17年かけて種目を削ったら3つ残った
17年かけて種目を削ったら3つ残った
30代前半の頃、自分のトレーニングは最悪だった。
マシンを片っ端から回って、あれもこれもやって、毎回ヘトヘトになるまで追い込んでいた。それなのに体は変わらない。腰は痛い。疲労は抜けない。
医者のくせに、自分の体の使い方をわかっていなかった。
そこから何年もかけて種目を削りに削って、最終的に残ったのが3つだけだった。筋肉をバラバラに鍛えるのではなく、体全体を一気に動かす種目だけ。初心者でもできて、上級者でも一生使える。
今回はその3種目の話と、40代以降のトレーニングで自分が一番大事だと思っている「壊れない設計」という考え方について書いてみる。
ヘックスバーデッドリフト ― 腰を守りながら全身を鍛える
ヘックスバーデッドリフト、170kg×8。
— Dr.もさり|山本 康博 (@drmosari) April 20, 2026
デッドは全身まとめて鍛えられるから、忙しい週ほどこれに戻ってくる。
脚・背中・お尻・握力・体幹。1種目で全部に刺激入れられる種目って、他にない。
ヘックスバーにしてから腰のストレスが減って、40歳でも続けやすい。… pic.twitter.com/2FYgOM6i9p
地面に置いてある重いものを持ち上げる。
これ以上に原始的で、これ以上に効果的な動きはない。ご先祖さまもたぶんデッドリフトしていた。デッドリフトをすると元気になる。理屈じゃなくて、体感としてそうなる。
ただ、40代で通常のバーベルデッドリフトをいきなりやるのはすすめない。
理由はシンプルで、重りが体の前にあると背骨がテコの支点になって、腰椎にせん断力がかかる。長年の負担が蓄積した40代の腰には、リスクが高すぎる。
ここでヘックスバー(トラップバー)の出番になる。
六角形のバーの中に入ると、ハンドルが体の真横に来る。荷重が体の重心に近づくから、脚で地面を押して股関節を伸ばす動きがメインになる。背中はニュートラルに保たれて、負荷は腰の一点ではなく体の背面全体に分散される。
実際にどのくらい違うのか。パワーリフター19名を対象にした生体力学の研究(Swinton et al., 2011, J Strength Cond Res)では、トラップバーは通常のバーベルに比べて腰椎への圧縮力が約17%低く、それでいてピークパワーは約11%高かった。腰を守りながら、より大きな力を出せる。40代が選ばない理由がない。

やり方はこれだけ。
バーの中に入る。足を肩幅に開く。ハンドルを握って、胸を張って、腹筋に力を入れる。かかとで地面を押して、まっすぐ立ち上がる。
見栄を張らず、軽い重量から始めてほしい。重い重量での雑なフォームより、軽い重量での完璧なフォームの方がはるかに強くなれる。体がパターンを覚えて、神経系が動きを記憶する。負荷を増やすのはそれからでいい。
8週間続ければ、今は不可能に思える重量も扱えるようになっている。
懸垂(チンニング)― 自分の体を持ち上げるという原体験
バーにぶら下がって、自分の体重を引き上げる。
40代男性にとっては恐怖かもしれない。20年もやっていなければ、できる気がしなくて当然だと思う。
でも「できない」はただの出発点でしかない。
懸垂は背中、肩、腕、体幹を同時に鍛える。自分の体を空間移動させる、物を自分に引き寄せる。現実世界で必要な「引く力」がここで養われる。
そしてラットプルダウンでは得られないものがある。自分の全体重を持ち上げたとき、体だけじゃなくて自信も一緒に引き上がる感覚。これはやった人にしかわからない。
ゼロから始めるならレジスタンスバンドをバーにかけて、体重の一部を補助するところから。強くなったらバンドを薄くしていって、最終的に自重に移行する。
肩幅より少し広くバーを握って、腕を伸ばしてぶら下がる。肘を「下」かつ「後ろ」に引くイメージで、胸をバーに近づける。コントロールしながら下ろす。
体を揺すったり、反動を使ってはいけない。丁寧な1回は雑な10回に勝る。

何十年も懸垂をしていなかった人でも、この段階的アプローチなら数ヶ月で取り戻せる。
自重で10回できるようになったら、次は荷重懸垂。ディッピングベルトやリュックに重りを入れて負荷を上げる。自分は今+20kgで懸垂をしているけど、自重だけの頃とは背中の厚みがまるで違う。
ファーマーズ・キャリー ― 「握力」が寿命と相関するという事実
両手に重いものを持って、歩く。
原始的。シンプル。そしてめちゃくちゃきつい。
一度やってみてほしい。両手に合計で自分の体重くらいのダンベルを持って、ジムの端から端まで往復する。前腕はパンパンになるし、僧帽筋は取れそうになるし、腹筋もちぎれそうになる。
ファーマーズ・キャリーは握力、体幹の安定性、精神的なタフさを同時に鍛える。
特に「握力」は、多くの人が思っている以上に大事な指標になっている。
近年の大規模疫学研究で繰り返し報告されているのが、握力の低下と心血管疾患・がん・全死亡リスクの上昇との相関だ。17カ国・約14万人を追跡したPURE研究(Leong et al., 2015, Lancet)では、握力が5kg低下するごとに全死亡リスクが16%上昇するという結果が出ている。しかも握力は収縮期血圧よりも死亡の予測力が強かった。ただしこれらは観察研究であり、「握力を鍛えれば死亡率が下がる」という因果関係を示したものではない。
じゃあなぜ相関するのか。

握力は単に手の力を測っているわけではなくて、神経筋機能を含めた全身の筋の質を反映するバロメーターだと考えられている。握力が強い人は全身の筋肉の質がしっかり保たれている。だから握力が「体全体の健康状態を映す鏡」として、死亡率の予測因子になりうるという話になる。
やり方は簡単。肩を後ろに引いて、胸を張って、腹筋を締めて歩く。まずは15メートルくらいから。慣れたら距離と重量を増やす。
これを週1〜2回やるだけでも、1ヶ月ほど続けると「体の芯が前より使える」感覚はかなり出やすい。
同じく「身体機能が寿命を映す」観点でいうと、腕立て伏せの回数も似た予測力を持つことがハーバードの研究で示されている。握力が「静的な筋の質」、腕立てが「動的な筋持久力」。どちらも体の総合点を反映している、という理解で自分はとらえている。
なぜこの3つなのか ― 続けられる設計になっている
もちろん優秀な種目は他にもある。スクワット、ベンチプレス、ローイング。どれも自分はやっているし、やれるならやった方がいい。
でも「40代がこれから始めるなら何を選ぶか」と聞かれたら、自分はこの3つに絞る。理由は、持続可能だからだ。
トラップバーは背骨を守る。懸垂はバンドから自重へ段階的に進められる。ファーマーズ・キャリーは負荷と距離で自由に調整できる。
ダメージを蓄積せず、一貫してトレーニングできる。 これが何より大切だと思っている。
継続は強度に勝る。
2026年3月に発表されたACSMの最新ガイドライン(Currier et al., 2026, Med Sci Sports Exerc)は、137本のシステマティックレビューを統合した上で、こう結論している。マシンかフリーウェイトか、セット構造をどうするか、追い込むかどうか、細部の違いは一貫した効果差を生まなかった。
筆頭著者の言葉を借りれば、「最良のプログラムは、あなたが実際に続けられるもの」だ。
追い込まないから強くなる ― Grease the Grooveという考え方
「ジムで限界まで追い込む」のが最善だと思っていないだろうか。
実は1日の中にトレーニングを分散して頻度を増やす方が、回復を妨げずに総ボリュームを稼げる。ただし条件がひとつあって、毎回追い込んではいけない。
これが「Grease the Groove(GtG)」と呼ばれるアプローチで、自分もずっと取り入れている。神経系を鍛えて「楽にできる回数」を自然に増やしていく方法だ。
GtGの回数、種目、追い込まない強度は、Dr.もさりラボQ&A 第1回で詳しく答えた(メンバー限定)。
最後に
誰かの数字と競う必要はない。
来月の自分が、今日の自分より少し強くなっていれば、それで十分だと思う。
完璧な1回のワークアウトより、適当な100日の練習が勝つ。
40代は弱さを受け入れる時期じゃない。効率的なエクササイズを選んで、賢く強さを構築する時期だ。
この3つのエクササイズが、その土台を作ってくれる。あとは続けるだけ。
まとめ
40代から始めるなら、種目はトラップバーデッドリフト・懸垂・ファーマーズ・キャリーをお勧め
トラップバーは通常のバーベルより腰椎への圧縮力が約17%低く、腰を守りながら強くなれる
握力は神経筋機能を含めた「筋の質」の指標で、観察研究では全死亡リスクとの関連が一貫している(因果ではない)
完璧な1回のワークアウトより、適当な100日の練習が勝つ
続けられる設計を選ぶことが、強度より大事
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メンバーシップ「Dr.もさりラボ」のお知らせ
メンバーシップでは、GtG、出張中の自重トレ、週あたりセット数など、続けるための具体戦術をQ&Aで扱っています。3種目を自分の生活に落とし込みたい方に向いています。
※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。
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