。
この章では個別ブランドを横断して見えてきた市場の構造を整理しておきたい。

1. もはや「茶かコーヒーか」では分けられない

中国のカフェ・ティードリンク市場でまず感じるのは、茶とコーヒーの境界がかなり薄くなっていることだ。

コーヒーチェーンはココナッツラテや創作コーヒーのように、コーヒーをミルクティーやデザートドリンクに近い形へ広げている。
一方で新茶飲チェーンは、MIXUE、古茗、ChaPandaのように既存の店舗網にコーヒーを載せ始めている。

消費者にとって大事なのはそれが厳密にコーヒーかお茶かではなく、いま飲みたい味か、近くで買えるか、価格が合うか、見た目や気分に合うかである。
中国市場では「カフェ」と「ティードリンク」は日常飲料の中で重なり合うカテゴリーになっておきており、消費者の生活動線を取り合っている。

だからこそ、コーヒーチェーンと新茶飲チェーンを一緒に見ることで、中国の都市生活における「一杯」の競争が見えてくる。

2. 価格競争の正体は安売りではなく仕組みの競争である

9.9元コーヒーや5〜10元の低価格ドリンクを見ると、中国市場は単なる安売り競争に見えるかもしれない。
だが実際には安く売れるブランドほど裏側に大きな仕組みを持っている。

Luckinはアプリ、ミニプログラム、クーポン、店舗オペレーションを本部側で強く握ることで、価格と販促を高速に動かしている。
MIXUEは原材料、包材、設備、物流を含む巨大な供給網によって低価格を支えている。
古茗やChaPandaは冷蔵物流や全国配送網によってフルーツティーや多品種の商品を大規模に回している。

つまり安さは単独の強みではない。
安く売っても壊れない構造を持っているかどうかが重要になる。

Cottiの9.9元キャンペーンの調整や加盟店採算の問題は低価格競争がどれだけ本部と加盟店の設計に左右されるかを示している。
Luckinはアメリカでは強みのモバイルオーダーを変えざるを得なかったし、MIXUEは日本で低価格を維持できていない。

中国の価格競争は表面上は一杯の値段の競争だが、実際には裏側の設計まで含めたシステム同士の競争である。

3. 店舗はどんどん軽くもなり、逆に体験のために重くもなる

中国のチェーンを見ていると店舗の考え方が大きく二方向に分かれている。

ひとつは店舗をできるだけ軽くする方向だ。
Mannerは小型店と高回転でオフィス街の日常導線に入り込んだ。
NOWWAはコンビニやホテルなど既存の小売インフラに入り、独立したカフェの箱を持たずに広がった。
Luckinも多くの店舗で長く滞在する場所というよりスマホで注文して受け取る場所として機能している。

もうひとつは店舗を体験の場として重くする方向だ。
M Standは一店ごとの空間デザインでコーヒーを撮影や滞在の体験へ広げた。
CHAGEEは茶葉の香りと中国美学を組み合わせ店舗やカップまで含めてブランド体験にしている。
HEYTEAのlab型店舗や、茶顔悦色の長沙体験もこの方向に近い。

大事なのは軽い店と重い店のどちらが正しいかではない。
何を売るのかによって必要な店舗の重さが変わるということだ。
日常の受け取り場所を作るなら軽さが武器になる。
ブランドの世界観や観光的な体験を売るなら空間の重さが価値になる。

中国市場ではカフェやティードリンクの店舗が「滞在する場所」だけでなく、「受け取る場所」「撮る場所」「並ぶ場所」「地域を体験する場所」へ細かく分化している。

4. フランチャイズモデルは増殖の仕組みを競う戦いになっている

中国の大型チェーンを語るうえで、加盟店モデルは避けて通れない。MIXUE、古茗、沪上阿姨、ChaPandaのような新茶飲ブランドは、加盟店を通じて巨大な店舗網を作ってきた。
Cottiや幸运咖も低価格コーヒーを一気に広げるうえで加盟店モデルを活用している。

ただし加盟店モデルは、ブランドの味、価格、接客、見た目、販促、原材料供給をどこまで本部が整えられるかが問われる。
加盟店に看板だけ渡しても同じ体験は再現できない。

MIXUEが強いのは加盟店に供給する原材料や包材、物流、商品設計までを握っているからだ。
古茗やChaPandaも物流網があるから多店舗展開が成り立っている。

一方でCottiのように急拡大と低価格補助が重なると、加盟店採算とのバランスが大きな論点になる。
ニューヨークの茉莉奶白のように仕組みだけ抜かれて独立されてしまうなどのリスクも存在する。

精品コーヒーの領域でも同じ問いが出ている。
代数学家は個人店的になりやすい精品コーヒーを、加盟店も含めて運営できる店舗フォーマットにしようとしている。
これは低価格チェーンとは別の形だが、「何を標準化し、何を本部が支えるか」という意味では同じ問題に向き合っている。
Grid Coffeeも直営とはいえ、チェーンで再現できる品質のコーヒーを追求している姿勢は加盟店モデルと同じ問題に向き合っている。

万店をも超える中国市場のチェーンビジネスでは、単なる出店競争ではなく、ブランドを再現しながらの増殖の仕組みを競う戦いになっている。

5. 地域性は制約ではなくむしろ差別化の源泉

今回20ブランドを並べて改めて感じるのは、中国のカフェ・ティードリンク市場は大都市だけで動いているわけではないということだ。

LuckinやManner、M Standのように上海や大都市のオフィス街で強いブランドもある。
一方でMIXUEや幸运咖は地方都市や小さな街の生活圏に深く入り込んでいる。
古茗は浙江発で地域密度と物流を作りながら広がった。
沪上阿姨は上海発でありながら、山東など北方や地方都市でも存在感を作った。
益禾堂は大学キャンパス周辺の日常から伸びた。
茶顔悦色は長沙という都市との結びつきそのものをブランド価値にした。
爺爺不泡茶は武漢・湖北の素材や記憶を若者向けの一杯に変えている。

つまり、中国の消費市場は「大都市のトレンドが地方へ降りていく」だけではない。
それぞれが巨大な市場をかかえる地方都市や地域の生活シーンから生まれたブランドが、全国ブランドになることもある。
地域性は制約ではなくむしろ差別化の源泉になっている。

日本から見ると北京・上海・深圳のような大都市の変化に目が行きやすい。だが中国のカフェ・ティードリンク市場の本当の厚みは、その外側にある生活圏まで含めて見ないと掴めないようだ。

6. 強いブランドには覚えられる入口がある

これだけブランドが多い市場で選ばれるには単においしいだけでは足りない。
強いブランドには消費者が一言で覚えられる入口がある。

Luckinなら安くてでかい生椰拿铁(ココナッツラテ)。
MIXUEなら安いアイスクリームやレモン水と雪だるまのキャラクター。
CHAGEEなら茶葉の香りと伯牙絶弦(ジャスミンミルクティー)。
茉莉奶白なら花やジャスミンの香りと白い世界観。
HEYTEAならチーズティーとフルーツティー。
茶顔悦色なら長沙と中国古典風デザイン。
沪上阿姨なら赤もち米や穀物の満足感。
益禾堂なら焦がしミルクティーにミントシリーズ。
爺爺不泡茶なら武漢・湖北の素材と軽い中国茶体験。

商品、香り、価格、空間、地域、キャラクター、名前。
入口の作り方はブランドによって違う。
だが伸びているブランドほど「何の店か」を消費者が覚えやすいセールスポイントがある。

中国市場では新商品投入のスピードが速い。
だが本当に重要なのはたくさんの商品を出しながらも、ブランドの記憶に残る軸を持てるかどうかだ。

7. 拡大の次のテーマは「続けられる形」になっているか

中国のカフェ・ティードリンク市場は今も成長している。
ただしもう単純に「店を増やせば勝ち」という段階ではない。

Seesawは中国精品コーヒーの先駆者だったが、現在は厳しい局面にある。Cottiは急拡大と低価格競争のなかで加盟店採算が問われている。
HEYTEAは店舗数競争から距離を置き、ユーザー体験とブランドへ戻ろうとしている。
Nayukiは大型直営店モデルの重さと消費行動の変化に向き合っている。
Tims Chinaも海外発ブランドとして中国市場に挑みながら、成長ペースと収益性の両面で苦戦している。

これは「中国市場が終わった」という話ではない。
むしろ市場が大きくなったからこそ、成長の質が問われる段階に入っているということだ。

どれだけ出店できるか。どれだけ安く売れるか。どれだけ話題化できるか。そこからさらに、どの価格帯なら続くのか、どの店舗モデルなら回るのか、どの加盟店設計なら無理がないのか、どのブランド体験なら飽きられないのかが問われている。

中国のカフェ・ティードリンク市場は成功例だけを見ると派手だ。
だがその裏側では急拡大の歪みやモデル転換も起きている。
勝ち筋が一つではなく、失敗や調整も含めて次の飲料チェーンの形が試されている市場に見える。


さいごに

今回20ブランドを整理して強く感じたのは、中国のカフェ・ティードリンク市場はひとつの流行ではなく、複数の勝ち方が同時に走っている市場だということだ。

低価格で日常に入り込むブランドがある。
精品コーヒーの品質をチェーンで再現しようとするブランドがある。
茶葉や花の香りをプレミアムな体験に変えるブランドがある。
地域の記憶や素材を若者向けの一杯に変えるブランドがある。
そしてそのすべての裏側に、データ、物流、加盟店、供給網、商品開発、店舗フォーマットの設計がある。

日本から中国市場を見ると、どうしても「安い」「速い」「店舗数が多い」という部分が目立つ。
もちろんそれは大きな特徴だ。
だが本当に見るべきなのは、価格そのものではなくその価格を成立させる仕組みであり、店舗数そのものではなくその店舗を増やせる構造であり、流行商品そのものではなくそれをブランドの核に変える設計だと思う。

この市場は変化が速い。
半年後には店舗数も勢力図もまた変わっているかもしれない。
それでも2026年前半の断面として、この20ブランドを並べて見ることで、中国のカフェ・ティードリンク市場がどこへ向かっているのか、その輪郭は少し掴めた気がする。

次に上海や深圳、あるいはまだ行ったことのない中国の地方都市を歩くときには、その店がなぜその場所に、その形で存在しているのかまで見てみたい。
中国の一杯の裏側にはまだまだ学べる構造がある。

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チェーンブランド20解説の記事に出てきたようなチェーンを実際に上海で飲んでみた記事。また、そのようなチェーンと個人カフェで起きている創作コーヒーのトレンドを対比しながら描写しています。


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