部活動の“引っ越し先”⑤子どもたちは誰が運ぶのか
~地域移行が問いかける「移動」と「安全」~
この連載は、新潟県の北越高校ソフトテニス部遠征バス事故をきっかけに始めました。
第1回では学校部活動が抱える構造的な課題について、第2回では学校だけでは支え切れなくなった現状について、第3回では地域移行の受け皿について、第4回では部活動が担ってきた「居場所」と「競技力向上」という二つの役割について考えてきました。
私は前回、「居場所は地域に、競技力は広域に」という方向性が望ましいのではないかと提案しました。
しかし、その理想を実現するためには避けて通れない課題があります。
それが「移動」です。
■ 引っ越しは「移動」の始まり
学校部活動であれば、生徒は授業が終わると、そのまま校庭や体育館へ向かうことができました。
ところが地域クラブ活動では事情が変わります。
・公共の体育館
・民間スポーツ施設
・大学施設
場合によっては隣接自治体まで移動することもあります。
活動場所が広がるほど、より良い指導や競技環境に出会える可能性は高まります。
一方で、「子どもたちを誰が運ぶのか」という新たな課題が生まれます。
地域移行とは活動場所を変えるだけではありません。
子どもたちの移動の仕組みそのものを考え直す改革でもあるのです。
■ 北越高校事故が問い掛けたもの
部活動には練習、大会、遠征など「移動」が欠かせません。
その安全を誰が担保するのか。
北越高校の事故は、その重い問いを私たちに突き付けました。
事故を受け、文部科学省と国土交通省は検討を進め、6月30日には「学校教育等に関する移動の安全確保のための対策」を全国へ通知しました。
通知では、学校だけでなく関係機関が連携して移動時の安全確保に取り組む方向性が示されています。
私は、この一連の動きを重要な転換点だと受け止めています。
部活動改革は、施設や指導者だけを議論していては完結しません。
子どもたちを安全に運ぶ仕組みまで含めて考える時代に入ったことを示しているからです。
一方で、この事故を一人の顧問や一つの学校だけの問題として終わらせてしまっては、本当の教訓は見えてきません。
教育、交通、安全管理、学校運営など、複数の分野が関わる構造的な課題として捉え、再発防止につなげることが重要ではないでしょうか。
■ ホッケーを諦めた理由
私自身にも、「移動」がスポーツ人生を左右した経験があります。
アイスホッケーが盛んな北海道釧路市で育った私は小学生の頃、担任の先生からアイスホッケーの少年団へ誘われましたが、断念しました。
当時、釧路市には30校を超える小学校がありましたが、屋内リンクは5か所しかありませんでした。限られたリンクを複数の少年団や学校が使うため、練習時間の確保も容易ではありませんでした。
少年団の朝練は5時半集合ということもザラでした。
一番遠いリンクまでは路線バスでは間に合わず、親の送迎が前提でした。
実家は客商売を営んでおり、送迎は難しかったことが断念の理由です。
競技の向き不向きでも才能の有無でもありません。
「練習場所へ行けるかどうか」。
その一点が、子どものスポーツとの出会いを左右することがあるのです。
40年以上前の話ですが、本質は今も変わっていないように思います。
■ 競技環境とは「施設」だけではない
アイスホッケーのように競技施設が限られるスポーツでは、移動そのものが競技環境になります。
少子化が進む中、競技人口や登録校数の減少を理由に全国中学校体育大会の実施競技が見直されています。
もちろん、その判断には一定の合理性があります。
しかし、その背景には競技施設へのアクセスや活動場所の確保、送迎など、競技を続けられる環境そのものが影響している可能性もあります。
例えばハンドボールは体育館や屋外コートを必要とし、学校内でも他競技との調整を迫られることが少なくありません。
競技人口という「結果」だけを見るのではなく、その結果を生み出した環境にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。
■ 安全にはコストがかかる
子どもを運ぶ以上、安全は絶対条件です。
・運転手の確保
・車両整備
・運行管理
・保険
・緊急時対応
どれも専門性が求められます。
私は、輸送は輸送の専門家が担うべきだと考えています。
スポーツ指導は指導者が担う。
輸送は交通事業者が担う。
その役割分担を明確にすることが、安全にもつながります。
安全は決して無料ではありません。
適正なコストを社会全体で負担する覚悟も必要です。
■ もう一歩踏み込んで考えたい
ここから先は私自身の提案です。
人口減少が進む日本では、部活動だけのために交通を考える時代ではないと思います。
・スクールバス
・路線バス
・コミュニティバス
・デマンド交通(予約に応じて運行する乗り合い交通)
これらを別々に運営するのではなく、一体的に活用できないでしょうか。
朝は通学。
昼は高齢者の通院や買い物。
夕方は部活動や地域クラブ。
休日は大会や地域イベント。
1台の車両で同じルートの全体を支える仕組みです。
子どもも高齢者も「移動」に困ることがあります。
両者を別々に考えるのではなく、地域全体の交通として考えることが、人口減少社会に求められる発想ではないでしょうか。
なお、この課題は運動部だけではありません。
吹奏楽部や合唱部、演劇部など、学校外で活動する文化部にも共通しています。
子どもたちが安心して活動できる移動環境を整えることは、学校教育全体の課題でもあるのです。
■ 移動も競技環境
立派な施設があっても。
優れた指導者がいても。
子どもが安全に通えなければ、その競技環境は十分に機能しません。
私は、移動も競技環境の一部だと考えています。
部活動の地域移行は、単なる教育改革ではありません。
地域交通、地域福祉、そして人口減少社会における地域づくりそのものを見つめ直す挑戦でもあります。
次回はいよいよ、このシリーズの締めくくり。
ここまで考えてきた「部活動」「地域」「大学スポーツ」「交通」を一本につなぎ、私が考える「スポーツ人本主義」についてお話しします。
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