そのこだわりが家を壊す?「複雑な間取り」の知られざるリスク【ゴリラ論文】【断熱編 Season2】
こんにちは、はぐれゴリラです。
前回のシーズン1では、家をどう包むかという「断熱ライン」の大切さをお話ししました。
「よし、うちは基礎断熱と屋根断熱で完璧だ!」と思ったそこのニンゲンさん。ちょっと待ってください。
実は、断熱ラインには「素材」や「工法」以前に立ちはだかる、恐ろしい天敵がいます。
それが、「複雑な間取りと断面構成」です。
今回は、一介の歯科医師である僕が、なぜ「オシャレなこだわり」が断熱・気密ラインをズタズタにするのか、その闇を解剖していきます。
■ 断熱工法の「3つの派閥」をおさらい
本題に入る前に、前回の続きを少し。
まずは壁の「断熱材をどこに入れるか」という3つの基本工法を整理しておきましょう。
① 充填断熱(じゅうてんだんねつ)
柱の間に断熱材を詰め込む、日本で最もポピュラーな方法。
安価ですが、柱の部分が「熱橋(ヒートブリッジ)」になりやすいのが弱点。(木は鉄よりも熱を通しにくい!とドヤ顔でパンフレットに書く大手HMもありますが、断熱材と比べたら残念ながら木の断熱性はカスです。)
さらに、ただ詰めればいいわけではなく、「隙間なく、押し潰さず、綺麗に詰める」という大工さんの圧倒的なモラルと技術が要求されます。(ここを雑にやると壁の中で結露して家が腐ります)

実際は筋交などがあるので綺麗に充填するのは難しい。
※今回の絵は外壁や室内壁などは省略しています。力技で剥ぎ取ったみたい。ゴリラだもの。
② 外張り断熱(そとばりだんねつ)
柱の外側から家をすっぽり包む方法。
熱橋は防げますが、外壁の重みで垂れ下がるリスクがあります。
分厚くできないので薄くても性能を発揮できる高性能断熱材を使用せざるを得ない。それによるコスト増が課題。

断熱材で包み込む。
③ 付加断熱(ふかだんねつ)
「充填」と「外張り」を両方やる、ガチ勢垂涎の「最強仕様」。
圧倒的に高性能ですが、付加断熱の分、壁が分厚くなり、費用面では諭吉が猛スピードで飛んでいきます。

その代償として費用も100万単位で上がります。
さて、ここからが本題。
前回のお話からの続きですが、どの工法を選ぼうが、「ラインが繋がっていなければ」すべては水の泡なのです。
■ 迷子になる断熱ライン:屋根×天井の混合は「地獄」
よくある失敗が、間取りやデザインの都合で断熱ラインを部分的に切り替えてしまうケースです。
「リビングは開放感が欲しいから屋根断熱で勾配天井にして、寝室は落ち着きたいから天井断熱で低くしよう」
これ、一見合理的ですが、現場の大工さんからすれば「狂ってる」というレベルの難易度になります。
屋根から天井へとラインが切り替わる「段差」の部分。
ここで断熱材と気密シートを隙間なく連続させるのは至難の業です。
ラインが迷子になった場所には必ず「隙間」が生まれます。そこから湿った空気が入り込み、見えないところで結露を起こす……。

■ 玄関の「スースー」が証明する、異種格闘技の難しさ
最近人気の、床を一段下げる「ピットリビング」。
もし家全体が「基礎断熱」であれば、ピットリビングは玄関の土間が広くなったようなものなので、実はそこまで難しくありません。
(断熱材を貼る面積と角が増えるくらいです。まぁインスペクション的には全く状況確認できなくなるのでNGなのですが…)
しかし、これが「基本は床断熱なのに、ピットリビングの部分だけ基礎断熱にする」となると話は別です。
床下を通っていた断熱ラインが、ピットリビングの段差で急に基礎へと下り、また床へ戻る……。この複雑なジグザグの境界線で、完璧に気密と断熱を取るのは神業に近いです。
その難しさを証明する、身近な例があります。
それが「玄関」と「お風呂(ユニットバス)」です。
実は、一般的な「床断熱」の家でも、土間がある玄関と、ユニットバスの下だけは「基礎断熱」になります。
つまり、普通の家でも絶対に「ラインの切り替わり」が発生するのです。
そして、冬になると玄関の上がり框(かまち)の下や、シューズボックスの裏からスースーと冷たい風が吹き込んでくる……。
家づくりを少し調べた人なら、必ず目にする失敗談ですよね。
そう、普通の玄関の段差ですら気密漏れ(C値の悪化)の最大のアキレス腱になるのに、わざわざリビングのど真ん中に複雑な段差を作ったらどうなるか……火を見るより明らかです。

HMのチャンピオン症例っぽい、
憧れるけど狂気の間取り。
■ 複雑な形は「お金を払ってリスクを買う」行為
以前、「四角い家でパラペット(屋根の周りの立ち上がり)を作るのは雨漏りリスクが高くてヤバいぜ?」という記事を書きました。
(※読んでない方はコチラ↓)
あれもまさに、「デザイン(四角い外観)を優先した結果、家が死ぬ」という典型的な例です。
今回のピットリビングも、屋根と天井の混合断熱も、理屈は全く同じ。
間取りや断面を複雑にするということは、厳しい言い方をすれば「高いお金を払って、わざわざ大工さんの手間を増やし、施工ミスのリスク(=家が寒くなる、腐るリスク)を自ら買いに行っている」ということです。
どんなに腕がいい大工さんでも複雑な場所がたくさんあれば行き届かない部分は出てきます。
そして多くの現場では工期が決まっています。
…つまり、複雑な部分を丁寧に仕上げていたら間に合わない。そういうことです。
なぜ僕がここまで「シンプルさ」を説くのか。
それは歯科治療の世界でも、複雑な形の被せ物や、段差の多い設計ほど、そこから細菌が侵入して再発(二次カリエス)するリスクが跳ね上がるからです。(細かい性格なだけですね)
家も全く同じ。
「断熱・気密ラインをいかに真っ直ぐ、シンプルに繋げるか」
これこそが、高気密・高断熱住宅を成功させるための、最大かつ唯一の秘訣なのです。
そしてこれは高気密高断熱を目指す人だけ関係のある話ではありません。
断熱(気密)ラインの途切れは壁体内結露の原因、つまり家を腐らせる原因になるからです。
「オシャレ」と「性能」は、時に激しく衝突します。
その間取り、本当にその複雑さが必要ですか? その段差、断熱ラインを壊してまで作りたいものですか?
■ 次回予告:いよいよ、素材の闇へ。
ラインの繋ぎ方、そして「シンプルイズベスト」という本質をご理解いただけたでしょうか。
家を包む「枠組み」の話はここまで。
次回シーズン3では、いよいよ皆さんお待ちかねの「断熱材名鑑」!
グラスウール、ウレタン、セルロースファイバー……。
それぞれの素材が持つ「光と闇」、そして「重さ」がもたらす家への負担について、メスを入れていきます。
震えて待て。
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