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🧣繋がる手のひら🧣


​ある土曜日の午後。美咲(みさき)は、育ての母・良江(よしえ)と一緒にキッチンに立っていました。

献立は、美咲の大好物であるコロッケです。

​「ほら美咲、形を整えるときは、手のひらで優しく包むようにね」

​良江の少し節くれだった、温かい手が、じゃがいもの種を丸めていきます。美咲はその手を見つめながら、ふと、先日読み返した実の母・早苗(さなえ)の日記を思い出していました。

​記憶のない温もの

​早苗は美咲を産んで数時間後、一度も抱くことが叶わぬまま、静かに息を引き取ったといいます。

アルバムにある写真は、数枚のセピア色の姿だけ。声も、匂いも、美咲の記憶には一切残っていません。

​けれど、良江から教わった「料理の味」や「洗濯物の畳み方」、そして「悲しいときは泣いてもいい」という教えの中に、美咲は時折、会ったことのない早苗の影を感じることがありました。

​「お母さん、どうしてそんなに私のことが分かっちゃうの?」

揚げたてのコロッケを頬張りながら、美咲が尋ねました。

​良江はふっと笑って、少し遠くを見るような目をしました。

「それはね、あなたがうちに来たばかりの頃、早苗さんのご実家から届いた手紙に書いてあったのよ。『この子は、寂しくなると指を一本だけ握ってくる癖があります。どうか、その時は離さないであげてください』って」

​受け継がれた約束

​良江は、その見えない約束を二十年間守り続けてくれました。

美咲が夜泣きをすれば、その小さな指が満足するまで握りしめ、転んで泣けば、早苗の分まで強く抱きしめてきたのです。

​「私はただ、あの方がやりたかったことを代わりにさせてもらってきただけ。早苗さんが遺してくれた『美咲への愛し方のヒント』があったから、私はあなたのお母さんになれたのよ」

​良江の言葉を聞いて、美咲は気づきました。

自分を育ててくれたのは、目の前にいる良江の献身だけではない。亡くなった早苗が必死に遺した「娘への想い」が、良江というバトンを通じて、今も自分を形作っているのだと。

​窓辺の光

​夕暮れ時、窓から差し込む柔らかな光が二人を包みます。

美咲は、良江の少し荒れた手をそっと握りました。

​「お母さん、私ね、二人のことが大好きだよ。産んでくれたお母さんが私を見つけてくれて、育ててくれたお母さんが私を離さないでいてくれたから、今の私がいるんだもん」

​良江は少し照れたように「急に何言ってるの」と笑いましたが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいました。

​食卓には、ホクホクとした湯気を立てるコロッケ。

そこには、目には見えないけれど、確かに存在する「もう一人の母」の席もあるような、そんな温かい日常の景色が広がっていました。


💝柊紅葉💝





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