最新科学が解き明かす「大丈夫な痛み」との向き合い方大全 ①—— 臨床経験25年、150本の論文から導き出した「仕事の成果を変える」新常識
#創作大賞2026 #ビジネス部門
はじめにお読みください:これは記事ではなく、一冊の「挑戦」です
この記事は5,000字を超えるボリュームがあります。それは、整形外科医としての四半世紀(25年)におよぶ臨床経験と、150本以上の最新論文から得た知見を、一切の妥協なく凝縮したからです。
今回、「創作大賞2026」への応募にあたり、日々の診察室だけでは伝えきれなかった「大丈夫な痛み」の真実をすべて注ぎ込みました。10分間の読書が、あなたのこれからの人生における「痛み」との向き合い方を劇的に変える。そんな確信を持って執筆した、本気の一冊の「設計図」です。
あなたの、そしてあなたのチームの未来をアップデートする「5,000字の旅」へ。どうぞ最後まで目撃してください。
第1章:序文 —— 「一般攻撃魔法」から「魔導書」への旅路
「なぜ、湿布を貼っても、ストレッチをしても、この痛みは消えないのか?」
2002年に整形外科医としてのキャリアをスタートさせてから、気づけば四半世紀が経とうとしています。 私は診察室で、数えきれないほどの上記の問いに向き合ってきました。 手術で劇的に改善する方がいる一方で、最新の医療を尽くしてもなお痛みに縛られ、仕事や生活の質を落としてしまうビジネスパーソンが少なくありません。もちろん、アスリートやご高齢の方も。
私自身、かつては「痛みの原因は、骨や関節の変形にある」と信じて疑いませんでした。 しかし、臨床の現場で限界を感じる中で出会ったのが、世界基準の最新科学「ペインサイエンス(痛みの科学)」という衝撃でした。 それは例えるなら、「一般攻撃魔法(ゾルトラーク)」しか持たなかった私が、世界の理を書き換える強力な魔導書を手に入れたような感覚でした。
かつては一部の専門医にしか許されなかった手術手技が、今や標準的な「一般攻撃魔法」として普及したように、痛みへの理解もまた、アップデートされるべき時が来ています。 最新の査読付き論文が解き明かしたのは、痛みは決して「体の組織の損傷」に対するアラートというだけではなく、脳の仕組み、心理的ストレス、さらには「職場の人間関係や組織のあり方」までもが複雑に絡み合って生じる「生物心理社会的(BPS)モデル」であるという事実です。
私が読み解いてきた150本以上の最新論文と25年の臨床経験を凝縮し、個人のケアから組織のマネジメントまでを網羅した「痛みの新しい教科書」を、ここから紐解いていきましょう。
第2章:理論編① オオカミ少年が教える「痛みの警報システム」
本来、痛みは「体に危険が迫っている」ことを知らせる有益なアラート(警報)です。 この仕組みを理解するために、イソップ寓話の「オオカミ少年」を思い出してください。
ある村の少年(侵害受容器)が、オオカミ(侵害刺激)を見つけて「オオカミが出たぞ!」と叫ぶと、村の指令所(脳)は、村人たちが武器を持って助けに駆けつけられるように、アラートを出します。 これが「急性痛」の正体です。 体の中では自律神経のうち交感神経が活性化し、ダメージ現場では「体の工事(修復作業)」である炎症が始まります。 このプロセスで放出される化学物質が神経の感度を高め、普段なら痛くない軽い接触さえも「痛み」として感知させます。村人たちを効率よく現場に届けるために、道路(血管)が拡張され、道路から現場への入り口も開きます(血管透過性亢進)。これが炎症による発赤、熱感、腫脹が起こるメカニズムです。
そして、通常、オオカミが退治されれば少年は静かになります。 しかし、もしオオカミが去った後も、少年がパニックに陥り「オオカミが出たぞ!」と叫び続けてしまったらどうなるでしょうか?あるいは、オオカミをなかなかやっつけられなかったら、もしもオオカミが何度も何度も頻繁に訪れる状況だったらどうでしょうか。少年は、オオカミがいるかいないかも確かめもせず、近くの草むらが風でガサガサとしただけで「オオカミが出た!」と言ってしまい、その声は伝令役(末梢神経)によって村の指令所(脳)まですぐに何回もいつまでも伝わり続けてしまいます。オオカミが実際にはいなくても。
これが末梢感作(Peripheral Sensitization)と呼ばれる状態です。 そして、さらに事態が悪化すると、村の指令所(脳)自体が超警戒態勢を解かなくなる中枢感作(Central Sensitization)へと移行します。 オオカミはもういないのに、脳は「過保護」なまでにあなたを守ろうとしすぎ、警報を鳴らし続けてしまう。 これが慢性疼痛の本質的なメカニズムなのです。
つまり、急性疼痛の慢性化を防ぐには、急性痛を急性痛のうちにできるだけ早く抑えることが大事です。村の少年がパニックを起こす前に、羊飼いの少年がガサガサという音でもびっくりしてしまうくらい臆病になる前に、我々は鎮痛薬でもプラセボでも、必要であれば手術をしてでもできるだけ早くオオカミがいない状態にする、あるいは場合によってはオオカミをすぐに排除できないのであれば、「オオカミが出たぞ!」という情報が村の指令所(脳)に伝わらなくすることで村の指令所が無益な超厳戒警戒態勢を取るのを防ぐ手段が必要かもしれません。
それでも、オオカミ(侵害刺激)がないのに痛み(脳からのアラート)が3か月以上も続く慢性疼痛が起こってしまうのをゼロにはできません。
第3章:理論編② だまし絵が示す「脳の解釈」という現実
脳がいかに「事実」ではなく「解釈」によって痛みを作り上げているか。それを象徴するのが、エドワード・アデルソン教授による「錯視図形(だまし絵)」です。
同じ色のタイルAとタイルBが、周囲の影の影響で全く違う色に見えてしまう。 脳が「状況」を判断し、情報を勝手に補正して見せているのです。 痛みもこれと同じです。 画像検査で「異常なし」と言われても、脳が「これは危険な状態だ」と解釈していれば、あなたは間違いなく痛みを感じます。
「誰が何と言おうと、あなたが痛いと感じているのは事実です。しかし、その痛みは、必ずしも体への差し迫った危険を意味するものではありません」
私はこれを「大丈夫な痛み」と呼んでいます。 脳が「だまし絵」を見せているのだと理解できれば、痛みがあっても動いていいという新しい確信が生まれます。 その確信こそが、過敏になった脳を安心させ、警報を鎮める鍵となるのです。
しかし、下記のリンクからだまし絵自体を見て頂ければ分かると思いますが、これはだまし絵ですよ、実際は同じ色ですよ、と言われてもなお、あなたは、あなたの脳は、そのAとBは違う色だと解釈し続けます。痛みも同じです。その痛みの原因(オオカミ、侵害刺激)もう去っていますよと言われてもなお、そう簡単に脳は解釈を変えてはくれません。痛いものは痛いんです。だから我々は決してあなたの痛みを、気のせいだなんていうつもりはありません。何度でも言いますが、誰が何と言おうと、あなたが痛いと感じているのであれば、それは痛いんです。ですので、その痛みが本当にあなたの体に危険が迫っているアラートなのか、そうではない「大丈夫な痛み」なのかをまず我々はしっかり確かめる必要があります。そのために身体診察をしたり、画像検査や血液検査などの精査を行います。
第4章:実践編 —— 「大丈夫な痛み」と知ることで人生を動かす
脳の勘違いによって鳴り続ける「大丈夫な痛み」に対し、私たちが陥りやすい最大の落とし穴が「不動化(ふどうか)の罠」です。
痛みを感じる部位を動かさない「回避行動」を続けると、筋肉や関節が硬くなり、血流が滞るだけでなく、脳の痛みアラートはさらに過激になります。 すると、さらに動くのが怖くなり不動化がすすむ、そうすると余計に血流は悪くなり痛みを伝える物質はその場にとどまる、そうするともっと脳は痛みアラートを強く出す、という悪循環に陥ります。
これを打破する「ストレッチ」の本質は、単に筋肉を伸ばすことではなく、「この範囲まで動かしても、体は壊れない」という事実を脳に再学習させるという教育の効果もあります。ストレッチに関しても近年多数の論文が報告されており、私のnoteでも多数ご紹介しておりますが、正しく行うことで関節可動域がよくなること、それは筋肉そのものが柔らかくなる効果も確かめられているだけでなく、関節を動かしたときの痛み耐性が強くなることも非常に多くの査読付き論文で示されています。
あなたの痛みが「大丈夫な痛み」と診断されたなら、ぜひ1か所当たり1回30秒×3回/日×週3回を目指して、まずは1回10秒×1回/日×週1回からでも初めて見てみませんか。来月には20秒×2回/日×週2回に増やし、再来月には効果のある30秒×3回/日×週3回まで増やせるかもしれませんし、増やせなくても、ちょっとでも筋肉に刺激が加わることでマイオカインと呼ばれるホルモン様物質が痛みアラートの軽減だけではなく、様々な良い効果を生むことも報告されています。
先に述べたように、急性痛を急性痛のうちに何とかするために、あるいは、不動化による悪循環を予防する、あるいは不動化してしまった際に再び動ける体にするために、オオカミ(侵害刺激)がいる(ある)のであればそれを取り除く手術が必要な場合ももちろんあります。その手術にも私は直接関わっておりますが、場合によっては、人工関節置換術という物理的解決が必要な「本物の警報」に対して、侵害刺激(オオカミ)を排除したはずにもかかわらず、手術後も痛みが残るケースがあります。その際にも、その「痛み」がやはり体を壊す可能性のあるまだ検出できていない何かに対する「本物の警報」としてしっかり鳴っている可能性をまず考え精査を行いますが、それでもなお、オオカミ(侵害刺激)が無いことが分かればそれは、物理的な原因が消えても「脳の警報」が鳴り止んでいない、つまり「大丈夫な痛み」の可能性があります。 だからこそ、構造的な修復と「脳の説得」の両輪が必要なのです。
第5章:組織マネジメント編 —— 心理的安全性が「痛み」を消す科学
私たちは社会的な生き物です。 周囲の視線や職場の空気が、脳の警報スイッチを強制的に「ON」にし続けてしまうケースを、私は何度も目撃してきました。
エピソード①:職場の「空気」が変わった瞬間、痛みは引いた
ある患者さんは、はじめは股関節周囲の痛みで紹介となりましたが、詳しい検査とお薬や注射などの保存治療でそちらの痛みが落ち着き始めたころ、首から肩にかけての激しい痛みが実は今一番困っていることであると教えてくれました。そちらに関しても、何か組織のダメージを起こしているアラートなのかそれとも「大丈夫な痛み」なのかの精査や、お薬や注射などの保存療法を行っているうちに、ある業務を行う姿勢をすることで痛みが出やすいことが分かってきました。完全にお仕事を休むと症状はかなり良くなりますが、出勤するとまた痛くなってしまいます。そこで、その業務をしなくて済むように業務内容を調整して頂いたのですが、それでも症状は改善しません。詳しく紐解くと、周囲の同僚からの「他の人はその仕事もしているのに」となんとなくのプレッシャーを感じていたようでした。ご自身が感じてしまうのその空気が、脳の警戒態勢を最大に高めていたようなのです。 しかし、上司がその職場の雰囲気を察知し、うまく調整に入ってくれたことで、患者さんの痛みは徐々に徐々に軽減していきました。この痛みが体を破壊するアラートではないのだという再認識に加えて、「ここは安全だ」という脳への信号が、何よりの薬になったのかもしれません。
エピソード②:数年間の休職から、職場復帰を果たした「言葉の架け橋」
日常生活もままならないほどの痛みで数年間も休職し、解雇寸前だった方がいました。診療の中でまず我々が行うことは、患者さんが感じているその日常生活もままならないほどの痛みが、何か組織のダメージを起こしているアラートである可能性を考え精査を行います。その結果、上記のようなオオカミはなく、「大丈夫な痛み」であることが分かれば、それを患者さんと一緒に確かめていくことになります。ご本人はこの痛みが体を壊してしまう何かに対するアラートではなく「大丈夫な痛み」であることを認識して下さり、とは言え痛みは本物なので、その認識も含めて職場への配慮を求めていました。しかし、上司とのコミュニケーションがうまくいかず、不信感だけが募っていました。 それはそうです、上司の方や同僚の方もなかなか「大丈夫な痛み」という存在を理解して下さるのは難しいからなのです。(みんながその概念を知って下さると社会はもっとよくなるので是非この本、この記事を世に出したい。)そこで、病院から診断書という形式で「職場での具体的な配慮事項」を患者さんとご相談しながらかなり細かく作成し、文書で職場にお伝えしたところ、職場側がそれを受け入れ、体制を整えてくれました。数年ぶりに職場復帰を果たしたその方は、今、痛みは抱えつつもほぼフルタイムで働いています。
第6章:知の「狩猟採集」—— AIとのダイアローグで磨くリテラシー
人類の歴史の大部分は「狩猟採集」でした。 私たちは農耕で「自ら作る」以前に、自然の中から「価値あるものを見つける」という本能を刻まれてきました。私は現代の情報の海において、この「知の狩猟採集」を実践しています。
私は毎日、数千-数万本規模の最新論文の森へ出かけ、AI(LLM)という「知の狩猟犬」と共に獲物を探します。 AIとのダイアローグ(対話)を繰り返すことで、難解な専門用語を「患者さんの生活に届く言葉」へと翻訳し、キュレーションを行っています。
AIがコンテンツを生成する時代、大切なのは「AIが作ったか、人間が作ったか」ではなく、「その素晴らしい知見を利用して、いかに生活を豊かにできるか」という一点に尽きます。
私は収集した知見を、痛み・ストレッチ・人工関節などの手術・組織マネジメントの4つのカテゴリーに分類し、YouTube、X、TikTok、Spotify、そしてこのnoteを通じて社会へ還元することに挑戦しています。 これは、医療リテラシーという武器を社会全体で共有し、世界の「痛み」を少しでも軽減するためです。
このnoteが、皆さんの「知の狩猟採集」における狩猟犬となり、木の実を入れる籠(かご)となれば、これ以上の喜びはありません。
終わりに
ここまで読んでくださった皆さんに伝えたいのは、「痛みはコントロールできる」という希望です。 この「大全」が、あなたの、そしてあなたのチームの明日を変える一助となることを願っています。
