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核兵器禁止条約
TPNW|Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons
採択|2017年7月7日
署名開放|2017年9月20日
発効|2021年1月22日
日本|未署名・未批准
核兵器を「管理する」から、「禁止する」へ
1945年、人類は核兵器を実戦で使用した。
その後、核兵器をめぐる国際制度は段階的に形成されていく。
1963年の PTBT( 部分的核実験禁止条約 )は、大気圏内・宇宙空間・水中での核実験を禁止した。
1968年の NPT( 核兵器不拡散条約 )は、核兵器の拡散を防ぎながら、核軍縮と原子力の平和利用を国際制度へ組み込んだ。
1996年の CTBT( 包括的核実験禁止条約 )は、地下を含むあらゆる核爆発実験の禁止を目指した。
しかし、これらは核兵器そのものを全面的に禁止する条約ではない。
核兵器は依然として国家安全保障の一部として存在し、核抑止という考え方のもとで配備され続けている。
そこで、核兵器そのものを国際法上禁止する という新しいアプローチが生まれ、それが、TPNW 核兵器禁止条約 である。
核兵器をめぐる二つのアプローチ
第二次世界大戦 後の核軍備管理は、基本的に核兵器が存在する現実を前提として発展した、代表的なのが NPT である。
NPT では、1967年1月1日以前に核爆発を実施した5か国を条約上の核兵器国として扱う。
その他の締約国は非核兵器国として核兵器を取得しない。
同時に核兵器国を含む締約国には核軍縮交渉を求める。
これは、核兵器が存在する現実を管理しながら、拡散を防ぎ、軍縮へ向かう
という制度である。
TPNW は核兵器そのものを禁止対象にする。
なぜ新しい条約が必要とされたのか
冷戦終結後、米露を中心として核兵器数は大幅に減少した。
さらに核軍縮の進展をめぐり、核兵器国と非核兵器国の間では長年意見の隔たりが存在した。
そこで2000年代以降、核兵器の軍事的役割だけではなく、核兵器が使用された場合に発生する人道的被害 へ焦点を当てる動きが強くなる。
核兵器を安全保障政策だけから見るのではなく、人間と社会がその結果に対応できるのか という視点から再検討する動きが広がった。
Humanitarian Initiative
この流れは、Humanitarian Initiative 核兵器の人道的影響に関するイニシアティブ として発展していく。
2010年の NPT 運用検討会議では、核兵器使用による壊滅的な人道上の結果への深い懸念が最終文書に盛り込まれた。
政府だけでなく、国際機関、赤十字・赤新月運動、市民社会、専門家、被爆者なども参加、議論の中心に置かれたのは、「 核兵器が実際に使用された場合、何が起こるのか 」という問題だった。
禁止から廃絶へ
化学兵器や生物兵器など、大量破壊兵器の一部についてはすでに国際的な禁止条約が存在していた。
BWC|生物兵器禁止条約
CWC|化学兵器禁止条約
Ottawa Treaty|対人地雷禁止条約
しかし核兵器については、NPT や CTBT などによる制約は存在しても、核兵器そのものを包括的に禁止する普遍的な条約は存在しなかった。
そこで、禁止という国際規範を先に形成し、その先に廃絶を目指す という考え方が強くなっていった。
2017年 国連交渉
2016年、国連総会 は 核兵器禁止条約 を交渉する国際会議の開催を決定、交渉は2017年、ニューヨークの国連本部で行われた。
核兵器を保有する主要国の多くが交渉に参加しなかった。
さらに NATO 加盟国や、米国の核抑止に依存する国の多くも不参加、日本も交渉には参加しなかった。
つまり TPNW は、核兵器を持たない国々を中心として作られた核兵器禁止条約 として成立していく。
2017年7月7日 採択
2017年7月7日、国連で TPNW が採択された。
同年9月20日、条約は署名のため開放され、そして必要な50か国の批准・加入が揃い、2021年1月22日 TPNW は発効した。
CTBT が現在も発効していないのとは対照的に、TPNW はすでに国際法上の条約として効力を持っているが、その効力が直接及ぶのは締約国である。
何を禁止したのか
TPNW 第1条は、締約国に対して核兵器に関する幅広い活動を禁止しており、禁止される活動への援助、奨励、勧誘なども禁止対象となる。
TPNW は 核爆発実験 だけを禁止する CTBT よりはるかに広く、
核兵器という軍事システムそのものを包括的に禁止する 構造になっている。
「使用の威嚇」も禁止する
TPNW で特に重要なのが、Threat to use|使用の威嚇 の禁止である。
これは核兵器を実際に使用しなくても、「 必要なら核兵器を使用する 」という可能性そのものを安全保障政策に利用することにも関係する。
ここで TPNW と 核抑止( Nuclear Deterrence )の間に根本的な緊張関係が生まれる。
核抑止とは、相手が攻撃した場合に重大な報復を受ける可能性を示すことで攻撃を思いとどまらせる考え方である。
つまり核兵器を使用しないことを目的としていても、使用する可能性が存在すること が抑止力を成立させる。
TPNW は、その構造そのものに強い制約をかける条約でもある。
核兵器を持つ国が加盟する場合
TPNW は、核兵器を現在保有していない国だけを対象とした条約ではない。
核兵器保有国 が将来参加することも想定している。
条約には、核兵器を廃棄した後に参加する方法 と、参加した後、定められた計画に従って核兵器を廃棄する方法 が設けられている。
その過程では、核兵器計画の不可逆的な廃止と検証が必要になる。
つまり TPNW の最終目標は単なる禁止宣言ではなく、検証可能で不可逆的な核兵器廃棄 へ接続することである。
被害者援助
TPNW には、従来の核軍備管理条約とは異なる重要な規定がある。
Victim Assistance|被害者援助 である。
締約国は、自国の管轄下にある核兵器使用・核実験の影響を受けた人々に対し、適切な援助を提供することが求められ、医療、リハビリテーション、心理的支援、社会的・経済的包摂などが含まれる。
ここには、核兵器を未来に向けて禁止するだけではなく、過去に生じた被害にも向き合う という TPNW の特徴が表れている。
環境修復
核兵器使用や核実験は、人間だけでなく環境にも影響を残す。
そのため TPNW には、Environmental Remediation|環境修復 も盛り込まれ、核兵器の使用や実験によって汚染された地域について、締約国が必要な措置を講じることを求めている。
核兵器保有国は参加していない
核兵器を実際に保有している国々が参加していない。
アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスをはじめ、その他の核兵器保有国も締約国となっていない。
したがって TPNW が発効したからといって、世界の核兵器が直ちに違法化され、廃棄されるわけではない。
核兵器国側の論理
「 現在の国際安全保障環境では核抑止が必要である 」
核兵器を一方的に放棄すれば、核兵器を維持する国家との間に安全保障上の不均衡が生じる可能性がある。
安全保障環境を改善しながら段階的に核軍縮を進める べきだという立場が存在し、これは TPNW とは異なるアプローチである。
NPTとTPNWは対立するのか
TPNW と NPT は、しばしば対立する制度として語られる。
NPT 第6条は核軍縮に関する誠実な交渉を締約国へ求めている。
TPNW は、その核軍縮をさらに進め、核兵器そのものを禁止する という具体的な法的枠組みを作った。
NPT = 核兵器国を含む現実的な核管理制度
TPNW = 核兵器そのものを禁止する規範形成
日本はなぜ参加していないのか
日本は広島・長崎への原爆投下を経験した唯一の戦争被爆国である。
それでも日本は TPNW へ署名・批准していない。
ここには日本の 安全保障政策 が関係している。
日本は NPT 上の非核兵器国であり、自ら核兵器を保有していない。
一方で日米安全保障体制の下、アメリカの拡大抑止 いわゆる「 核の傘 」
を安全保障政策の一部としている。
TPNW は核兵器の使用だけでなく、使用の威嚇や禁止活動への援助なども規定しているため、現在の日本の安全保障政策と TPNW への参加をどのように両立させるかという問題が生じる。
被爆国と核抑止
これは単純な賛成・反対では整理できない。
核兵器の 人道的被害 を最も強く訴える歴史的立場と、現在の安全保障環境の中で核抑止を必要とする政策判断が同時に存在している。
TPNW は、日本にとってこの二つの関係を直接問う条約でもある。
核抑止と核禁止
Nuclear Deterrence|核抑止
核兵器を使用する可能性を残すことで、相手の攻撃を思いとどまらせる。
核兵器を「 使わないために持つ 」という安全保障論である。
Nuclear Prohibition|核禁止
使用すれば壊滅的な人道被害を引き起こす兵器を、安全保障の手段として認めない。
「禁止」は何を変えるのか
国際条約には、直接的な禁止だけではなく、国際的な判断基準を形成する
という作用もある。
化学兵器、生物兵器、対人地雷などでも、禁止規範の形成と実際の廃棄・削減は必ずしも同時に進んだわけではない。
TPNW も、核兵器を安全保障上の通常の兵器として扱うのではなく、禁止されるべき兵器として位置づける という国際規範を形成しようとしている。
理念と現実の距離
TPNW は、核兵器をめぐる国際制度の中でも非常に明確な理念を持つ。
核兵器の全面的廃絶。
つまり、条約が目指す世界と、現在存在する世界の間には大きな距離が今だあり、その解決策はどこにあるのか、TPNW は、その問いを国際社会へ投げかけている。
核兵器をめぐる制度の積層
PTBT : 一部環境での核実験を禁止
NPT : 核兵器の拡散を制限し、軍縮を求める
IAEA保障措置 : 核物質の軍事転用を検証
INF / START : 特定核戦力・戦略核戦力を削減・制限
CTBT : あらゆる核爆発実験を禁止
TPNW : 核兵器そのものを禁止
核兵器を「存在してはならないもの」と定義する
TPNW が歴史上持つ最大の特徴は、核兵器そのものを禁止対象として国際条約に明記したこと である。
核兵器を保有する国家は存在し、核抑止も現在の国際安全保障の一部として機能している。
TPNW は「 核兵器を必要とする安全保障 」と「 核兵器を認めない安全保障 」の間に存在する境界線を明確にした条約と見ることができる。
Archive Point
NPT は、核兵器が存在する世界を管理する。
CTBT は、核爆発実験を禁止する。
TPNW はさらに一歩進み、核兵器そのものを禁止する。
核兵器を全面的に禁止する国際法が存在し、そして、核兵器が国家安全保障の中核として現在も存在する。
TPNW が示したのは、「 核兵器を存在してはならないものとして扱う 」という国際的な基準を、条約として明文化したこと。
その基準が現実の安全保障をどこまで変えていくのか。
その過程は、現在も続いている。

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