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誰かが人生の扉を叩くとき:Copeland『Choose The One Who Loves You More』|感情の設計図#17

20年前に出会った、忘れられない曲がある。
初めて聴いたその日は雨。たくさんの雨が降っていた。


2005年。大学生活最後の1年。

内定をもらった企業でアルバイトとして働きながら、稼いだバイト代のほぼすべてをCDとライブ代につぎ込む日々。人生のモラトリアム期だった

それがいつまでも続かないと分かっているからこそ、全力で音楽に時間と金を注いでいったものだ。稼ぐ。CDを買う。聴く。稼ぐ。ライブに行く。音を浴びる。食べる。寝る…その繰り返し。

振り返ればその時期は、今でもなお僕の心を照らし続けてくれている。



君をもっと愛してくれる人を選ぶんだ

その曲を演奏していたのは、フロリダ州のエモーショナルロックバンドCopeland(コープランド)


Copelandは2001年結成。2003年にボーカル/ギター/ピアノのAaron Marshが、当時の恋人の重病と祖母の死に直面した経験をもとに書いた1stアルバム『Beneath Medicine Tree』でデビューした。

『Beneath Medicine Tree』アルバムジャケット


その時点でも繊細で美しいメロディが際立っていたが、さらに2005年の2nd『In Motion』では、美しいメロディに力強さが加わり、そして内省的なエモのエッセンスと奇跡的に融合し、音楽性が深化する。

僕がずっと忘れられないのは、アルバムの2曲目に位置する5分ほどの楽曲。

『Choose The One Who Loves You More』
(君をもっと愛してくれる人を選ぶんだ)

繊細なアルペジオのピアノと、後ろでそっと響くストリングス、Aaronの中性的な高音ボーカルに寄り添うコーラス、そして踊れるリズムと泣きのメロディが交わり、不思議な高揚感を与えてくれるダンス・バラードだ。


コード解析サイトACORDES Webによると、コード進行はGメジャー調が基調。ヴァース(Aメロ/Bメロ)では G → G/Em → C9 → F♯m → Em といった進行が使われており、サビでは主に G と Em の交互進行(場合によって F♯m を挟む)が繰り返される。これにより、メジャー・マイナーが交錯する響きが生まれ、切なさと力強さが同居したサウンドになっている。

この曲は一見、「愛する人との別れにおける葛藤と選択の歌」のように見える。たしかに表面上はそのとおりだし、ストレートな解釈ではある。

でも、意識を対岸に向けてみると、違う見え方がしてくる
そう思い立ち、あらためて何度も聴きこんでいった。


『In Motion』ライナーノーツ
Oceanlaneの武居創さんが解説・対訳を務めていた



秘められたもうひとつのテーマ

スタートボタンを押すと、イントロなしにAメロが始まる。Aaronの声とピアノがそっと語りだす。ギターには柔らかいリバーブとディレイがかけられているのだろうか、降りしきる雨の中にいるような、すこし歪みのある音像が描かれる。

まずは1番を見てみたい。

Rain, rain, rain on my mind
I've got a secret life
Wipe, wipe, wipe it away
Nothing can make me dry


雨、雨、雨が心の中に降る
誰も知らない人生を手に入れた
ぬぐって、ぬぐって、ぬぐい去っても
僕を乾かす事は出来ない

『Choose The One Who Loves You More』より

Rain=雨が象徴的に用いられ、I(僕)の内面の苦しみを表現している。
冒頭の描写で、「僕」は誰にも打ち明けられない秘密を抱え、心に雨が降り注いでいる様子が示される。


Fight all the while
Fight 'til I think I'm free
Feel rains we never see
Beautiful secret lives


ずっと戦い続けて
もう自由だ、って思えたなら
僕らが見たこともない雨を感じられる
美しき、誰も知らない人生

『Choose The One Who Loves You More』より

「僕」はずっと戦い続けてきた。
でもその日々も終わりを告げ、何かを見つけたのだろう。


It can make you face all your fears
It can make you face all your fears


君はもう、どんな恐怖にも立ち向かえる
君はもう、どんな恐怖にも立ち向かえる

『Choose The One Who Loves You More』より


何度も何度も、聴きこんでいく。曲の中に意識が溶けるくらいに。
すると、ある仮説に辿り着く。

登場する「僕」は「君」で、「君」は「僕」ではないか?
この歌の真のテーマは、大切な人との別れではなく、自分自身を見つけ愛するための意識変容ではないか?ということに。



留まりぶつかり続けるだけが答えじゃない

この曲は一般的なポップソングとはやや異なり、特にサビとブリッジ部分の役割が逆転気味だ。

サビ(“It can make you face all your fears”)はどちらかというと盛り上がりを抑えたパートとなっており、橋渡し的なミドルパート(“I could leave you…“が何度も登場し、Stephen Nicholsのゲストボーカルと重なる部分)が事実上の大サビのようにも機能している。

I could leave you well enough alone
Believe and you'll be overcome and gone
By grace away
Better off than if I stayed


君をそっとしておこう
信じていたら、 きみはきっと打ちのめされて壊れてしまう
優しさで静かに距離を置こう
僕が留まるよりずっといい

『Choose The One Who Loves You More』より


I could leave you walk away
We'll save it for another day
Through all the wars I've come to know
It's punches pulled, not towels thrown in


君をそっと見送ろう
その話はいつか来る日のために取っておこう
たくさんの戦いを乗り越えて、やっと分かったんだ
ほどほどに、でも諦めて投げ出さずに

『Choose The One Who Loves You More』より


痛みとひたすらに「闘うこと=ぶつかること」ではなく、「投げ出さず、でもしなやかでいる」——それもまた愛や自分を大切にする一つの形なのかもしれない。

この曲を「自己対話の歌」として読むならば、この箇所はまさにクライマックスの内的和解とも言える。大切な誰かとの別離ではなく、自分を大切にするために、過去の自分と静かに決別する覚悟。



己の弱さや恐れと向き合った先に選ぶもの

曲の終わりでは、美しいコーラスに乗せて決定的なセリフが繰り返される。

When they come knocking on your heart's door
Choose the one who loves you more
And when you've found something to die for
(Make you face all your fears)
They'll be knocking on your heart's door
(Make you face all your fears)

きみの心の扉を誰かが叩く時
きみをもっと愛してくれる人を選ぶんだ
そして、死ぬほど大切なものを見つけた時
(全ての恐怖に向き合えるだろう)
きみの心の扉を誰かが叩くだろう
(どんな恐怖にも立ち向かえるだろう)

『Choose The One Who Loves You More』より


この曲が僕らに語り掛けてくるものを、最後に捉えてみたい。己の弱さや恐れと向き合った先に、僕たちが選ぶものは何だろう?


誰かに依存するのではなく、突き放すのでもなく、まず自分を愛すること

そうすることで”Secret life”つまり他人との関係に埋もれた「本当の自分」を見つけることができる。恐怖から解き放たれる。諦めるのではなく、前に進むことができるのだろう。


誰かがあなたの人生の扉を叩く。
それは紛れもない、あなた自身が扉を開けようとノックする音だ。
僕たちは、自分を愛することを選べる。
降りしきる冷たい雨も、やがて豊かな恵みをもたらしてくれる。



↓歌詞の対訳には、「しょうちゃんのブログ」様の解釈をたいへん参考にさせていただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。


↓また、Sheep at Dusk様のnoteにも執筆のインスピレーションを大いに頂きました。枯れているのに鮮やか、優しいのにくっきり。ほんとうにその通りの曲ですね。ありがとうございます。


2025年3月に行われた『In Motion』20年記念フルアルバム再現ライブの貴重な動画がアップされていた。Aaronの声はあまり出なくなってしまったものの、それでも時を経てもこうして届けてくれるのが、なによりも嬉しい。



People Tree:「ビューティフルエモ」の到達点とその後

Copelandが広い意味で語られる「エモ(emo)」というジャンルがある。

パンクあるいはポストハードコアの進化の一類型として誕生し、90年代後半にThe Get Up Kids、Jimmy Eat World、The Promise Ringらが開拓していった、僕の人生における羅針盤のひとつとなった音だ。

ギターを基調にした泣きのメロディと、疾走感のある(ときおり変拍子の)リズムが邂逅した、文字通り感情を搔きむしる音楽だった。


内省的な詩とともにメロディの純度をさらに高め、往々にしてピアノをヒューチャーした作風は「ビューティフルエモ」とも呼ばれていった。ネーミングこそ非常にダサいが、音像は美しかった。

その源流のひとつとも言えるのは、スウェーデンのLast Days Of Aprilだろう。

Something Corporate、そのフロントマンであるアンドリュー・マクマホンが立ち上げたJack's Mannequin、Waking Ashland、Mae、Dream Stateなどが、この文脈で次々と登場してきた。
日本ではOceanlaneがこの動きに呼応していたように思う(もっとも、彼らはピアノには頼らず、純粋にギター中心のメロディで勝負していた)。


ムーブメントというものは不思議なものだ。産業クラスターのような形で、同時代的かつ集積的に立ち現れ、相互に影響し合う。非常に興味深いものである。

そしてその当時、ビューティフルエモの象徴にして到達点として語られていたのが、今回取り上げたCopeland(コープランド)である。

なお彼らは『In Motion』以降、一般的なエモから徐々に離れていく。



2006年の3rd『Eat, Sleep,Repeat』では意識の深く、夢の中にいるようなドリーム・ポップに深化し、2008年の4th『You Are My Sunshine』を出したのちに一度解散する。


再結成後の2014年『Ixora』、そして2919年『Blushing』では楽曲の抽象度と打ち込みが増し、アンビエントやエレクトロニカに接近していく。

『Ixora(および、双子のアルバムである『Ixora Twin』)の1曲目『Have I Always Loved You?』をぜひ聴いていただきたい。たとえ音楽性は変化しても、儚げな内省的歌詞とメロディの普遍性はずっと変わらない。僕はそれがたまらなく美しいと感じる。




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