文字を持たなかった昭和347 梅の実のある風景(8)梅酒③

 昭和中期の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子(母)の来し方を中心に、庶民の暮らしぶりを綴っている。

 最近では、保存食品として毎年手作りしていた梅干しをテーマに書いた(「梅干し(1)梅の木(11)保存、おまけ」)。ついでに梅の実にまつわるエピソードをしばらく綴ることにして、日の丸弁当砂糖梅梅干しの食べ方梅干しの「仁」その思い出、そして梅酒作りその続きを書いている。 

 梅酒を家族で味わう光景を続ける。

 子供たちには、かなり薄く割った梅酒があてがわれた。梅の香りがしてジュースのようだが、相当薄めてあるのであまり甘くない。
「もっと甘いのを」と
二三四(わたし)がねだると、
「じっきん(*1)を舐めてみっ?」(ストレートで舐めてみる?)
とミヨ子が梅酒の「原液」をほんの少し差し出した。

 色は濃く香りも強い。口に入れると火がつくようで、喉が焼けた。思わず咽ると
「おなごが しょつを 飲んもんじゃなかが」(女が焼酎を飲むものではないよ)*2
と、明治生まれのハル(祖母)が嗜めた。

 梅酒はかように制限されたが、梅酒に漬け込んだ梅の実はお茶請けとして子供も食べてよかった。アルコールの匂いは邪魔になるものの、エキスを出し切ってきゅっと締まり、コリコリした歯ざわりになった梅の実はなかなかおいしいものだ。

「あんまい食(た)もっと、酔くろど」(あんまり食べると、酔ってしまうよ)
ミヨ子に促されるまで、子供たちも二つ、三つと梅の実に手を伸ばしてしまうのだった。

*1鹿児島弁。薄めていないお酒、通常は薄めていない焼酎。「じき」は「直」の意で、「じきじょちゅ」(直焼酎)という言い方もある。ネットの鹿児島弁辞典には「じっきん」はないので、「じき」を強調した地域方言かもしれない。
*2鹿児島弁。焼酎は短縮して「しょつ」「しょちゅ」と言う。酒と言えば基本的に焼酎を指す鹿児島にあって、ここでいう焼酎も「酒」を代表し、「女が酒など飲むものではない」という趣旨になる。

《参考》
じき(じきじょちゅ) | 鹿児島弁ネット辞典(鹿児島弁辞典)

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