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【新連載】小説「LOVERS」新時代の綺羅星(きらぼし)編①幸せな日常に忍び寄る影

5月23日より、「LOVERS」シリーズ〜新時代の綺羅星きらぼし編〜、連載スタートです。こちらはシリーズ前作「星の欠片かけら編」の続きにあたります。

星の欠片編、概要
思いがけず、「星の欠片」である子供を授かることになったさくらとリオン。しかしその子は、神さまから二人に託された「救世主」でした……。




<リオン>『ワライバ』に忍び寄る “黒い影”

 こんなに長期間、停電しているなんておかしい。本当はとっくに復旧しているが、誰かが独占していて「未だ使えない」と嘘をついているんじゃないか――。

 人々の間でそんな噂がまことしやかに囁かれ始めたのは、停電してからちょうど一年が経つ頃。本格的な夏を迎える前の、梅雨の走りの頃だった。

 暑さが極まる昨年の夏は、停電のせいで冷房が使えずに多くの命が失われた。その記憶と恐怖が人々を不安にさせるのは当然のこと。もうあんな経験は懲り懲りだ。いい加減、もとの暮らしに戻りたい。国は一体何をやっているのか……。国民の不満と怒りは爆発寸前のところまで来ている。

 一応、生きるのに最低限の電氣は使えている。しかし、かつてのように、無尽蔵に使える状況には程遠い。これに対し政府は、ラジオや新聞等で一貫して「電力の復旧に全力を上げている」と説明するばかりで具体的な時期を示さない。同じフレーズの繰り返しに、人々の中には諦めの念を抱き始める者すらいる。

 今日もまた一人、そんな人がここ『ワライバ』にやってきた。

「もう、国がなんとかしてくれるのを待っていたら死んでしまう。藁にもすがる思いでここに来ました。……本当にここでは、電氣もお金もなしに暮らせるんですか?」

「もちろん。ただし、芸術とか特技とか、命をつなぐものを互いに交換するのが一応の条件だけど、まぁ、こんな世の中だから、ここにたどり着いたのもなにかの縁ってことで、今は何もしなくても大丈夫。好きなだけいていいよ」

「なんてお優しい人なんだ……! ありがとうございます……!」
 男性は大いに感動し、何度も頭を下げてワライバの一角に腰を下ろしたのだった。


***


 声高には言わないが、おれはこの「停電騒動」の裏で何が起きているのかを知っている。ピアノを弾いているときにだけ、時々ではあるが神の啓示が降りてくるからだ。

 停電の理由。それは、世界をAIで牛耳ろうとする組織による電力の独占。そう、人々が噂しているとおりだ。神はその事実を、ピアノの響きでおれに教えてくれた。

 神によれば、その組織は海の向こう側に存在しているという。海の向こうの組織がなぜ日本を停電させるんだ? と思うだろうが、彼らは他国から奪ってでも電氣がほしいのだ。

 なぜ? 答えは簡単。AIをストレスなく動かして世界のトップであり続けるためだ。もはや自国の発電所だけでは、大量の電氣を食うAIを動かすことができない。しかし、発電所を建設するのには時間がかかる。ならば手っ取り早く他国から奪う。それが海外のやり方なのだ。

 AIそのものではなく、AIを動かしている人間によって世界を支配される時代が来るなんて皮肉だよな。でも、それがまかり通るのがこの世の中だ。

 そうは言っても、おれたちの憩いの場『ワライバ』だけは、そばにある湖畔の水面のように穏やかだったんだ、、、、、。彼らがおれたちの「聖域」に氣づき、踏み荒らそうと魔の手を伸ばしてくるまでは。




<さくら> 闇をも照らす赤ちゃんの微笑み

 神さまから授かった愛娘、冬月ふづきちゃんは何から何まで他の子とは違う。よく眠る手のかからない子、と言うだけではない。生後2ヶ月をすぎたころには首が完全に座り、じきに5ヶ月になろうかという現在にはもう、這いずり回って今にも立ち上がろうとさえしているのだ。

 ワライバに出入りする先輩ママたちも驚きを隠せない様子だが、「時たまありえない発育速度の子もいるから、冬月ちゃんはきっとそっちのタイプなのよ」と、我が子の成長を「個性」として受け止めてくれる。そう、外では「異常」と捉えられることも、ここでは「みんな違ってみんないい」。それがここ『ワライバ』で暮らす人の考え方。本当にありがたいことだ。

 もちろん私は、なぜこんなにも早く成長するのかを知っている。胎内にいるときからずっと訴えかけられてきた、「1日でも早く成長して、ママたちと一緒に世界を良くしたい……!」という彼女の思いが、今まさに現実のものになっている、それだけのこと。でも、周囲には話さない。これは私たち親子だけの秘事ひめごとにするつもりでいる。


◇◇◇

 この国で生きることがいよいよ厳しくなる中で、ワライバに救いを求める人は多い。ここで快適な暮らしができると知った人が純粋な心の持ち主なら、もちろん誰でも歓迎する。だが、名が知れればどうしても色んな人がやってくる。

 激しい雨が降る中、その女性は真っ黒な服と真っ黒な傘を差してワライバに現れた。
「わたくし、こういうものです……」

 差し出された名刺には、『再生エネルギー推進事業委員会』という立派な団体名が大きく印字されていた。女性の名前は、香府こうふさやか。だが、開かれたままの傘の下の顔は未だ判別できない。声の感じから想像するに、50歳くらいだろうか。

「あの……。一体どのようなご要件でしょうか? ここは芸術家の集まる場所。失礼ながら、あなた様のような方が来る場所では……」

 冬月ちゃんを抱きかかえたまま、できるだけ丁寧な口調で告げると、女性は勢い良く傘を閉じ、ニヤリと笑った。

「日本中が停電して生きることもままならない状況下において、あなた方は平然と『電氣』を使って生活している……。そのような情報が当方に入っております。現在、稼働する発電所で作られるわずかばかりの電氣を、全国民に均等に行き渡るよう送電しているのはご存知ですね? 皆、その電氣を命綱になんとか暮らしている中、あなたたちだけはなぜか快適に生活できている……。それは、電氣を不正利用しているからですよね?」

 確かにここ、ワライバでは「電氣」を使うことができる。だがそれは、リオンくんが純粋な想いでピアノを弾いたときにのみ生まれる、ほんのわずかな電氣エネルギー。私たちは『愛のエネルギー』と呼んでいるが、それを蓄電器や冷暖房機器に送り、必要に応じて使用しているだけ。決して「不正利用」などではないし、こっちだって、生きるのに必死なのは同じだ。

「違います……」
 迷いなく返答したつもりだったが、相手の威圧的な態度に少し声が震えてしまった。相手はそれを聞き逃さなかった。

「何か、隠していますね? 調査させていただいてもよろしいでしょうか?」

「…………」
 真っ黒なその瞳に怖氣づきそうになった時、腕の中の冬月ちゃんが急に動き始めた。

「おんり、おんり……!」

「えぇっ……! お、下ろしてほしいの?」
 急に発話したことにも驚いたが、今はそんな状況ではない。言われるがまま、足元に下ろす。すると彼女はニコニコしながら女性のそばに這い寄り、その足を掴んで立ち上がったのだ。

「ちょっ、なんですか、この子は……! あっちへお行き!」
 赤ちゃんが苦手なのだろう、女性は足を動かして冬月ちゃんを振り払おうとした。けれど、彼女は女性を笑顔で見上げ続けている。

「あ、あなたもぼさっと立ってないで、この子を抱き上げてちょうだい……!」

 女性が冬月ちゃんに恐れをなしているのが分かった。が、敢えてそのまま見守る。すると、見計らったように、アトリエからリオンくんの弾くピアノの音が聞こえてきた。外の雨が大地を潤すような、しっとりとした優しい音色が。

 その瞬間、女性の目の色が変わった。もう、ここには一秒もいたくないといった表情で女性は言う。

「……今日はこれで失礼。また後日、改めて伺うことにします」

 私はそこで冬月ちゃんを抱き上げた。足元にまとわりつく赤ちゃんがいなくなってホッとしたのか、女性は逃げるように玄関を出ていった。

「ありがとう、冬月ちゃん。ママを助けてくれて」
 私は彼女をぎゅっと抱きしめた。

「やっぱり、あなたに笑顔を向けられた人は、どんな人でも心を見透かされてしまうのね。あの人、あなたのことをとても怖がっていたわよ? フフ、見た目は赤ちゃんなのにね」

 ――ママ、あの人には氣をつけて。あの人、ここをめちゃくちゃにするつもりだよ。

 心の中に、冬月ちゃんの「声」が響いた。その内容に、身を引き締める。
「教えてくれてありがとう。でも、大丈夫。ここは絶対に守る。もちろん、あなたのことも」

 唐突に、あの女性の真っ黒な瞳が脳裏によみがえって怖くなる。しかし雨音と、鳴り響くリオンくんのピアノの音が、少しずつ、だが確かに私の心を癒やしてくれた。



<ここまでのお話と世界観はこちら>

ある日を境に突然、電氣が使えなくなって、はや一年。生き延びた人たちは、自然と互いに手を差し伸べ、助け合いながらなんとか命をつないでいる――。

福岡の田舎町にひっそりと存在する芸術家の憩いの場『ワライバ』。ここにアトリエを構えるアートパフォーマンスユニット『サクライロ』の音村おとむらリオン(ピアニスト)とさくら(画家)、そしてその子供の冬月ふづき(天からの授かりもの)は、芸術家仲間や「常識はずれ」な彼らの理念を理解する仲間とともに生活している。ここでは、それぞれの芸術作品や持ち寄った野菜などが「貨幣」のかわり。人々はそれらを交換することで精神を満たし、心を通わせながら生きている。

ここ、ワライバでは愛と調和が世界を回している。ひとたびリオンがピアノを弾けば、「人々を癒やし、救いたい」という『愛のエネルギー』が、一つの照明をともすエネルギーを生む。また、さくらがキャンバスに色を乗せれば、その優しい色彩が見るものの精神を落ち着かせる。冬月に至っては、そこに存在して微笑むだけで、冬なら周囲を暖かく、夏なら涼しくさせて人々を心身ともに安心させる。

音村おとむら一家と彼らが暮らす『ワライバ』は、いまや福岡のみならず、全国、果ては世界にまでその名を轟かせている。


第二話はこちらから


補足:
前作「星の欠片編」第6話にて、『博多駅前でリオンがピアノを弾いた際、クリスタルギターに電氣を供給することができてライブを成功させた』という奇跡のエピソードを、こちらでも引き続き使用しています。初めて読んだ方で、世界観がよくわからなかったという方は、ぜひ前作6話も読んでみてください! かっこいい、ギターとピアノセッションも聴けます!



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