ヌープ(6)襲撃
◆(6)9月14日 23時25分 襲撃
ジョンは何日も泊まり込みで一人オフィスに籠っていた。アイリスは逃げてしまった。他のメンバーたちもだ。くそっ! リモートだけでは、これは、無理だ。あのパンデミックがきっかけで、働き方は大きく変わった。それでも、立体的な事や手触りについては、画面越しでは、どうしても難しい事がある。意見を聴かないで、完成させたくはないのに。
納期が迫っている。眠らないとまずい事もはわかっている。睡眠不足のままだと、渡したデータが別の顧客のものだったりして、大目玉なんてこともありうる。そんな事をぼんやり考えていた時、オフィスの入り口と連動させたスマホのベルが鳴った。
こんな時間に来客? ジョンは通話した。
「夜分すみません! 消防士のウィラーといいます! ビルの地下で、火災が起きています! 至急避難してください!」
髭を生やした男が、慌てた表情で画面越しに言った。ジョンはぎょっとした。
ドアを開けて廊下を少し走った……が、煙の臭いがしない。そうだ、声をかけた男にも出会ってない。
すぐオフィスに戻った。男が、オフィスをひっくり返してる。
「何をしてる!!」
黒っぽい服を着た男が振り返った。
「石は……どこにやった……」
男は言った
「石? なんのことだ」
「お前が持ってるはずなんだ!!」
アンティークショップで買ったあの石か?
「……もう、殺したくないんだ!」
男はナイフを持って近づいてくる。やばいやばいやばい。ジョンは逃げ出したが、男が追ってくる。足には自信があるつもりだったが、男は見る間に追い付いてきた。そして、ナイフを振り上げた。
銃声がして男が倒れた。
「間に合った……大丈夫ですか?」
スーツ姿の男女が駆け寄ってきた。息を切らしていた。
「あんたらは?」
「警察です」
男女は、身分証を見せた。本物のようだ。
「なんなんだよ、あいつは!」
「わかりません。ある殺人事件に関係していると思われます。このビルの管理人も死んで……あの男が……」
「おい!」
撃たれた男が、ナイフを握ったまま、ゆっくり起き上がってきた。
男が猿のように身軽にジャンプして、飛び掛かってきた。
ドン、ドン、ドン
グズマンが胸を三発撃った。
また倒れた。でも、またゆっくりと起き上がってくる。
さらにセシリアが二発。
「逃げて!」
セシリアは叫んだ!
ジョンは走り出した。
何なんだ、あれは? ゾンビか?
何発もの銃声と、引き裂かれるような大きな悲鳴が聞こえてきた。
■第1部 ノイズ
(1)石板/(2)あるひき逃げ/(3)ある娼婦の死/(4)通信障害/(5)アンティークショップ/(6)襲撃/(7)遺跡/(8)石/(9)遺跡の異変/(10)石板のメッセージ
