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電車の中で、一人で千羽鶴6|一人で千羽鶴は可能だった、Lessons Learned

1000羽のツルがようやく、揃った。
いよいよ、この1000羽のツルを千羽鶴に組上げる。
目の前の貯ツル箱には、4色のツルたちがギッシリズッシリ詰まっている。土曜日のこの日、「折り」が「祈り」になる。

前回までのまとめ

  • 素因数分解してツルの房1本あたりの羽数と房の本数を考えた

  • ヒソカの薄っぺらの嘘(ドッキリストラクチャー)と戦って、色構成を決定し、紙を用意した

  • 「一人で千羽鶴」は土日と平日の通勤時間だけでT+54日目で達成できる想定だったが、爆速で折れるようになったことで想定より早くT+33日目で1000羽の折り作業が完了した!!

  • 国際宇宙ステーションでも千羽鶴できるノウハウを身に着け、周囲の奇異の目にも、気象にも負けず、順調に折り続けた

今日はこんな内容です。

もうあと一息だ!

1.(T+33日目)房を作る

T-2日目に考えたとおり、50羽/房ずつ20房を作る。

現実的な房構成の中で、最もロケットっぽく長細いものとして選定していた。そして、ロケットを模した色構成は考えてある。実行だ。

裁縫用ポリエステル糸を2本どりし、まずは最下部のビーズ止めを作る。
机に座り、オーディブル(今日は「政治学者、PTA会長になる」)を聞きながら、一番下のシルバーグレー色2羽から順番に通していき…(中略)…さあ、一番上のしろ色9羽を通し終えた。立ち上がる。

…ツル団子が3か所できていた。

こんな感じで、糸が絡まりツル団子になる。地獄。

知らなかったが、ツルを糸に通してほっとくと、めちゃめちゃ絡まるのだ!!
ツル団子をほどくこと10分。ようやくほどけた。

そして気づく。

記念すべき1房目を妻に手伝ってもらって写真撮影。こんな不格好になることは想定外だった。

なんか、思ってたのと違う…

そう、ツルは糸で通すだけではなく、間を詰める作業が必要なのだ。ということで、間を詰めた。組上げ作業、舐めてた…。

ここで立ち止まって考える。

まず、糸を50羽まとめて通してからまとめて間を詰めるよりも、1羽ずつ通して詰めて次の1羽に移るほうが絡まる余地が減って効率がよさそうだ。
それでも座ってやったら下のほうで弛んで絡まりの余地が生まれそうだ。

じゃあ、立って作業して絡まりを防止しながら、ツルに糸を通そう。

このとき、最高の作業道具が既に自宅に存在した。リモートワーク時のオンライン会議で部屋の中が見えないよう作った、背景用カーテンのレールだった。
ツルに糸を通し、レールを介して吊るし、1羽ずつ詰めて整える。また次のツルに糸を通す。必殺仕事人スタイルだ。絡まない。しかも、「いま、この色、何羽目…?」となったときもすぐに確認できる。

一家に一台ある、千羽鶴専用治具。後ろの全面本棚(自作)で見ずらいものの、手前に組みかけのツルの房、手前にそのための糸が垂れている。

皆さんもたまに、効率的に千羽鶴を組上げたい機会はあると思うので、ぜひ、カーテンレールを活用して立って作ってほしい。
まさかカーテンレールが千羽鶴専用治具になるとは。


2. 意味がないと思ってた折り筋に、意味があった

実は、折るたびに「これは構造的に意味ないな」と思っていた折り筋があった。一方で、ツルの折り方の説明には必ず載っている。


この赤囲みのところ。この線要るか?とずっと思っていた。

感謝を込めて註
上記の折り鶴の説明は、外務省により運営される「Web Japan」より。外務省が日本文化を紹介するためのハイクオリティなページだった。

折っている最中は「ただの折り筋をつけるための目安の線でしょう?」と思っていた。単なる目安なら、線分として角から角まできっちり折る必要はなく、必要最小限に折り筋をつければいいのではないか?

とはいえ、満員電車の中で立ちながら折るときに中途半端な折り筋をつけるのはむしろ難しいので、要らなくない?と思いながらきっちりと折り筋をつけていた。

なくす方が大変だから惰性で続ける、嫌な仕事みたいだ。駆逐してやりたいと、正直思っていた。

ところが、このツルの房の組上げの工程で、この折り筋の「真の効能」が発揮された!
糸で繋げたツルは、この折り筋によって揃う。美しく整列する。

ごんぎつねの「ごん、お前だったのか。いつもくりをくれたのは。」兵十さんの気持ちだ。

これは仕事でも同じだろう。一見効果がわからないけど後々効いてくる工夫。1000羽のツルを千羽鶴にする過程で初めて気づく、そんな遅効性の感動がこの折り筋にはあった。

人生で、折り筋に謝罪したくなったのは初めてだ(しなかったけど)。少なくとも、めちゃめちゃ感動した。


3. 振動試験と衝撃試験

かくして、千羽鶴専用治具を駆使して、50羽/房×20房が組上がった。
これを1つの千羽鶴にまとめ上げる前に、「振動試験」と「衝撃試験」を実施した。

これは宇宙開発のあるあるだ。
ロケットでの打上げで不可避的に印加される振動と衝撃をペイロードに予め加え、それに耐えるかを検証する試験だ。これに耐えないとロケットにも悪影響なので載せられないし、宇宙空間で役に立たない。

本来の試験では厳密に印加レベルを管理して検証するが、今回は雰囲気で「うん、もちそう」と思いたいだけなので、何となく、

  • 10秒頑張って振って(振動試験)

  • 3回上下にトンっと衝撃を与えて(衝撃試験)

  • その後24時間吊るして耐えれば

「大丈夫そう」ということにしよう。カンジニアリングだ。


土曜日、昼過ぎ。
ツルの房を持ってユサユサユサユサユサユサ…、トンっトンっトンっ。
次のツルの房を持って… これを20回。
ちょっと、わびしい…。

千羽鶴専用治具にかけ直し、ちゃんと耐久するか、24時間後まで待とう。


4. ロケットと千羽鶴での祈願

実は、上司に「一人で千羽鶴折ってるんですわー」と飾り場所の相談(というか根回し)をしたとき、「いいじゃん、来客から見えるとこに飾っちゃお」の後押し以外にも、気になることを教えてもらった。

鹿児島、内之浦。イプシロンロケットの打上げなどで使われるここは、内之浦婦人会の方々が毎回打上げ成功を祈願して千羽鶴を届けているとのこと。上司はなんでそんな情報知ってるんや。
振動・衝撃試験後、ネットで探したら確かにそんな優しさが具現した記事は存在した。

そして、H3ロケット試験2号機の打上げ中継を見返してみると、初号機の失敗を踏まえて緊張の極致にいた岡田プロマネらがミッション成功を喜んで抱合う後ろ、千羽鶴(たぶん)を見つけた。

JAXA | 宇宙航空研究開発機構「H3ロケット試験機2号機打上げライブ中継」より。

ロケット打上げは、科学であり技術であり、ツィオルコフスキー方程式を体現するために何千何万という技術者が苦労を積重ねる。
でも、人事を尽くしたら、天命を待つしかない。そんな心細さを形で表す千羽鶴が、探してみるとあちこちにあった。

でも、人事を尽くさないと、待つ天命は来ないということも、H3ロケット試験2号機の映像を見ていたらヒシヒシと伝わってきた。

翻って、祈るに足る努力をいまこのプロジェクトに携わってる社内のメンバは絶対にしている。 だから週明けのオフィスへこの千羽鶴を堂々と持って行って、「いま、我々は人事を尽くした。だから、自信を持って天命を待とう」の宣言をしよう。

内之浦婦人会の寄贈やH3ロケットのコントロールセンタにある千羽鶴と、いま目の前にある千羽鶴の違いは、ほとんどない。
僕の取り組みが孤独なだけだ。

などと考えながら、翌日曜日(T+34日目)、1000羽のツルを千羽鶴に組上げる作業を終えた。


5.(T+35日目)お披露目

月曜日。いよいよ千羽鶴をオフィスへ持っていく。裸で待っていくと満員電車(これまでこの中でツルを折っていた)の中で悲劇が起きる気がするので、段ボールへ入れて運ぶ。

昼休み直前、プロジェクトのMTG終了後に、神棚の来客に見える位置への引越しと合わせてお披露目した。

完成品をお披露目した。

プロジェクトメンバは、「一人で折ったのか…?」「こわっ」という正直な気持ちを隠しきれない人もいる一方で、「これ一人で折るって、アホな…」「やりおった…」と割とみんなニヤニヤしていた。

ただ、「だって、やることやってるやん?人事尽くしてるやん?その象徴よ」にはみんな、同意してくれた。

飲み会の帰りに、知らずに1羽協力してくれたメンバーは「あれ?こないだのやつって、もしかしてこの千羽鶴でした?」と合点がいっていた。

ひと通り、ニヤニヤと嘲って盛り上がり、「さあ仕事に戻ろう」となるとき、

「というか、これ、色と形がマジでH3だ」

いまこの瞬間で僕の鼻が一番高くなる誉め言葉までもらってしまった。

自信をもって自画自賛しよう。「再現度高い」

実はこの千羽鶴を折ってる間に、誰も悪くない事情でプロジェクトが後倒しになってしまったのだけれど、でも、人事を尽くしているのは変わらない。

天命を待つ千羽鶴は、人事を尽くした象徴だ。


6. Lessons Learned、気づき

少し話を戻す。
千羽鶴の振動・衝撃試験後に待つ間、内之浦婦人会やH3ロケットの中継を見返した後、コーヒーを淹れて飲みながら一人振返り会を実施した。

この誰にも頼まれていない「一人で千羽鶴」プロジェクトには、たくさんの学びがあった。
せっかくなので、「Lessons Learned」として整理して、締めくくりとしたい。


【Lessons Learned 1】思ってたより、自分、成長するやん!

当初、T+54日目で折り終わる想定だったところ、実際にはT+33日目で終了した。要は「思ってたより折るの速かった!」ということだ。

ほぼ、折る速さの影響

では、この乖離はなぜ起きたか。端的に、自分を見くびっていたからだ。
想定時点では、「T+30日までで10%折る速度が成長」と想定してシミュレーションしていた。しかし、実際には、T+33日目時点で、

  • そもそも、一カ月で成長止まらなかったし、

  • さらに成長巾の観点では

    • ダイナミックフォールド(立って折る)で59%まで成長

    • スタティックフォールド(机で折る)で46%まで成長

期間的にも成長巾的にも想定より圧倒的に成長していた。自分、思ってるより成長できるやん。

この成長の裏に、満員電車の周囲の「この人、こわい…」という不快感と忌避願望が蠢いていることは気づかないことにした。


【Lessons Learned 2】いい道具は青い鳥。身近にある!!

電車の中で立っての、ダイナミックフォールド。地味に効いたのは、ジップロックだった。折る前の紙束と、折った後のツルをシャッと出してシャっとしまえて、いま集中すべき1羽の折りに集中できた。

ちなみに先述の通り、これは国際宇宙ステーションでも実践できる方法なので、漂いがちでツルが折りづらい国際宇宙ステーションで千羽鶴を折る予定の皆さんはきちんと覚えておいてほしい。

1000羽のツルを千羽鶴に組上げる中で、絡まりを防ぐには、リモートワーク用のカーテンレールが千羽鶴専用治具になった。

つまり、コロナ禍を経験した現代は「一家に一台、千羽鶴専用治具」の時代だ。

大道具が要らない千羽鶴だからかもしれないが、いい道具は、目の前にある。チルチルとミチルになった気分だ。


【Lessons Learned 3】真面目にやったら、何でも楽しい!!!というか、楽しんだもん勝ち!!!!

普段から、「仕事は遊びのように、遊びは仕事のように」と思って生きている。仕事は、真面目に全力投球だからこそ、いつも楽しむ心を。遊びは、真面目に全力投球できるように。

この千羽鶴も、いろいろと真面目に頭を使って取り組んだ。
想定通りにいった部分あったし、圧倒的想定外も起こった。でも、一番、想定が外れたのはこれだ。

第1回より:素因数分解したことによる、1000羽の構成のありうる全パターンと評価。この考察を経て、50羽/房×20房に決定した。

そう、1000羽作るのは「大変で、辛い」と思っていた。
でも実際は、いろいろ工夫したからだが、折るのが楽しかった。1000羽、辛くなかった。

いや、何度か「辛いなあ」とまでいかなくとも、「ちょっと嫌だなあ」くらいは頭をかすめたことはある。
満員電車で折っている間に、イケてる青年に迷惑がられたとき、きれいなお姉さんに席を離れられたとき、経験豊富そうなおじさんににらみつけられたとき。

「もしかしてこの時間、もっと生産的なツル以外に使ったほうがいい…?意味ない…?」

一瞬、効率重視の自分が現れかける。でも、正しさより、効率より、そのうち楽しさが勝っていった。

この千羽鶴に関して言えば、素因数分解も、ヒソカとの戦いも、シミュレーションにかけた時間も、折ることにかけた労力も、冷たくて嫌そうな視線も、喜んでくれる苦笑も、全部ムダで最高だった。意味も勝手に生まれていった。

コスパなんか、クソ喰らえ!!
真面目にやったら何でも楽しいし、楽しんだもん勝ちだ!!

楽しんだもん勝ち!

…そして、このnoteも同じだ。

既に千羽鶴は折りあがっているにもかかわらず、振り返ってこのnoteをしたためるのに何時間もかかった。
でも、1000羽のツルを折った当時の思考をきれいに整頓していくことで、もう一度、楽しかった。

真面目に向き合えば、記録付けすら楽しめる。
だから、最後にもう一度だけ、

コスパなんか、クソ喰らえ。


この連載の全体像
第1回

第2回

第3回

第4回

第5回

第6回:この投稿

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