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【フェーズ3-3】 技術発信で、JDの裏取りをする。企業ポートフォリオの技術文化面 【ITエンジニアの卵に贈る、就活の書】

 この記事は「ITエンジニアの卵に贈る、就活の書」シリーズの一本です。シリーズ全体の目次はこちら(扉記事)からご覧いただけます。


 エンジニアを目指す学生のみなさん、こんにちは。クオリティアーツの池田です。

 ITエンジニアの卵に贈る、就活の書・フェーズ3-3の記事です。前回のフェーズ3-2では、1つ目の観点・JDの読み方をお話ししました。9つの危険信号と、給与欄の丁寧な読み解き。JDが接続の入口として書かれているかを、丁寧に確かめる旅でした。

 今回はフェーズ3の2つ目の観点、技術発信の実践に入ります。JDに書かれていることを、企業ポートフォリオの技術文化面で裏取りする時期です。JDに華やかに書かれていた技術スタックが、実際の技術発信で裏付けられているか。経営層や部課長が、技術のことを自分の言葉で語れているか。社員が、社外のカンファレンスに登壇しているか。技術発信の厚みは、その会社の技術文化の厚みを、いちばん正直に映します

 新卒の就活中の方はもちろん、第二新卒として他社の面接に臨む場面でも、そのまま使える内容です。


1. 前提:JDは自己申告、技術発信は裏付け

 フェーズ3-2で扱ったJDは、企業側からの自己申告の文書です。企業が「うちはこういう会社ですよ」と、応募者に対して差し出す言葉。JDは大切な一次資料ですが、フェーズ3-2の9つの危険信号でお話ししたように、JDの書き方には書き方の技術が入り込む余地があります。

 それに対して、技術発信は、企業側の日常の姿を、社外に公開してきた記録です。技術ブログを1本書くのに、実装の経験と、書き手の技術力と、社内でレビューを受ける仕組みが必要です。カンファレンスに登壇するのに、CFP(プロポーザル)を書く力と、社内の技術資産と、社外の第三者に目利きされる勇気が必要です。技術発信は、社内の日常の技術文化が、社外に染み出したものです。

 だから、技術発信はJDの裏取りとして、いちばん強い材料になります。JDに「Kubernetesを使っています」と書いてあれば、技術ブログにKubernetesの記事があるかを確かめる。JDに「若手が技術選定に加われる」と書いてあれば、社員のカンファレンス登壇履歴で若手エンジニアの登壇があるかを確かめる。JDの1行を、技術発信の1本で照合する。この裏取りの視点が、フェーズ3-3の骨格です。

2. 企業ポートフォリオの技術文化面。5つの発信チャネル

 企業ポートフォリオの技術文化面を確かめるとき、次の5つの発信チャネルを丁寧に見ていきます。

2-1. チャネル1:公式技術ブログ

  • Zenn Publications:企業アカウントで技術記事を発信

  • Qiita Organizations:組織アカウントで技術記事を発信

  • 独自ドメインの技術ブログ:企業が自社ドメインで運営するブログ

2-2. チャネル2:経営層・CTO・部課長の個人発信

  • note:経営層や部課長が技術や組織の話を発信

  • X(旧Twitter):日常的な技術の言葉が滲む場

  • LinkedIn:キャリアや経営の視点で発信

2-3. チャネル3:社員のカンファレンス登壇履歴

  • Speaker Deck:登壇スライドを公開する場

  • Docswell:登壇スライドを公開する場

  • カンファレンスの公式ページ:CFPを通した登壇の記録

2-4. チャネル4:GitHub Organizationでの活動

  • 公開リポジトリ:会社として公開しているOSS

  • 社員のOSS Contributions:会社の名前と共に、社員がOSSに貢献

  • Star数、Contribution数:第三者の目利きの指標

2-5. チャネル5:Podcast・YouTube発信

  • 技術Podcast、社内対談動画、カンファレンスのアーカイブ動画

  • 音声・映像で技術文化を伝える媒体

 これら5つのチャネルを、JDと照合しながら確かめます。すべてのチャネルを全社が持っている必要はありませんが、技術文化の厚みは、複数のチャネルにわたる厚みで測ることができます

3. フェーズ2で立てた3要素(公開・質・第三者の目利き)を、企業に適用する

 フェーズ3総論でお話ししたとおり、フェーズ2-2強いポートフォリオの3要素(公開・質・第三者の目利き)は、そのまま企業ポートフォリオにも適用できます。この3要素を、企業ポートフォリオの技術文化面に、具体的に落とし込みます。

3-1. 公開:発信されているか

  • 公式技術ブログの記事が、直近6ヶ月以内に更新されているか(ここは「発信が生きているか」の最低ラインです。更新のペースそのものは、後述の6-2で扱います)

  • 経営層や部課長のnote・Xに、技術の話が定期的に登場しているか

  • Speaker Deck・Docswellのアカウントに、直近1年以内の登壇スライドがあるか

  • GitHub Organizationに、活動があるか

3-2. 質:内容の厚みがあるか

  • 技術ブログの記事は、実装レベルまで踏み込んでいるか(コード例、ハマりどころ、実装の判断理由)

  • 経営層の発信は、抽象的なビジョンだけでなく、具体的な技術や仕組みの話に触れているか

  • 登壇スライドは、社外の同業者に対して意味のある内容になっているか

  • OSSは、実際にコミュニティが使うプロダクトになっているか

3-3. 第三者の目利き:外の目に晒されているか

  • 技術ブログの記事に、コメント・リアクション・引用が付いているか

  • カンファレンスのCFPを通した登壇か(招待講演ではない)

  • OSSに、社外からのStarやContributionが付いているか

  • 技術書やZenn Booksを出版しているか

 この4つ目の項目、技術書の出版は、ほかの発信より検証しやすい第三者の目利きです。商業出版された技術書は、著者本人の技術力に加えて、編集者による査読、出版社の技術的なレビュー工程を経ています。個人のブログよりも、検証のプロセスが1段階多いということです。会社名と「著書」「出版」で検索し、Amazonや出版社サイトで実際に書店流通している本かどうかを確かめてください(同人誌・自費出版・Kindleダイレクト・パブリッシングでの自主出版は、この検証プロセスを経ていないため、区別して見る必要があります)。社員から複数の著者を、複数年にわたって輩出している会社は、技術力の厚みが個人の突出ではなく、組織として積み重なっている証拠です。

 この3要素で、企業ポートフォリオの技術文化面の厚みを測るフェーズ2で学生さんがポートフォリオを積み上げてきた同じ物差しで、企業も測ることができます。この対等性が、本記事の実践の中心です。

4. 良い会社の技術発信の実例

 具体例で、良い会社の技術発信の姿を並べます。以下は、業界で技術発信が厚いことで広く知られている会社の一部です。応募前に、実際の発信を眺めてみてください(発信の状況は年々変わっていくため、具体的な媒体名や継続状況は、応募検討の際に最新の状態でご確認ください)。

 ここで、正直にお伝えしておきたいことがあります。これから挙げる実例は、メガベンチャーとWeb・SaaS系の会社に偏っています。これは意図的な偏りではなく、技術発信という活動そのものが、いまの日本では、この業態の会社に集中しやすい構造があるためです。技術ブログや登壇文化は、対外的な採用競争が激しく、エンジニアという職種のブランディングに投資する文化を持つ会社ほど育ちやすく、逆に、メーカー系や地方の中小企業では、技術力があっても、対外発信の文化自体がまだ育っていないことが多いのが実情です。

 しかし、エンジニアを目指す学生さんの多くは、人数の割合で見れば、こうしたメガベンチャーやSaaS系スタートアップではなく、メーカー系・地方・中堅・中小企業に就職していきますフェーズ1-2でお話ししたとおり、軸のどこにいるかと、プロフェッションとして育つ環境の質は、別問題です。地方の中小メーカーの中にも、社内で世界基準の道具立てを推進し、エンジニアを大切に育てている会社は、確かに存在します。ただ、そうした会社の多くは、対外的な発信をしていないために、実名の一覧としてここに挙げることができません。この「発信の少なさ」自体を理由に、地方・メーカー系の会社をひとくくりに低く評価しないでください。この記事の実例リストは、あくまで「技術発信という1つの物差しを、具体的にイメージするための一部の例」であり、みなさんの就職先の選択肢の全体像ではないことを、念頭に置いてください。

 そのうえで、探す場所を変えれば、地方・受託・メーカー系の発信は、確かに見つかります。全国区の大型カンファレンスの登壇者一覧ではなく、地域や分野のコミュニティを見てください。JaSST(ソフトウェアテストシンポジウム)は東京のほか、北海道・東北・新潟・東海・関西・中国・四国・九州と各地で開催されていて、地元企業のエンジニアが自社の現場の話を発表しています。組込み分野の展示会やカンファレンス、地域のRubyコミュニティやPythonコミュニティ、県単位のIT技術者会。こうした場の登壇者一覧とスポンサー一覧には、技術ブログを持たない会社の名前が、ちゃんと並んでいます。発信の場は、東京のWeb系のカンファレンスだけではありません。応募先が地方の会社なら、まずその地域のコミュニティの過去のイベントページを開いてみてください。

4-1. メガベンチャー

  • サイバーエージェント:公式技術ブログを長年運営、社員がPyCon JP・iOSDCなど多数のカンファレンスに登壇

  • DeNA:公式技術ブログ、YouTubeでの技術対談発信、自社主催の技術カンファレンス

  • メルカリ:公式Engineering Blog、Mercari.goなどの技術コミュニティを主催、エンジニアがXで日常的に発信

4-2. 老舗Web・SaaS企業

  • サイボウズ:公式技術ブログ、技術書の出版、カンファレンスへの登壇多数

  • はてな:はてなの公式技術ブログ、社員がRubyKaigi・YAPC::Japanなどに継続的に登壇

  • ミラティブ:公式技術ブログ、ライブ配信技術の発信

4-3. モダンSaaS

  • SmartHR:公式技術ブログ、DevRel活動、社員がRubyKaigi・iOSDCに登壇多数

  • freee:公式技術ブログ、自社主催の技術カンファレンス、CTOのnote発信

  • LayerX:公式技術ブログ、CTOのnote発信、AI/機械学習領域での発信が厚い

4-4. 多様な領域で発信を続ける会社

  • カヤック:公式技術ブログ、社員がゲーム系・Web系の多様なカンファレンスに登壇

  • CARTA HOLDINGS:公式技術ブログ、社員がRubyKaigi・iOSDCに登壇多数

  • エムスリー:公式技術ブログ、AI/機械学習の実装の話が厚い

  • Sansan:公式技術ブログ、機械学習・データ基盤の話が厚い

  • リクルート:公式技術ブログ、大規模組織での多様な技術発信

  • GMOペパボ:公式技術ブログ、社員のOSSへの貢献が多い

 これらの会社は、複数の発信チャネルを持ち、継続性があり、内容の厚みがあり、社外の第三者に目利きされています。フェーズ2-2の3要素すべてを満たす、企業ポートフォリオの姿です。

5. 技術発信の厚みを、JDの裏取りとして使う

 技術発信をJDの裏取りとして使う、具体的な観点をお伝えします。

5-1. 裏取り1:JDの技術スタックが、技術ブログに登場するか

 JDに「TypeScript、Next.js、AWS、Kubernetes、Terraformを使っています」と書いてあれば、その会社の技術ブログでこれらの技術の記事が、直近1年以内に書かれているかを確かめます。技術スタックの記事が空欄の会社は、JDに書いた技術が実際には使われていないか、社内で技術発信の余裕がない会社の可能性があります。

5-2. 裏取り2:JDの「若手が活躍」が、社員の登壇履歴に映るか

 JDに「若手エンジニアが技術選定に加われる」「若手が主体的に発信できる」と書いてあれば、社員のSpeaker Deckで、若手エンジニアの登壇スライドが見つかるかを確かめます。若手が実際に社外で発信できている会社は、社内で若手に発信の機会を用意している会社です。

5-3. 裏取り3:JDの「学習支援」が、経営層の発信に映るか

 JDに「技術書購入補助、カンファレンス派遣制度あり」と書いてあれば、経営層のnoteで学習支援の話が語られているか、社員が実際にカンファレンスに派遣された記録があるかを確かめます。経営層自身が学び続けている姿勢を、自分の言葉で発信している会社は、社内でも学習が根付いている会社です。

5-4. 裏取り4:JDの「オープンな組織」が、GitHubに映るか

 JDに「オープンな技術文化」「OSS活動の推進」と書いてあれば、その会社のGitHub Organizationを開いて、公開リポジトリの数、直近のコミット、社外からのContributionを確かめます。GitHubが空欄の会社は、OSS活動が言葉だけになっている可能性があります。

5-5. 裏取り5:JDの「品質へのこだわり」が、テスト関連の技術記事に映るか

 JDに「品質を大切にしています」「テスト自動化を推進」と書いてあれば、技術ブログにテスト設計やCI/CDでのテスト自動化、QAエンジニアの登壇記事があるかを確かめます。品質という言葉が抽象的なスローガンで終わっていないかは、テスト・品質系の技術記事や、JaSSTのようなテスト系カンファレンスへの登壇履歴の有無で、じわりと見えてきます。

5-6. 裏取り6:技術発信そのものが、ほとんど見つからない場合

 会社名で検索しても、技術ブログが数年前で更新停止している、社員の登壇履歴が1〜2件しか見つからない、GitHub Organizationがない、経営層のnoteも技術には触れていない。この状態が続いている会社は、JDに書かれた技術文化の姿と、外から見える実態の間に、大きな落差があります。「業務が忙しくて発信できない」「発信は個人の自由」と説明される場合もありますが、それが数年続いているとしたら、それがこの会社の日常の姿です。

 ここで、もうひとつ丁寧に見てほしいことがあります。受託開発やSESが中心の会社では、「顧客との守秘義務があるので発信できない」と説明されることがあります。これは事実として正しい場面もあります。ただ、守秘義務があっても書ける題材は、実際にはたくさんあります。良い会社は、顧客名も案件の中身も伏せたまま、次のようなことを発信しています。

  • 新人研修のカリキュラムと、3ヶ月後にどんな状態になっているか

  • CI/CDやテスト自動化を導入したときに、うまくいかなかった過程

  • 障害対応の振り返り(ポストモーテム)を、どんな型でやっているか

  • 業務で使っているOSSへの、小さなプルリクエストやIssue

  • コードレビューの運用ルールと、その決め方

 どれも、顧客の情報を1文字も出さずに書けるものです。守秘義務は、発信しない理由の一部にはなっても、全部の理由にはなりません。この5つのうち1つでも発信している会社は、書ける中身を社内に持っていて、それを外に出す時間も確保できている会社です。

5-7. 裏取り7:技術発信が「止まった」場合。最初からないより、注意深く読むべきシグナル

 5-6は、最初から発信がない会社の話でした。ここでお伝えしたいのは、それとは違う、もっと注意深く読むべきパターンです。かつては技術ブログが活発に更新され、社員がカンファレンスに登壇し、経営層が技術のことを語っていた会社が、ある時期を境に、ぱたりと発信をやめてしまうケースです。

 私は25年近く、いろいろな会社を内側から見てきましたが、この「発信の失速」は、その会社からエンジニアが大量に流出している、あるいはCTOやテックリードといった技術の中核を担う層が離脱している、経営そのものが傾いている、といった深刻な変化と、驚くほど強く重なって起きます。技術発信は、多くの会社で、CTOやテックリード、あるいは技術に強い思いを持つ数名のエンジニアの意志と労力によって支えられています。その人たちが会社を去った瞬間に、発信を支えていたエンジンそのものがなくなる。だから、発信がぴたりと止まるのです。

 なぜ、これがそれほど深刻なシグナルなのか。理由は2つあります。1つ目は、技術文化が「組織の制度」ではなく「個人の善意」で回っていたことの証明だからです。良い会社は、特定の個人が抜けても、技術発信の文化が組織として続く設計をしています。一人が抜けただけで発信が止まる会社は、そもそも技術文化が根付いていなかった可能性があります。2つ目は、技術投資の必要性を経営会議で語れる人が、社内からいなくなったことの証明だからです。CTOやテックリードは、多くの場合、技術ブログの運営費、カンファレンス参加費、社員が発信に使う時間といった、学生さんからは見えにくい技術投資を、経営の側で守る役割を担っています。その人がいなくなると、次に削られるのは、こうした「見えにくいところ」からです。

 こうした会社は、エンジニアを志望する学生さんを、深く傷つける現場になりがちです。技術投資が縮小した現場に、期待を持って入社した新卒が配属されると、育成の設計も、技術選定の裁量も、学び続けられる環境も、募集要項に書かれていたものとはかけ離れていきます。だからこそ、技術発信が止まっている会社は、JDや面接の場で、注意深く状況を確認するか、応募先の候補から外すことを検討してください

 もちろん、発信が止まった理由がすべて深刻とは限りません。CTOの独立、家庭の事情、他社からの好条件のオファーなど、健全な理由で人が離れることもあります。ただし、理由がどうであれ、発信が止まっているという事実そのものは、一度は確かめておきたい重要なシグナルです。「なぜ止まったのか」「その後、技術投資は誰がどう引き継いでいるのか」を、確かめずに応募を決めるのは避けてください。

 確かめる手順は、次の3つです。

  • 技術ブログ・登壇履歴の投稿日を、年次で遡る:直近1〜2年だけでなく、3〜5年分の投稿日を並べて、更新頻度が落ちていないか、ある年を境に止まっていないかを確認する

  • CTO・VPoE・テックリードの在籍期間を確認する:LinkedIn、採用ページの経営陣紹介、過去のカンファレンス登壇者情報から、いまも同じ人が在籍しているか、退任・交代の時期と発信停止の時期が重なっていないかを確認する

  • カジュアル面談で、直接尋ねる:「技術ブログを拝見しました。最近の発信について、社内ではどんなお話になっていますか」と、率直に尋ねてみる。この問いへの答え方に、その会社の正直さが表れます

5-8. 裏取り8:エンジニア組織のMVV・エンジニアデッキが公開されているか

 会社全体のMission・Vision・Valueとは別に、エンジニア組織固有の行動指針や技術方針を、明文化して公開している会社があります。「エンジニアリングデッキ」「開発組織デッキ」といった資料や、採用ページ内の「エンジニア向けMVV」のような形で見つかります。これを作るには、経営層とエンジニア組織の間で、時間をかけた合意形成が必要です。片手間では作れない資料なので、存在すること自体が、エンジニア組織が経営の中で独立した機能として扱われているシグナルになります。

 あわせて、カンファレンスのスポンサー実績も確認してみてください。ゴールドスポンサー・プラチナスポンサーとして、複数年にわたって継続的に協賛している会社は、採用活動への本気度がうかがえます。ただし、スポンサー実績だけを見て判断するのは避けてください。スポンサードはしていても、実際に社員が登壇していない会社もあります。スポンサー実績は、登壇実績とセットで確認するのが実務的です。

 一つ、注意点があります。エンジニアMVVやエンジニアデッキ、継続的なスポンサー実績を持たない会社は、少なくありません。特に中小企業や、これまで対外発信の文化を積み上げてこなかった会社では、こうした概念自体がまだ輸入されていないこともあります。これらが「ない」ことをもって、その会社を一律に低く評価しないでください。大切なのは、ないことを取り繕って何かを盛るのではなく、「まだ整備できていません」と正直に言えるかどうかです。カジュアル面談でこの点を尋ねたときの答え方に、その会社の誠実さが表れます。

6. 良い技術発信を持つ会社の、姿勢の具体

 技術発信を裏取りに使うとき、良い会社の姿勢の具体をいくつかお伝えします。この姿勢が、社内の日常の技術文化の厚みを映しています。

 先に、読み方の前提をひとつ。これから挙げる8つの姿勢のうち、いくつかは組織の人数に強く依存します。社員40名の会社に、女性のシニアエンジニアが基調講演をし、国際カンファレンスに登壇し、英語で技術書を書く人がいる確率は、母集団の問題としてどうしても低くなります。文化の厚みが足りないのではなく、単に人数が足りないのです。ですので、規模の小さい会社を見るときは、同じ姿勢が、その規模なりの形で現れているかに読み替えてください。40名の会社なら、中堅の1人が地域の技術コミュニティで年に1回登壇していれば、大企業で複数名が全国カンファレンスに登壇しているのと、同じ意味を持ちます。

6-1. 姿勢1:経営層・部課長自身が、エンジニアとして今も実践し、その発信を世の中に残している

 良い会社では、経営層や部課長が抽象的なビジョンだけでなく、具体的な技術や仕組みの話を、自分の言葉で語れます。ただ、社内でだけ語れる経営層は、実は珍しくありません。大切な分かれ目は、その言葉を実際に社外へ発信しているかどうかです。私自身、採用の場でいろいろな経営層の方とお話ししてきましたが、社内では技術への思いを熱く語るのに、対外的な発信となると急に言葉少なになる方に、何度も出会ってきました。理由は、外に出す時間や体制が整っていないだけの場合もあれば、社内の実態を語ると都合が悪い場合もあり、一様ではないと感じています。CTOがnoteで技術選定の判断理由を書く、部長がXで実装の話に触れる、経営会議での技術投資の話を社外向けの記事や登壇として言語化し直す。経営層や部課長の言葉が社内にとどまらず社外に出ているかどうかに、技術と若手エンジニアへの向き合い方は、いちばん正直に表れます

 この観点は、量ではなく1本で測れます。良い会社の経営層や技術リーダーは、年に1本でも、自分の名前で、自社の技術上の判断について書いています。しかもその1本には、うまくいった話だけでなく、判断を誤った話や、まだ解けていない課題が含まれています。会社の規模や予算とは関係のない、書く人の姿勢そのものが出るところです。応募先の経営層の名前で検索して、直近3年に1本でも見つかるかを確かめてみてください。

 ここで、もう一段丁寧に見てほしいことがあります。企業として技術ブログを運営していても、書いているのは若手エンジニアばかりで、経営層や部課長自身は一度も筆を執っていない、という会社は少なくありません。この記事の5つのチャネル(本章2章参照)は、あくまで「企業として発信しているか」を測る物差しです。それとは別に、発信や実践の主語が、経営層・部課長自身になっているかを、記事の著者クレジットや登壇者名で確かめてください。会社としての技術発信が厚くても、経営層自身のGitHub活動や個人名義の技術ブログが何も見つからない場合、その会社の技術文化を、経営層自身が体現しているとは限りません。

6-2. 姿勢2:技術ブログが、継続的に更新されている

 良い会社の技術ブログは、月に数本のペースで、継続的に更新されています。継続性は、社内で技術発信の時間が確保されている証拠です。忙しさの中で数ヶ月おきに1本、というのではなく、日常のなかに執筆の時間が組み込まれている。この継続性が、技術文化の厚みの土台です。

6-3. 姿勢3:カンファレンス登壇者が、複数の社員にわたる

 良い会社のSpeaker Deckを見ると、登壇者が複数の社員にわたっています。特定の1〜2人だけが登壇する会社ではなく、複数のエンジニアがそれぞれの領域で登壇している。これは、社内で複数のエンジニアが、社外に発信する場を持てている姿勢の表れです。

6-4. 姿勢4:業務時間で技術発信を書ける

 多くの良い会社では、技術ブログの執筆や登壇準備を、業務時間の一部として認めています。「業務時間で技術発信を書ける」と明示している会社は、技術発信を組織の資産として位置づけている会社です。この姿勢は、応募前のカジュアル面談で確かめられます。

6-5. 姿勢5:OSSへの貢献を、会社として評価する

 良い会社では、社員のOSSへの貢献を、業務評価の一部として位置づけています。GitHub Organizationに公開リポジトリが並び、社員のOSS Contributionsが会社の名前と共に記録される。OSSへの貢献は、社外のコミュニティに対する誠実さの表れでもあります。

6-6. 姿勢6:勤続10年以上の中堅エンジニアも、社外に発信している

 良い会社の技術発信では、20代の若手だけでなく、勤続10年以上の中堅エンジニアが、継続的に発信を続けています。技術ブログ、カンファレンス登壇、技術書執筆、OSS貢献。中堅の技術発信履歴が公開されていることは、社内で10年後・15年後のエンジニアのロールモデルが見える形になっている、ということです。応募先の社員紹介ページや、カンファレンスの登壇者リストで確かめられます。

6-7. 姿勢7:多様な社員が、それぞれの視点で発信している

 良い会社の技術発信では、経営層・中堅・若手だけでなく、女性エンジニア、外国籍エンジニア、多様な背景を持つ社員が、それぞれの視点で発信しています。女性シニアエンジニアの登壇履歴・技術書執筆・カンファレンスの基調講演は、後進の女性エンジニアにとってのロールモデルになります。多様性は制度の話だけでなく、社外の発信の場に立つ社員の顔ぶれにも表れます。

6-8. 姿勢8:技術発信の場が、日本国内で閉じない

 良い会社の技術発信では、日本国内のカンファレンスや技術ブログだけでなく、国際カンファレンスへの登壇、海外OSSへのコード貢献、英語での技術ブログや技術書執筆も、社員の実績として並びます序章-2で扱った世界基準への接続は、経営層や技術リーダーが、国際的な発信の場に自分の名前で立っているかどうかで、応募前に確かめられます。

7. プロフェッションとして育つ環境を持つ会社は、技術発信の主語が社内に広がっている

 シリーズ全体を貫く上位原則を、この記事でも確認します。その会社は、エンジニアをプロフェッションとして育つ環境を持っているか

 プロフェッションとして育つ環境を持つ会社は、技術発信の主語が、特定の1人に固定されていません。経営層も、中堅も、若手も、それぞれの持ち場から自分の名前で外に出ています。技術発信は、社外の同業者という第三者に、自分の仕事を差し出す行為です。序章-1で確かめたとおり、プロフェッションは、依頼者や雇用者だけでなく、公衆と職業そのものに責任を負う職業でした。自分の技術を職業の共有財として外に置くという営みは、その責任の、いちばん日常的な形です。

 技術発信の主語が、社内の何人に広がっているか。経営層や部課長自身が、その主語の中にいるか。これは、その会社がエンジニアという職能を、組織の中でどう位置づけているかの、いちばん静かで正直なシグナルです。

まとめ

 本記事では、技術発信で、JDの裏取りをする視点をお話ししました。

 JDは自己申告であり、技術発信はその裏付けです。企業ポートフォリオの技術文化面から、JDに書かれていることを裏取りします。5つの発信チャネルは、公式技術ブログ、経営層の個人発信、カンファレンス登壇、GitHub Organization、Podcast・YouTube。フェーズ2-2の3要素(公開・質・第三者の目利き)は、企業ポートフォリオにもそのまま適用できます。第三者の目利きの具体としては、商業出版された技術書の著者数も、検証しやすい指標として使えます。良い会社の技術発信の実例としては、サイバーエージェント、DeNA、メルカリ、SmartHR、freee、サイボウズ、はてななどが挙げられます。

 JDの1行を、技術発信の1本で照合するのが、裏取りの8つの観点でした。なかでも技術発信が「止まった」会社は、最初から発信がない会社より注意深く読むべきシグナルです。CTOやテックリードの離脱、エンジニアの大量流出、経営の傾きと強く重なって起きるパターンで、こうした現場は志望する学生さんを深く傷つけかねません。投稿日の年次推移、経営陣の在籍期間、カジュアル面談での直接確認で、状況を確かめてください。エンジニアMVV・エンジニアデッキの公開、カンファレンスの継続的なスポンサー実績(登壇実績とのセット確認が必須)も、経営がエンジニア組織に本気で向き合っているかを示すシグナルですが、これらが「ない」ことをもって一律に低く評価しないでください。良い技術発信を持つ会社に共通する8つの姿勢は、経営層の技術の言葉、継続的な発信、複数の登壇者、業務時間での発信、OSSへの貢献、中堅の発信、多様な社員の発信、国内で閉じない発信です。

 次のフェーズ3-4では、ここまで見てきた技術発信の各チャネルを、まとめて確認できる入り口のお話に進みます。採用ページと中途採用のJDです。新卒のJDだけでは見えなかった、その会社に入社した先のキャリアや待遇の具体が見えてきます。

エンジニアの卵のみなさんへ、エール

 技術発信を丁寧に読むのは、時間のかかる作業でもあります。募集要項の10行を読むより、技術ブログの1本を読み込む方が時間がかかります。でも、この時間が、5年後・10年後のみなさんの成長環境を選ぶための投資になります。

 私自身、25年近く前、就活のときに気になる会社の技術発信を読み込む物差しを持っていませんでした。当時はまだ技術ブログの文化も、Speaker Deckのような公開の場も、GitHub Organizationも、いまほど整っていませんでした。私が持てなかった裏取りの道具が、いまのみなさんの手元には豊かに揃っています。この道具を、使ってください。

 今週、なにか一つ、始めてみてください。気になる会社の技術ブログを1本読んでみる。その会社のCTOのnoteを1本読んでみる。その会社の名前でSpeaker Deckを検索して、直近1年の登壇スライドを1枚眺めてみる。その会社のGitHub Organizationを開いて、公開リポジトリを1つ眺めてみる。どれか1つで、本記事の1歩目です。

 そして、フェーズ3-4で、採用ページと中途JDのお話でお会いしましょう。

 一緒に歩きましょう。ボン・ボヤージュ。素敵な旅を。


次の記事はフェーズ3-4「中途採用情報で、面接前に企業の本当の姿を知る。採用ページと中途JDが映す、その先のキャリア」です。


#エンジニア就活 #新卒エンジニア #技術ブログ #企業ポートフォリオ #エンジニアの卵に贈る就活の書


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