お嬢様はあたしの手にキスなさったけど、あたしはしなかったんですから「カラマーゾフを読む」(28)
お嬢様はあたしの手にキスなさったけど、あたしはしなかったんですから「カラマーゾフを読む」(28)
第三編 好色な男たち 十 二人の女が同時に
フョードル邸を出たアリョーシャはドミートリイの許婚者のカテリーナの下へと向かいました。
この章では何と言っても、そのカテリーナの高慢さを私たちは知ることとなります。その極めつけのセリフがこちらです。
あたくし、お兄さまを永遠に救ってあげたいのです。
後にこの言葉の意味がさらにはっきりと見えてくるのですが、これが「自らの善を愛する高慢さ」です。ドミートリイはカテリーナのこういうところがやりきれないのです。だからこそ彼はカテリーナを捨ててグルーシェニカに走るのです。
また、この章の中盤ではついに魔性の女グルーシェニカが登場するのですが、その登場の仕方も実に演劇的です!
彼女はすでに部屋の中にいて、呼ばれると同時にさっとカーテンが上がって初登場するという何とも芝居がかった演出でありました。
ドストエフスキーがシェイクスピア的と言われるのも本当によくわかります。
そして何と言ってもラストのどんでん返しは衝撃的です。
お嬢様はあたしの手にキスなさったけど、あたしはしなかったんですから
これは作中屈指の名シーンであることは間違いありません!私もこの言葉には衝撃を受けました。ドストエフスキーのえげつなさが存分に出た名場面です。
しかもここに至るまでの流れも最高なんですよね・・・!
興奮気味のカテリーナがグルーシェニカを誉めちぎり、自分に酔っている様子をアリョーシャが冷静に「ひょっとしたら、あまり感激の度がすぎやしないかな」と不安がったのは実に効果的です。これによって私たち読者も「何か起きやしないか」とハラハラすることになります。そして事実、ドストエフスキーは私たちの想像をはるかに超える爆弾を投下するわけです。
「お嬢様はあたしの手にキスなさったけど、あたしはしなかったんですから」
どうしてこんな言葉を思いつけるのでしょう!何か突飛な行動をするわけでも、派手な事件を起こしたのでもありません。ただ、キスをさせ、キスをしなかっただけなのです。それにも関わらずこの破壊力!
これぞ超一流の仕事です。ドストエフスキーはやはり世界最高の作家です。痺れます。
私はこの連載で何度も「大審問官」の章に入れば面白いので頑張りましょうと言ってきましたが、すみません、撤回します!
もうこの時点でものすごく面白いですよね?
このカテリーナとグルーシェニカの対決はドストエフスキーらしさが存分に詰まった屈指の名場面です。これは絶品です。ここまで来ればすでに皆さんもこの物語に引き込まれていると思います。
そして重要なポイントですが、『カラマーゾフ』はここからさらにどんどん面白くなっていくということです。そう考えるとワクワクしてきませんか?
ここまでですでに400頁弱読み進めてきたわけです。ここまで読めたならもう怖いものはありません。ここから先も一気に進んでいきましょう!
続く
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