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「本格派」を伝える空間の設計|Captain George Flavor Museum【上海カフェ視察お店メモ】

上海・太原路の一角に、重厚な木の扉と窓の金文字が目を引くカフェがある。

Captain George Flavor Museum。
日本語にすれば「風味博物館」だ。
名前の通り「カフェ」ではなく「博物館」を名乗っている。

視察予定のカフェには入れていなかったが、見るからに豪華そうな外観が気になった。
Amapで調べるとカフェだったので、吸い寄せられるように入ってみた。

入り口に入ると重厚な店内の雰囲気と満席に近い人々に気圧され少し尻込みしたくなるようだった。
カウンターの背後には標本のようなガラス瓶がずらりと並び、木材、真鍮、黒い鉄の棚が空間を囲む。

カウンターで中国語のメニューをGoogle翻訳にかけ、一番上にあった40元(約935円)と上海にしては高めのホットアメリカーノを注文。

待っている間も、店内の雰囲気と周囲の客が飲んでいるコーヒーの器が美しく興味を惹かれる。
オペラのような音楽がずっと流れており、店内の厳かな雰囲気も相まって、昨年末訪れたスペインの聖堂のようだと思った。

運ばれてきた一杯の見た目はオーソドックス。
写真だとわかりづらいが、こちらのカップも美しい。
酸味のある一杯で、添えられたカードに書かれたフルーツの風味が確かに感じられた。

コーヒーを飲むというより、コーヒーの本格感を浴びる場所だった。
空間全体で「ここは詳しい」と伝えてくるような店だった。


世界タイトルより先に完成していた空間

Captain Georgeは中国南西部の貴州省・貴陽で生まれたコーヒーブランドだ。

創業者の彭近洋は2013年、高校時代の同級生3人とコーヒー豆の焙煎工房を立ち上げた。
彭本人やチームのメンバーは中国国内のコーヒー競技で実績を重ね、彭は2025年5月に手作業による抽出技術を競うWorld Brewers Cupで世界一になった。

現在の上海店は「世界チャンピオンの店」として知られている。
しかし店の設計は2023年7月に始まり、施工は2024年10月に完了していた。世界タイトルを獲得したのはその約7カ月後である。

店内に並ぶ瓶も、奥へ続く長いカウンターも、世界一という肩書きを強調するために後から置かれたものではない。
Captain Georgeが焙煎、豆の選定、抽出を通じて蓄積してきたものを、肩書きより先に空間へ変えていた。


「日常倶楽部」と「風味博物館」を使い分ける

Captain Georgeは貴陽を中心として複数店あるが、各店舗は同じ内装ではなく、店舗を大きく二つの型に分けている。
上海で始めた「風味博物館」と、貴陽の既存店を表す「日常倶楽部」だ。

日常倶楽部は地元のコーヒー好きが繰り返し集まる場所という位置付けだ。
常連同士が会話を交わし、軽い音楽の中でコーヒーを飲む。
店が担う役割は街の日常に寄り添うことにあり、彭はその気質を「陪伴」と表現している。
「陪伴」は「寄り添う」「そばにいる」のような意味の言葉だ。

一方の上海の風味博物館は、彭が理解してきたコーヒーの風味、美学、抽出方法、提供の仕組みを一つの空間へ集めた店だ。
豆、抽出器具、作業の流れに加え、音楽、照明、家具、スタッフの服装まで風味を表現する方向へ揃えている。
彭にとって風味博物館は、自分の考えるコーヒーを表現するための実験展示室に近い。

貴陽の日常倶楽部はすでにCaptain Georgeを知る人と長く付き合う場所である。
上海の風味博物館は初めて訪れた客へ、ブランドが何を研究し何を得意としてきたのかを一度の体験で伝える。

上海店の設計を担当したSome Thoughtsは上海を、世界でも競争の激しいコーヒー市場と位置づけている。
多くの有力店が並ぶ上海へ進出する際、通常の地域店を一軒増やすだけでは、貴陽で十年以上積み上げてきた専門性が伝わりにくい。
彭が自分の理解してきた風味や美学をすべて入れたと語る上海店は、ブランドの自己紹介を空間全体で行う旗艦店として設計されたと読める。

Some Thoughtsは「スペシャルティコーヒーは反効率であり、その本質は時間の価値を守ることにある」と説明している。
現代的で洗練された空間を避け、中古家具とエイジング加工の塗装で時間の蓄積を作ったのはその宣言を物理的に見せるためだ。
急いで飲む場所ではないと、内装と音が先に伝えてくる。

風味博物館は上海だけの一店舗で終わっていない。
2026年には貴陽の文化商業施設・阿雲朵倉にも同じ名称の店舗が開き、地域の客が風味と向き合う場所として運営されている。
上海店は、Captain Georgeが専門性を濃く見せるために作った店舗フォーマットの第1号だったことになる。


店の奥へ進むほど専門性が深くなる

約150平方メートルの上海店は、三つの空間に分かれている。

入口側には日常的にコーヒーを楽しむラウンジがあり、その先に豆の販売やブレンドを行うエリア、最も奥には競技会で使われる水準の豆を抽出するためのカウンターが置かれている。

客は自分の関心に合わせてコーヒーとの距離を選べる。
私のように入口でアメリカーノを頼むだけでもよく、豆を選びたい人は販売エリアへ進み、希少な豆や抽出方法まで知りたい人は奥のカウンターへ向かう。

空間の奥へ進むほどコーヒーとの関わり方が深くなる構造だ。
客が店内を移動しながら豆を見て、抽出を観察し、異なる風味へ近づいていく。
博物館の順路のように、コーヒーの専門性を段階的に体験させている。

重厚な空間は専門性を強く伝える一方、コーヒーに詳しくない客を緊張させる。私も入り口で思わず尻込みした。

店内の三段階の構成は、この入りづらさを調整する役割も果たしている。

入口には通常のコーヒーを注文できるラウンジがあり、専門的な豆や抽出は奥に置かれている。
初めて訪れた客はアメリカーノ一杯から参加できる。
関心が深まれば、次は豆を選び、その先の抽出体験へ進めばよい。

専門性を薄めて入りやすくするのではなく、専門性へ近づく段階を作る。
知識のある客だけを相手にせず、初心者にも入口を残す方法として参考になる。


標本棚が見せる「分類する力」

スペシャルティコーヒーの価値は完成した一杯からは見えにくい。

同じコーヒーでも産地、品種、精製方法、焙煎、挽き方、温度、抽出時間によって味は変わる。
店側が多くの豆を扱いそれぞれの違いを理解していても、その知識は形にしなければ客へ伝わらない。

Captain Georgeではカウンターの背後に標本のような瓶が並び、黒い収納棚や収納棚や見たこともない器具がある。

古材や古色を帯びた真鍮は長い時間をかけて蓄積してきた印象を作る。
黒い鉄製の棚と規則正しく並ぶ瓶は、精密さや分類する力を感じさせる。
設計側もこの棚を実用的な収納として使いながら、品質へのこだわりと緻密な分類を表すものとして位置づけている。

「私たちはコーヒーに詳しい」と壁に書く代わりに、知識の量と整理する力を棚の風景へ置き換えている。
あの標本棚を見た時点で、客は一杯の裏側に多くの選択と検証があることを理解する。


目に見えない風味を体験へ変える

私が注文したアメリカーノには、果実の名前を使って風味を説明するカードが添えられていた。
カードを見てから飲むと、漠然とした酸味が特定の果実に近い香りや味として意識される。
日本のスペシャルティコーヒー店でもスタンダードではあるが、コーヒーに詳しくない客にも、味を確かめるための手掛かりを渡す仕掛けである。

Google翻訳は4箇所誤訳があるので不正確

上海店には赤外線温度計も用意されており、客がコーヒーの温度と風味の変化を確認できるという。
彭近洋はこの店で行っていた温度による味の観察が、2025年のWorld Brewers Cupで「コーヒーの温度」をテーマにするきっかけになったと語っている。

風味は目で見ることができない。
そこでカードは味を捉える言葉を与え、温度計は時間によって味が変わることを数値で見せる。
豆を選び、抽出を観察し、温度の変化を待ち、味を言葉にするという「コーヒーの見方」まで体験に組み込んでいる。


持ち帰れるヒント

Captain Georgeから持ち帰りたいのは、客からは目に見えない専門性を内装で言語化する考え方である。

Captain Georgeが持っていたのは、豆を選び、分類し、焙煎し、温度を調整して抽出する力だった。
その力を、時間の蓄積を告げる重厚さ、棚、瓶、カウンター、器、カード、温度計、店内の順路へ分解している。

ティードリンク店が「茶の香り」を強みにするなら、茶葉を見せ、香りを確かめられるようにし、抽出する姿を見せ、器やカードでも香りを伝える方法がある。
「丁寧に作っている」と伝えたい店なら、客から工程が見える位置、商品を待つ時間、提供時の所作まで揃えた方が伝わりやすい。

もう一つの示唆はブランドの一貫性と、同じ内装の店を増やすことは同義ではないと位置付けた点にある。

Captain Georgeは地域の常連が集まる日常倶楽部と、専門性を集中的に見せる風味博物館を使い分けている。
家具や色は異なってもコーヒーと深く向き合う姿勢は共通している。

初号店、地域店、旗艦店がすべて同じ量の情報を背負う必要はない。
繰り返し使われる店には日常の居心地を置き、ブランドを深く知ってもらう店には素材、工程、器具、接客まで使って専門性を見せる。
店舗の役割に合わせて、伝える内容の濃さを変えられる。

私は歩いている途中にふらりと立ち寄っただけだった。
それでも店を出る頃には、Captain Georgeが本格的な店だと感じていた。
あの重厚な空間はブランドが十数年かけて積み上げたものを、客が目で見て飲める形へ翻訳していた。

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※ヘッダー画像は現地で撮影した複数の写真をもとに、バナー用にAIで合成生成したイメージ画像であり、実際の店舗の内装と同じものではありません。文中に掲載された画像が実際のものです。


主な参考資料

※記事中の元の円換算は2026年8月9日時点のレート(1元=23.39円)で計算


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上海カフェ視察お店メモシリーズを読みたい場合は、今中国で「ミルクティー界のエルメス」と呼ばれているCHARLIE TOWNに訪れ、考察した記事です。

上海の他のコーヒー店をもっと知りたい場合はこちらの記事を。上海の個人カフェに広がる創作珈琲を視察した記事です。


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