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【フェーズ3-4】 中途採用情報で、面接前に企業の本当の姿を知る。採用ページと中途JDが映す、その先のキャリア 【ITエンジニアの卵に贈る、就活の書】

 エンジニアを目指す学生のみなさん、こんにちは。クオリティアーツの池田です。

 ITエンジニアの卵に贈る、就活の書・フェーズ3-4の記事です。前回のフェーズ3-3では、2つ目の観点・技術発信のお話をしました。技術ブログ、登壇履歴、GitHub Organization、商業出版された技術書。企業ポートフォリオの技術文化面を、個別のチャネルごとに裏取りしてきました。

 今回はフェーズ3の3つ目の観点、採用ページ・中途JDの実践に入ります。これは、その技術発信の各チャネルをまとめて確認できる、もう一つの集約点です。採用ページ、そして中途採用のJD。この2つを丁寧に読むと、これまでのチャネルを1つ1つ探す手間が省けるだけでなく、新卒のJDだけでは見えなかった、その会社に入社した先の姿まで見えてきます。中途採用情報は、面接という対話の場に入る前に、企業の本当の姿を静かに映す情報源です。

 最初に、大切な前提をお伝えしておきます。採用ページの充実度や、中途JDの整備状況は、応募先を判断する絶対条件ではありません。専属の技術広報を置ける会社は、体力のある一部の会社に限られます。この記事で扱う観点は、あくまで「読み解くための道具」であって、「持っていない会社を機械的に落とすための基準」ではないことを、先にはっきりさせておきます。

 新卒の就活中の方はもちろん、第二新卒として他社の面接に臨む場面でも、そのまま使える内容です。


1. 採用ページは、技術発信をまとめて確認できる入り口

 フェーズ3-3で見てきた技術ブログ、登壇履歴、GitHub、書籍出版は、それぞれ別々の場所に散らばっています。実は、採用ページ(採用サイト、エンジニア採用特設ページ)の充実度そのものが、これらの発信をまとめて確認できる、いちばん手っ取り早い入り口になっていることが多くあります。

 きちんと作り込まれた採用ページを持つ会社は、多くの場合、エンジニアMVVやエンジニアデッキがそこに掲載されています。社員インタビューも、技術ブログへのリンクも、登壇実績も、そのページに集約されています。採用ページが手薄な会社は、これらの情報がそもそもどこにも集約されていない、という可能性を疑ってください。逆に、採用ページが充実している会社は、応募前の下調べの効率が大きく上がります。

 採用ページは、確認する深さによって、見えてくるものが違います。ページの有無・作り込みそのものから会社としての向き合い方が見え、新卒採用ページからは学生への真摯さが見え、中途採用ページからは入社後のキャリアや待遇の具体が見えてきます。この記事では、3段階に分けて見ていきます。

2. 第1段階:採用ページの有無・作り込みで、会社としての向き合い方を見る

 ここで、もう一段掘り下げて確認してほしいことがあります。会社全体のコーポレートサイトの片隅に「採用情報」ページが埋もれているだけなのか、それとも、独立したドメインやページ構成で「エンジニア向けの採用サイト」が単体で作られているのか、この2つを見分けてください。

 後者は、エンジニア採用に専属の担当者、いわゆる技術広報がついていないと、あの分量のコンテンツを継続的に作り、更新し続けることはできません。見分ける手がかりを、具体的に3つお伝えします。

  • 更新頻度を実際に確かめる:ページ内の記事や社員インタビューに、公開日や更新日の記載があるかを見てください。直近数ヶ月以内に更新された形跡がある採用ページは、継続的な運用体制がある証拠です

  • 記事の署名の有無を見る:社員インタビューや技術記事に、書き手や編集担当者のクレジットがあるかを確認してください。「採用担当」「HR」ではなく「技術広報」「People Enablement」のような専門の肩書きが見えることがあります

  • コンテンツの粒度を見る:片手間で作られたページは、テンプレート的な項目の羅列にとどまりがちです。専属担当者がいるページは、開発体制の図解、技術選定の背景、1年間の採用活動の振り返りなど、腰を据えて作られたコンテンツが並びます

 この3つを実際に確かめてみると、片手間で作られたページと、腰を据えて作られたページの差は、思っている以上にはっきり見えてきます。記事の専門性、更新頻度、署名の有無。この積み重ねに、投資の本気度が透けて見えます。私自身、25年近くいろいろな会社を採用側として見てきましたが、技術広報という役割を置いている会社は、経営がエンジニア採用に予算と人を割くという決断を、すでに下している会社だと感じています。この決断ができているかどうかが、ページの厚みという形で表に出てきます。

 こうしたエンジニア向け採用ページへの投資は、スタートアップやベンチャーで特に手厚い傾向がありますが、それだけに限りません。知名度や給与水準で大手・メガベンチャーに見劣りする、メーカー系や地方・中堅・中小企業ほど、採用ページという発信の場に力を入れる構造的な動機を持っています。大手のように会社名だけで応募が集まらない以上、エンジニア向けの発信を丁寧に作り込むことが、数少ない差別化の手段になるからです。

 ただし、これはあくまで構造的な可能性の話であり、すべての中堅・中小企業がそうしているわけではありません。実際に力を入れている会社と、まだ手が回っていない会社の差は、大手同士の差より大きいのが実情です。採用ページが手薄だからといって、その会社がエンジニアを大切にしていないと決めつけないでください。専属の技術広報を置けるかどうかは、会社の規模や採用予算に大きく左右されます。会社の規模や知名度で決めつけず、個別に採用ページの中身そのものを、丁寧に確認してください。

3. 第2段階:新卒採用ページで、学生への真摯さを見る

 新卒採用ページは、学生さんに直接向けて書かれた、いちばん丁寧な言葉のはずです。この言葉が、抽象的なスローガンで終わっていないか、育成の道筋を具体的に描けているかを確かめてください。

 良い新卒採用ページは、入社後の研修設計、最初に任される業務のイメージ、若手が技術選定に加わる場面の具体例を、丁寧に説明しています。ここでの言葉の具体性と丁寧さは、その会社が学生さんという読み手に対して、どれだけ真摯に向き合っているかを、そのまま映します。

 確かめる観点を、3つに整理します。

  • 研修設計が、期間だけでなく中身まで書かれているか:「研修期間3ヶ月」だけでなく、その3ヶ月で何を学び、どんな課題に取り組むのかが具体的に書かれているか

  • 配属後の最初の業務が、イメージできる形で書かれているか:「幅広い業務を経験できます」ではなく、実際にどんなタスクから始まるのかが見えるか

  • 失敗への向き合い方が、書かれているか:新卒が失敗したときに、どう受け止められるのかへの言及があるか。ないことが即座に悪いわけではありませんが、丁寧な会社ほど、この点にも触れる傾向があります

  • 入社した新卒の「その後」が、数字で書かれているか:直近3年に入社した新卒の、配属先の内訳(自社開発・客先常駐・保守運用など)と、1年後・3年後に何人在籍しているか。ここまで公開している会社は、まだ多くありません。だからこそ、公開している会社は、育てた結果に責任を持とうとしている会社です

4. 第3段階:中途採用ページで、入社後のキャリアと待遇の具体を見る

 新卒採用ページの先に、中途採用ページも忘れずに開いてください。多くの学生さんは、自分が新卒だからという理由で、新卒採用のページしか見ません。しかし、中途採用のページのほうが、より具体的で正直な技術要求や処遇が書かれている場合が多いのです。

 中途採用は、すでに経験を積んだエンジニアに向けた発信です。抽象的な言葉で誤魔化しても、経験者には見透かされてしまいます。だからこそ、必要な技術スタック、求める経験年数、給与レンジといった情報が、新卒向けのページよりも具体的に書かれる傾向があります。

 なかでも、マネージャーやテックリードといった、上位ポジションの中途JDに書かれている年収レンジは、特に丁寧に読んでください。これは、あなたがこの会社で長く働き続けて、そのポジションに就いたときに、いくら払う会社なのかが、端的な数字として示されているということです。新卒の初任給だけを見ていては分からない、その会社での数年後・十数年後の待遇の目線が、中途JDの給与レンジには具体的に表れます。

 ひとつ、正確に言っておきます。中途JDのレンジは、あくまでそのポジションの募集レンジであって、社内の等級テーブル全体の上限ではありません。執行役員クラスや、専門職ラダーのいちばん上は、そもそも公募に出ないのが普通です。それでも、募集に出ている上位ポジションのレンジは、その会社が「この役割にはこれくらい払う」と外に向けて宣言した数字です。新卒の初任給よりはるかに解像度の高い、待遇の目線として読んでください。

 良い会社は、新卒向けのページと中途向けのページで、語られている内容に矛盾がありません。新卒ページの「若手が技術選定に加われる」という言葉が、中途ページの「裁量を持って技術選定をリードできる方を求めています」という言葉と、地続きになっています。2つのページを照らし合わせることは、企業の言葉の一貫性を確かめる、もう1つの裏取りの方法です。

 この採用ページの内容は、多くの場合、フェーズ3-6で扱う会社パンフレットやチラシにも、要約された形で転載されています。さらに、採用ページの内容を、そのまま技術ブログの記事として書き起こし、より詳しく発信している会社もあります。採用ページ、パンフレット、技術ブログは、同じ内容が形を変えて発信されている場合が多い、という構造を知っておくと、情報を探すときの見通しが良くなります。どれか1つで満足せず、3つを照らし合わせることで、その会社が本当に大切にしていることが、輪郭を持って見えてきます。

5. 中途採用JDは、あなたの5年後・10年後を映す鏡

 中途採用ページを確認する理由を、もう一段、深く掘り下げます。中途採用のJDには、その会社で経験を積んだエンジニアが、実際にどんなポジション・裁量・技術領域を任されているかが、具体的に書かれています。新卒向けのJDが「これから何を経験するか」の入り口だとすれば、中途向けのJDの集合は、その会社におけるエンジニアのキャリアの、いくつもの到達点の見本市です。

 1枚の中途JDだけを見ても、あまり意味がありません。大切なのは、その会社が出している複数の中途JDを、横断的に眺めることです。

5-1. 横断的に読むための、実践的な手順

 複数の中途JDを比較するとき、ノートやスプレッドシートに、次の4つの項目を並べて書き出してみてください。

  • 職種名:バックエンドのシニアエンジニア、SRE、セキュリティエンジニア、データエンジニア、テックリード、エンジニアリングマネージャーなど

  • 必須要件の中心:マネジメント経験が中心か、特定技術の深い専門性が中心か

  • 年収レンジ:職種ごとの年収レンジの幅と、上限の水準

  • 裁量の記述:技術選定への関与、意思決定への関与が、どの程度の言葉で書かれているか

 この4項目を並べるだけで、その会社のキャリアパスの輪郭が、驚くほどはっきり見えてきます。

 中途JDのラインナップが多様であれば、その会社には、技術を深めるスペシャリストの道と、組織を率いるマネジメントの道の、両方が実在するということです。逆に、中途JDが「なんでもできるシニアエンジニア」というような、似たトーンのものばかりであれば、体系立ったキャリアパスの設計が、まだ整っていない可能性があります。中途JDのラインナップに多様さがないこと自体も、1つのシグナルです。

 中途JDの「必須要件」「歓迎要件」の書きぶりも、手がかりになります。マネジメント経験を必須とするJDが多い会社は、管理職への道が太い会社。特定技術の深い専門性を必須とするJDが多い会社は、スペシャリストとしての道が太い会社です。就活のこの時期に、自分がどちらの方向に進みたいかを、明確に決めている学生さんは多くありません。中途JDを眺めることは、「こういう道もあるのか」と、自分の将来の選択肢を具体的に知る、数少ない手がかりになります。

5-2. 年収レンジの読み方は、上限ではなく中央値で見る

 中途JDに書かれている年収レンジは、そのまま鵜呑みにしないでください。「SE:350万円〜500万円」のような書き方をよく見かけますが、この上限の数字は、よほど成果を出した人だけが到達できる天井であることが多いというのが、私の実感です。

 給与レンジという仕組みは、そもそも上限に張り付く人が少数になるように設計されていることが一般的です。同じレンジの中で働く人の給与は、上限付近ではなく、レンジの下限に近い、あるいは中央値のあたりに集まる傾向があります。先ほどの例で言えば、実際の支給額の中心は400万円前後に近いと考えて読む方が、実態に近いことが多いというのが、私がこれまで採用に関わってきた実感です。

 この読み方は、新卒採用ページの言葉と突き合わせると、さらに意味を持ちます。新卒ページや面接で「活躍次第で、どんどん給料が上がります」と語られていても、その「どんどん」がどのあたりの数字を指しているかは、中途JDのレンジという形で、すでに公開されています。活躍を重ねた先に何が待っているのかを、中途JDは静かに教えてくれます。

 ここまで読んで、逆側から確かめたくなった方もいると思います。良い会社は、この確認をわざわざ中途JDから逆算させません。新卒採用ページに、在籍している社員の3年目・5年目・10年目の年収の実績値を載せている会社があります。モデル賃金ではなく、実績です。新卒ページの言葉と、中途JDのレンジが、同じ数字で地続きになっている。この形で公開できる会社は、給与制度の設計を、応募者に説明できる状態で持っています。

 実務的な確認の手順は、5-1で紹介した横断比較と同じです。同じ職種・同じグレードの中途JDを複数集め、レンジの上限と下限の幅を見比べてください。レンジの幅が広い会社ほど、成果による差がつきやすい給与制度だと読めますし、レンジの幅が狭い会社ほど、年功や横並びに近い制度だと読めます。どちらが良い悪いということではなく、自分がどちらの制度で働きたいかを判断する材料として、レンジの幅そのものにも目を向けてください。

5-3. 募集の理由を読み分ける:組織強化か、欠員補充か

 中途採用のJDには、もう一段深い読み方があります。その募集が「組織を強くするための投資」なのか、「抜けた穴を埋めるための補充」なのかを、読み分けることです。この2つは、募集ポジションの傾向に表れます。

 組織強化のシグナルとして読めるのは、次のような募集です。

  • CTO、VPoE、テックリードといった、技術組織を率いるポジションの募集

  • 特定領域のスペシャリスト(セキュリティ、データ基盤、SREなど)で、シニア・リード・プリンシパルといった上位グレードを指定した募集

  • 「新規プロダクトの立ち上げ」「新組織の設立」など、既存にない役割を明示した募集

 これらは、いま組織にない機能を、外部から強い人材で補おうとする、前向きな投資として読めます。

 ただし、こうした上位ポジションの募集にも、注意して読むべき点があります。同じCTO・VPoEクラスの募集が、長期間にわたって掲載され続けている場合です。良い人材を厳選しているために時間がかかっている可能性もありますが、採用そのものに苦戦している可能性もあります。求人媒体で掲載開始日や更新日が確認できる場合は、そのポジションがどれくらいの期間、募集され続けているかも、あわせて見ておいてください。

 一方、欠員補充のシグナルとして読んでおいたほうがよいのは、次のような募集です。

  • 同じ職種名(たとえば「バックエンドエンジニア」)の求人が、掲載され直しながら、年間を通じて途切れず出続けている

  • 求人媒体で確認できる場合、同じポジションの掲載開始日が、短いスパンで繰り返されている

  • 募集要件が「実務経験2〜3年以上歓迎」といった、実務を回せる担当者層を求める内容に終始し、専門性や裁量への言及が薄い

 同じポジションの求人が何度も出ては消え、また出る。これは、人が定着せず、埋めては抜け、埋めては抜けを繰り返している可能性を示します。

 なお、これは私の25年の観察に基づく経験則であり、すべての会社に当てはまる法則ではありません。特に、稼働率や人月単価で売上が決まる受託・SES中心のビジネスモデルでは、頭数を揃える必要性から、担当者層・ジュニア層の中途採用が相対的に多くなる傾向を、私はこれまでの経験のなかで見てきました。ただし、これはビジネスモデルの構造上の傾向であって、受託・SES企業のすべてが人材育成に無関心という意味ではありません。フェーズ1-2でお話ししたとおり、技術力を武器にした受託・技術コンサル寄りの会社では、専門職採用が中心のところもあります。業態だけで決めつけず、実際の募集ポジションの中身を、自分の目で確認してください

 もう1つ、見落としがちな読み方があります。中途採用の求人が、募集ポジションの中身を問う以前に、そもそもほとんど見当たらない、あるいは長期間ゼロが続いているというケースです。これは、組織の成長そのものが止まっている可能性を示すシグナルとして読めます。新しい人を迎える予算や必要性が、経営の判断として絞られている状態です。特に、以前は中途採用を行っていた形跡があるのに、ある時期からぱたりと求人が途絶えている場合は、経営環境の変化を疑う材料になります。

 ただし、これも一律に悪いシグナルとは限りません。少人数で高い定着率を維持し、そもそも中途採用の必要性が薄い、安定した会社という可能性もあります。また、求人サイトに掲載がないからといって、採用活動そのものをしていないとは限りません。縁故や紹介を中心に採用している中小企業も、現実には存在します。中途採用の求人がない、という事実だけを見て判断せず、なぜないのかを、カジュアル面談などの対面の場で直接確かめてください

5-4. あわせて確認したい、正社員比率という視点

 中途採用の求人そのものとは別に、その会社がどんな雇用形態でエンジニアを迎えているかも、あわせて確認しておきたい観点です。正社員だけでなく、契約社員、派遣社員、業務委託への依存度が高い会社もあります。特に、エンジニア職に限定した正社員比率を意識してください。全社の正社員比率が高くても、エンジニア職だけSES・派遣・業務委託への依存度が高い会社もあれば、逆にエンジニア職の正社員比率が高い会社は、エンジニアを自社で長く雇い、自社で育てることに投資している会社と読めます。

 正社員比率は、有価証券報告書の「従業員の状況」欄や、コーポレートサイトのIR情報で開示されている場合があります。この数字の具体的な確認方法は、次のフェーズ3-5「数字で、JDの裏取りをする」で詳しくお話しします。ここでは、中途採用の求人内容とあわせて、雇用形態そのものも視野に入れておいてほしい、という問題提起にとどめます。

 なお、正社員比率が低いことは、それ自体が即座に悪いという意味ではありません。稼働に応じて契約社員や業務委託を活用することが、ビジネスモデル上、合理的な会社もあります。

 一方で、正社員比率の低さには、いくつかの異なる背景が透けて見えることもあります。正社員を継続的に雇用するだけの財務体力がない会社という可能性もあれば、人材派遣そのものを事業の中心に据えた、典型的な派遣ビジネスの会社という可能性もあります。私自身、25年近く採用の現場を見てきましたが、この2つは、正社員比率の数字だけを外から眺めても、なかなか見分けがつかないというのが実感です。数字の裏にどちらの事情があるのかは、対面の場で直接尋ねてみるのがいちばん確実だと思います。派遣ビジネス自体が悪いわけではありませんが、自分がその事業構造のなかでどう働くことになるのかは、応募前に理解しておくべきことです。大切なのは、自分自身が応募する場合に、入社時点でどの雇用形態になるのか、その雇用形態が会社のどんな事業構造から来ているのかを、応募前に確認することです。

 求人票そのものの書き方にも、注意深く見てほしい点があります。「正社員(契約社員からのスタートあり)」のように、入社時点の雇用形態を曖昧にしたまま書く求人票があります。良い会社は、入社時点の雇用形態、正社員登用までの条件、登用までの期間を、具体的な数字で明示しています。曖昧な書き方をしている求人票を見つけたら、応募前の対面の場で、入社時点の雇用形態を必ず確認してください。

 もう1つ、注意しておきたいことがあります。正社員比率は、単発の数字だけでなく、年ごとの推移で見てください。ある年は正社員比率が高かったのに、翌年以降に大きく下がっているような会社は、雇用形態の方針そのものが途中で変わった可能性があります。地方自治体の助成金・補助金には、正社員雇用の比率や人数を要件とするものがあり、こうした制度の対象期間が終わった後に、雇用形態の方針が変わるケースも実務上は起こり得ます。有価証券報告書や、開示されていれば決算公告を、直近1年だけでなく複数年分並べて確認する習慣を持ってください。

 フェーズ3-6で、応募を決めるための問いの1つとして、「この会社で、5年後の自分がどう成長しているかを具体的に描けるか」を挙げます。この問いに具体的に答えるための、いちばん確かな材料が、中途JDです。新卒のJDだけを読んで将来を想像するのではなく、中途JDという「その先」の実例を、実際に読んでから判断してください

5-5. 転職サイトの、退職者コメントを読む

 中途に関する情報源として、もう1つ大切なものがあります。OpenWork(旧Vorkers)や転職会議のような転職口コミサイトに蓄積されている、実際に退職した社員のコメントです。特に退職理由の欄は、在職中の社員インタビューには決して出てこない、その会社の裏側が見えることがあります。

 ただし、退職者コメントの読み方には、注意が必要です。1件のコメントだけを鵜呑みにしないでください。退職者コメントには、個人の感情的な言葉が混じっていることが少なくありません。会社を辞めた人の全員が、その会社を恨んでいるわけでもありません。

 実務的な読み方は、複数のコメントに共通して出てくるキーワードを拾うことです。1件のコメントは個人の主観にすぎませんが、10件以上のコメントで「属人化」「持ち帰り残業」「技術的負債」といった同じ言葉が繰り返し出てくる場合、それは組織的な傾向として読めます。

 コメント全体のトーンも、手がかりになります。感情的な攻撃の言葉ばかりが並ぶのではなく、落ち着いた、建設的な指摘が多いコメント群は、その会社が退職者に対しても、退職後の関係を大きく損なわない対応をしてきたことを映している場合があります。退職者コメントは、応募先の実態を知る貴重な情報源であると同時に、読み方次第で見え方が大きく変わる情報源でもあります。傾向で読み、個別の1件で判断しないという姿勢を、忘れないでください。

6. 採用ページの文言と、技術発信の中身の一致を確かめる

 ここまで、採用ページの3段階の読み方(2〜4節)と、中途JDを束ねて眺める読み方(5節)をお話ししました。最後に、採用ページという1つの情報源だけで判断を止めず、フェーズ3-3で見てきた技術発信の具体と、突き合わせるという視点に立ち返ります。

 良い会社は、採用ページに書いた文言と、実際の技術発信の中身が一致しています。「若手活躍」「多様性推進」「技術投資」「グローバル」といった採用ページの文言が、社員の技術発信・登壇履歴・OSS貢献の実績で裏付けられます。若手の登壇履歴、女性・多様な社員の発信、業務時間内の学習の成果としての発信、海外カンファレンスでの登壇。こうした具体で、採用ページの文言が実際の社内の日常と結びつきます。

 資格取得者数を採用パンフの目玉として大きく掲げる会社もあります。資格そのものは学びの一つの形として意味があります。良い会社では、資格の数と併せて、社員の技術発信・OSS貢献・カンファレンス登壇の履歴を、技術文化の証明として並列で公開しています。応募先を眺めるとき、資格の数だけで判断せず、社員の日々の技術発信の厚みで確かめてみてください。

7. プロフェッションとして育つ環境を持つ会社は、採用ページと中途JDに、その先の姿が一貫している

 シリーズ全体を貫く上位原則を、この記事でも確認します。その会社は、エンジニアをプロフェッションとして育つ環境を持っているか

 プロフェッションとして育つ環境を持つ会社は、採用ページと中途JDに、社内の日常と一貫した姿を公開しています。新卒ページで語られる育成の道筋が、中途JDに書かれた実際のポジションと、地続きになっています。マネジメントの道とスペシャリストの道の、両方が中途JDのラインナップに実在しています。採用ページの文言と、技術発信の中身が一致している会社が、社内の日常の一貫性を持っている会社です。

 新卒ページと中途ページで、語られている育成やキャリアの言葉に矛盾がないかどうか。中途JDのラインナップに、マネジメントとスペシャリストの両方の道が実在しているかどうか。これは、経営層や人事がエンジニアのキャリアをどう設計しているかの、いちばん地味で正直なシグナルです。この一貫性は、採用ページや中途JDの言葉を書いている人たちの、日頃の姿勢がそのまま滲み出たものです。

 繰り返しになりますが、専属の技術広報を置ける会社ばかりではありません。採用ページや中途JDの整備が薄い会社を、この一点だけで低く評価しないでください。見るべきは、ページの厚みではなく、そこに書かれた言葉が他の観点(JD・技術発信・数字・対面)と一致しているかどうかです。薄いページに書かれた少ない言葉が、他の観点と一貫していれば、それは十分に信頼できるシグナルです

まとめ

 本記事では、採用ページと中途JDで、その先のキャリアを読む視点をお話ししました。

 採用ページは、技術発信をまとめて確認できる入り口です。3段階に分けて読みます。第1段階は採用ページの有無・作り込みで、会社としての向き合い方を見ます。独立したエンジニア向け採用サイトかどうか、更新頻度、記事の署名、コンテンツの粒度で、専属担当者の有無を見分けられます。メーカー系・地方・中堅中小企業ほど、この採用ページに力を入れる構造的な動機を持っていますが、整備の有無だけで一律に評価しないでください。第2段階は新卒採用ページで、学生への真摯さを見ます。第3段階は中途採用ページで、入社後のキャリアと待遇の具体を見ます。特にマネージャー・テックリードの年収レンジは、その会社が上位の役割にいくら払うのかという、待遇の目線を映します。

 中途JDは、あなたの5年後・10年後を映す鏡です。複数の中途JDを、職種名・必須要件・年収レンジ・裁量の記述という4項目で並べて比較すると、その会社のキャリアパスの輪郭が見えてきます。年収レンジは上限ではなく中央値に近い額で読むと実態に近く、新卒ページの「活躍で給料が上がる」という言葉が、どのあたりの数字を指しているのかを確かめる材料にもなります。募集の理由を、組織強化と欠員補充に読み分ける視点も持ってください。CTOやテックリードといった上位ポジションの募集は組織強化のシグナルであり、同じ職種の求人が途切れず出続けている場合は欠員補充のシグナルです。稼働率で売上が決まるビジネスモデルでは担当者層の採用が相対的に多くなる傾向がありますが、これは経験則であり、業態だけで決めつけず実際の募集の中身を確認してください。中途採用の求人がそもそもほとんどない、あるいは長期間ゼロが続いている場合は、組織の成長が止まっている可能性を疑いつつ、なぜないのかを対面の場で直接確かめてください。あわせて、エンジニア職の正社員比率という雇用形態の視点も持っておくと、自分自身の入社時点での立場を見誤らずに済みます。転職口コミサイトの退職者コメントも、複数のコメントの傾向で読み、個別の1件を鵜呑みにしなければ、貴重な情報源になります。最後に、採用ページの文言と、実際の技術発信の中身が一致しているかを確かめ、1つの情報源だけで判断しないでください。

 次のフェーズ3-5では、4つ目の観点・数字のお話に進みます。企業ポートフォリオの数字面を、離職率・平均勤続年数・有価証券報告書・Findy Team+・ユースエール認定などで確かめる旅です。

エンジニアの卵のみなさんへ、エール

 採用ページと中途JDを読み込むのは、地味で時間のかかる作業です。複数の中途JDをスプレッドシートに書き出す作業は、派手さのかけらもありません。でも、この地味な作業の先に、5年後・10年後の自分の姿が、少しずつ具体的に見えてきます。

 この記事だけで、採用ページの3段階、中途JDの横断比較、組織強化と欠員補充の見分け、正社員比率、退職者コメントと、たくさんの観点をお伝えしました。すべてを完璧にこなす必要はありません。気になる会社が出てきたときに、この記事を読み返して、そのときの自分に必要な観点だけを、1つか2つ選んで使ってください。全部を一度にやろうとすると、就活そのものが疲れる作業になってしまいます。丁寧に見る会社を、数社に絞るだけでも、十分に価値があります。

 私自身、25年近く前、就活のときに中途採用のページを読むという発想を持っていませんでした。新卒の自分には関係のない情報だと思い込んでいたのです。その結果、入社して数年経ってから、自分がこの先どこまで昇っていけるのか、キャリアの天井の在り処を初めて知ることになりました。あの時点で中途JDを読んでいれば、その天井は、応募する前から見えていたはずだと思います中途採用ページは、新卒の就活生にはあまり見られていない、静かな情報源です。だからこそ、これを読み込んでいる学生さんは、それだけで一歩先に出られます。

 今週、なにか一つ、始めてみてください。気になる会社の中途採用ページを開いて、募集中のポジションを3つ書き出してみる。新卒採用ページと中途採用ページの言葉を、並べて読み比べてみる。マネージャーやテックリードの求人があれば、年収レンジだけでも眺めてみる。どれか1つで、本記事の1歩目です。

 そして、フェーズ3-5で、4つ目の観点・数字のお話でお会いしましょう。

 一緒に歩きましょう。ボン・ボヤージュ。素敵な旅を。


次の記事はフェーズ3-5「数字で、JDの裏取りをする。企業ポートフォリオの数字面」です。


#エンジニア就活 #新卒エンジニア #採用ページ #中途採用 #キャリアパス #エンジニアの卵に贈る就活の書


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