足元の話
北半球は秋。食欲の秋、芸術の秋、そしてタンゴの秋。あちこちでアルゼンチンタンゴのフェスティバルやマラソンが開催されています。そういう、普段とちょっと違う場所に踊りに行くと、やっぱり目がいってしまうのが踊っている人たちの足元。……あの靴ステキ! このタイプは初めてみるなあ。どこのブランドかしら……。おっと、際限なく目移りしてしまう前に、まずは基本事項の確認から。
(タイトル写真 by Ben Wicks on Unsplash)
タンゴを踊るのに特別な靴は必要ない
タップダンスやポワントで踊るバレエと違って、アルゼンチンタンゴを踊るのに特別な靴は必要ありません。正確にいうと、特別な靴がないとできないような動きはありません。あるベテラン・タンゲーラによると、
「昔はね(ブエノスアイレスで)ミロンガに踊りに来た人は靴を履き替えたりせず、そのまま外靴で踊っていたのよ。ダンスシューズだのヒールの高さがどうだの、っていうのはあなた達が持ちこんだのよ」
なのだそうです。もちろん、ミロンガにやってきた人たちの「外靴」はきちんと手入れされた、おしゃれの一環であるような靴だったのですが、現在のダンスシューズのようにソールがどうのアーチサポートがどうの、といったものではありませんでした。

(From: Carmencita Calderon - Gran Dama del Tango)
しかし現在ではブエノスアイレスでもダンスシューズの人が大多数のように思います。また、ミロンガ以外、ダンススタジオでのレッスンやワークショップなどでは、ダンスシューズか少なくとも外靴でない靴で、というところがほとんどです。(あ、でもMarcyさんが靴下OKのレッスンをされていたかも?)
ハイヒールである必要もない
なんでも、ハイヒールの起源のひとつは中世ペルシャの騎兵、それも馬上から矢を射かける弓騎兵がはいていた靴だったとか。手綱から手を離して弓を引き絞る際、体が安定するように足を鐙にしっかり引っかけるためヒールが長く(高く)なったのだそう。それが時代を下って主に女性用の靴となったわけですが、先にも述べましたように、タンゴを踊るとき、女性はハイヒールでなければならないといったことは全くないのです。昔の写真などからも明らかなように、タンゲーラたちの足元を飾る靴は様々でした。

現在タンゲーラスに圧倒的に人気のある、ピンヒール+オープン・トゥというスタイルは、2000年代、デザイナーでブエノスアイレスの人気シューズメーカー、Comme il Faut(フランス語で「あるべき姿」という意味)の設立者でもある Alicia Muñiz が作り出しました。それまでダンスシューズメーカーの作るタンゴシューズといえば、黒・赤などの単色レザー、爪先はフルカバーでストラップ付き、といったものがほとんどでした。一方、当時世の中は、マノロ・ブラニクに代表されるニューフェミニン・シューズの全盛期。そういう時代の気分を反映して、アリシアのデザインしたタンゴシューズは、華奢なピンピールに足指の付け根がえるくらい深いカットのオープン・トゥ、ヒョウ柄やカラフルな模様、レースなどの素材をちりばめ、瞬く間に世界中のタンゲーラのハートをつかみました。また一つのデザインは100足以下という希少性、年に4-5回はリリースされる新作など、ビジネスとしても様々な工夫があり、今も大変人気があります。

面白いことにアリシアは「ウチの靴はダンスシューズじゃない」といいます。「だから普通にお出かけや、パーティーなんかで履いてもらって全然問題ないわ。もちろん、ウチの靴だと(アーチに工夫がしてあるので)疲れずに踊れるけどね」なんだそうです。このあたりも、ブエノスアイレスのミロンガの伝統にのっとってるのかもしれませんね。もちろん、アルゼンチンには他にもた~くさんシューズメーカーがあって、様々なタンゴシューズを世におくり出しています。
アルゼンチン製でなくても大丈夫
ブエノスアイレスにいってタンゴシューズを買う💕というのは考えただけでも心のウキウキすることですが、人生にそう何回もあることじゃない。また、トゥシューズなどと違って機能的には普通の靴とそう変わらないことから、アルゼンチン以外の靴メーカーでもタンゴシューズを作って、ネットでも販売しているところはあります。例えば、
は、イタリアのメーカー。Regina の黒+赤い靴裏のデザインは、クリスチャン・ルブタンのブラックパンプス的インパクト。タンゴは靴の裏がみえる動きが結構多いので(parada のあとの pasada とか )このデザインは効果的。さらにいくつか外国メーカーをあげると、
Odile Tango Shoes はクリアカバーが人気の韓国のメーカー。
Turquoise Tango Shoes はトルコのメーカー。ストラップの留め金についたチャームがかわいい。
Yuyo Brujo はロンドンがベースですが製造は革靴の産地スペインのアリカンテ。
Werner Kern はイギリスの大手ダンスシューズメーカー。ボールルーム、サルサなど踊っておられる方にはおなじみのブランドかも。彼らのタンゴシューズのラインが Nueva Epoca。
上にあげたメーカーは、たまたま使っている人にあったり、ウェブでつけたもので、筆者と利害関係はありません(念のため)。なにせ気軽に買えるプライスのじゃないので、わたしはもっぱらみて楽しんでるわけなのです。(あなたのおススメブランド、ありましたらコメント欄にどうぞ。)
ヒールを履いて踊ると足元がグラグラする場合
しつこいようですが、アルゼンチンタンゴではハイヒールをはかなきゃいけないなんてことは(趣味で踊ってる範囲では)ないです。……わかってる、でも履きたいのよ! でもグラグラするのよ! これ靴をかえたらマシになるかしら? フーム、それは靴の問題ではないかも……。note でもさちこ_踊るアレクサンダー・テクニーク教師さんがドンピシャの記事をあげておられますので、ぜひご参考になさってみてください。
アレクサンダー・テクニークに限らず、ピラーテス、ヨガ、太極拳などのエレメントを取り入れて足より上、特に体幹部のコントロールを教える先生が多いのは、それが(ハイヒール着用も含めて)タンゴ上達の早道だからです。体幹重視派マエストラ、といえばこの人、Virginia Pandolfi✨。彼女の電光石火の足技の秘密はこれだったのね! と納得のレッスンビデオはコチラ(1時間みっちりマエストラと一緒に基礎練習。これが無料なのはすごい)。
どんな靴でも楽しく踊ろう
地味な練習もあの靴を履いて踊るため、と思えばつらくない。でも再度しつこくいうと、タンゴを踊るのにハイヒールを履かないといけない、なんていうことはないのです。タンゴシューズを買うのはバカにならない出費だし(タンゴにかかる費用のことはまた改めて書きたいと思います)、持っていても足や膝が痛いとき我慢して履くのは体に良くないし、ハイヒールがないからミロンガに行けない! なんて思いこんでしまうとそれこそ本末転倒。皆が楽しんで踊れる環境をつくるためにも、不必要に「こうしないとダメ」気分をあおるようなことは避けたいですよね。……でもやっぱり気になっちゃう? ……わかります~。え、なになに、あそこの彼女の履いてるやつ? 確かにカワイイ😍 どこのメーカーかしらん? うわ~ん、このシューズ沼からは当分這いあがれそうにないですね~😭。
©2025, Roco Unno, CC BY-ND
