【フェーズ1】エンジニア就活は、走り出す前に「立ち止まる」ことから始まる 【エンジニアの卵に贈る、就活の書】
この記事は「ITエンジニアの卵に贈る、就活の書」シリーズの一本です。シリーズ全体の目次はこちら(扉記事)からご覧いただけます。
エンジニアを目指す学生のみなさん、こんにちは。クオリティアーツの池田です。
ITエンジニアの卵に贈る、就活の書・フェーズ1の記事です。前回までの序章(3本)では、エンジニアとは何かをじっくりお話ししました。エンジニアは公衆の福祉に責任を負う高潔な高度専門職業(プロフェッション)であること。世界基準と日本の現状のギャップ。生き方としてのエンジニアと、職業役割としてのエンジニアの違い。序章の3本を土台にして、いよいよ今回から、就活の実践6フェーズに入っていきます。
その最初、フェーズ1「気づく」の総論です。就活のいちばん最初の入口で、立ち止まって見ておきたいものを、3つに整理してお話しします。
このフェーズは、大学3年目の春から夏にかけて、まだ企業説明会もエントリーシートも始まっていない時期のお話です。就活を意識し始めたばかりの、いちばん静かな時期。ここで何を見て、何に気づくかが、その後のフェーズすべての土台になります。
序章で語ったエンジニアという職業の輪郭を持ったうえで、いよいよ、就活の道のりに入っていきましょう。
この総論を読み終えたら、フェーズ1-1「業界の現実と魅力」、フェーズ1-2「IT業界の4つの軸で立体的に眺める」、フェーズ1-3「有名な会社と良い会社は違う」の順に、各論に進んでみてください。
1. なぜ、「走り出す前に立ち止まる」ことが大事なのか
就活を意識し始めた学生さんに、私はよくこう伝えます。
就活は、スタートの号砲が鳴ってから走るスプリントではなく、地図を広げて、自分の行き先と道筋を確かめてから歩き出すハイキングに近い、と。
エントリーシートを何十社にも出す時期は、いずれ来ます。企業説明会に足を運ぶ時期も、面接ラッシュも来ます。そのときに、「なぜ自分はこの業界を選んでいるのか」「なぜエンジニアなのか」「どんな会社と出会いたいのか」という問いに、自分の言葉で答えられるかどうか。それを決めるのが、この静かな時期です。
就活の本番に入ると、目の前の締め切りに追われて、この問いに向き合う時間はほとんどなくなります。だから、まだ静かな今のうちに、地図を広げる時間を取ってほしいのです。
このフェーズは、走らなくていい時期です。焦らなくていい時期です。むしろ、走り出す前に立ち止まって周りを見ることに、いちばんの値打ちがあります。
2. フェーズ1で見ておきたい、3つのもの
「気づく」フェーズで見ておきたいものを、私は3つに整理しています。フェーズ1-1から1-3までの各論記事では、それぞれをじっくり掘り下げていきます。総論のこの記事では、まず3つの全体像をお見せします。
2-1. その1:IT業界そのものの、地図
「IT業界」と一言で言っても、そのなかには本当にいろいろな会社があります。組込みシステムを作る会社、Webサービスを運営する会社、業務システムを受託開発する会社、自社プロダクトを持つメーカー、シード期のスタートアップ。同じ「IT企業」というくくりでも、内側の日常はまったく違います。
私自身、25年近くこの業界にいて、組込み、Web、大企業、スタートアップ、地方の中堅企業、公共まで、幅広く見てきました。それぞれの業界の形には、それぞれの働き方の楽しさと、それぞれの向き不向きがあります。
大切なのは、「IT業界全体をひとつにまとめて考えない」ということ。まず、業界のなかにどんな種類の会社があって、それぞれが何を作っていて、どんな人が働いているのかを、ざっくりでいいので地図として持つ。この地図がないまま就活を始めると、募集要項の1行を読んでも「これがいい仕事なのか、そうでないのか」が判断できません。
この地図は、フェーズ1-1「エンジニアになる前に、一度は立ち止まって知っておきたい業界の現実と魅力」と、フェーズ1-2「IT業界は、ひとつの軸では切れない。4つの軸で立体的に眺める」で、詳しくお話しします。
2-2. その2:「有名な会社」と「良い会社」の、違い
これは、フェーズ1のなかでも特に大事なところです。
多くの学生さんが、就活のスタート地点で無意識に持っている思い込みがあります。「有名な会社に入れば安心」「聞いたことのある会社なら間違いない」という感覚です。テレビCMをよく見る会社、ニュースで話題の会社、親世代が知っている会社。そうした「有名度」を、就活の第一基準に置いてしまう感覚です。
でも、25年近くいろいろな会社を内側から見てきた私の目には、有名度と、エンジニアとして育つ場所としての良さは、まったく別軸に映ります。学生時代には知られていない会社のなかに、驚くほどエンジニアを大切に育てる会社があります。名前をよく知る会社にも、新卒への向き合い方はさまざまなグラデーションがあります。「有名」と「良い」は、同じ軸で語れるものではありません。
とくにエンジニアを目指すみなさんに知っておいてほしいのは、良い会社とは、エンジニアとしてのみなさんが伸びる場所を用意している会社だということです。たとえば、次のような日常を持つ会社です。
経営層や部課長が、エンジニアとして今も実践し、その証拠が学生にも見える
エンジニアが、技術選定の意思決定に加われる
若手も先輩も、対等にコードレビューをする
失敗を、個人を責めずに仕組みで受け止める
そういう日常を持つ会社が、エンジニアの卵にとっての「良い会社」です。
そして、こうした日常運用の質は、有名度とは独立した軸です。経営層や部課長の日常の言葉に、技術と若手エンジニアへの向き合い方は、いちばん正直に表れます。フェーズ1の入口で、有名度と日常運用の質を、切り分けて眺める目を持ってください。
この違いに気づくかどうかで、その後のフェーズで会社を見る目がまったく変わります。詳しくは、フェーズ1-3「『有名な会社』と『良い会社』は違う。そして『安定』を求めて選ぶ会社ほど、あなたの未来を不安定にする」でお話しします。
2-3. その3:エンジニアという職業の、自分にとっての意味
3つ目は、少し内側に向きます。
「エンジニアになりたい」と思っている学生さんに、私はよくこの問いを渡します。あなたが、エンジニアという仕事に惹かれる、いちばんの理由はなんですか?
きれいに答える必要はありません。「モノを作るのが楽しい」「困っている人を技術で助けたい」「動くコードを書き上げた瞬間が嬉しい」「仲間と協力して一つのものを作る感覚が好き」。人それぞれ、いろんな入口があっていい。
大事なのは、この問いに、自分の言葉で答えを持っておくことです。就活が本番に入ると、志望動機を書く場面、面接で理由を語る場面が繰り返し訪れます。そのとき、自分のなかに一本の芯が通っていれば、他人の言葉に流されずに、自分の判断ができます。芯がないと、企業側の言葉に引っ張られて、気がついたら自分でも納得していない会社に応募していた、ということが起こります。
この問いは、フェーズ1の記事のなかで少しずつ滲ませていきます。この問いを、いまのうちにゆっくり温めておいてください。就活が始まってからでは、慌ただしくて温める時間がなくなります。
3. このフェーズを終える頃に、持っていたい3つの物差し
「気づく」フェーズを終える頃、みなさんの手のなかに、次の3つの物差しがあるといい、と私は思っています。
IT業界の地図:業界のなかにどんな種類の会社があって、それぞれが何を作っていて、どんな働き方をしているのか、ざっくりでいいので把握できている
有名と良いの区別:会社を見るときに「有名度」と「エンジニアとして育つ場所としての良さ」を切り分けて考えられる
自分の芯:「なぜエンジニアか」「どんな仕事に惹かれるか」を、自分の言葉で数行語れる
この3つが揃っていれば、次のフェーズ2「作る」に進む準備が整います。この3つがないままフェーズ2に走り込むと、何を作ればいいのか、なぜそれを作るのかが定まらず、頑張った時間が空回りしがちです。フェーズ1に時間をかけることは、フェーズ2以降の時間を無駄にしないための投資でもあります。
4. 立ち止まらずに走り出した学生さんの、その後の姿
「立ち止まる時期」の話をした後で、少し正直な話をさせてください。25年、私は多くの若手エンジニアの就活とその後を、見てきました。そのなかで、フェーズ1で立ち止まらずに、いきなり走り出した学生さんの、その後の姿にも、いくつかのパターンがあります。
1つ目のパターンは、大手志向で内定を取ったが、入社後2〜3年で違和感を抱くというものです。有名度で会社を選んだ結果、いざ入社してみたら、日々の業務がイメージと違った。プログラミングに触れる時間が思ったより少ない、若手が意思決定に加わる場面がない、技術選定の裁量がない。「なんとなく有名だから」で決めた結果、入社後にギャップに気付いて、モヤモヤを抱えたまま数年過ごすことになる。
2つ目のパターンは、周りに流されてSIer系に入社し、キャリアが縦割りになるというものです。就活情報サイトのおすすめ順、大学のキャリアセンターの紹介、友人の応募先。周囲に流されて選んだ結果、業務が上流工程の要件定義書作成やベンダーコントロールに寄り、コードに触れる時間が減っていく。エンジニアを目指したはずが、5年後にはPMやSE寄りの仕事だけになる。
3つ目のパターンは、「安定」を求めて選んだ会社が、実は変化に弱かったというものです。安定した会社に入ったつもりが、業界全体の変化についていけず、10年後に会社そのものが縮小したり、事業撤退したりする。「安定」の物差しで会社を選ぶと、変化と付き合えない会社を選んでしまう構造がある。この論点はフェーズ1-3で扱います。
どのパターンも、当事者を責める話ではありません。判断の物差しが足りない状態で就活を走らされた結果、というのが正しい捉え方です。だから私は、フェーズ1のいちばん最初に、「まず立ち止まろう」というメッセージを、繰り返しお伝えしています。
いま学生時代に、この記事にたどり着いているみなさんには、上の3つのパターンを避けるだけの物差しを、先に持ってほしい。それが、本記事で私がお伝えしたいことの、いちばん深いところにあります。
5. フェーズ1の各記事の、読み進め方の案内
フェーズ1は、総論の本記事と、各論3本の合計4本で構成しています。読み進め方を、少し丁寧に案内しておきます。
5-1. 順番に読む場合
本記事(総論):見ておきたい3つのものの全体像
フェーズ1-1:業界の現実と魅力。IT業界の全体像を、数字と実感で捉える
フェーズ1-2:4つの軸で立体的に眺める。業界の内側の多様性を、立体的に見る
フェーズ1-3:有名≠良い。会社を見る物差しの原点
5-2. 目的別に読む場合
業界そのものが分からない:フェーズ1-1から。IT業界の全体像を、まず掴む
どの業態が自分に合うか迷う:フェーズ1-2から。4軸立体地図で、自分の志向を確かめる
有名企業に応募すべきか迷う:フェーズ1-3から。有名度以外の物差しを、先に持つ
時間がなくて総論だけ読みたい:本記事だけでも、フェーズ1の急所は掴める
5-3. 読んだ後の次の一歩
フェーズ1を読み終えたら、次はフェーズ2「作る」に進んでください。フェーズ2は、シリーズで最も分量が多い実践編です。フェーズ1で持った物差しがあると、フェーズ2で何を作るべきかが、自分の中で自然に決まっていきます。
6. 気づく時期の、小さなコツ
このフェーズは、動くというより、感覚を育てる時期です。応募のことは考えなくていいので、気になる会社の採用ページや技術ブログを、少しずつ眺めてみる。それだけで、業界の空気が体に入ってきます。具体的なアクションは、次のフェーズ1-1でまとめてお話しします。
まとめ
本記事で扱ったフェーズ1「気づく」は、就活のスタート地点にあたる時期です。ここで大切なのは、走り出すことではなく、立ち止まって地図を広げることでした。
見ておきたい3つのものを、あらためて整理します。
その1:IT業界そのものの地図。業界のなかの多様性を、ざっくり把握する
その2:「有名な会社」と「良い会社」の違い。エンジニアとして育つ場所としての良さを、有名度と切り分けて見る
その3:エンジニアという職業の、自分にとっての意味。自分の芯を、自分の言葉で語れるようにしておく
このフェーズを終える頃には、業界の地図・有名と良いの区別・自分の芯の3つの物差しが、みなさんの手のなかにあるはずです。この3つが、次のフェーズ2「作る」に進む土台になります。
各論のフェーズ1-1〜1-3では、それぞれをもっと具体的に掘り下げていきます。総論を読んで気になったところがあれば、そこから読んでみてください。
エンジニアの卵のみなさんへ、エール
就活の入口で、走らずに立ち止まることは、周りが動き出すなかで少し不安になる選択でもあります。でも、25年近く若手エンジニアを見続けてきた私の経験では、この時期に立ち止まって地図を広げた学生さんほど、その後の就活で迷わず、良い会社に出会えていることが多いです。
みなさんは、大丈夫です。エンジニアという道を選ぼうとして、この記事にたどり着いたみなさんには、その先に続く道がちゃんと開けています。その道を、みなさんが主体的に選ぶ側として選び取れるように、私はこのシリーズを書き続けます。
今週、ちょっとだけ時間を取って、気になる会社の採用ページを1つだけ眺めてみてください。それが、本記事で伝えたい、いちばん最初の一歩です。
一緒に歩きましょう。ボン・ボヤージュ。素敵な旅を。
次の記事はフェーズ1-1「エンジニアになる前に、一度は立ち止まって知っておきたい業界の現実と魅力」です。
#エンジニア就活 #新卒エンジニア #エンジニアのキャリア #IT業界 #エンジニアの卵に贈る就活の書
