会議しても結論が出ない会社の共通点―論点ではなく「判断基準」が欠けている
「毎月会議はしているんです。
でも、結局何も決まらないんです。」
事業承継後の経営者から、こうした相談を受けることがあります。
会議がないわけではありません。
幹部も参加しています。
資料も出ています。
それぞれが意見も言っています。
それでも、最後はこうなります。
「もう少し検討しよう」
「一度持ち帰ろう」
「次回また話そう」
そして翌月も、同じ話をしています。
一見すると、幹部に当事者意識がないように見えるかもしれません。
しかし現場に入ってみると、必ずしもそうではありません。
むしろ、社長も幹部も、それぞれ正しいことを言っていることが多いのです。
営業は言います。
「売上を伸ばすには、新規開拓が必要です」
製造は言います。
「今の人員では、これ以上受けると現場が回りません」
経理は言います。
「資金繰りを考えると、大きな投資は慎重にした方がいいです」
社長は言います。
「でも、今動かなければ将来が厳しい」
どれも間違っていません。
問題は、意見の正しさではありません。
判断基準がそろっていないことです。
売上を優先するのか。
利益を優先するのか。
キャッシュを優先するのか。
投資余力を優先するのか。
現場負荷を優先するのか。
将来の成長を優先するのか。
これらが混ざったまま話していると、会議は決まりません。
ある後継者も、まさにその状態でした。
売上は伸ばしたい。
しかし、お金は残っていない。
投資したい案件もある。
でも、過去に失敗もしている。
借入返済もある。
現場にも余裕がない。
本人はこう話していました。
「何を優先したらいいのか分からない」
これは能力の問題ではありません。
見るべき数字と、判断の順番が整理されていなかったのです。
そこで最初に行ったのは、立派な戦略を作ることではありませんでした。
まず、会社のお金の流れを整理しました。
売上が増えた時に、粗利はいくら残るのか。
粗利から固定費を引いた後、いくら手元に残るのか。
借入返済後に、自由に使えるお金はいくらあるのか。
その中から、いくらまでなら投資に回せるのか。
つまり、
売上ではなく、キャッシュを基準に考える
という整理です。
この基準が入ると、会議の質が変わります。
「この案件は売上が大きい」
ではなく、
「この案件は粗利が残るのか」
「この設備は必要そうだ」
ではなく、
「この設備は何年でキャッシュを回収できるのか」
「人を増やしたい」
ではなく、
「固定費を増やしても、耐えられる構造になっているのか」
という議論に変わっていきます。
会議で大事なのは、全員がたくさん意見を言うことではありません。
決めるために必要な論点が出ていることです。
そして、論点を判断する基準があることです。
判断基準がない会議では、声の大きい人の意見が通ります。
過去の成功体験が強い人の意見が残ります。
社長が最後に引き取るしかなくなります。
その結果、会議をしているのに、社長だけが考え続ける会社になります。
逆に、判断基準がある会議では、役職や感情ではなく、基準に戻れます。
「それは売上の話ですか」
「粗利の話ですか」
「キャッシュの話ですか」
「今やるべき投資ですか」
「後回しにしても会社は死なない話ですか」
こうした問いが出るようになると、会議は少しずつ意思決定の場になります。
この会社でも、最初から劇的に変わったわけではありません。
しかし、会議で出てくる言葉が変わりました。
以前は、
「どうしましょうか」
で止まっていた話が、
「この条件ならやる」
「この数字を超えなければ見送る」
「まず小さく試して、結果を見て判断する」
という形に変わっていきました。
正解が分かったわけではありません。
ただ、決めるための基準ができたのです。
後継者や第二創業の経営者にとって、これはとても大きな変化です。
なぜなら、会社を継いだ直後の経営者は、先代の正解、古参幹部の経験、銀行の目線、社員の不安、取引先との関係をすべて背負いながら判断しなければならないからです。
その状態で、判断基準がないまま会議をしても、決めきれません。
大事なのは、完璧な答えを出すことではありません。
今の会社にとって、何を基準に判断するのかを決めることです。
売上なのか。
粗利なのか。
キャッシュなのか。
投資余力なのか。
現場の余力なのか。
その順番を決めるだけで、会議は変わり始めます。
もし今、
「会議しても結論が出ない」
「毎回同じ話をしている」
「最後は社長が引き取っている」
そう感じているなら、会議の進め方だけを変えても不十分かもしれません。
本当に必要なのは、議事進行の改善ではなく、
会社としての判断基準をそろえること
かもしれません。
次回は、
「過去の成功体験が会社を止める」
についてお話しします。
はじめての方へ
私は主に、
事業承継後の後継者、
第二創業フェーズの経営者、
新規事業責任者の伴走支援を行っています。
経営の正解を提示するのではなく、
頭の中を整理し、
判断基準を明確にし、
経営チームが機能する状態をつくることを重視しています。
会議が決まらない。
社員が動かない。
自分ばかりが考えている。
そう感じる時ほど、必要なのは精神論ではなく、構造の整理です。
もし今、
「何から手を付ければいいか分からない」
「相談できる相手がいない」
そんな状況であれば、お気軽にご相談ください。
※事例は一部加工しています。実在の企業・人物とは関係ありません。
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熊谷 篤
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士
承継・第二創業・新規事業の現場で、経営者が判断できる状態をつくる伴走支援を行っています。
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