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卒業の日 #21 見慣れぬ天井

4/1 22:50

智花はベッドに横たわった。

見慣れぬ天井が遠く見える。

なかなか寝付けない。

昨日の晩までは、自宅のベッドだった。

カーテンの隙間から、海の匂いが入ってくる。

「……」

さっきまで見ていた配信の余韻だけが残っていた。
最後の一撃。
そして、ログアウト。

一つの世界の終わりを見た。
だけど、まだ続いているような気もした。

明日は、入学式だ。
卒業式の時には、まだ決まっていなかった。
卒業式の一週間後に発表があり、そこからはバタバタした。

合格手続きをして、下宿を決めて、持っていく荷物を選んで……。

父は、何も言わずに手伝ってくれた。
今日も、わざわざ仕事の休みを取った。
部屋に荷物を入れる手伝いをして、

「困ったことがあったらいつでも連絡するんだよ。うちは、智花が戻ってきていい場所だから」

とだけ言って、帰っていった。

「ふぅ……」

智花は、天井を見つめた。

ふと、三月三日のことを思い出す。

体育館。

ざわざわした空気。

名前を呼ばれて、返事をした。
代表が卒業証書を取りに行った。
小、中とはちがう卒業式。
こんなものだと思った。

父の泣き顔だけが記憶に残るのだろう。

担任の水野先生の声が、よみがえる。

卒業と言うのは、ただ「終わり」ではないです。「終わり」があれば「はじまり」がある。新しい始まりのための区切りだとも思います。

それまでは、ただ、終わるんだと思っていた。

「……そっか」

智花は、天井を見つめながら小さくつぶやいた。

終わりじゃなかった。
区切りだった。
ここから、始まるということだった。

そこまで考えると、智花は、はっと身を起こした。
スマホの写真フォルダーをタップする。
そこには、カンナと一緒に写っている写真があった。


三月三日、卒業式の朝。
校門の前に、卒業式の看板が見えた。
その前で、スマホを構えている背中。

「あ、智ちゃん。」

振り向いたのは、同じクラスのカンナだった。

「……なんかさ、今日で終わりって実感ある?」

カンナは看板を見て、それから校舎を見上げる。

「終わるっていうかさ、ここにいなくなるのが不思議。」


(そうか。わたしは、あの場所からいなくなって、ここで始まる)

(お父さんも、今日が『子どもの私』との卒業だったんだ)

(みんな、それぞれ何かを卒業している)

「カンナ……どうしてるかな」

小さく、その名前を呼ぶ。
部屋には、誰もいない。
今頃になって、涙が出てきた。

智花は再び、窓の外を見た。
街の光の一つ一つ。
その下で、誰かが何かを終えて、また新しく始めている。

みんな、毎日「小さな卒業」をしている。
そして、そのたびに、新しい一歩を踏み出している。

「よしっ」

ごしごしっと手で涙をぬぐった。

滲んだ涙で歪む天井は、すこし近く感じた。

(第21話 了 明日最終話)

📚ZAPPING POINT
智花の卒業式の物語→#1 父の泣き顔 
エリックの配信の物語→#20 ラスト・シューティング 
「戻っていい場所」という言葉→#4 母のほうじ茶
「小さな卒業」という言葉→#12 物語が始まる日

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一条 詩紋 いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 物語があなたの癒しになれば幸いです。 チップはご無用です。一緒にドキドキしてくれた思いを伝えてくだされば・・・。それがうれしいです。