さまざまな日本語文法モデル(7)日本語文法の特徴
文法モデルの詳細は、それぞれの研究者によって大きく異なり、文法学者が百人いれば百種類の文法モデルがあるともいえます。しかしこれらの日本語文法モデル全体においては、ほぼ共通する点が2つあります。
第一の点は、
日本語の文の基本形は「述語」だけである
ということです。日本語では、述語さえあれば一文になります。「わかった。」「きれいだ。」は立派な一文です。これを逆にいえば、学校文法で教えているような「主語・述部」が日本語の基本形ではないということです。
第二の点は、
日本語という言語は、事実を描写する部分と発話者の判断や意識や心情を表現する部分という2つの部分が明確に区分されている
ということです。事実を描写する部分を呼び表す名称は「叙述」「描叙・判断」「客観的表現」などと呼ばれ、発話者の判断や意識や心情を表現する部分を呼び表す名称は「陳述」「表出」「主観的表現」などと呼ばれています。具体的な文型としては、事実を描写する部分が文の中核であり、それを取り巻くように意識や心情を表現する部分が配置されているというのが大方の見方です。
以上の2点から、日本語の文法モデルの特性として、以下のことがわかります。第一に、日本語の文法では「主語」の存在は不可欠ではありません。第二に、日本語の文法では、事実を描写するだけでは文にはなりません。文となるには、事実の描写とともに発話者の判断や意識や心情を表現しなければならないのです。
数ある日本語文法モデルの代表として学校文法・橋本文法、山田文法。時枝文法、松下文法、三上文法、その他の文法モデルをみてきましたが、それぞれの文法で言語に対するアプローチが大きく違っていることに驚かれた方も多いことでしょう。また自分たちが学校で習った日本語文法がそうした数ある文法のひとつにすぎないという事実に衝撃を受けた方もいるのではないかと思います。
翻訳にとって学校で教わる日本語文法が決して普遍的なものではないという事実は、非常に重要な意味をもちます。
従来の英文和訳では英語の主語に日本語の主語のマーカーである「~は」「~が」を対応させるのが常識ですが、それは学校文法のように日本語に主語があるとの前提では可能であっても、三上文法のように日本語に主語はないとの前提では不可能なのであり、そして学校文法・橋本文法が絶対に正しく三上文法が間違っているというわけではないからです。
大事なことは、こうした事実をしっかりと理解したうえで翻訳にのぞむということです。そうすれば、英文和訳だけが正しい翻訳手法ではないことがおのずとから分かり、さまざまな翻訳手法に自信をもって取り組むことができるようになります。それが本当の意味での翻訳の出発点です。
さまざまな日本語文法モデル(1)はじめにhttps://editor.note.com/notes/n88be39839091/edit/
さまざまな日本語文法モデル(2)学校文法・橋本文法モデル
https://note.com/naruseyukio/n/nf048940c6733
さまざまな日本語文法モデル(3)山田文法モデル
https://note.com/naruseyukio/n/n6b7e429316df
さまざまな日本語文法モデル(4)時枝文法モデル
https://note.com/naruseyukio/n/n0d532a4e1725
さまざまな日本語文法モデル(5)松下文法モデル
https://note.com/naruseyukio/n/n4199578815bf
さまざまな日本語文法モデル(6)三上文法モデル
https://note.com/naruseyukio/n/n8718ca0aa894
