「ミルクティー界のエルメス」人気の設計|CHARLIE TOWN紅茶公司【上海カフェ視察お店メモ】
上海・天安千樹というショッピングモールのCHARLIE TOWN紅茶公司で、タヒチバニラセイロンを飲んだ。26元(約600円)。
甘いのに紅茶の輪郭が濃く、一口目でうまいと感じた。
飲み物というよりデザートに近い。食後に一杯飲むと甘さの満足感がある。
最後にカップの底へ残った半凍結のミルクをスプーンですくって食べる構造まで含めて、一杯が作り込まれていた。

この店は中国のネットで「奶茶界爱马仕(ミルクティー界のエルメス)」と呼ばれている。
北京1号店は開業時に900人待ち、開業4分で注文1,000杯、転売屋まで現れた。
もっともこれは新都市上陸時の熱狂かもしれないが、実際に行ったお店も行列こそなかったが、夜にも関わらずひっきりなしに人が訪れ、デリバリーの受け取りが途切れなかった。
開店時だけではなく、日常の一杯として指名され続けている人気店と感じた。



紅茶しか売らない店がなぜここまで人気なのか。
調べていくと、この人気が幾層にも設計されたものだと分かってきた。
「1978年ロンドン」という発明
CHARLIE TOWNはブランドストーリーとして「1978年ロンドン生まれ」を掲げている。
ところが実際に生まれたのは2021年の上海である*。
茶業界で11年のキャリアを持つ創業者を含む、飲食業界のベテランチームが立ち上げた。
*一部ロンドンに起源をもつ、ロンドンにお店がある、という報道も見かけられるが、複数ソースで確認する限り根拠は見あたらず、ブランドの創作ストーリーをそのまま事実と誤解した報道と考えられる。
つまりこの英国らしさは歴史ではなく発明だ。
「1978年ロンドンの老舗紅茶商」という世界観。
「紅茶公司」という古風な社名。
クライン・ブルーの茶缶が壁一面に積まれ、白いテーブルと青いソファ、シャンデリアが並ぶ店内。
すべてが「老舗の英国紅茶商」というバーチャルな世界観を成立させるための道具立てである。
店舗全体が一つの紅茶商の舞台装置として作られている。
中国茶を東洋の物語で高級化したのがCHAGEEなら、CHARLIE TOWNは紅茶を西洋の物語で高級化した。
重要なのは世界観が空間・商品・カップ・包装まで一貫していることだ。
撮影スタジオとなる青い缶の壁
ではこの世界観はどうやって行列に変換されたのか。
鍵はあのクライン・ブルーの青い缶の壁にある。

中国の業態分析はこの壁を面白い言葉で説明していた。
「誰がどこから撮っても同じ色・同じ画角の写真になる、標準化された撮影背景」と。
小紅書(中国版インスタ)に投稿される写真がすべて「青い缶の壁と、一杯」という同じ構図になるので、投稿が増えるほどブランドの視覚的タグが増殖していく。
並べられた紅茶缶、シャンデリア、青と白の統一感、店舗の内装がそのままSNS投稿のテンプレートとして働いている。
これは上海視察#2でとりあげた「記号の仕掛け」の店内版だ。
映える店は上海にいくらでもあるが、CHARLIE TOWNは映え方まで規格化している。
立地が価格の意味を変える
1号店の場所は静安嘉里中心。
スターバックス、% Arabica、Blue Bottleが並ぶ、上海でも指折りの一等地だ。
その隣に紅茶専門店を置くと何が起きるか。
紅茶が高級コーヒーと同じ棚に並んで見える。
22〜38元(約600〜900円)という価格はミルクティーとしては高い。
だが「1978年ロンドンの紅茶商」が高級コーヒーの隣で出す一杯なら、同じ価格が「安く買える贅沢」に見えてくる。
数百元のアフタヌーンティーには手が出なくても、30元の「英国」なら毎週買える。
複雑なブランド設計を一言で伝えるラベルとして機能している「ミルクティー界のエルメス」という異名は、開店後にネットの側から与えられたものだ。
ブランドが自称したわけではないが、一度付いた異名は、以後は無料の広告として格付けを再生産し続けている。
設計が渾名を生み、渾名が設計を強化する循環になっている。
私自身も「ミルクティー界のエルメス」という異名に惹かれて足を運んだ。
一杯の紅茶を「口に含んだ瞬間、飲んでいる最中、余韻」で語る
もう一つ、この店には価格を支える理屈の柱がある。メニューの語り方だ。
茶のベースは5種。
メニューには各茶葉の産地とともに、味の説明は「前調・中調・後調」の三段階に分かれている。
香水が「つけた瞬間の香り、中心の香り、最後に残る香り」と時間差で語られるように、一杯の紅茶を「口に含んだ瞬間、飲んでいる最中、余韻」で語る手法だ。
ただの「セイロンティー」が、時間の流れを持った体験として描写される。スペシャルティコーヒー店で豆を選ぶ体験を、そのまま紅茶に移植した設計である。
客は「ミルクティードリンク」ではなく「本格的な紅茶」にお金を払っているという納得を持ち帰る。
そして商品がその語りを裏切らない。
着色料・保存料を使わず、ミルクも粉末の人工クリームではなく本物を使う「三无(三つの不使用)」を店頭に掲げる。

私が飲んだタヒチバニラセイロン系が、口コミでは「バニラアイスのようで茶が濃厚、甘さもくどくない」と評されていた。
体験としても同感である。
映えを入口にしながら、再訪理由を味で作れる構成になっている。
前回のぬいぐるみ記事で「強いカフェには、最初に目を向けさせる記号と、もう一度飲みたくなる商品が両方必要である。」と書いたが、まさにそれを体現している。
高級感演出を支える土台
もう一つの特徴がある。このブランドはかなり商品数を絞り込んでいる。
茶底(ドリンクのベースにする茶)は、セイロン、アッサム、正山小種、アールグレイ、ルイボスの5種。
それぞれにストレート・ミルクティー・トッピング入りの3形態で、基本メニューは15品前後しかない。
15品だから味の段階を一つずつ語り切れて、紅茶の本格派を演出できるし、茶葉の軸を5種類に絞ることで、仕込み、教育、在庫、品質管理を単純化しやすい。
持ち帰れるヒント
この店から持ち帰るべきは「人気は多層で設計する」という事実だ。
世界観(物語と空間)、拡散(規格化された映え)、格付け(立地と記号)、納得(語りと品質)、持続(絞り込まれた裏側)。
最も参考になるのは、それぞれを別々に作らず、同じ方向へ揃える考え方だ。
英国紅茶商を思わせる店なら、空間だけ英国風にするのでは足りない。
商品名、茶葉の産地、味の説明、カップ、包装、写真の背景まで一つの物語に入れる必要がある。
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次に読む一本
文中でも紹介した、上海カフェ視察で見た、店の外で人を惹きつけるブランディングの仕掛けをカフェの紹介とともに分析した記事は、CHARLIE TOWNのブランディングの仕掛けにも通じます。
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