卒業の日 #21 見慣れぬ天井
4/1 22:50
智花はベッドに横たわった。
見慣れぬ天井が遠く見える。
なかなか寝付けない。
昨日の晩までは、自宅のベッドだった。
カーテンの隙間から、海の匂いが入ってくる。
「……」
さっきまで見ていた配信の余韻だけが残っていた。
最後の一撃。
そして、ログアウト。
一つの世界の終わりを見た。
だけど、まだ続いているような気もした。
*
明日は、入学式だ。
卒業式の時には、まだ決まっていなかった。
卒業式の一週間後に発表があり、そこからはバタバタした。
合格手続きをして、下宿を決めて、持っていく荷物を選んで……。
父は、何も言わずに手伝ってくれた。
今日も、わざわざ仕事の休みを取った。
部屋に荷物を入れる手伝いをして、
「困ったことがあったらいつでも連絡するんだよ。うちは、智花が戻ってきていい場所だから」
とだけ言って、帰っていった。
「ふぅ……」
智花は、天井を見つめた。
*
ふと、三月三日のことを思い出す。
体育館。
ざわざわした空気。
名前を呼ばれて、返事をした。
代表が卒業証書を取りに行った。
小、中とはちがう卒業式。
こんなものだと思った。
父の泣き顔だけが記憶に残るのだろう。
担任の水野先生の声が、よみがえる。
卒業と言うのは、ただ「終わり」ではないです。「終わり」があれば「はじまり」がある。新しい始まりのための区切りだとも思います。
それまでは、ただ、終わるんだと思っていた。
「……そっか」
智花は、天井を見つめながら小さくつぶやいた。
終わりじゃなかった。
区切りだった。
ここから、始まるということだった。
そこまで考えると、智花は、はっと身を起こした。
スマホの写真フォルダーをタップする。
そこには、カンナと一緒に写っている写真があった。
三月三日、卒業式の朝。
校門の前に、卒業式の看板が見えた。
その前で、スマホを構えている背中。
「あ、智ちゃん。」
振り向いたのは、同じクラスのカンナだった。
「……なんかさ、今日で終わりって実感ある?」
カンナは看板を見て、それから校舎を見上げる。
「終わるっていうかさ、ここにいなくなるのが不思議。」
(そうか。わたしは、あの場所からいなくなって、ここで始まる)
(お父さんも、今日が『子どもの私』との卒業だったんだ)
(みんな、それぞれ何かを卒業している)
「カンナ……どうしてるかな」
小さく、その名前を呼ぶ。
部屋には、誰もいない。
今頃になって、涙が出てきた。
智花は再び、窓の外を見た。
街の光の一つ一つ。
その下で、誰かが何かを終えて、また新しく始めている。
みんな、毎日「小さな卒業」をしている。
そして、そのたびに、新しい一歩を踏み出している。
「よしっ」
ごしごしっと手で涙をぬぐった。
滲んだ涙で歪む天井は、すこし近く感じた。
(第21話 了 明日最終話)
📚ZAPPING POINT
智花の卒業式の物語→#1 父の泣き顔
エリックの配信の物語→#20 ラスト・シューティング
「戻っていい場所」という言葉→#4 母のほうじ茶
「小さな卒業」という言葉→#12 物語が始まる日
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いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。
物語があなたの癒しになれば幸いです。
チップはご無用です。一緒にドキドキしてくれた思いを伝えてくだされば・・・。それがうれしいです。