慰安婦論37):慰安婦募集新聞広告の分析
FFJ:公文書の信憑性
「強制」を裏付ける文書はない!?
「日本軍によって女性がその意思に反して売春を強制されたことをはっきり示した歴史文書はない」と主張する人々がいるが、この見方には複数の問題がある。以下、FFJ (FIGHT FOR JUSTICE)の指摘に沿って論を進める。
1) 公文書だけが資料ではない
多様な資料の重要性: 事実を証明する資料は公文書に限らない。個人の文書、手記、そして当事者である元「慰安婦」や元兵士たちの「証言」も非常に重要な資料である。
資料批判の必要性: どのような資料であっても、その資料が「誰が、いつ、誰に対して、何の目的で作成されたか」を吟味する「資料批判」が必要である。公文書は国家や関係者を正当化するために、都合の悪い情報を隠したり、美化して記述したりする傾向があることを理解しておく必要がある。
2)「強制」を示す文書が出てこない理由
問題になる文書は作成しない: 「慰安婦」にするために女性を強制的に連れて来いというような文書が公には残されていないのは、後に問題になるような文書は最初から作成しない、という意図があったと考えられる。
口頭指示の多用: 命令や指示の文書は抽象的であることが多く、具体的な内容や重要な指示は口頭で行われることがしばしばある。官僚組織、特に軍隊のような組織では、表沙汰にしたくないことを行う際に、文書に残さず口頭で処理するのは一般的な慣習である。
「河野談話」当時の官房長官の見解: 「河野談話」を発表した河野洋平氏は、1997年の『朝日新聞』のインタビューで、「本人の意思に反して集められたことを強制性と定義すれば、強制性のケースが数多くあったことは明らかだった」と述べている。また、「『強制的に連れてこい』と命令して、『強制的に連れてきました』と報告するだろうか」と問いかけ、当時の軍の強い影響下で、女性がその大きな力を拒否することができたのか、という常識的な理解を示す必要があると語っている。
3) 重要な資料が大量に処分された事実
敗戦直後の文書焼却: 日本軍や政府の重要な資料は、終戦直後の1945年8月14日から、米軍の占領に備えて大量に焼却された。陸軍だけでなく、警察を管轄していた内務省も同様に文書の焼却を指示している。
口頭での焼却指示: 敗戦時に内務省の事務官であった奥野誠亮元法務大臣は、戦後の座談会で、公文書の焼却を地方に指示する際に、文書では「まずい」として口頭で連絡したことを証言している。
戦後の慰安施設(RAA)における口頭命令の例: 戦後、日本政府が米軍向けに設けた慰安施設「RAA」の開設においても、警視庁の担当者が「警察本来の職務とは違うので、すべて口頭の命令でやること」「書面を残すな」と強く念を押したという証言がある。これは、売春関係の業務において口頭命令が一般的であったことを示唆している。
4) 公文書の現状と課題
残された文書のごく一部: 現在、われわれが目にすることができる日本軍関係の文書は、一部の軍人が密かに隠し持っていたものか、米軍や英軍が戦場で押収したものに限られ、全体のごく一部にすぎない。
隠蔽された情報: 公文書は重要な資料ではあるものの、国家や官僚、軍幹部にとって都合の悪い問題は隠蔽されている可能性がある。
情報公開の遅れ: 民主主義国では一定の年数を過ぎた公文書は公開するのが原則だが、日本では歴史文書の情報公開が遅れているという指摘もある。戦前・戦中ならびに戦後処理に関わる全ての文書の公開が求められている。
結論として、「強制」を直接的に裏付ける文書がないという主張は、公文書が資料の全てではないこと、口頭指示が多用されたこと、そして敗戦時に大量の文書が組織的に処分された事実を無視したものである。
資料史学 :新聞広告分析のアプローチ
「慰安婦問題」のような過去の出来事を研究する際、当時の新聞広告などの資料・史料を調査することは、主に歴史学の一分野である記録史学(Archives Studies)や文書史学(Documentary Studies)、あるいは資料史学(Source History) などと呼ばれる。これらは、歴史資料の収集、保存、分析を通じて、過去の出来事を理解しようとする学問分野である。
特に、新聞広告やその他の資料は、当時の社会状況や人々の意識を反映しているため、歴史研究において貴重な証拠となる。これらの資料を専門的に分析することを、歴史資料学や史料学などと呼ぶこともある。
歴史学における資料・史料調査の専門用語:
記録史学 (Archives Studies):記録された資料を調査する学問。
文書史学 (Documentary Studies):書かれた文書を調査する学問。
資料史学 (Source History):史料を収集・分析し、歴史の解釈に役立てる学問。
歴史資料学 (Historical Source Studies):史料の質や価値を分析し、研究の基礎とする学問。
史料学 (Archival Science):史料の保存や活用に関する学問。
資料・史料調査における主なステップ:
資料の収集:公文書館、図書館、個人蔵などから関連資料を収集する。
資料の整理:収集した資料を分類、整理し、分析しやすい状態にする。
資料の分析:資料の内容を正確に分析し、解釈する。
研究結果の発表:分析結果を論文や書籍、講演などで発表する。
慰安婦募集の新聞広告
金完燮氏の見解
慰安婦募集広告と当時の収入に関する情報について
1)「慰安婦問題」における様々な視点
韓国政府は「慰安婦」が「性奴隷」であったと主張している。
一方で、韓国人ノンフィクション作家の金完燮(キム・ワンソプ)氏は、慰安婦が「性奴隷」だったという主張に異を唱えている。
金氏は、元慰安婦の証言と、その家族や女衒(ぜげん:売春婦の斡旋業者)の立場が異なる可能性があることを指摘している。例えば、女衒が慰安婦の両親に高額な前払い金を支払った場合、両親は娘を売ったとは言わず、工場や病院への就職などと偽って送り出した可能性も示唆している。
2) 女衒と慰安婦の報酬に関する見解
朝鮮で慰安婦を集めた女衒が、慰安婦の両親や家族に300円から2000円もの大金を支払ったという記述があるとのこと。
金氏の見解では、女衒は投資額を回収するため、一定期間慰安婦に報酬を支払わないことがあったとしている。これにより、慰安婦当事者は強制的に連れて来られ、一銭ももらわずに故郷に帰ったと信じるようになる、という見方も示されている。
ただし、朝鮮出身の慰安婦が、儒教思想に基づく純潔と貞操観念の厳しい社会で働いたことによる精神的な苦痛は理解すべきだと述べている。
3) 慰安所の規模と運営の実態、慰安婦の調達方法
戦争が拡大するにつれて、軍はより多くの慰安婦を要求した。日本政府は多様な方法で必要な数の慰安婦を供給しようとした。
日中戦争初期までは、軍人100人あたり慰安婦1人の基準を満たすことに問題はなかったとされている。
しかし、1942年以降、戦線が拡大し海外への日本軍の派兵が増大すると、慰安婦の需要も増加した。
日本国内での確保が難しくなった業者は、朝鮮、台湾、中国で以下の方法で慰安婦を調達したとされる。
両親に前金を渡す。
勤労挺身隊として稼げると騙す。
道端での拉致。
4)「慰安婦募集広告」に示された高額な報酬

1944年10月27日付『毎日申報』にホ氏名義で「軍慰安婦急募」という広告が、また1944年7月26日付『京城日報』には「クムジョン紹介所」名義で「慰安婦大募集」という広告が掲載されたと紹介されている。
これらの広告には「17歳以上23歳までの女性を対象に月収300円以上、前払い3000円可能」という内容が記されていた。
当時の皇軍の2等兵の月給が7円だったことを考えると、慰安婦事業が「大好況」であったことが推測されると指摘している。
そして、これだけの収入が得られるのであれば、自分の意思か親などの他人の意思かにかかわらず、多くの少女が志願したのではないかという見解も示されている。
ただし、その人数は韓国の国定教科書で主張されている10万人から20万人とはかなりの乖離があるとも述べている。
秦郁彦氏の見解:好待遇で慰安婦を募集している新聞広告
日本の近現代史を実証主義的な立場から研究してきた歴史家の秦郁彦氏(85)が、自著「慰安婦と戦場の性」(新潮社)の英訳本を米ハミルトン・ブックス社から出版しました。29日朝刊解説面「編集委員が迫る」で、「出口」の見えない慰安婦問題の現状や英訳本出版の狙いについて聞きました(続く) pic.twitter.com/hfDwVxgHI9
— 読売新聞 編集委員室 (@y_seniorwriters) November 29, 2018
慰安婦問題~秦郁彦氏「核心は、第一に強制連行はなかった、第二に慰安所での生活は性奴隷と言えるほど過酷なものではなかったということ」「証拠の一つは戦争中の朝鮮における新聞広告。好待遇で慰安婦を募集しています。募集すれば集まってくるのに強制的に狩り出す必要はないでしょう」

慰安婦募集新聞広告の分析

勤務先は内地(日本国内)ではなく朝鮮であった。
内地では、21歳以上という規定であった。
FFJ:朝鮮人女性は「慰安婦急募」広告を読んで応募したのか!?
以下、FFJの指摘に基づいて論及する。
日本の歴史修正主義者の一部は、旧日本軍の「慰安婦」が公募によって集められた自発的なものであるという主張の根拠として、当時の新聞に掲載された「慰安婦急募」広告を提示することがある。しかし、この主張は、植民地支配下の朝鮮人女性が置かれていた現実と、当時の新聞の状況を考慮すると、事実に基づかない虚偽情報であると考えられる。
1)「読み書きできない」朝鮮人女性の現実
識字能力の欠如: 植民地支配下の朝鮮では、朝鮮人への就学が政策的に抑制されており、日本とは異なる義務教育制度も導入されていた。特に女性は、「学校教育は不要」という考え方が根強く、1930年の朝鮮人女子の就学率はわずか6.2%だった。日中全面戦争後の1940年代でも、学齢期の朝鮮人女児の3人に2人は「完全不就学」(学校に入学したことがない)の状態であった。 このため、多くの朝鮮人女性、特に「慰安婦」にされたとされる世代の女性たちは、文字を読み書きすることができなかった。
高額な授業料と貧困: 学校に通うには高額な授業料が必要であり、貧困層の朝鮮人家庭にとっては大きな負担であった。「家族が食べていくだけで精一杯」といった状況で、学校に通うことができない少女たちが多数いた。
被害者の証言: 元「慰安婦」たちの証言からも、彼女たちのほとんどが学校に通った経験がなく、読み書きができなかったことが裏付けられている。「学校にも通ったことのない私は本当に世間知らずだったのです」「学がないからどうすることもできないよ」といった証言は、当時の朝鮮人女性の厳しい教育環境を物語っている。
2) 広告の形式と新聞の状況
広告の難解さ: 提示された『京城日報』の広告は漢字と日本文字、『毎日申報』の広告は漢字とハングルで書かれている。いずれも難しい漢字が多く、読み解くには高い識字能力が要求される。読み書きのできない朝鮮人女性が、これらの広告を自力で読み、内容を理解することは極めて困難であった。
新聞の普及率の低さ: 当時の植民地朝鮮では、貧困層の朝鮮人女性が日常的に新聞を読むという生活を送っていたとは考えにくい。また、朝鮮人が発行していた新聞の多くは1940年代に廃刊され、残っていたのは総督府の御用新聞だけだった。
3)「慰安婦急募」広告の真の意味
これらの状況から、読み書きできない朝鮮人女性が自ら「慰安婦急募」広告を読んで応募するということはありえない。
この広告が意味していたのは、以下の点であると指摘できる。
業者向けの広告: これらの広告の対象は、朝鮮人女性ではなく、人身売買業者であったと考えられる。軍が選定した募集業者に対して、募集を促すための広告だった。
総督府の黙認の証拠: 総督府の御用新聞に掲載された「慰安婦急募」広告は、朝鮮総督府が「慰安婦」募集、すなわち国外移送を目的とした人身売買や誘拐といった犯罪行為を黙認していたことの証拠であると解釈される。
したがって、「慰安婦急募」広告を自発的応募の根拠とする主張は、当時の朝鮮人女性の教育状況、貧困、新聞の普及状況といった史実と矛盾するものであり、虚偽情報であると言える。
FFJの主張に対する反論:識字率と慰安婦問題の真実
「慰安婦募集の新聞広告文も読めない文盲の娘たちを教育しない日帝が悪かった」というFFJの主張は、識字率の低さを慰安婦問題の主因とし、その責任を日本政府に帰するものである。しかし、この主張は以下の点で誤りを含んでいる。
1) 併合時、日本による識字率向上への寄与
日韓併合後、日本は朝鮮半島に近代的な教育制度を導入し、学校教育の普及に努めた。これにより、併合期間を通じて朝鮮半島全体の識字率は着実に上昇した。特に若年層の識字率は大幅に改善され、教育インフラの整備は識字率向上に貢献した。
女性の識字率上昇は男性に比べて緩やかではあったが、これは当時の朝鮮社会の伝統的な女性観や女子教育への意識が影響したものである。識字率の課題があったとしても、それが女性を騙し、搾取する行為を正当化する理由にはならない。
2) 女衒の悪質な手口と責任の所在
慰安婦募集は、多くの場合、高給の仕事や結婚話などの詐欺的な甘言によって女性たちを誘い出す形で行われた。これらの手口は、文字が読めるか否かにかかわらず、貧困や無知につけ込むものであり、識字率の有無が騙しの主要な要因ではない。
募集に関わった女衒には、日本人だけでなく、多くの朝鮮人が含まれていた。彼らは同郷の女性たちの状況や心理を熟知しており、言葉の壁がない分、騙しの手口がより巧妙であった可能性がある。
3) 日本の官憲による取り締まりと検挙
当時、これらの悪質な女衒を取り締まり、検挙していたのは日本の官憲だった。これは、日本政府が人身売買や詐欺的な募集行為を容認していたわけではなく、むしろ取り締まりの対象としていたことを示している。
しかし、その取り締まりが十分に行き届かなかった、あるいはすべての悪質な行為を根絶できなかったという事実は残る。この点の批判はあるが、識字率の低さを理由に「教育しなかった日帝が悪い」と主張し、女衒や当時の状況全体における責任の所在を曖昧にするのは、問題の本質を見誤るものである。
結論
「慰安婦募集の新聞広告文も読めない文盲の娘たちを教育しない日帝が悪かった」という主張は、日本が識字率向上に貢献した事実を無視し、また、実際に女性たちを騙し、搾取した悪徳な女衒(朝鮮人女衒を含む)の責任を矮小化するものである。
識字率の低さが脆弱性の一因であったことは否定できないが、問題の核心は、その脆弱性につけ込んで行われた詐欺や人身売買といった犯罪行為にある。そして、これらの悪質な行為に対し、日本の官憲が取り締まりや検挙を行っていたという事実も踏まえるべきである。識字率の有無をもって、加害側の責任を免罪したり、問題の複雑な背景を単純化したりする主張は、歴史的真実から目を背けるものと言えるだろう。
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