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私たちは、真反対から来た。| 家族の部屋

3回目のデートで、バインミーを配りに行こうと言い出した人と、結婚した。

付き合い始めて間もない頃、夫が突然こう言いました。

「今日の午後、ホームレスの人にバインミーを配りに行かない?」

驚いたけれど、一緒に行きました。

バイクに二人乗りで、袋に詰めた食べ物と飲み物を持って、ホーチミンの街を走った。毎日はできないけれど、余裕がある時は時々やっているそうでした。

その時から、この人はこういう人だったんだと思っています。

でも正直に言うと、あの頃の私は、この人のことをまだよくわかっていなかった。


フランスに来るたびに、夫のことがわかっていく

今回、フランスに3週間滞在しました。

義父と、義母と、義兄と、叔父と。夫の家族と、それぞれ時間を過ごしました。

義父は、膵臓癌から回復して、今朝も誰かの隣を走りに出かけた人。サハラ砂漠250kmを走った人。

義母は、繊細で人前が苦手なのに、難民に食事を配るボランティアを続ける人。

義兄は、フランスで最も難しいとされる国家資格をトップ3で取りながら、マクドナルドのサンデーで子どもを笑顔にする人。

叔父は、リタイア後に難民支援のアソシエーションを自分で立ち上げた人。

この家族と時間を過ごすたびに、夫という人間の輪郭がくっきりしていきました。

教育に対する真剣さ。人に対する真面目さ。社会に対する責任感。できない理由を探すより、どうやったらできるかを一緒に考えようとするスタンス。

全部、この家族から受け継いでいるものでした。


なぜこの人は、こういう人なのか

夫には、矛盾があります。

やると決めたらとことんやる。初めてのトレイルランニングで50km、2回目は70km、しかもベスト20入り。目標に向かう時の強さは、本当に圧倒的です。

でも同時に、気負いすぎる。頑固になる。Intensityが強すぎて、バランスを失う瞬間がある。「今」に全力でいられる分、ずっと先を見て計画することが苦手。繊細すぎて、小さなことに傷つく。マルチタスクが極端に苦手で、複数のことを同時に抱えると崩れる。

結婚してから、そのアンバランスさに何度も戸惑いました。

なぜこんなに極端なんだろう。なぜこんなにチグハグなんだろう。

今回のフランスで、その答えが見えた気がしました。

義父は、子どもたちに高い基準を求め続けた人です。自分自身が最前線で挑戦し続ける背中を見せながら、正しくあることを家族のスタンダードにしてきた人。

義兄は、その義父の厳格さをさらに強く引き継いだ人でした。フランスで最も難しい資格をトップで取って、飛行機に乗らない主義を何十年も貫いて、マラソンを始めたら3時間以内で走りきる。

そういう父と兄の隣で育ったのが、夫でした。

高い基準が当たり前の場所で育つということ。正しくあることが当然の家庭で育つということ。どんなに頑張っても、常にその基準と比較される場所にいるということ。

完璧主義は、生まれ持ったものじゃなくて、育った環境が作ったものでした。

そしてIntensityも、繊細さも、計画の苦手さも、全部がつながって見えてきた。

強さと弱さは、同じところから来ていた。

出っ張っているところと、引っ込んでいるところが、同じ一枚の板の表と裏だった。

そのことが、フランスで初めてわかりました。


夫が19歳で海外に出た理由

夫が19歳で海外に出た理由が、

なんとなく今回の滞在で理解できた気がします。

自分の場所を、自分で作りに行った。

この家の中では、どれだけ頑張っても、常に比較される可能性がある。だから、誰も自分を知らない場所へ出た。

自分らしさを探しに。

そして、20代の時に自転車1台でヨーロッパから日本まで1年半かけて旅した理由も、今回初めて腑に落ちた気がしました。

そして、私も19歳で大阪を出ました。

理由は違います。

でも「ここではない場所へ」と体が動いた年齢が、同じでした。

夫は完璧を求められる場所から出た。

私はちゃんとできる自分を探しに出た。

お互い、いくつもの言語を習得してきたのは、どこにいっても生きていける自分でいるため。

全然違う動機で、全然違う場所から、同じ年齢に、全く反対の方向へ歩き出していた。


私たちは、真反対から来た

夫の家は、習慣があり、規律があり、学歴があり、目標を達成することが当たり前の家庭でした。

私の育った大阪の下町には、そういうものがありませんでした。

習慣も、規則も、構造も、学習の仕組みも。そういうものがない環境で育って、19歳で外に出て、ちゃんとできる自分を探し続けてきた。

夫は私のことを「安定の軸」と言ってくれます。

出会った頃の夫は、波瀾万丈な独身生活を満喫していたから、実は私もそこが夫婦の中では自分の強みだと思っていた。

でも実は、それが私が一番自信のない部分だということに、今回初めて気づきました。

彼みたいな家庭で育った人から見たら、当たり前のことかもしれない。でも私にとっては、19歳から必死で作ってきたものだから。

いつも足りない自分を埋めようとしている。

それが夫婦のことでも子育てのことで仕事のことでも。自分を信じれてあげれないというのが、自分の弱さなんだなって。

今回、そのことに気づきました。

私が夫にとって「安定の軸」に見えるとしたら、それはきっと、私が積み上げてきたものが、夫の育ちにはなかった何かを補っているからかもしれない。

そして反対に、夫が私に見せてくれる強さや、とことんやり抜く姿勢や、社会への向き合い方は、私の育ちにはなかった何かです。

真反対から来た二人が、お互いの凸凹をはめ合いながら、なんとか一緒にいる。だから惹かれあった。だけど、デコとボコが本当は反対側からやってきた二人が家族になったていうのをわかっていなかった。

それが、私たちの結婚なのかもしれないと、フランスで初めて思いました。


なぜ私たちはぶつかっていたのか

子供が生まれて、ダナンに引っ越してから、夫とのぶつかり合いが続いた時期がありました。

鬱にもなって、体調も崩して、一時期は離婚した方が彼のためになるんじゃないかというところまでいった。

今になって思います。

ぶつかっていたのは、価値観が違ったからじゃなかった。

夫の完璧主義が私を追い詰めることがあった。でも夫は悪意があったわけじゃない。自分が育ってきた環境の基準を、無意識に持ち込んでいただけだった。

私が夫に「何も見ていない」と責めたこともあった。でも夫は見ていなかったわけじゃない。見える場所と、見えない場所が、私とは違っただけだった。

お互いの根っこにある「育ち」と「恐れ」が、うまくすれ違っていた。

フランスで家族と時間を過ごして、そのことがはっきり見えた時、不思議なほど怒りが消えていきました。

理解できると、許せるようになる。

許せると、もう一度好きになれる。


男性として恋していた。家族として恋するようになった

今まで夫に毎日恋する日記を書いてきました。

今日の夫の好きなところを、1つだけ言葉にする。それを元旦から続けてきた。

書き続けながら、今回のフランスで気づいたことがあります。

今まで私は、夫に「男性として」恋をしていたのかもしれない。

出会った瞬間のときめきや、一緒にいる楽しさ。そういうものへの恋愛でした。

でも今回、少し距離を置いて夫を見る時間ができた。

義父の隣に立つ夫。義母に甘える夫。義兄と並んで走る夫。子どもにサンデーを買い与える義兄を見て微笑む夫。

そこに見えたのは、恋愛の相手としての夫じゃなくて、この家族の中で育った一人の人間としての夫でした。

完璧主義も、Intensityも、繊細さも、計画の苦手さも、今を生きる全力さも。全部ひっくるめた「この人」への愛情が、フランスで深まっていった。

恋愛としての恋じゃなくて、家族としての恋。

今まで「好き」と「苦手」が混在していた夫への気持ちが、フランスを経て、「この人でよかった」という一つの感情に変わっていきました。


あの午後のバインミーが、全部だった

付き合って3回目のデートで、この人はバインミーを配りに行こうと言い出しました。

当時の私には、それがどういう意味を持つのか、よくわかっていなかった。

でも今ならわかります。

義父が誰かの隣を走り続けるように。義母が誰かに食事を届け続けるように。義兄が渋滞の中でスペースを譲り続けるように。

夫のあの行動は、この家族が当たり前のようにしてきたことの、そのままの延長でした。

この人は、出会った瞬間から、ずっとこういう人だった。

私はあの日すでに、答えを見ていたんです。

そして今また、3年越しに、同じ答えを見ています。

あの日と同じ人が、隣にいます。


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フランス家族シリーズ、これで完結です。
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