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情報は出さず、支援もせず、生活も守らないが、それでも成果だけは享受する社会――日本社会における音楽家養成構造に潜む「本音」の翻訳


序:競争以前の条件分岐

 これまでの音楽家養成過程をめぐる記事や藝大の構造分析から明らかになったように、日本の音楽教育は、構造として不安定であり、不透明であると言わざるを得ない。

 ある人が自分に音楽の才能があることに気づく。
 そして、適性のある楽器が見つかる。
 そこから必要になるのは、楽器、楽譜、質の高い教師、そして練習環境である。
 しかし、この時点で、多くの家庭が現実的な壁に突き当たる。

 防音環境は偶然に左右され、良質なレッスンは高額で、楽器や維持費は天井が見えない。
 それでも十年以上の研鑽を積み、音楽家の道を志したとしよう。
 学費が比較的安いからと「国立の東京藝術大学」を目指す。
 だが入学を現実的に考え始めた瞬間、誰もがすぐに気づく。学費以外のコスト――学外レッスン、楽譜、遠征、録音、生活費――が、静かに、しかし確実に積み上がっていくことに。
 地方出身で一人暮らしなら、状況はさらに厳しい。
 アルバイトは必要だが、練習時間は削られる。
 同級生には、都内実家暮らしで経済的余裕があり、練習にも演奏会にも集中できる学生がいる。
 ここで既に、競争は始まっているのではない。条件による分岐が起きているのである。

第1章 語られない前提、共有されない現実

 この構造において、最も深刻なのは、学生に対して、次の事実が事前に誠実に語られないことだ。

* 総コストは事前に確定できない
* 地方学生は、時間・環境の両面で不利になる可能性が高い
* 卒業後、安定した就職先があるとは限らない
* 膨大な投資が回収できない人が多数派である

それにもかかわらず、音楽家志望者は、「努力すれば道は開ける」「本気なら乗り越えられる」といった、構造を覆い隠す言葉の下で決断を迫られているように思われる。
 そして、決断した後に、支援はない。就職が決まらなかった場合の生活保障もない。あるのは、静かな自己責任化だけである。

第2章 社会が実際に言っている「本音」の翻訳

 この構造を、感情を排して正確な言葉に置き換えると、社会は音楽家志望者に対して、実質的にこう語っているに等しい。

 我々は、あなたに対して、必要な情報を事前に開示しない。
 総コストへの支援もしない。
 卒業後の就職支援をしないし、就職先が見つかるまでの移行期間の生活保障もしない。
 それらはすべて自己責任で引き受けなさい。
 ただし、あなたが生み出した成果物は享受させてもらう。

 これは誇張でも皮肉でもない。制度が実際に行っていることを、誠実な日本語に翻訳しただけである。
 この翻訳に、目を背けたくなる人もいるだろう。
 一方で、「まさにそれだ」と感じる人もいるはずだ。この文章は、価値観の違いを可視化するフィルターとして機能する。

第3章 これは敬意ではなく、フリーライドである

 もし社会が本当に音楽家や音楽活動に敬意を払っているなら、

* 事前の情報開示
* 不可避なコストへの支援
* 職に就けない期間の生活保障

これらを用意するのが最低条件である。
 それらをせず、「成果だけを消費する」「失敗は個人の責任とする」構造は、敬意ではなくフリーライドであり、搾取であり、日本国憲法下及び国際人権基準に照らして、決して容認できないものである。
 そして、この構造は必ず文化を枯らす。なぜなら、長期的な研鑽と不確実性に耐えられる人間が、構造的に排除されていくからだ。

結語:静かな可視化としての問い

 本稿は、誰かを断罪するためのものではない。
 ただ、日本社会が長年、暗黙のうちに採用してきた前提を、憲法や倫理以前に、人間の言葉として可視化したに過ぎない。
 もしこの翻訳を聞いて、「それでも構わない」と言うなら、日本社会は自ら、音楽文化の衰退を選び取っていることになる。
 もし「それはおかしい」と感じるなら、問うべき相手は、音楽家志望者ではなく、この構造を放置してきた社会の側である。
 音楽家を志す人々の人生を、無言の実験台にし続けることは、もはや許される段階を超えているのではないだろうか。


※以前の同主題の記事


読者へのお願い

 どうか皆さん、日本国憲法を読んでください。私が所持し、座右に置いている童話屋発行の日本国憲法は、文庫本の大きさで、厚さは0.3mmしかありません。どこにでも持ち運びができます。ここに、読みやすい字の大きさで、憲法全文全てが入っています。

 特に、前文と第二・三・十章をお読みください。第三章は、国民生活に関わる全てがあり、とりあえずここだけ熟読しておくだけで大丈夫です。
 なお、「教会での人権侵害」第3章第3節4で述べた、人権侵害を指摘・報告する文書の作成・送付は、第16条(請願の権利)の行使によるものです。これを行うのに、特別な資格は不要です。法律条文がわからなければ、AIに教えてもらい、自分で確認すれば、良いのです。
 憲法は、政治家だけのものではありません。むしろ、本来は権力を縛るという点で、国民のものなのです。これを読めば、誰にでも“社会を変える力”が芽生えます。

※以下のマガジンに以前の記事があります。




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