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卒業の日 #7 見送る日

7/25(土)15:20

新西急ホテルの披露宴会場。
月見里直人(やまなし なおと)は、受付を済ませて中へ入った。

白いクロス。
花。
グラスの音。

披露宴は、もう始まっていた。

「直人。」

振り向くと、颯太が立っていた。

「久しぶりだな」

「来てくれてありがとう」

恵理も隣で笑う。

「直人さん、お久しぶりです」

直人は軽く手を挙げた。

「おめでとう」

二人は並んで立っている。それだけで、幸せそうだった。

颯太が少し声を落とす。

「お母さんはどうだ?」

直人は肩をすくめた。

「この夏を越えられないかもって。医者が」

颯太は小さくうなずいた。

「そうか」

直人は笑った。

「長かったよ」

それだけ言った。

介護は、もう何年になるだろう。
最初は、終わりなんて見えなかった。
でも最近は違う。終わりが近いことが、わかる。

それなのに、心の隅が少し緩む。

(おれは、よくやった。もういいじゃないか)

直人は、そんな自分に少し顔をしかめた。

披露宴が進む。笑い声が続く。

颯太と恵理が、テーブルを回っている。
直人はグラスを手にしたまま、二人を見ていた。

幸せそうだ。

自分も昔は、こういう席に座る未来を想像していた。
今の生活は、病院と家の往復だ。

それでも——
今日ここに来てよかったと思った。

司会の声が響いた。

「本日のデザートは、新婦のお母さまからサプライズプレゼントです」

会場が少しざわめく。
司会は続けた。

「花嫁、恵理さんが子どもの頃から大好きだった味です」

「お母様のレシピで、作った『プリン』です」

テーブルに、小さなガラスの器が運ばれてくる。
やわらかな色のプリン。

恵理の母が、マイクを受け取った。
少し照れたように笑う。

「この子が小さいころ、よく作っていたプリンです」

会場が静かになる。

「初めて食べた時に、何回もおかわりをして……その時、この子がいてくれて本当によかったと思いました。」

母は、少し涙ぐみながら恵理の方を見た。

「恵理、生まれてきてくれて、ありがとう」

拍手が起こる。
恵理も泣きながら笑っていた。

プリンの表面が、会場の光を静かに映していた。
直人はプリンを見た。
自分は、最後に、母に何を言えばいいのだろう

その時だ。

携帯が震えた。
テーブルの上で、小さく振動している。

画面を見る。

まほろば市民病院

直人は一瞬、動かなかった。

もう一度、震える。
メッセージ。

「すぐお越しください」

直人はゆっくり立ち上がった。

颯太が気づく。

「直人?」

直人は軽く手を挙げた。

「ごめんな。また、改めてあいさつしに行く」

それだけ言って、会場を出た。
バンケットホールの扉を閉めると、そこは別世界のように静かだった。
エレベーターの扉が閉まる。

直人は携帯を握ったまま、目を閉じた。

(第7話 了)

📚ZAPPING POINT
プリンの話→#5 とっておきのレシピ
病院からメッセージを送ってきた看護師の話→#9 朱肉の匂い

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