野人先生1,300店急成長の理由|中国新茶飲が育てた市場にジェラートが乗った【ブランド解剖】
上海・豊盛里でカフェを視察しつつ、カフェの近接領域でもあるジェラート店へ。
そこで米粒の入ったジェラートを食べた。
商品名は「五常大米ジェラート」で、白いジェラートの中に米粒がそのまま残っている。
固さはリゾットの米くらいで、甘さは控えめ。
牛乳のコクの後から米の粒の食感が現れる。

食べる前には「米のジェラートとは何だろう」と期待が立ち、食べている最中には米粒の食感に驚き、食べた後には「なんと米粒が入っていて、あっさりした甘さ」と人に説明できる。
上海で飲んだり食べたりした中でも特に記憶に残った一つだった。
その店が中国で急拡大しているジェラートブランド「野人先生」である。
米粒ジェラートは現在のブランドを象徴する大ヒット商品だ。


2026年3月時点でその店舗数は1,300店を超え、中国最大規模のジェラート専門チェーンへ成長している。
第1号店から100店までには13年かかったが、100店から1,000店までは2年足らずだったという。
一方、2026年に入りCHAGEE、HEYTEA、Nayukiなど中国の大手新茶飲*ブランドが、相次いでジェラートを強化し始めた。
野人先生は新茶飲が育てた商業施設、価格帯、顧客層、加盟店人材を使って成長した。
そのジェラート市場が広がると、今度は新茶飲ブランドが自社の茶や果物をジェラートへ展開し始めた。
*新茶飲:お茶を素材と組み合わせる近年の中国のティードリンクのトレンドや、そうしたドリンクを扱うドリンク業態のこと
この記事では上海で食べた五常大米ジェラートを起点に、野人先生が十数年かけて作ったチェーンモデル、中国でジェラートが急成長した背景、そして2026年に野人先生が掲げた「東方Gelato」までを見ていく。
この記事で見ること
野人先生が13年間の準備を経て1,300店超へ拡大した仕組み
中国でGelatoが急成長した背景とCHAGEEなど新茶飲との関係
五常大米ジェラートに表れている「東方Gelato」の商品思想
※記事中の元の円換算は2026年8月4日時点のレートで計算
1. 米粒を残したことで商品が「説明できる体験」になった
米味のアイスや米粉を使ったスイーツなら日本にもあるが、野人先生の五常大米ジェラートは米粒を消さずに残している。
滑らかなジェラートの中へときどき固めの粒が現れる。
その食感によって普通のジェラートとは異なる体験が生まれていた。
米という食材から、食べる前にある程度の味は想像できる。
ただ、口にした瞬間に米粒の食感が予想との差を生み、食べ終えた後には誰かへその驚きを話せる。
その一連の流れまで作られている強い商品だと感じた。
五常大米ジェラートは現在の野人先生を象徴する商品の一つになっている。
五常は中国・黒竜江省にあるブランド米の名産地として広く知られる。
身近な食材へ産地の物語を加え、プレミアムな冷菓へ翻訳した商品である。
期待、味、食感、産地の物語が一つの商品体験としてつながっている。

2. 13年で100店、その後の2年で1,000店超へ
野人先生の創業は2011年までさかのぼる。
創業者の崔渐为は起業前にイタリア系の投資機関で約4年間働き、ジェラートの家族企業の買収や北京への出店に関わった。
イタリアでは地域ごとにジェラート店が存在する一方、大規模なチェーンは限られていた。
崔氏はジェラートを標準化し、大規模な店舗網へ広げる構想を持つようになったと説明している。
2011年、北京・五道口に「鮮果会」という小型店を開業。
果物を使ったソフトクリームから始まり、2015年には本格的なジェラート業態「野人牧坊」へ移行した。
成長速度は長く緩やかだった。
7年経った2018年時点でも全国約50店にとどまり、その後はコロナ禍の影響も受けた。
転機は2023〜2024年に訪れる。
2023年にフランチャイズ加盟展開を始め、2024年にブランド名を「野人先生」へ変更。
同年だけで300店以上を増やしたと創業者インタビューでは説明されている。
前の13年間で作った直営店の総数を1年間の出店数が上回った。
2025年には1,000店を超え、2026年には1,300店超へ達した。
最初の十数年で商品、原材料、製造機器、供給網、店舗オペレーション、出店基準を整え、その後に加盟店を通じて蓄積した仕組みを各都市へ複製する形となった。
野人先生の急成長はとても長い準備期間の上に成立している。
3. 「当日店内仕上げ・翌日への持ち越しなし」をチェーンで再現する
店舗の看板やアクリル板、ポスター等には「当天现做 拒绝隔夜」と書かれていた。
日本語にすれば「当日店内仕上げ・翌日への持ち越しなし」という意味になる。


ジェラートは一般的な工業製アイスクリームより空気を少なく含ませ、素材の味と密度を感じやすくする冷菓である。
店舗で少量ずつ作る店も多く、製造後の温度や時間によって食感が変わりやすい。
野人先生はこの出来立て感を全国の店舗で再現するため、中央側と店頭の工程を分けている。
牛乳などを使ったベースは中央側で殺菌・前処理し、冷凍状態で店舗へ配送。
店舗では解凍後、米、果物、ナッツなど各フレーバーの材料を加え、専用機器で撹拌・凍結して完成品へ仕上げる。
完成済みのアイスを盛り付けるだけの方式より店舗作業が多いが、原材料からすべてを店頭で作る方式よりは品質を揃えやすい。
中央で安全性と基本品質を揃え、店舗で最終的な味と食感を作る設計である。
夜9時以降の「1個買うと1個無料」
当日分を翌日へ持ち越さないため、毎日21時以降には1個買うと1個無料になる施策を行っている。
初期に商品が残った場合は商業施設の警備員や清掃員、スタッフへ配り、店舗ごとの需要を把握した後は製造量を調整していると説明している。
各店舗では製造から販売までをカメラで確認できる体制を敷き、従業員・消費者を問わず、翌日へ持ち越した商品の有効な証拠を提示した人に1,000元を支払う通報制度も設けているという。
この施策には複数の役割がある。
売れ残りの削減
夜間の来店動機
「翌日へ持ち越さない」という方針の可視化
学生や商業施設スタッフとの接点
SNSでの話題化
鮮度管理によって発生する在庫リスクを夜の集客へ変えている。
商業施設を中心にした「1357」モデル
創業者は標準出店モデルを「1357」と説明している。
商業施設1階のHEYTEAやCHAGEEの隣を優先
原材料を3時間以内に届けられる配送圏
約50㎡の店舗
1㎡当たり月7,000元(約16万円)の売上効率を目安
2026年4月時点の1,372店のうち1,148店、約83.7%が商業施設内にあった。
大都市(中国の区分でいう一線・新一線)が店舗の58.45%を占めている。
野人先生はすでに買い物、映画、外食、ティードリンクを楽しむ客がいる商業施設へ入り、その動線の中でジェラートを選んでもらうモデルを作った。
4. 中国で広がるジェラートと野人先生の位置
中国では店舗で仕上げて提供するジェラートが上海や北京、深圳、杭州など消費力の高い大都市を中心に広がっている。
中国のジェラート市場はコロナ前の2019年の54.3億元(約1,266億円)から2024年には122.22億元(約2,850億円)へと2倍以上に成長し、年平均成長率は17.62%と高い水準で推移している。
中国の冷菓市場はジェラート以外も含めて複数の層に分かれている。

野人先生は中国のジェラート専門チェーンでは最大規模で、中国ジェラート市場を先行している存在だ。
5. なぜ今、急成長したのか
野人先生の成長には複数の条件が重なっている。
新茶飲が「商業施設で20〜30元を払う習慣」を作った
野人先生創業者の崔氏は新茶飲業界が約10年間かけて市場を教育したことで、消費者に「商業施設を歩きながら一杯を持つ」習慣が生まれたと説明している。
その一方で、ティードリンクを繰り返し飲むことへの飽きも生まれ、同じ即時消費、同じ商業施設、同じ価格帯で新しい体験を提供するジェラートが選択肢に入ったという見方である。
これは創業者側の解釈ではあるが、第三者が整理した出店モデルでも、HEYTEAやCHAGEEなど新茶飲店の近くが有力立地として挙げられている。
新茶飲によって消費者は次の行動に慣れた。
商業施設でティードリンクを買う
一回20〜30元を払う
季節限定を試す
産地や素材の説明を読む
写真を撮りSNSへ投稿する
ブランドごとの新商品を追う
野人先生はこの消費習慣の上へジェラートを載せた。
新茶飲が加盟店人材も育てた
野人先生の創業者によると、加盟店の中にはティードリンク店を複数運営した経験を持つ事業者が多い。
出店場所、スタッフ教育、原価管理、商業施設との交渉、デリバリー、販促を経験した「職業加盟店」が、新しい業態としてジェラートへ移った。
野人先生は需要だけでなく、店舗運営を担う人材についても新茶飲市場の蓄積を活用している。
冒頭で「カフェの近接領域でもあるジェラート店」と書いたが、私が抱いていた印象は実態としても正しいようだ。
ジェラート機器の国産化が進んだ
創業者によればジェラート設備の国産化がチェーン展開の前提になったいう。
初期にはイタリア製の機器一式が60万元(約1,400万円)以上した。
現在は中国製機器の性能が向上し6万元(約140万円)程度まで下がった。
専用設備の価格が10分の1近くまで下がれば、加盟店の初期投資は大きく変わる。
製造機器の安定性も全国で同じ食感を再現するうえで重要になる。
崔氏は機器に不具合が残る段階では加盟展開を進められなかったと説明している。
「当日店内仕上げ」「天然素材」「小さな贅沢」が一つになった
野人先生の主力価格は28元(約650円)、ピスタチオなど一部商品は38元(約890円)である。
数元で買えるソフトクリームと比べれば高い。
一方、輸入高級ジェラートよりも量当たりの価格を抑えたと創業者は説明している。
130g・28元を基本に、高級感と手の届きやすさの中間を取った。
商品の価格には、
当日店内仕上げ
天然食材
地域の産地
高密度な食感
商業施設での体験
試食や接客
という説明が付く。
20〜30元(約460〜700円)のティードリンクを受け入れてきた消費者にとって、28元のGelatoは理解可能な「小さな贅沢」になった。
6. 新茶飲とジェラートの間に生まれた循環
野人先生と新茶飲の関係を一つの流れとして整理すると次の循環が見える。
第1段階:新茶飲が市場を育てる
HEYTEA、Nayuki、CHAGEEなどが、
商業施設
20〜30元の価格帯
新鮮な牛乳や果物
季節商品
SNSで共有する体験
加盟店運営
を中国全土へ広げた。
第2段階:野人先生が同じ商圏でジェラートを広げる
野人先生は新茶飲の近くへ出店し同じ客層と加盟店人材を取り込んだ。
創業者は自社のモデルを「表側はHEYTEAのように体験とブランドを磨き、裏側は蜜雪冰城(MIXUE)のように供給網とコストを強くする」と表現している。
ジェラートの専門性を保ちながら、新茶飲が作ったチェーン運営の方法を取り入れた構造である。
第3段階:ジェラート市場が拡大し、新茶飲が参入する
2026年、CHAGEE、HEYTEA、Nayukiなどがジェラートを強化した。
CHAGEEは茶葉とジェラートを組み合わせた「茶拉朵」を29都市・70店舗へ展開。
定番商品の伯牙絶弦、一抹山月などを18〜26元(約420〜610円)で販売している。


HEYTEAは「gelato lab+」を展開し、果物、茶、地域菓子を使った商品を投入。
Nayukiは「ジェラート烏龍アイスティー」などジェラートをティードリンクへ組み込む形で全国販売を始めた。
各社がジェラートに担わせている役割は異なる。

新茶飲とジェラートは原材料、冷蔵物流、商業施設、若い女性や家族という客層を共有している。
ティーブランド側はすでに持つ茶葉や果物、店舗網、会員基盤を使えるため、参入しやすい。
需要、人材、供給網、ブランド体験が両業界の間を相互に流れている。
新茶飲が消費習慣と店舗運営を育て、野人先生がジェラート専門チェーンを拡大し、その市場へ新茶飲が商品を持ち込む。
2026年のジェラートブームはこの循環の中で起きている。
7. 1,300店超の先で掲げた「東方Gelato」
2026年4月8日、野人先生は上海・東湖路の旗艦店開業に合わせ、ブランドを刷新した。
この時に正式に掲げた言葉が「東方Gelato」である。
ブランド側は長年の商品開発を整理した方法論として「東方Gelato」を説明している。
主な考え方は次の通りである。
中国やアジアなど東洋の食材を使う
土地と産地の記憶を商品へつなぐ
四季の変化を取り入れる
甘さや濃厚さを抑え、繰り返し食べやすくする
食材そのものの色や香りを生かす
当日店内仕上げを徹底する
ブランド公式発表ではイタリアンジェラートに多い濃厚さや高乳脂感に対し、野人先生は清らかさ、節度、食べ続けやすさ、日常への適応を重視すると説明している。
五常大米ジェラートにはこの考え方が分かりやすく表れている。
使うのは、中国の食卓で馴染みのある米。
産地名を商品名に残し、米粒の食感を消さず、甘さを控えめにする。
横文字のGelatoという形式に中国の土地、食材、味覚を入れる。
2026年のブランド刷新では五常大米や横県ジャスミン、仙居ヤマモモ、眉県キウイなどが「東方Gelato」を象徴する素材として紹介された。
原材料、製造工程、設備、販売方法まで含む「店舗仕上げアイスクリーム企業標準」の草案も発表している。
この転換には店舗拡大後の次の課題が表れている。
店舗数だけで差を作り続けることは難しい。
店舗仕上げジェラートを扱う競合も新茶飲から参入する企業も増えている。
野人先生は自社の商品群を「東方Gelato」という一つの思想で束ね、カテゴリーの説明役まで担おうとしている。
五常大米、ジャスミン、茶、果物、穀物など、中国の地域食材をどのようにジェラートへ翻訳するか。
1,300店を超えた野人先生は出店モデルの標準化からブランド思想の標準化へ進み始めた。
さいごに
上海で五常大米ジェラートを食べた時に最も印象に残ったのは滑らかなジェラートの中に残る米粒だった。
調べるほどその食感が「東方Gelato」という考え方を凝縮していることが見えてきた。
野人先生が掲げる「東方Gelato」は中国各地の食材、季節の移り変わり、控えめな甘さ、日常的な食べやすさを、一つの商品開発の基準にまとめた言葉である。
五常大米や横県ジャスミンといった地域素材をジェラートという世界共通のフォーマットへ移し替えている。
この思想を見てこれまで様々な観点で調べてきたCHAGEEを思い出した。
CHAGEEは龍井、大紅袍、プーアル、ジャスミンなどの茶を、現代的なミルクティーへ展開している。
中国茶の歴史や産地を、詩的な商品名、店舗空間、パッケージ、デジタル注文まで含めた「現代東方茶」の体験へ変えている。
私には両社が対照的な方向から同じ場所へ向かっているように見える。
CHAGEEは東方の茶を現代化する。
野人先生はジェラートを東方化する。
扱う商品は違っても、土地の素材や食文化を、現在の消費者が手に取りやすいチェーン商品へ翻訳する点は共通している。
伝統は味、香り、食感、商品名、空間、製造方法まで入り込み、ブランドを選ぶ理由になっている。
中国のカフェやティードリンクを見ていると「東方」という言葉が、古風な装飾の名前から、商品開発の判断基準へ変わり始めているように感じる。
どの土地の素材を使い、その特徴をどの食感で残し、現代の日常にどの価格と形で届けるか。
五常大米ジェラートの米粒はその問いに対する野人先生の答えだった。
上海で食べたジェラートは地域の食材を世界的なフォーマットへ翻訳する、中国ブランドの商品開発の現在地を見せてくれた。
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※ヘッダー画像は現地で撮影した写真をもとに、バナー用にAIで合成生成した画像であり、実際の店舗や商品とサイズなど同じものではありません。
主な参考・出典資料
次に読む一本
中国の新茶飲ブランドについてもっと詳しく知りたいならこの記事。
次の記事のC・D・E章が新茶飲ブランドの解説になっています。
東方思想が共通するCHAGEEのブランド戦略を知りたい場合はこの記事。
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