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If小説「LOVERSサクライロ編」③ 〜インターネットが繋がらなくなった世界。大切な人と繋がれる場所を探して〜

あなたは、どんなときに大切な人との繋がりを感じますか?


第三話:眠る者と覚醒めた者の分岐点


<リオン>

 日が沈む。普段なら笑い声が響き渡る東京の夜も、インターネットが繋がらなくなった今は怒号と混乱の声で溢れかえっている。

 ぽつりぽつりと、スマートフォンと連携したICカード決済やクレジットカード決済が使えないと分かった人たちの中から、公共交通機関での移動を諦め、徒歩で家路につこうとする人が現れ始める。だが、決断できる者はほんのひと握り。多くの人は慣れきったパターン(電車やバスに乗って移動するのが当たり前の思考)に沿って行動することしか出来ない。ネットが繋がらないのにスマホを手放せない。その姿を見れば、彼らがいかに黒い板スマートフォンに依存、いや、支配されているかがわかる。

 そんな中を歩いていても、おれの意識は極めてクリアだ。ネット回線が途絶えたからこそ、宇宙とのつながりが一層強化されたとすら感じる。

 おれの脳内で流れ続けるピアノの旋律。それを指でなぞるたび空氣が震え、魂の片割れであるさくらにダイレクトに届く。今ここにいなくても、目に見えなくても、さくらがおれの弾く「音」を受け取っているのを、魂は感じてる。

 ネオンが眩しく光る東京の夜空。その人工の光を切り裂くように流れる幾筋もの星。その流れていった先を目指して歩き続ける。

 万が一、迷子になってしまった時。どこにいても、離れ離れになっても、おれとさくらが再会する場所は決めてある。

 金色の月と流れ星が交差する場所――。

 それは、他の人が聞いても決してわからない暗号のようなもの。だが、おれたちにとってその言葉はコンパスそのものであり、二人が合流する座標なのだ。


***


 流れ星が落ちたところ。そこは江戸城の天守台だった。城郭のない平らなその場所はしかし、東京とは思えないほど静かに存在していた。

 さくらは、そこにいた。

 天上の月を見上げるその姿は神々しく、女神にすら見えた。

「さくら」
 声を掛けると彼女は振り返り、微笑んだ。

「見て。星の欠片を見つけたの。これ、“リオンくんの” でしょう?」
 さくらが手に乗せて差し出したのは、確かにおれが “透明なピアノ” を弾いたときに流れ出た音のかけらだった。

「必ず逢えると信じていたわ。ここ、福岡城の天守台みたいね。私たちが初めてあの地を訪れたときに登った……」

「うん。あそこよりはずいぶん低いけれど、天と繋がれるという意味では同じだ」
 どちらも、今は天守が存在しない。しかし共通しているのは、都会の喧騒を跳ね飛ばし、かつての威厳を放っているという点。

 それはまるで、おれとさくらのようだ。

 おれたちの周囲だけは、手を伸ばした範囲だけは、誰にも邪魔できない聖域。ここさえ守られれば、どれだけ周りが騒がしくても幸福でいられる。そう、ここにさくらがいて、ピアノが弾ければそれでいい。

 さくらと見つめ合い、呼吸を合わせていると、月の光を集めたような輝きを放つ黄金のピアノが現れた。さくらの意識と一つになるのを感じながら指で鍵盤を叩く。心地よい音に包まれ、ここだけが別世界のようになる。

 もはや、電子の糸が繋がっている、いないは関係ない。眼の前にいる大切な人と、自己表現できるツールがあれば生きていけることを、人々は思い出さなければならない。



<さくら>

 リオンくんが奏でる黄金のピアノの音に包まれた時、全身の細胞が震え、そのすべてが音に溶けていくのがわかった。彼が私の中に入ってくるような感覚。それが螺旋状に絡み合い、天に昇っていくような心地よさに包まれる。

 これが、真の幸福。魂の共鳴さえあれば、他には何もいらない。だってもう、この瞬間が天国にいるようなものだから。


◇◇◇


 導かれるようにしてリオンくんと再会を果たした夜。しかし、あの感動的な出来事が夢であったかのように、夜が明けると街は日常を取り戻し、人々は再び電子の世界に戻っていった。覚醒めるかと思われた羊たちが、夢の続きを見はじめたのである。

「ネットが繋がってよかったよ。これでアタシたちもまた繋がれるね」

 道行く女性が見つめているのは、相変わらず黒い板スマートフォンの液晶画面だ。そこに映し出された平面の女性もまた、どこか離れたところで同じように液晶画面を見つめているのだろう。

 彼らに問うてみたい。
 そこに、人のぬくもりはあるのか? 
 それがホンモノの繋がりなのか? と。

 私は、隣にいるリオンくんの手のぬくもりを感じながら歩く。言葉はいらない。ただ、彼がそこにいるだけで、その存在を感じられるだけで幸せだから。

 新しい音が生まれているのだろう。つないだ彼の指先が動き始めた。今度はいったいどんな音を響かせてくれるのか。その時を楽しみに、今はそのぬくもりを感じていようと、握った手に力を込めた。


――完――

思いつきで書いた「もしたった今、インターネットが繋がらなくなってしまったら?」という世界線の物語。いかがでしたか?

かなりファンタジーっぽくなってしまいましたが、光あふれる情景をイメージしながら読んでいただけましたら幸いです。

インターネットが繋がらなくなった時、あなたならどうしますか。また、どんなときがもっとも幸福でいられますか。覚醒めたあなたからのコメントをお待ちしています(*^_^*)


第1話、第2話はこちら


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