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英国「著作権とAI」進捗声明を読む政府推奨案が惨敗し、全件許諾への圧力が高まる2026年3月報告書に向けて雑感


0 はじめに

 英国で「著作権とAI」をめぐる議論が、ついに法律の中に居場所を得た。2025年6月19日に成立したData (Use and Access) Act 2025は、AI学習と著作権に関する政府の経済影響評価と報告書の作成・公表を、期限付きで義務づけた。さらに、その途中経過まで「進捗声明」として議会に提出せよと命じている。この手の手続的義務は、地味に見えて、政策を現実に引きずり出す強力な装置である。

 2025年12月、英国科学・イノベーション・技術省は、文化・メディア・スポーツ省および知的財産庁と共同で、「著作権と人工知能:データ(利用とアクセス)法第137条に基づく進捗声明」を公表した。内容は結論ではない。しかし、結論に至るまでに何を論点として固定し、何をエビデンスとして集め、どこに政治的爆弾が埋まっているかが、かなり露骨に読める。

 今回は、この進捗声明と、それを支えるData (Use and Access) Act 2025、そして元になった2024年12月のコンサルテーション文書を素材に、英国の「著作権×AI」政策がどこへ向かい得るのか、またどこでつまずきやすいのかを、雑感として整理するものである。

1 問題の所在

1.1 揺れ動いた英国のAI戦略

 英国のAI著作権政策は、二転三転してきた。当初、英国政府はテキスト・データ・マイニングに関して、商用利用を含めた広範な著作権例外規定の導入を提案していた。日本の著作権法第30条の4に近い、世界でも最もAI開発者に有利なアプローチである。しかし、2023年頃からクリエイティブ産業界からの激しい反発を受け、この方針は事実上撤回された。その後、知的財産庁主導による当事者間での自主的な行動規範の策定が試みられたが、権利者側とAI開発者側の溝は埋まらず、合意には至らなかった。

 こうした自主規制の失敗を経て、法的拘束力のある解決策を模索する中で制定されたのがData (Use and Access) Act 2025である。同法は、政府に対し、問題を先送りせず、明確なタイムラインを切って結論を出すことを求めた。

1.2 「どこでコピーが行われたか」という厄介さ

 英国の議論の面白さは、ここに国際私法由来のやっかいさが、政策文書のかなり早い段階から正面に置かれている点である。英国政府は、現行の不明確さが、主要AI開発者の英国での学習を妨げ、結果として英国法の保護が届きにくくなる、というストーリーを明示する。つまり、著作権者保護を語りながら、同時に「学習を国内に呼び込みたい」という産業政策を、正面から抱きしめている。

 この「国内に呼び込みたい」は、著作権の世界観からすると、やや不穏である。呼び込むためのルール設計は、往々にして例外や免責の方向へ引っ張られるからである。他方で、創作側の不満は「許諾も対価も透明性もない」に集約され、これを放置すると政治的に燃える。

2 Data (Use and Access) Act 2025の仕掛け

 同法の135条から137条は、法律が「政府に宿題を出す」構造をとる。

 第一に、成立から9か月以内に、政府が提示した4つの政策オプションについて英国国内の経済影響評価を公表し、議会に提出せよ(135条)。第二に、同じく9か月以内に、著作権作品がAIシステムの開発にどう使われているか、そしてAIのアウトプットも含めてどう扱うかについて、報告書を作って公表し、議会に提出せよ(136条)。第三に、その中間地点である6か月以内に、上記の進捗を議会に示せ(137条)。

 ここで妙に具体的なのが、136条の報告書の中身である。技術的手段や標準による利用・アクセス制御、ウェブクローラによるアクセス、開発者による情報開示、ライセンス、執行まで、論点リストが条文の中に並ぶ。立法が「論点の棚卸し」を条文化している。政策の迷走を防ぐ意味では賢いが、同時に、論点を増やすほど解決は遅れる。英国議会は、その遅れさえも期限で縛った。乱暴に言えば、「とにかく2026年3月までに答えを持って来い」である。

 さらに注目すべきは、この報告書が「英国内で開発されたAIシステムだけでなく、英国外で開発されたシステムについても考慮しなければならない」とされている点である。これは、AIモデルが国境を越えて提供される性質を考慮し、規制の抜け穴を防ぐための域外適用や輸入規制をも視野に入れていることを示唆している。

3 コンサルテーションと4つの選択肢

 2024年12月17日から2025年2月25日にかけて行われたコンサルテーションで、政府は4つの選択肢を提示した。

 Option 0は現状維持、著作権法および関連法を変更せず、現状のまま推移させる案である。

 Option 1は著作権保護の強化。AI学習において、いかなる場合も権利者の許諾を必要とするアプローチで、事実上、オプトアウトの余地を与えず、常にオプトインを求める方向性である。クリエイター側が最も望む形である。

 Option 2は広範なテキスト・データ・マイニング例外の導入。権利者の許諾なく、AI学習のためのデータ利用を認める例外規定を設ける案である。かつて英国政府が目指し、撤回した案の再提示である。

 Option 3は権利留保付きテキスト・データ・マイニング例外と透明性の確保。原則として例外を認めるが、権利者が自らの作品の利用を拒絶できる権利留保を認め、かつ透明性確保措置を講じる案である。EUのDSM著作権指令4条のアプローチに近く、英国政府はこのOption 3を推奨案として提示していた。

 政府としては、AI開発者のアクセスニーズと権利者の利益のバランスを取る現実的な解として、Option 3への着地を目論んでいたことは明らかである。

4 衝撃的なコンサルテーション結果

4.1 政府推奨案の惨敗

 進捗声明が示す回答傾向は、政府の好みと社会の好みがかなりズレていることを示す。合計11,500件を超える回答が寄せられ、そのうちオンライン回答サービスCitizen Space経由が10,112件、電子メール経由が1,400件以上であった。

 Citizen Space経由の回答における支持率の分布は、Option 1(全件許諾必須)が88%、Option 0(現状維持)が7%、Option 3(権利留保付き例外・政府推奨案)が3%、Option 2(広範な例外)が0.5%であった。1.5%は選好を明示しなかった。

 政府が推奨としたOption 3の支持率がわずか3%にとどまり、最も規制色の強いOption 1が9割近い支持を集めたことは、政策立案者にとって大きな誤算であったと推測される。AI開発者が望むであろうOption 2の支持は0.5%と、統計的には誤差の範囲に近い数字しか得られなかった。人気投票では、政府推奨案はほぼ惨敗である。

 もちろん、これは回答母集団の偏りを反映し得る。進捗声明も、創作産業側の反発の強さと、技術セクターがOption 3やOption 2を相対的に支持したことを述べる。回答の約3分の1(3,000件以上)が団体によるテンプレート回答であったことも影響している。

 とはいえ、政策プロセス上、このズレは無視できるズレではない。政府が最終的にどの道を選んでも、少なくとも一方の陣営から「民主的正統性がない」「透明性がない」「業界癒着だ」と殴られる未来が、既に見えている。

4.2 セクター間の深い溝

 分析によれば、クリエイティブ産業からの回答の大部分は、政府推奨のOption 3に強く反対し、Option 1を支持した。権利者側にとって、オプトアウト方式は「無断利用を前提」としており、機械可読な方法での意思表示の標準化や、すでに学習されたモデルからの削除(アンラーニング)の困難さを考えれば、実効性に欠けると判断したのであろう。

 創作産業側からは、ライセンスを成立させる前提として法定の透明性措置を強く支持する声が多かった。一方で、技術セクターは透明性について非立法・軽い規制を支持する傾向があり、ここにも深い溝がある。

5 「AIを使わずにAIを読んだ」という分析手法

 進捗声明の中で特に目を引くのは、政府が「コンサル回答はAI等の自動化ツールを使わず、人が読んで分析する」と約束し、そのために知的財産庁が約80名の政策担当者・分析官からなるタスクフォースを作った、という記述である。

 この人力宣言は、手続的正統性の確保として理解できる。AI学習をめぐる争いの中心には、「勝手に吸われた」「何に使われたか分からない」という不信がある。その状況で、政府が回答分析までAIでやれば、火にガソリンを注ぐ可能性がある。だからこそ、あえてコストを払って人力にしたのだろう。

 ただし、人力分析が万能という話でもない。大量回答のテーマ別コーディングは、結局のところ、分類の基準を誰がどう作るかに左右される。人がやっても恣意性は残る。むしろ重要なのは、分類基準の透明性、反証可能性(第三者が再現できるか)、どの程度の精度で政策判断に使うのか、である。進捗声明は品質保証に触れるが、最終報告書でどこまで方法論を開示するかが見ものである。

6 専門家ワーキンググループの検討状況

 政府は実務的な解決策を模索するために4つのテーマ別専門家ワーキンググループを設置した。進捗声明では、2025年11月から12月にかけて開催された各ワーキンググループの議論の内容が紹介されている。これらは、単なる法改正の是非を超えて、実務的なインフラストラクチャーをどう構築するかに焦点が当てられている。

 第一に、管理と技術標準のワーキンググループが2025年11月25日に会合を開催した。権利者がコンテンツの利用を管理するための技術的ツールや標準の有効性が検討されている。robots.txtのような従来のクローリング制御技術の限界や、AI学習阻害ツールの扱い、そしてそれらの採用や遵守を促進するために法規制やガイダンスが必要かどうかが議論されている。

 第二に、情報と透明性のワーキンググループが2025年12月2日に会合を開催した。AI開発者に対し、どのような透明性義務を課すべきかが検討されている。学習データセットのサマリー開示やクローラーの開示などが具体的な検討事項として挙げられている。

 第三に、ライセンスのワーキンググループが2025年12月4日に会合を開催した。現在のライセンス市場の強みと弱み、特に小規模クリエイターにとっての課題を検討している。もしOption 1の方向に進むのであれば、インターネット上の膨大な著作物について個別に許諾処理を行うことは不可能に近いため、実効性のある拡大集中許諾制度などのメカニズム構築が不可欠となる。

 第四に、クリエイターへの広範な支援のワーキンググループが2025年11月24日に会合を開催した。著作権法の枠組みを超えて、AI時代におけるクリエイティブ産業に対する追加的な保護や支援策を検討している。

 これらのワーキンググループには、音楽、出版、映画、視覚芸術、ゲーム、集中管理団体、研究者、テクノロジー企業などから50名以上の専門家が参加している。

7 Option 3(例外+権利留保)の実装地獄

 政府が好んだOption 3は、コンセプトとしては美しい。「権利者が留保したものは使うな。留保していないものは、合法アクセスの範囲でデータマイニングしてよい。その代わり透明性を厚くする」。英国のコンサル文書は、この仕組みをEUのDSM指令4条のモデルに近いものとして位置づけ、EUにおける運用の不確実性にも言及する。

 しかし、このモデルは実装が難しい。コンサル文書自身が、権利留保が有効とされる形式がEUでも必ずしも明確でないと述べ、英国でやるなら機械可読で、できる限り標準化された形式で留保すべきだと提案する。

 さらに厄介なのは、同じ作品が複数の場所・複数のコピーで流通し、留保表示が付いたコピーも付いていないコピーも存在し得る点である。その場合、留保の効果をそのコピーに限定してよいのか、それとも作品全体に波及させる努力義務を課すのか、という難問が立つ。

 結局、Option 3は法律だけでは動かない。技術標準、クローラ運用、メタデータ、レジストリ、そして紛争解決や監督の仕組みがセットで要る。英国コンサル文書は、robots.txtやメタデータによる制御、AI企業・データセット提供者による通知制度、第三者レジストリなどに触れつつ、標準化の不足を認める。ここが最大のボトルネックである。

8 透明性義務をめぐる攻防

 透明性は、権利者側にとっては救済の入口である。何がどこで使われたかが分からなければ、権利行使は空振りに終わる。進捗声明でも、創作産業側が、ライセンスを成立させる前提として法定の透明性措置を強く支持したことが述べられる。

 一方で、透明性はAI開発側にとっては営業秘密と安全保障に接続する。どのデータセットをどう調達し、どうフィルタし、どう学習したかは、競争の中核である。透明性が厚くなるほど、コンプライアンス費用と情報漏えいリスクは増える。技術セクターが非立法・軽い規制を好む傾向が出たのも、ここに理由がある。

 だから、透明性は程度問題であり、開示の粒度(粒が細かいほど危険)、開示先(一般公開か、規制当局・信頼できる第三者か)、開示タイミング(事前か事後か)、そして例外(安全保障・機密)をどう設計するかが核心となる。Data (Use and Access) Act 2025の136条が「開発者による情報開示」を、しかもウェブクローラによるアクセス態様まで含めて検討対象にしているのは、まさにこの難所を外さないためであろう。

9 市場設計としての問い

 Option 1(全件許諾)には、倫理的には分かりやすい魅力がある。「権利者のものは権利者のもの」。しかし、コンサル文書自身が、全件許諾型は英国の競争力を損ない得ること、国外で学習されたモデルが英国市場に入ることをどこまで抑えられるか等の課題を挙げる。極端化すれば、「英国はクリーンだが、強いモデルが来ない」という未来もあり得る。

 ここで重要なのは、ライセンス市場が実際に回るかである。大企業同士の包括契約は作りやすいが、個人や小規模権利者、学習データの長い尾まで含めてスケールさせるには、集団管理や標準契約、そして技術標準が必要になる。コンサル文書は集団ライセンスにも触れ、権利留保モデルがライセンス市場を促進し得ると説明する一方、EUでライセンスがどの程度進んだかは不透明だとも述べる。つまり、制度設計の成否は、法律条文よりも市場インフラの出来に依存する。

10 日本法との対比

 翻って日本は、著作権法第30条の4により、原則として無許諾でのAI学習を認める「世界で最もAIに寛容な国」の一つである。英国の分類で言えばOption 2に近い。

 しかし、英国のコンサルテーションでOption 2の支持がわずか0.5%であったことは、日本の現行法制がいかに権利者サイドから見てラディカルなものであるかを逆説的に示している。88%がOption 1を支持したという結果は、少なくとも英国において、日本型のアプローチがほとんど受容されないことを意味する。

 英国が2026年3月に出す結論次第では、日本の位置づけが際立つ一方で、国際的な著作権保護の潮流から孤立するリスクも孕んでいる。特に、英国法が英国外で開発されたAIにも規制の網をかけようとしている点は、日本のAI開発者にとっても対岸の火事ではない。英国市場でビジネスを行う場合、日本で適法に開発されたモデルであっても、英国基準の透明性義務やライセンス証明を求められる可能性がある。

11 おわりに

 進捗声明は、2026年3月18日までに、報告書と経済影響評価を議会に提出すると明言する。ここから先の観測点は、少なくとも次の四つである。

 第一に、政府がOption 3の哲学を維持するのか、それともOption 1の政治的圧力に寄せていくのか。第二に、権利留保の技術標準と透明性の実装を、誰が、どの手段で、どの程度強制するのか。民間標準か、法定標準か、規制当局か。第三に、域外で学習されたAIシステムを含めて検討せよという同法136条の要求を、どのように現実的な提案に落とし込むのか。第四に、「AIを使わない分析」を選んだ政府が、最終報告書ではどこまで方法論とデータを開示し、争点を争える形で提示するのか。

 結局のところ、英国の新機軸は、何らかの結論そのものではなく、「結論に至るためのプロセス」を法律で拘束した点にある。ここに、AIガバナンスの一つの方向性がある。実体規制をいきなり書き切れないなら、まずは期限付きの説明責任を法律で固定する。問題を先送りする自由を奪う。政策担当者にとっては胃が痛いが、社会にとっては意外に健全な設計かもしれない。

 パブリックコメントで示されたOption 1への圧倒的な民意と、政府が掲げるAIイノベーションの促進という国策との間で、どのような着地点を見出すのか。単なる権利かイノベーションかの二項対立を超えて、透明性の確保と適正な対価還元を可能にする技術的・制度的インフラが提案されるかどうかが鍵となる。

 引き続き、英国の動向を注視する必要がある。

(参考) AIと著作権



Department for Science, Innovation and Technology, Intellectual Property Office, and Department for Culture, Media and Sport, Copyright and Artificial Intelligence: Statement of Progress under Section 137 Data (Use and Access) Act (December 2025)
https://www.gov.uk/government/publications/copyright-and-artificial-intelligence-progress-report/copyright-and-artificial-intelligence-statement-of-progress-under-section-137-data-use-and-access-act

Data (Use and Access) Act 2025 (c.18) (19 June 2025)
https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2025/18/pdfs/ukpga_20250018_en.pdf

Intellectual Property Office, Department for Science, Innovation and Technology, and Department for Culture, Media and Sport, Copyright and Artificial Intelligence: Consultation (closed consultation) (17 December 2024)
https://www.gov.uk/government/consultations/copyright-and-artificial-intelligence

Intellectual Property Office, Department for Science, Innovation and Technology, and Department for Culture, Media and Sport, Copyright and AI: Consultation (CP 1205) (December 2024)
https://assets.publishing.service.gov.uk/media/6762c95e3229e84d9bbde7a3/241212_AI_and_Copyright_Consultation_print.pdf

Directive (EU) 2019/790 of the European Parliament and of the Council of 17 April 2019
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2019/790/oj/eng

(マガジン)「AIと法-雑感」

 ※目次は以下を参照

note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。

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