電車の中で、一人で千羽鶴1|全体設計と素因数分解
ロケットをモチーフに一人で千羽鶴を折ることにした。細かくロジックを積上げて。仕事のように。
最初の一歩は、そう、素因数分解だ。
1.天命指数
金融機関から宇宙ベンチャーに転職して2年と少し。いまは宇宙にまつわる仕事をしている。
入社来、複数のプロジェクトを担当している。携わったもののうち既に完了したものももちろんあるが、宇宙は総じてプロジェクトの期間が長い。ハラハラしている時間が、長い。
その中で、とりわけハラハラしている継続中プロジェクトがある。あまりに綱渡りで、いつも円滑に”真面目な冗談”を言い合いながら取組むチームが、スタンスの違いで緊張関係をはらんだことすらある。
そのプロジェクトではまだまだやることが山積みだ。
でも、自信を持って言えるのは、ここまで我々は人事を尽くしているということ。継続中プロジェクトなのでやることも解決すべきことも残っていてまだ人事を尽くす段階ではあるものの、残りが見えてきている。我々が人事を尽くすのはあと2ヶ月くらい。そろそろ「天命を待つことを見据えてもいい」フェーズだ。天命指数80%くらいだ。
小学生くらいから、人の根拠のない思考や非合理的な行動を「迷信だ」「筋が通ってない」とバカにする嫌味でかわいくない子どもだった。そして今でもそうだ。むしろ、子供のころは「迷信だ、きっと」「筋が通ってない、…気がする」くらいだったのが、いまや「迷信や、あほや」「筋がてんで通っていない、なんでそれに気づかないんだ」にエスカレートすらしている。
でも、自分の行いに関しては、人事を尽くした後には祈願しないとやり切っていない気がして(根拠がなくて非合理的だ)、なんだかんだ信心深い。「人様に迷惑かけないし、別にいいじゃん」と自分に言い訳だけすれば、あとはこっちのもんである。
2.千羽鶴を折ろう
そしてある金曜日、オフィス帰りの地下鉄でぼーっとこの天命指数80%プロジェクトのことを考えていて、ひらめいた。
千羽鶴を折ろう。プロジェクト成功を祈って。
ご利益ありそうだから、一人で。
プロジェクトのみんなも、それ以外の社内のみんなもニヤけつつ、逆説的に人事を尽くした感じをかみしめてくれるのではないか。
お客様にも迷惑はかからない。
※もしかしたら、関係者に呪詛はかかるかもしれない
3.まずは事例研究:一人でできるの?どう作るの?
「一人で千羽鶴」を思い立った時点で、地下鉄を降りるまで残り20分程度。いまできることは先行事例研究だ。
ざっとスマホでネット探索をしてわかったのは、まず、「千羽鶴を一人で折る人は少ない」ということ。複数人で作るのがよくあるパターンのようだ。そりゃそうだ。昔、
欧米人「漢字って形が複雑で、まるで一文字を何百回も書かないと覚えられなさそうなんだけど…」
日本人「そうだよ、何百回も書いて覚えるんだよ」
欧米人「(本気か…!?)」
というようなジョークを見聞きした記憶があるけれど、それに近い狂気がある。でも、一人完遂型も少数派ではあっても、いる。そしてそのほうが呪具として特級っぽいじゃないか。
まずこの点はクリアである:一人で千羽鶴、どうやらできそう。
それから他にわかったのは、通常の折り紙より小さめの7.5cm四方の紙で折るのが通常で、「40羽/本×25本」と「50羽/本×20本」のコンフィギュレーションが一般的だということ。
紙のサイズは、紙が大きいと必然的に重くなり、糸強度や一番下のツルの強度が決定要因の様子だ。呪具も安心安全は大切だ。小さい紙で折るのももっともである。
ちなみに、これまでに千羽鶴の経験はないけれど折り紙自体は好きなので、一般的な折り紙が15cm四方であり7.5cm四方は辺でいえばその1/2、面積でいえばその1/4であることは知識としてパッとわかった。「強度が問題なら、和紙を使えば…」と思わないでもなかったが、大判の和紙から1000枚切り出すのも大変なので普通の折り紙で進める前提にしたほうがよさそうだ。
ツルの房(「蔓の房」みたいでややこしい)一本当たりの羽数は、なぜその2択なのかは不明だけれど、その2択の中からは色のグラデーションの塩梅で決めることが多いようだ。これまで千羽鶴のツルの房の本数や一本あたりの羽数に思いをはせたことはなかった。また一つ視野が広まった。
4.素因数分解
翌朝、土曜日。この時点で、「一人で千羽鶴」の腹はもう決まっている。
朝ご飯を食べながら妻にも宣言した。妻には「またしょうもないことを…」あきれられたので、後に引かずに真面目に取組むしかない(筋が通っていない)。
まずはそう、素因数分解だ。
昨日調べて判然としなかったツルの房1本当たりのツルの羽数と本数を納得して決めよう。
千羽鶴は、当然ながらツル1000羽で構成されている。1000を素因数分解すると、
1000 = 2³ × 5³
つまり、全ての房の羽数を揃えるなら、パターンは(3+1)×(3+1)=16パターンある。

「一人で千羽鶴」プロジェクトは、この選択肢を絞るところから本格始動だ。さすがに「1000羽/本×1本」は万里の長城だし、「1羽/本×1000本」はナイアガラの滝みたいで、それぞれ天命感が高くなさそうなので選択肢から除いても良さそうだが、それ以外をどう絞ろうか。決まらん。
ちょこっと行き詰ったので、ここまででいったん「おそらくこうなるであろう」というプロジェクトの全体像も考えた。この先に思いを馳せることで制約を洗い出したい。

もうお気づきかもしれないが、プライベートだからこそ、とことん真面目に積上げて楽しみたいのだ。仕事のプロジェクトの成功祈願とはいえ、とどのつまり、遊びだ。そういうとき、全体像の整理は「いま、全力で遊んでるな」が視覚的にも表れて、楽しさが加速する。
さあ、整理したところで、いよいよ選択肢を絞る。この全体像を考えながら構成の制約となりそうな事項として思いついたのは、重さと長さだ。
5.重さと長さの試算
まずは材料調達の観点でも苦労しなさそうな7.5cm四方の紙の前提で検討し、無理があればその時は別途考えよう。
5.1.重さ
重さについては、必要な情報はAmazonで一発だ。僕も見たことある折り紙製品では15cm四方の折り紙の重さは54.3[g/m2]らしい。つまり、15cm四方の紙なら重さは
54.3[g/m²] × (0.15[m])² = 1.2[g]
だ。折り紙1枚と1円玉(1g/枚)は釣り合いそうにも感じるので、あっていそう。いったん前提としてよさそうだ。そして7.5cm四方なら面積比1/4で0.3g。これを先ほどの表に足すと、こうなる。
10番目の「50羽/本×20本」の場合、一本あたり15g強だ。多くの場合このコンフィグレーションで作るとのことなので、この重さなら紙も強度的に耐えられるということだ。とはいえ、それより重い時に何gまで耐えられるのかよくわからないので、305g(1番目「1000羽/本×1本」)はなんとなく無理そうだけれど、例えば30.5g(6番目「100羽/本×10本」)が耐えられるのかよくわからない。

そう、ここまでやって、あまり選択肢を絞れない。
5.2.長さ
続いて長さについて。
「7.5cm四方の紙を折れば、対角が7.5cm×√2で、そこをさらに半分に折ると、、、」とやりかけて、手元にあったコピー用紙を折って実測してしまう方が早そうと気づいた。
A4用紙(210mm×297mm)から210mm四方の正方形を切出してツルを折り、計測する。
お尻から翼の先までで106mm
お尻から背中まで45mm
背中から翼の先まで61mm

既にツルの繋げ方についての知識は昨夜に得ているので、この実測値を使えば、一本あたりのツルの羽数をcとするときの「ツルの房」一本の長さがわかる。もしこの210mm四方の紙でツルを折るなら一本あたりの長さは
106+45(c-1)=61+45c[mm]
と導出できる。7.5cm四方ならばこれの相似形で
21.8+16.0c[mm]
である。これを先ほどの表に出すとこうなる。

万里の長城1000羽/本×1本は、16000mmつまり16mになる。まるで「タウリン1000mg」みたいだが、単位を正しても、長い。
6.方針決定
さあ材料は揃った、決めよう。
この千羽鶴完成の暁にはオフィスの壁に飾りたいと思っているので、その前提に立つと、「ツルの房」はおそらく1mよりも短くないと迷惑がかかる。
オフィスでひとウケいただきたいのでインパクトあるサイズではあってほしいものの、ただでさえ呪具っぽい(推定)のにそれ以外で何かを妨げる邪魔にはなりたくない。呪具にも慎みは必要だろう。
8m強の千羽鶴も、見たくはあるけれど…
また、ここまで話を端折ってしまった(詳細は次回)が、ロケットっぽい千羽鶴にしたいので、上記の制約の中でなるべく”長細く”したい。
そして、「なんとなく重さに耐えそう」な羽数にする必要もある。ここはカンジニアリングしてしまおう。
以上を表に反映するとこうなる。

こうすれば選べる。3番目「40羽/本×25本」と10番目「50羽/本×20本」だけが選択肢に残った。この中でより「長細いほう」だ。
結論:50羽/本×20本。これが今回の「一人で千羽鶴」の構成だ。

7.今回の学び:あれ?進捗ゼロ?
さあ、これで土曜日の午前中の作業は終わりだ。ここまでの気づきは2つ。こねくり回してはみたものの、結局、
昨夜の地下鉄で調べた「40羽/本×25本」と「50羽/本×20本」の2択から選べばよかった…
まだ1羽も折ってねえ! ※A4コピー用紙のツルは本番では使わないのでノーカウントだ
次回は色を考えよう。まだ折りはじめには至らない…
この連載の全体像
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第5回
第6回
