仕事場の記憶 – 光と音の現場から
【シリーズ扉】
アイデアを、人が動く体験へ変える
人は、説明だけでは動きません。けれど、光や音が立ち上がり、空間の空気が変わった瞬間、それまで静かにしていた人が身を乗り出し、思いがけない表情を見せることがあります。
私は30年以上、広告やイベントの現場で、企画、構成、台本、演出、現場制作に携わってきました。
NIKEのスポーツイベント、Googleのプロモーション、銀座の文化プロジェクト、地域や建築に関わる催事など、仕事の形はさまざまです。しかし、いつも考えていたことは変わりません。
伝えたいことを、どうすれば人が身体で感じられるのか。
アイデアを、どうすれば現実の体験として成立させられるのか。
このシリーズでは、完成したイベントの華やかな風景だけでなく、その裏側にあった考え方や判断、試行錯誤を記録しています。
このシリーズで書いていること
イベントの仕事は、企画書に書かれた言葉だけでは完成しません。
会場を探し、装置を考え、安全性を検証し、台本をつくり、出演者やスタッフと共有する。本番が始まれば、予定どおりに進まないこともあります。
時間をかけて準備したものが、本番では使われない一方で、直前の小さな判断が、会場全体の空気を変えることもあります。
このシリーズで書いているのは、成功談だけではありません。会場探しに苦労したこと、世の中にない装置を一からつくったこと、想定外の問題に直面したこと、本番直前まで答えが見つからなかったことも含めて、その仕事がどのように形になったのかをたどっています。
企画とは、斬新なアイデアを思いつくことだけではありません。与えられた条件を整理し、実現できる方法を探し、関わる人たちと共有しながら、最後まで形にする仕事です。
光や音、空間、人の動きが重なり、企画書にはなかった何かが立ち上がる。その瞬間を生み出すまでの過程が、ここにある「仕事場の記憶」です。
はじめての方へ
まず読むなら、次の3本から選んでみてください。
体験型のブランドイベント、デジタルと都市を結ぶプロモーション、歴史ある街の文化を表現する式典。それぞれ異なる仕事ですが、いずれもアイデアを現実の体験へ変えた記録です。
1|恐怖をエンタメに変えたスポーツ体験の舞台裏
NIKE MONSTER HOUSE(2004)
ナイキの契約アスリートを「モンスター」に見立て、それぞれの競技特性を体感ゲームへ変える。NIKE MONSTER HOUSEは、お化け屋敷の世界観とスポーツを組み合わせたイベントでした。
都内で約80か所の会場を調べ、世の中に存在しない装置を一から製作し、参加者が本気になれる負荷を探して何度もテストを重ねました。
「NIKEを好きになってもらいたい」という目的のために、恐怖、緊張、運動、笑いを組み合わせ、アイデアを現実のブランド体験へ変えていった仕事の記録です。
→「恐怖をエンタメに変えたスポーツ体験の舞台裏」を読む
2|検索ワードが空に舞うデジタル体験イベント
Google「渋谷で空を飛ぶ」(2008)
Googleで検索された言葉を風船に変え、その浮力で人を空へ飛ばす。言葉だけを聞けば、ほとんど冗談のような企画です。
しかし、夢のような発想を渋谷の街で実現するためには、安全検証、会場選定、風の影響、風船の管理、周辺交通への配慮など、多くの現実的な課題を越えなければなりませんでした。
画面の中にある「検索」という行為を、人が身体で感じる体験へ変換する。デジタルと現実の空間が交差し始めた時代の仕事です。
→「Google『渋谷で空を飛ぶ』」を読む
3|銀座100年を照らす光
伝統と未来をデザインした一夜
銀座通連合会の創立100周年を、どのような一夜として表現するか。
帝国ホテルを舞台に、観世宗家の能、松本幸四郎の歌舞伎、泰明小学校の金管バンドを一つの時間の中に配置し、会場へ向かう導線には、銀座の過去から未来へ歩く「時間の回廊」をつくりました。
式典を進行するだけではなく、銀座が積み重ねてきた100年を、光、音、映像、人の動きによって体験へ変えた仕事の記録です。
→「銀座100年を照らす光」を読む
📘 連載一覧
ここからは、これまでに書いてきた仕事の記録を、分野ごとにまとめています。気になるプロジェクトや、現在の仕事に近いテーマから読んでみてください。
[NIKE / スポーツイベント]
Vol.1|NIKE MONSTER HOUSE(2004)
スポーツと恐怖を組み合わせ、ブランドを身体で感じる体験へ変えたプロジェクト。
👉 記事を読むVol.11|NIKE MONSTER HOUSE プレイベント(2004)
本番前の渋谷で「ランス・チャレンジ」だけを街頭展開し、話題づくりと参加体験をつくった一日です。
👉 記事を読む特別編①|NIKE MONSTER HOUSE完全版(2004)
企画の誕生から会場選定、光と音による空間演出、参加者の心理まで、NIKE MONSTER HOUSEの全体を演出家の視点から再構成した完全記録です。
👉 記事を読むVol.13|Nike+[ナイキプラス]ロンチプロモーション(2006)
NikeとAppleが交差し、走ること、音楽、データが一つの体験として結びつき始めた時代の記録です。
👉 記事を読むVol.2|NIKE ONE FOOT(2007)
走る距離は、わずか1メートル。短すぎる制約を、誰もが本気になれるレースへ変えました。
👉 記事を読むVol.8|NIKE BASEBALL CLINIC(2007・2008)
メジャーリーガーと野球少年たちをつなぎ、限られた時間の中で、本物のプレーを体験できるプログラムと運営を組み立てた現場です。
👉 記事を読むVol.10|ホノルルマラソン Nike Promotion(2008)
日本で展開していたNIKE+のプレゼンテーションを、ホノルルマラソンEXPO向けに組み替え、日米合同チームで実施した現場です。
👉 記事を読む
[広告・企業プロモーション]
Vol.3|仕事カフェ とらばーゆ(2004)
求人誌の世界観を、働く女性が立ち寄り、時間を過ごせる体験空間へ変えた期間限定カフェです。
👉 記事を読むVol.5|Google 渋谷で空を飛ぶ(2008)
検索結果を参加条件に、風船の浮力で実際に渋谷の空へ上がる体験をつくったプロジェクトです。
👉 記事を読む
[都市・文化 | 銀座プロジェクト]
Vol.14|銀座マナーブック制作記録①(2015)
訪日外国人の急増によって起き始めた文化摩擦を、感情ではなく構造として整理するところから始めました。
👉 記事を読むVol.15|銀座マナーブック制作記録②(2015)
銀座の店舗側と、中国・台湾からの来街者の双方に聞き取りを行い、摩擦の多くが情報不足や時間不足から生まれていることを見つけた記録です。
👉 記事を読むVol.16|銀座マナーブック制作記録③(2015)
問題を国籍や民族ではなく、具体的な行為によって分解するという考え方へたどり着きます。
👉 記事を読むVol.17|銀座マナーブック制作記録④(2015)
迷惑度と緊急度という二つの軸から、伝えるべき情報の優先順位を決めました。
👉 記事を読むVol.18|銀座マナーブック制作記録⑤(2015)
禁止や注意ではなく、「こうしてほしい」という提案へ変えるための言葉とデザインを考えました。
👉 記事を読むVol.19|文化摩擦はなくならない。でも設計できる。総括編(2015)
文化摩擦を、属性や善悪ではなく、接点を分解し、優先順位と伝え方を設計する問題としてまとめた総括です。
👉 記事を読むVol.4|銀座100周年プロジェクト(2019)
銀座の歴史と未来を、光、音、映像、伝統芸能、人の動きによって一夜の体験へ変えました。
👉 記事を読むVol.12|銀実会70周年『Shall We Dream』(2022)
銀実会70周年の記念誌制作コンペから生まれた『Shall We Dream』が、コロナ禍で発表の場を失い、幻の記念ソングとなるまでをたどった記録です。
👉 記事を読む
[地域・建築・sumikaプロジェクト]
Vol.6|小屋展示場(2014)
虎ノ門の駐車場を会場に、14社の小屋を並べる展示場を、会場探し、事務局、施工、運営まで形にした記録です。
👉 記事を読むVol.7|小屋フェス@茅野(2015)
茅野市との共催で、市有地に小屋、飲食、物販を配置し、電源、給水、駐車場、シャトルバス、ボランティアまで組み立てた9日間のフェスです。
👉 記事を読む
[文化・音楽イベント]
Vol.9|及川眠子 生誕60周年イベント(2020)
及川眠子さんが描いた生誕祭の構成を、東京會舘で約10組の出演者が動く一夜として着地させた、進行と現場演出の記録です。
👉 記事を読む
私の仕事について
このシリーズは、過去の仕事を並べるだけの実績集ではありません。
何を求められ、どのように企画を組み立て、どんな問題が起き、それをどう乗り越えたのか。現場で積み重ねてきた考え方と判断を、次の仕事へつなげるための記録でもあります。
私はこれまで、企業イベント、ブランドプロモーション、式典、文化事業、地域プロジェクトなどで、企画、構成、台本、演出、現場制作に携わってきました。
これまでの仕事を知りたい方へ
主な実績と職歴は、こちらにまとめています。
→「私の職務経歴」を読む
企画や台本について相談したい方へ
企画の方向が定まらない、台本をうまく組み立てられない、情報が多すぎてプロジェクトの軸が見えない。そうした、まだ完成していない段階から内容を一緒に整理する仕事も行っています。
問題が明確になってからではなく、何が問題なのかも見えていない段階で、第三者の視点が役立つことがあります。
→「まだ形になっていない企画や台本を、一緒に整理します」を読む
✒関連シリーズ
このnoteでは、仕事のほかに、音楽、日常、社会や歴史についても書いています。扱う題材は異なっていても、見つめているのは、人の心が動いた瞬間と、その背後にある構造です。
🌍「記憶の針を落とす」総合扉へ
音楽を入口に、自分の記憶と、その音楽が生まれた時代をたどるシリーズです。名盤や歌手を紹介するだけではなく、音楽がどこから生まれ、人から人へ渡り、長い時間を経て別の意味を持つようになったのかを書いています。
👁️「世の中おかしい」シリーズ扉へ
歴史や社会の中で当たり前になっている説明を、別の角度から見直すシリーズです。誰かを批判するためではなく、その説明がどこから生まれ、誰の視点で語られてきたのかを、自分なりに確かめています。
🌙 音と記憶の間に ― ひとりごとの記録(マガジン)へ
日常の中でふと引っかかった言葉や、心に残った小さな違和感から書き始めるシリーズです。身の回りの出来事を扱った短い文章もあれば、そこから文化や社会、歴史へと考えが広がっていく記事もあります。
仕事場の記憶
イベントは、本番が終われば形を失います。装置は解体され、照明は消え、人のいなくなった会場には、元の静けさが戻ってきます。
それでも、そこで交わされた言葉や、本番直前の判断、会場の空気が変わった瞬間は、長い時間を経ても記憶に残ることがあります。
なぜ、人はその場で動いたのか。
なぜ、ある体験だけが心に残ったのか。
企画書には書かれていなかった何が、本番で立ち上がったのか。
このシリーズでは、仕事の結果だけではなく、そこに至るまでの過程と、人の記憶に残った理由をたどっていきます。
ここに記録した仕事が、誰かにとって自分の企画や現場を見直すきっかけとなり、やがて新しい仕事へつながれば嬉しく思います。
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