会社が変わらないのは、社員のせいではない―社長だけが考えている会社で起きていること
「売上は上がっているんです。でも、お金が残らないんです。」
事業承継した後継者から、そんな相談を受けたことがあります。
話を聞いていくと、悩みは資金繰りだけではありませんでした。
「投資したい案件もある。でも資金がない。
何を改善したらいいのか分からない。」
会社は赤字ではありません。
社員もいます。
取引先との関係も続いています。
それでも経営者本人は、出口の見えないトンネルの中にいるような状態でした。
経営相談をしていると、
「社員にもっと当事者意識を持ってほしい」
という言葉をよく聞きます。
しかし実際に現場へ入ってみると、社員の能力や意欲が問題ではないことも少なくありません。
問題は、
社長だけが会社全体を見ている状態
になっていることです。
その後継者もそうでした。
日々の業務を回しながら、
資金繰りを考える。
借入返済を考える。
設備投資を考える。
新しい取り組みも考える。
採用も考える。
社員には見えないところで、常に複数の課題と向き合っていました。
一方で社員は、自分の担当業務を見ています。
営業は営業。
製造は製造。
経理は経理。
それぞれが目の前の仕事に責任を持っています。
見えている景色が違うのです。
だから社員が悪いわけではありません。
社長だけが、会社全体の重さを背負っている状態になっているのです。
この会社でも、最初に行ったのは社員教育ではありませんでした。
評価制度の見直しでもありません。
まず取り組んだのは、
会社の仕事の流れを整理すること
でした。
誰が何をしているのか。
誰が何をできるのか。
どこで情報が止まるのか。
誰が何を判断しているのか。
責任者も巻き込みながら、一つずつ整理していきました。
すると少しずつ変化が起きました。
以前の会議では、
社長が話し、周囲が聞く。
そんな場面も少なくありませんでした。
しかし仕事の流れが整理され、
責任範囲が明確になるにつれて、
責任者が自分で課題を持ち込むようになりました。
会議で出てくる内容も変わりました。
報告だけではなく、
改善提案や意思決定のための論点が出るようになったのです。
変わったのは会議だけではありません。
以前、その後継者は、
「何を改善すればいいのか分からない」
と話していました。
売上が増えても資金が苦しい。
投資したい案件もある。
しかし失敗も経験している。
だから動けない。
そんな状態でした。
ところが、仕事の流れを整理し、会社全体の状況を見える化していく中で、少しずつ判断の基準ができていきました。
ある時から、
「この投資は本当にキャッシュを生むのか」
「今やるべきことなのか」
という視点で議論するようになりました。
正解が分かるようになったわけではありません。
しかし、
自分なりの判断基準を持って考えられるようになった
のです。
ある日、責任者たちに短い発表をしてもらいました。
以前なら人前で話すことに苦手意識を持っていたメンバーです。
しかし発表を聞いた経営者は、
「成長している姿を見るのが嬉しい」
と話していました。
さらに、
「これからは社員にも発表スキルを身につけさせたい」
とも言っていました。
私はその言葉を聞いて、
会社が変わり始めたのだと感じました。
ここで重要なのは、
売上が急に伸びたわけではないことです。
新しい制度を導入したわけでもありません。
最初に変わったのは、
会議です。
会話です。
意思決定です。
そして、
経営者自身の考え方です。
会社の数字より先に、
会社の考え方が変わり始めたのです。
年間400件を超える経営相談に関わる中で感じることがあります。
会社が変わらない原因は、必ずしも社員ではありません。
むしろ、
社長だけが考え続けている状態こそが、
会社の成長を止めていることがあります。
そして後継者や第二創業の経営者ほど、その状態に陥りやすいのです。
もし今、
「社員が動かない」
「自分ばかりが考えている」
そう感じているなら、一度立ち止まって考えてみてください。
本当に社員の問題でしょうか。
それとも、
社長だけが会社全体を背負っている状態になっていないでしょうか。
次回は、
「会議しても結論が出ない会社の共通点」
についてお話しします。
※事例は一部加工しています。実在の企業・人物とは関係ありません。
はじめての方へ
私は主に、
事業承継後の後継者、
第二創業フェーズの経営者、
新規事業責任者の伴走支援を行っています。
経営の正解を提示するのではなく、
頭の中を整理し、
判断基準を明確にし、
経営チームが機能する状態をつくることを重視しています。
実際に私が関わる現場でも、
最初から答えが見えている経営者はほとんどいません。
むしろ、
「何から手を付ければいいか分からない」
という状態から、
自分なりの判断基準を持てるようになった時に、会社は動き始めます。
もし今、
「相談できる相手がいない」
「頭の中が整理できない」
そんな状況であれば、お気軽にご相談ください。
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熊谷 篤
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士
承継・第二創業・新規事業の現場で、経営者が判断できる状態をつくる伴走支援を行っています。
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